目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
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2007年01月23日  天使の指輪

ニューヨークに帰ってきて一夜が明けた。

病室には結局夜中の1時過ぎまでいて、アリーが寝息をたてはじめたのを聞いて、僕は家に帰った。

外は死ぬほど寒かったけれど、僕の気持ちはとても暖かかった。 

僕はアリーに、人を愛する事を教えてもらった。

その気持ちは僕の心に根付いて、更に成長し、アリーを愛するだけでなく、子供達や友達、仲間や隣人、この世界で僕と関わりのある全ての人に注がれる大きな愛に昇華していった。

人を愛する事で、自分を愛し、自分も成長して行く。

僕はアリーから貰った溢れる様な愛を、更正施設の子供達や、周りの人達とシェアをして行く。
 
それがアリーを、命を受け継ぐ唯一の方法だと思う。

アリーの名前のついた財団とか、そんな形だけのものでなくて、アリーの命を僕の心の中に大事に受け継いで、その灯火を僕の心の中で燃やし続け、周りの人に分け与えていく事の大事さが判るような気がした。

アリーの名前の財団なんか作って、ちょっと自己満足していた自分が恥ずかしくなった。

命を受け継ぐという事は、そんな表面的なことではなく、その人の命の灯火を心の中で受け継ぐ事なのだ。

財団はアリーの名前を後世に残し、アリーの志を目に見える形で残すものだから、それはそれで意味があるものだと思うけど、一番大事な事は、アリーの命を、僕が精一杯受け継ぐ事だと思うようになった。

アリーは僕の天使なのだから、遅かれ早かれ、天使は天使のいる場所へ返してあげないといけない。

こんな事を言うと、僕が医者の言う事を聞いてアリーのことを諦めたと思うかもしれないけれど、そんな事ではない。

僕もいつかは死ぬ。
 
誰もが死ぬように、アリーも死ぬ。
 
だからもしもアリーが天国に帰るのであれば、僕はアリーの命を、アリーと時間を過ごした証として受け継いで、僕の心の中で燃やし続けていきたいと思う。

医者が、アリーの病気は骨にまで達してしまったので、もう医者としてできることは無いと僕らに告げた。 

だから暫くしたらアリーは病院を退院する。

最後の日々を悔いなく過ごす為に。

きっと聡明なアリーのことだから、全て分かっているだろう。

 

