目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
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2006年12月19日  君が世の中の全て

今日もまた暖かい日だった。 

僕は午前中はアリーの代わりに、更生施設でカウンセリングのボランティアをした。 

強姦で服役中の男の子と、麻薬と傷害で服役中の女の子とそれぞれ話をした。 

彼らと話をすると、本当にスポンジに水分を取られてしまうような疲労感を感じる。

それだけ、色々と貪欲なコニュニケーションが要求されるという事だ。
 
やはり彼らは、人とのつながり、コミュニケーションに飢えているという事なのだろうか。

彼らと2時間も話していると、こちらは疲弊してヘロヘロになってしまう。
 
癌を患っていながら、こんなことまでしようとしていたアリーの心意気には、今更ながら驚かされた。

アリーに対する愛情から、発作的にこんな事を引き受けてしまったが、本当に僕のような人間が話し相手になって彼らの為になるのか?等と色々悩みは尽きない。

ボランティアを終え、僕は自分の仕事に戻る前に、アリーの病室にちょっと顔を出した。
 
アリーには訪問を告げていなかったので、アリーはドアを開けた僕を見つけると、予想以上に喜んでくれた。
 
僕は素直にそれが嬉しかった。

今日は夜にアリーを見舞う事になっていたので、ほんの15分位立ち寄っただけだったが、わざわざ15分の為に時間をかけて来た事が、アリーはなりより嬉しかったようだ。

僕はいつものようにアリーのベッドの隣に腰をかけ、アリーの手を握って、今日のこれまでの出来事を色々と報告をした。

僕はアリーに正直に、更生施設の子供達とどう接していいかわからなくて、いつも帰る時には、自分自身が空っぽになってしまうと伝えた。 

アリーはただ微笑んで僕の顔を撫で、
『それは貴方がそれだけ真面目に取り組んでいるって言う事』と言った。
 
そしてまた微笑んだ。


最近アリーと話す時には、アリーがまるで悟りを開いた行者のように見える事が多い。

アリーの言葉とその全てを悟ったような微笑みに、僕はただ、そんなものかな?と半ば感心しながらアリーの顔を見た。
 
そんな僕の考えにおかまいなしに、アリーは優しい微笑みを僕に投げかけている。

僕はアリーの手を握りながら、昨日起こった事や今日する事に着いて更に話をした。 

アリーは僕の手の上で軽くリズムを取りながら、
『貴方の話を聞いていると、アタシがここで寝ている間も地球は、何の変わりもなく一日一日動いているっていう感じがするね』と言ってかすかに笑った。

確かに世界に取ってはアリー、一人の問題など取るに足らない問題だけれども、僕に取ってはこの世で一番大事な問題だ。
 
アリーが笑えば僕の世界は明るくなるし、アリーが泣けば僕の世界は闇で包まれる。

僕はアリーに
『僕に取っては、君が世の中の全てだから』と言うと、アリーは笑って
『貴方は、いつも優しいね。アタシにとっても貴方が世の中の全てだから』と言ってくれた。

僕らは二人で顔を見合わせて笑った。
 
冬の柔らかい日差しが病室の窓に差し込んでいた。

『もう行かなくちゃ』と僕はアリーに告げ、アリーの手にキスをして立ち上がった。

『また、後でね』とアリーは微笑んで手を振った。

アリーの病室を出て僕は自分の仕事場に戻った。
 
もう何処にも行かないと決めた後でも、色々と残務整理はあるので、色々と忙しく午後を過ごした。

仕事の合間に、今度のクリスマスの、アリーへのサプライズも準備をしなければならない。
 
今年のクリスマスプレゼントは、物ではない。

 

色々とその準備に時間がかかった。

でも、今週中に片付けないと間に合わないので、ちょっと焦り気味に作業を続けた。

仕事を片付け、夜の8時過ぎにまたアリーの病室に戻った。

先ほどと同じようにアリーのベッドの隣に腰を下ろして、アリーの手を握ると、
『外も寒くなって来たんだね。貴方の手が冷たくなっている』と言って、僕の手を自分の口に持っていき、自分の息で手を温めてくれた。

僕はアリーが眠りに落ちるまで色々な話をした。
 
アリーが眠ったのを確認して、僕はアリーの手をほどき病室を後にした。

アリーが言ったように外の気温は下がり始めていた。

僕はジャケットの襟をたてて、冬のニューヨークの街を歩きながらアリーへのクリスマスプレゼントの事を考えた。

元々は、アリーのクリスマスプレゼントに色々な物を準備していた。
 
それはそれで、アリーにプレゼントするのだが、退院の目処がつかない入院中のアリーに、そんな、物だけをプレゼントしてもしょうがないと思い、僕は何か他のアイディアを探し始めた。