僕はアリーの両親とアリー抜きで話をしようと思う。

アリーの最後の時をいがみ合っているのは、アリーにとってあんまり可哀想だ。 

アリーの親も、僕も、アリーを愛しているのであれば、表面的であっても、アリーのためだけを思って、お互いのわだかまりを捨てたい。

奇跡を信じていないわけではない。
 
きっと奇跡は、起こる人には起こるだろう。
 
だけど神様は時に気まぐれで、我々凡人にはわからないような悪戯をする。

だから僕は何があっても神様をうらむような事はしない。
 
全ての事には理由がある。
 
今はその理由がわからなかったとしても、悲しい事が起こったとしても、きっといつか時間が経てば全てがわかるはずだ。

僕が生きている間はわからないかもしれない。
 
死んだ後になってやっと理解できるかもしれない。

それでも良いんだ。

ただ、僕は最後までアリーに教えられたように、凛として清潔な人間であるように努力をしたい。

アリーに少しでも近づく為に。
 
僕の夢が消えてしまう前に、やらなければいけないことが色々ある。

アリーを見舞い、いつものように何時間も話を続け、色々な事を話した。

僕はアリーの手を握りながら、アリーに
『僕は、君にもうひとつサプライズを持っているんだよ』と言ってみた。

アリーは悪戯っぽい目をキラキラさせて、
『何? 何?』と興味津々だ。
 
僕も悪戯っぽく笑って、
『もう少ししたら教えるから、それまでは秘密』と言ってもう一度笑って見せた。

今日、宝石屋さんから電話がかかり、僕が頼んだ指輪が完成したと言われた。 

僕は、サプライズで婚約指輪と、小指につけるピンキーリングをセットで用意している。

婚約指輪は定番のダイアなんだけど、ピンキーリングは、ダイアとピンクサファイアにして、二つはめると、薬指のダイアと小指のピンクサファイアで、天使のデザインになる。

ピンキーリングだけ貰ったら、僕の細工に気づかないようになってるからいっぺんにあげるか、どっちを先にあげるか、色々悩みは尽きないけど渡すのが今から楽しみだ。

後は、いつアリーにそれを渡すか、そのタイミングを考えるだけだ。

神様、僕はどんな苦労も受け入れる準備があるのだけれど、あとちょっとだけ、僕に夢の続きを見させてください。

あと少しだけ。あと少しだけ。


2007年01月24日  ホットチョコレート

今日もアリーが眠りにつくまで、病院のパイプ椅子に座ってアリーの隣に座っていた。

アリーが眠りに落ちた事を確かめて、僕は席を立ち、灯りを消して病室を後にした。

一人、夜中のニューヨークのストリートを歩いて家に帰った。

零下の寒気が突き刺すように感じられたが、そのお陰でいつもより空気は澄んでいる気がした。

僕は立ち止まり、冷たい空気を胸に吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。

交差点で、乞食が僕に歩み寄り物乞いをした。
 
僕は乞食に小銭を渡し、彼の肩をたたいて、世の中の全ての人の幸せを祈ってくれるように頼んだ。

乞食は、きょとんとして僕の顔を見た。

僕は、真正面から乞食を見すえ、
『僕に物乞いをするのであれば、あなたも社会に貢献をすべきだ。社会への貢献の仕方がわからないのであれば、せめて世の中の人々の為に祈るべきだ。貴方にも祈るくらいの時間は、あるだろう』と言った。

世の中には自分の事だけを考える人が多すぎる。
 
自分の事を考えるのは仕方ないけれども、そのちょっとの部分を人の事を考える時間に使えば、もっと世の中に対する考え方、視野が広がるはずだ。
 
少なくとも僕はそういう人間でありたいと思う。

天敬愛人とはそういう事を言うのだろう。
 
あるいは日本の武士道、西洋の騎士道とは、そういう事を言うのだと思う。
 
深く考える人には、それだけ社会に対する義務を負うのだと思う。

乞食は僕に恐れをなしたのか、あるいは僕が気がふれていると思ったのか、お金を受け取る事なく僕の前から消え去った。

僕は手の中に残った小銭をポケットに押し込み、また夜の道を歩き出した。

僕は明日の夜の飛行機でパリに行く。
 
今回パリには4~5日いる事になるだろう。
 
アリーの財団を設立するにあたり、僕の友達のフランスの政治家にも話をしたので、その関係でファンドレイジング(募金集め)の集会に出かける事になった。

理由はともあれ、正直、独りでパリに行くのは辛い。

 

アリーと、余生を送るのであればパリだと常々話しているので、僕の気持の中では、パリはアリーと行くものと決まっていた。

アリーにその話をすると、
『貴方が独りでパリに行くのは、悔しいけど、子供達を助ける為だから、アタシの分も頑張って来てね』と言われた。

そして
『浮気なんかしたら、しょうちしないからね』と言って悪戯っぽく笑った。

僕は、思わず吹き出してしまい、ただアリーを抱きしめて、
『I Love You.』と言った。 

そんな事は、言わなくてもわかっているのだけれども、アリーがあえて女としての冗談を言った事が、なぜか嬉しくて、可笑しかった。
 
だから、思わず
『I Love You.』と言ってしまった。
 
どんなに病気が進行しても、どんなに体重が落ちてしまっても、髪の毛がなくなってしまっても、アリーは僕にとっては、いつでも最愛の女性で、常に一番魅力的な女だ。

アリーは
『お土産は、ホットチョコレートが欲しいの。帰って来たら、そのまま病院に来てね。そうしたらアタシが貴方にホットチョコレートを作ってあげるから』と言った。 

だから僕はパリでホットチョコレートを探さないといけない。

僕は黙って頷き、微笑んでアリーにキスをした。

僕はアリーの手を握りながら、僕の一日をアリーに説明をした。
 
仕事の話、財団の話、更生施設の子供達の話、日本の里子の話、色々な話をした。

アリーはそれを聞きながら目を細めて僕の手を握った。
 
そして
『いつか、また二人で手を繋ぎながら街を歩いて、どこかでのんびりブランチができたら嬉しいね』と言った。

僕はアリーを見つめて、
『また二人でそうするつもりだよ』と答え、微笑んだ。

僕は明日の夜、アリーの心をつれてパリに旅立つ。



2007年01月25日  パリ

今日は、夜中のフライトでパリに行く。

 

朝早く、アリーを病院に見舞った。

 

冷たい空気の中を歩いてきたので、アリーの手を握ると
『冷たいね』とアリーは言って、自分の息をかけ僕の手を温めてくれた。

 

ベッドの脇にパリの本が置いてあった。
 
僕がそれを見つけると、アリーはちょっと笑って、
『アタシもすっかりパリに行くつもりで、気分だけでもそうしようと思って、本を読んでいるの』と言った。

 

色々とパリの事を勉強しているアリーを見て、アリーを愛おしく思ったけれどちょっと哀しくも思った。

 

僕はアリーとパリの話をしながら昔のことを思い出した。

 

 

 

アリーと僕の馴れ初めは、ふとしたきっかけで、二人で食事に出かけた事から始まった。

 

なにかの拍子で、二人で日本食の話になり、アリーが、日本食が好きだと言ったので、
『だったら、二人で”NOBE”に行こうか?』と僕が誘った。

 

でも、二人で一緒に”NOBE”に行く事はなかった。

 

いざ二人で食事に出かける事になると、アリーが選んだレストランは、アリーが家族とよく出かけるダウンタウンのモロッコレストランだった。

 

二人で楽しく白ワインで食事をして、色々な話をした。

 

食事が終わり、僕は、アリーをアパートまで車で送ると、
『アタシの部屋を見て行かない?』と言われ、アリーのアパートの中に入れてもらい、アパートを見せてもらった。

 

寝室の壁が、バーガンディに塗られている素敵な部屋だった。

 

僕は部屋を案内してもらうと、長居をしては迷惑だと思って、
『素敵な部屋だね。部屋を見せてくれてありがとう』と言って、アリーと別れ自分の家に帰った。

 

それから二人は週に一度位の割合で、一緒に食事に行くようになり、段々その頻度が増えて行った。

 

そんな事を繰り返しているうちに冬になり、いつものように、アリーとダウンタウンのステーキハウスに行った。

 

そこでいつものように赤ワインとステーキを食べ、いつものように色々な話をした。

 

食事が終わり、冬のニューヨークの街を二人で歩いていると、アリーの方から僕の腕に手を回してきて、僕に寄り添った。

 

僕らはそのまま歩き続け、道端に止めてあった僕の車に乗り込み、僕はアリーをいつものように家まで送った。

 

アリーのアパートの前について、いつものとおり、
『おやすみ』と言うと、アリーはそっと僕にキスをしてくれた。

 

アリーは、アリーの方から僕にキスをした時の気持ちを後で告白してくれた。

 

『これだけ一緒に食事に出かけているんだから、 アタシの事を好きに違いないと思って、勇気を出して腕を組んで、それからキスをしたの。女の子にそこまでやらせるんだから、本当に貴方は嫌な人』と言ってアリーは笑ってみせた。

 

僕もアリーに、二人が付き合い始めたのは、”NOBE”に行こうと言うのが、きっかけだったのに、ふたりで一度も”NOBE”に行かなかった理由を告白した。

 

それは、二人で”NOBE”に出かけたら、それで最初の出会いの目的が達成されてしまい、もう会えなくなってしまうんじゃないか?って妙に不安に思ったから。

 

アリーにそれを告白すると、アリーは本当に可笑しそうにケラケラと笑った。

 

そして僕の鼻の頭にキスをしてくれた。

 

そんな二人が、初めて一緒に旅行に出かける事になった。

 

その初めての旅行が、パリだった。

 

僕らが始めてパリを訪れたのは1月だった。

 

パリの冬は厳しかったけれど、二人で手をつないで街中を歩き回った。

 

どんな小さな事も二人にとっては、大冒険だったし、二人で顔を突き合わせては、笑いあっていた。

 

『ここで貴方と余生を送りたい』とアリーは言った。

 

僕はそんなアリーを見つめて微笑んでみせた。

 

『アタシは、真剣だよ』とアリーは口を尖らせてもう一度言った。

 

そして自分自身がおかしかったのか、暫くして自分で笑い出した。

 

その笑顔が何もよりも素敵だった。

 

その後もパリには、アリーと何度も立ち寄った。

 

『パリは、アタシにとって特別な街なの』とアリーはいつも言っていた。

 

アリーは何かにつけてパリの話をした。

 

【 パリで余生を送る事 】がアリーの生きる希望でもあった。

 

僕はクリスマスの日に全てを捨てる決心をして、アリーと余生をパリで過ごす事に決めた。

 

そしてそれをアリーに告げた。

 

その時のアリーの笑顔を僕は決して忘れない。

 

僕はアリーをもう一度パリに連れて行くと約束をした。

 

【 いつか二人でパリに住もうね 】

 

 

 

僕が今回泊まるホテルは、セーヌ川の左岸の第6区にある静かなホテルだ。

 

アメリカ資本の入っていない、古いフランスのホテルで、窓からセーヌ川やノートルダム寺院を眺める事ができる。

 

アリーと一緒だったら、どんなに楽しい事だろう。 

 

僕は昔、アリーをそのフランスのホテルに連れて行ったことがある。
 
アリーは赤いカクテルドレスを着て、バルコニーでシャンパングラスを片手に僕に微笑んでくれた。
 
その微笑はすごく美しかった。

 

きっと今度僕は、一人でそこに立った時に、何度もアリーの幻影を見るに違いない。

 

いっそのこと、別のホテルに泊まればよかったかもしれない。

 

そんな想いが、一瞬、頭をよぎった。

 

病室でアリーの隣にすわって、ぼんやりとそんな事を考えていた。

 

隣のアリーはパリの本を広げ、パッシーの街並みの写真を眺めていた。

 

独りでパリに行くのは辛いけれど、今日の夜中のフライトで、僕はアリーの心をつれてパリに行く。

 

 

 

パリに着いてから何日かがたった。

 

こちらに着てからもいつもアリーのことを考えている。
 
日本の時は、アリーとの思い出もないので、仕事に集中できたのだが、思い出の沢山詰まったパリでは、どうも簡単にはいかないらしい。

 

どんな些細な事でも、アリーを思い出させる事がたくさんありすぎて、正直、ニューヨークにいるときよりも辛い気がする。

 

恥ずかしい話だけれど、何処に行ってもアリーを思い出してしまい、一人で目を赤くしている事が多い。

 

僕はセーヌ川の左岸の第6区のアメリカの資本の入っていない昔ながらのフランスのホテルに泊まっている。

 

ちょっと寒いけれど部屋のバルコニーに出て椅子に座り、パリの景色を眺めながらエスプレッソをすすった。

 

アリーとの思い出が沢山詰まったホテルなので、気がつくとアリーの幻影を探してしまい、とても哀しい気持ちになった。

 

気晴らしに一人で、セーヌ川の川べりを歩いた。

 

セーヌ川には、いくつもの橋が架かっているが、その一つの橋の真ん中でキスをすると、永遠の愛が叶うという橋がある。

 

都市伝説の一つにすぎないけれど、その噂を聞いて、沢山の恋人達が、この橋にやってきては願いを込めている。

 

アリーもそんな噂をどこかから聞きだしてきて、
『この橋の真ん中でキスをすると永遠の愛が叶うんだって!』と嬉しそうに言って、僕の手を引いて端の真ん中まで小走りに走り、ちょうど、船が橋の下を通る瞬間にキスをしたのを覚えている。

 

アリーは子供のように無邪気に笑って、
『永遠の愛だからね』と僕に念を押していた悪戯っぽい瞳を思い出した。

 

僕は、橋の真ん中に置かれているベンチに腰をおろして、川面を見つめた。

 

暫く川面を見つめたあと、歩いてセーヌ川をわたり右岸にでた。

 

ルーブル美術館を抜け、シャンゼリゼを凱旋門の方向に歩いていった。

 

僕は、美術館の前で座っている人達、公園で語らう人達、町を行き交う人々の中に、アリーを探していた。

 

ちょっと雰囲気の似ている人が、歩いていると知らないうちに、アリーに見え、目で追うと全く違う人だったりで、そんな事を繰り返していた。

 

ストーンズの唄に”Anybody Has Seen My Baby?”(エニバディ・シーン・マイ・ベイビー?)と言う歌がある。

 

別れてしまった恋人を思いながら、ニューヨークの下町を歩く男が、すれ違う女に別れた彼女を思うと言う歌だ。

 

最後に、もしかしたら、もともと彼女との事は夢物語で、そんな女は存在しなかったのではないか?と男が思う切ない歌だ。

 

僕はシャンゼリゼのカフェから出て、また通りを歩き出した。
 
冷たい風にあたりながら、夜のネオンに彩られた街を一人歩きながら、知らない間にストーンズの唄を口ずさんでいた。

 

 

 


パリでの仕事も大体終わり、今日の夜のフライトでニューヨークに帰ることになった。

 

アリーの財団の為の資金集めは概ね上手くいき、そろそろ財団としての具体的な活動が出来る段階になってきた。

 

僕は一人、パッシーの街から自分のホテルに戻った。

 

丁度エッフェル塔の脇を抜け、第6区の自分のホテルまで、タクシーを走らせた。

 

エッフェル塔を抜ける時にもう一度、アリーの顔がタクシーの窓に浮かんだ気がした。


 


2007年01月29日  雪のニューヨーク

パリを7時の便で発ち、ニューヨークに同日の9時過ぎに帰ってきた。

空港の外に出ると、雪が降っており、ニューヨークに帰ってきたなと言う気持ちで一杯になった。

僕は自分の車を空港に置いて行ったので、自分の車に乗り込み、雪の降るハイウェイをマンハッタンに急いだ。
 
途中かなり雪が激しくなったが、流石にマンハッタンに入ると都会の熱で、雪はまばらになった。

もう夜の10時半を回っていたけれど、僕は一路、アリーのいる病院を目指した。

見慣れた街並みを走りぬけ、車を病院の前に停め、僕は急いでアリーの病室に向かった。

アリーの病室に着くと、まだ部屋の中から薄い明かりが漏れており、アリーが起きている事がわかった。

病室のドアを開けると、アリーは僕が帰ってくるのがわかっていたようで、満面の笑顔で僕を迎えてくれた。

『おかえり』と笑って、
『雪を見ながら貴方が帰ってくるのだろうなと考えていた』とアリーは言った。

『ただいま』と僕も笑って、アリーを抱きしめた。

パリで何度もアリーの幻を見たけれど、やはり生身のアリーを抱きしめて、そのぬくもりを感じる事ができる事が、なによりも幸せに思えた。 

 

僕たちは、しばらく自分達の温もりを確かめ合った後に、僕はパイプ椅子をアリーの隣にもっていき、そこに腰を下ろして、アリーにデジカメの写真を見せながら、パリでの仕事の話を説明した。

アリーは、パリでの一瞬も逃さないかのように、色々と細かく質問をして、楽しそうに写真を眺めていた。

そして
『また貴方とパリに出かけてみたい。本当は、パリでなくても構わない。何処でもいいから、もう一度元気になって、貴方と一緒に時間を過ごしてみたい』と言った。

きっとアリーは、自分の病状を知っているに違いない。
 
それでも僕は、何も知らないかのように、
『元気になったら、二人でパリに住もう。病院を出たら、二人でパリにいって家を探そう』と言った。

アリーは全て知っているはずなのに、優しく僕を見つめて、
『そうだね。ありがとう』と言ってくれた。

全てを悟りきった優しい目で。

遅かったけど、アリーは僕にホットチョコレートを振舞ってくれた。

チョコレートにホットミルクを混ぜ、病室で二人だけでホットチョコレートを飲んだ。

病室の窓から舞い落ちる雪を眺めながら、二人で寄り添うようにしてホットチョコレートを飲んだ。
 
アリーが僕の肩に頭をもたれかけた。

僕らはそのままの姿勢で雪が降るのを見ていた。

アリーが、かすかに泣いているのがわかったけれど、僕はそれに気づかないふりをして、ただ僕の肩の上に乗せられたアリーの髪の毛を撫で続けた。

 

ホットチョコレートを飲んだ後に、アリーを寝かしつけ、僕はアリーの寝顔を見ながら色々と考え事を続け、結局、アリーの病室で一夜を明かした。

帰りの飛行機の中でも眠れなかったのだが、何故か眠る事ができず、アリーの寝顔を見ながら夜を明かしてしまった。

夜のうちに雪は止み、寒かったけれども久しぶりに眩しい朝日を見る事ができた。

そして美しい冬の朝が訪れた。
 
僕はパイプ椅子から立ち上がり、大きく伸びをして、病室の窓から下界を暫く眺めた。

気温はマイナス7度と寒かったけれど、下界を眺めていると、むしょうにチャイティが飲みたくなったので、凍りつくような寒気の中を、僕は清々しい気持ちで、スターバックスに一人チャイティを買いに出かけた。

チャイを多めに入れてもらい、熱めに作ってもらうのが、僕のチャイティの流儀だ。
 
今日もスターバックスの店員さんに、チャイを多めにいれて熱めに作ってもらうように注文をした。

チャイティを受け取り、また凍てつく朝の空気の中をアリーの病室に戻った。

病室に帰ると、アリーはもう目を覚ましていて、僕を見つけると嬉しそうな顔をして、
『おはよう。寒い空気がして目が覚めたの。貴方が帰ってきたってわかったから』と言って笑って見せた。

僕が一緒につれてきた朝の寒気で、アリーは目を覚ましたらしい。

僕は笑って、冷たい手をアリーの頬にあててアリーを驚かせてみせた。

そしてパイプ椅子に座って、アリーと一緒にチャイティをすすりあった。

アリーは、僕と思いがけず朝をすごせたのが嬉しかったらしく、
『昔に戻ったみたいで何か楽しいね』と言って一人上機嫌だった。
 
僕もアリーとの時間を楽しみ、朝から一緒にニュースを見たりして時間を過ごした。

暫くアリーと一緒の朝を楽しんだ後、僕は仕事があったのでアリーに、仕事が終わったらまた帰ってくることを伝え、病室から仕事に向かった。

パリから帰ってきたばかりと言う事もあり、色々と細かい用事で忙しい一日だった。
 
夜まで丸一日仕事をして、また気温がかなり下がったなかを、僕はコートの襟を立てて小走りに駐車場に向かい、車に飛び乗りアリーの待つ病院へと車を走らせた。

 

途中のダイナーで簡単な食事を買い、僕はそれを紙袋に入れてのアリーの病室に入り、病室で夕食を食べならがらアリーと色々と話をした。 

暫くは機嫌が良かったアリーだが、
『こんな事を言うとまた貴方は、怒るかもしれないけど』と切り出し、
『貴方は、アタシの為に色々やってくれるけれど、それを感謝しているけれど、アタシと貴方は違いすぎるし、それを見せつけられるとアタシは、価値のないような人間に思えて、ちょっとショックな時があるの』と言われた。

この話は、過去にも何度か言われた事なので、また始まったなと思って僕は
『お互い愛し合っていて、人として尊敬しあっているのならば、たまたま今の状況でどっちがどっちなんて言う事は関係ない事だよ。僕は君を人間として尊敬しているし、そんな君の夢を一緒に叶えたいと思っている。僕は君を手伝える事が、何よりも幸せなのだから』と答えた。

アリーは珍しくそれに感情的に反応し、
『貴方は社会的にも成功しているし、沢山の人が貴方のために働いているし、貴方と一緒に貴方の友達に会うと、何でアタシなんかと一緒にいるのか?見たいな目で見られるし、貴方の助けなしでは、アタシはやっていけないのはわかるけれども、アタシにもアタシのプライドがあるから』と言って泣き出してしまった。

僕はどうしてよいかわからず、アリーが落ち着くまでアリーの肩を抱きしめていた。

肩を抱きしめながら、僕はアリーの言葉を噛み締めていた。

僕はアリーを尊敬しているし、そんなアリーの助けになりたいと言う一心で、色々な事をしているけれど、それがたまに、かえってアリーにとって負担になってしまう事があるのだろう。

自分にそのつもりはなくても、知らず知らずに、“助ける”と言う事が前面に出ると、押し付けがましく、上から見下げるように誤解されてしまうのかもしれない。

人と相対する時には、その人と同じ目線に立って、同じ立場で話をすると言うのは、僕がアリーから学んだ事だ。
 
犯罪者の更正施設や、数々のボランティアで人々を接する時に、上から見下げたように誤解されてしまうと、彼らの人としての尊厳、プライドを傷つけてしまい、そもそものボランティアとしての意味が全く無くなってしまう。

 

同じ目線で、同じ立場で助け合うと言うのが基本中の基本なのに。

そんな基本的なことなのに、僕は知らず知らずに、僕の一番大事な人の気持ちを傷つけていたのかもしれない。

アリーが落ち着くのを待って、僕はアリーに素直にそれを謝った。 

謝ってすむ問題ではないけれど、兎に角、アリーに悲しい想いをさせた事、僕の非礼を謝りたかった。

アリーが眠りに着くまで、僕はそのままアリーの手を握りしめていた。

アリーも安心をしたようで、暫くして寝息を立て始めた。 

涙がこぼれた跡が顔に筋になって残っていたので、申し訳ない気持ちになり、僕はそれを手でぬぐい、暫くアリーの寝顔を見つめ続けた。

アリーの寝顔を眺めながら、僕はアリーに手紙を書くことにした。


“今日は、君を傷つけてしまってごめんなさい。
君もわかっている通り、君は、僕の人生の中でなくてはならない大事な人です。
僕は、君に沢山の事を学んだし、まともな人間として生きていくうえで、君にたくさん助けてもらいました。
これから先も、僕が強くあり続ける為に、更に人間として成長していく為に、君の助けが必要です。
これからも二人で支えあって、助け合いながら、お互いに更に人として成長していければと心から願っています。“


と手紙をしたため、最後に”I Love You”と書いて、アリーの枕元に置いて病室を後にした。

僕は家に帰ってパリの荷物を整理し、ベッドの中に入ったけれど、やはり眠る事ができず悶々としてまた一夜を明かした。

翌朝、気になってアリーの病室にまた行ってみた。

アリーは丁度病院の検査を受けていて、病室は空っぽだった。
 
ベッドの脇のテーブルをふと見ると、アリーから僕宛の手紙が置いてあった。

手紙を開けると見慣れたアリーの文字で、


“貴方は、私にとって、とても大事な人で、私たちは、これからも一緒に成長をしていきます。
私も貴方を愛しています。”


と書いてあった。

これからも二人で命の続く限り、同じ目線で助けあいながら、一緒に人として成長をしていきたいと思った。


2007年02月01日  愛しい人  

今日も底冷えのする寒い一日だった。

最近忙しくてジムに行く事も忘れていたので、今日は無理に時間を作ってトレーナーのネルに来てもらい、2時間程汗を流した。

ネルは、僕を見ると
『痩せたね』と言った。
 
痩せたのは嬉しいけれど、あんなに苦労しても痩せなかったのに、こんな事で急に痩せてしまうのだから、人間なんて皮肉なものだと思った。

僕はシャワーを浴びて着替えをして、アリーの病室に向かった。

昨日の今日だったので、アリーもまだ疲れており、会話が弾むという感じではなかったけれど、アリーは僕を見るなり、両手を広げて僕を迎え入れ、暖かいハグをくれた。

二人は口数も少なく、ただお互いの手を繋いだまま並んで座っていた。

僕は頭の中で会話のネタを探していた。
 
それを見つけては二人でちょっと話をし、話が尽きると二人で手を繋ぎ合ったまま、小さな病室の壁を見ていた。 

話す事がなくなっても、僕にとってアリーはかけがえのない、世の中で一番大事な愛おしい人だ。
 
あと二週間頑張れば、バレンタインがやって来る。

その時に、天使のデザインの指輪をアリーに渡す予定だ。

こんな事を考えてはいけないと思うのだが、もう残された時間が少ない気がして、どうにもならない焦りが僕の気持ちを狂わせる。

あともう少し時間があれば。
 
あともうちょっと時間があれば、僕はこの最愛の人と、もっと沢山の思い出をつくる事ができるのに。

焦ってもしょうがないのだけれども兎に角、悔しい。

時間がなさ過ぎる。

焦れば焦る程、うまく話をすることができず、結局、だまったままアリーの手を握り続ける事になる。

わかってはいる事だし、覚悟はできているけれど、いざとなると、どうにもならないのが人間の弱さのようだ。

今、僕にできる事はアリーの手を握ったまま、涙がこぼれないように天井を見つめる事だけだ。

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