病室で寝たきりでも、貰って嬉しいプレゼント。

病気と闘って、頑張って生きようと思ってくれるようなプレゼント。
 
アリーが、この世の中で生きて来た証を確認できるようなプレゼント。

アリーが死んでも、皆がアリーの事を思い出すようなプレゼント。

花束とか、装飾品とか、車とか、家とか、結婚指輪とかじゃなくて、アリーの生き様を伝えるようなプレゼント。

僕は、このところそれだけを考えている。

夜も昼も時間があれば、その事だけを考えている。
 
これが最後のクリスマスかもしれない。

二人に取って悔いのないクリスマス。 

何となくアイディアが浮かんで来た。
 
問題は、25日までに間に合うかどうか。

頑張らないと。

僕がこの世の中で一番大切にしているアリーの為に。



 


2006年12月23日  幸せの総量

今年はなかなか厳しい一年だったけれど、僕の会社の人たちは皆頑張ったので感謝をしている。

来年の事を考えると鬼が笑うけど、僕としては、会社で働いてくれている人達を路頭に迷わさない為に、どう道筋をつけるかを真剣に考えないといけない。

僕は一人、仕事場のデスクで仕事をしている。

夜の7時半過ぎだけれども、仕事場には僕以外はもう誰もいない。

ビルの掃除の人達が、入ってきてフロアの掃除をしていたので、彼らに一足早いクリスマスプレゼントをあげた。

プレゼントと言っても、お金を包んで渡すだけだけれども、彼らは一応にニッコリと笑い、グラシアスと言ってくれる。

僕はどうしてもこういった人達のことが気になってしまう。

色々な環境で真面目に頑張っている人達。
 
陽気にスペイン語の唄を歌いながら、誰もいなくなったビルで掃除をする人達。

彼らにも彼らの家庭があり、その人達の為にこうやって一生懸命働いているのだろう。

一方、僕の仕事関係では、お金をお金とも思わない人も一杯いる。

今年のアメリカの大企業のトップのボーナスは55億円だったそうだ。

55億円なんて何に使うんだろう?

僕だって、アリーの入院費用や保険の効かない色々な薬等の費用は結構高いし、お金は欲しいけれど、どうも僕の周りにいるお金持ちは幸せそうに見えない。

今日、僕の仕事関係のパートナーが、休暇で家族をつれてフランスに発った。 

彼もボーナスは10億円ほど貰っているけれど、いくらはなしを聞いても、決して幸せそうには思えない。 

僕のやっかみもあるのだと思うが、最近は、人間の幸せは絶対量が決まっていて、どこかで恵まれすぎている人は、他の部分で辛い事があり、相対的には、全ての人間の幸せの総量は、あまり差がないのではないかと思うようになってきた。

 

そんな中で僕は、ビルを掃除に来ているような人達と5分でも、話をして、ホリデイを互いに祝う方が、よっぽど楽しく気持ちが癒される気がする。

今日は10時頃までここで働いて、アリーの病室に見舞いに行く。 

今日の昼ごろにアリーのところに行き、1時間ほどアリーと話をしたけれど、最近、一日に二回見舞いをするのが習慣になってきてしまった。

流石に40歳を過ぎると、サンタクロースも来てくれなくなるけれど、もしもプレゼントをくれるんだったら、アリーに元気な体をあげて下さい。
 
僕の寿命を半分にしても、アリーがもう一度元気になってくれれば、僕はサンタクロースの為に、ニューヨーク中の煙突掃除をしても良いと思う。

世界中の人に心の優しくなるクリスマスがきますように。


2006年12月24日  People Get Ready  

昨日は、夜10時に仕事を終えてアリーを見舞いにいき、僕はそのまま病院に泊まった。

病院の堅いベンチで横になり寝ていたが、まだ外が薄暗いうちに目をさました。

朝の6時過ぎ頃だったと思うがアリーの病室に戻ると、アリーはもう目を醒ましており、僕を見つけると、ほっとしたように小さく笑った。

僕もアリーに笑いかけ、アリーの頬にキスをした。
 
病室の窓のカーテンをあけると、まだ外は薄暗かった。
 
花瓶の水を取り替えて、僕はまたアリーのベッドのとなりに置かれたパイプ椅子に腰を下ろし、アリーの手を握って、アリーをもう一度見て笑った。

アリーは小さな声で、
『おはよう。また新しい朝を迎える事ができて、目を開けると貴方がいて幸せだね』と呟いた。
 
僕は黙ったまま、アリーの手を握っていたその手に力を入れた。

アリーはそれを感じ取って微笑んだ。

二人で手を繋いだまま、話をするでもしないでもなく、そのまま夜があけるのを見ていた。
 
静かでゆっくりとして、少し神々しい時間が二人を包んだ。

僕はアリーの手を握りながら、パイプ椅子にもたれかかり、完全に夜があけたニューヨークの曇り空を眺めていた。
 
何となくカーティス・メイフィールドの”People Get Ready”(ピープル・ゲット・レディ)を口ずさんでいた。


<People Get Ready ー 訳詞>

用意はいいかい。

列車がやって来る。

荷物なんかいらないよ。

ただ列車に飛び乗れば良いんだ。

ディーゼルの音を聞いて、ただ信じる気持ちさえあれば良い。

切符なんていらないよ。

ただ感謝する気持ちがあれば良い。

用意はいいかい。

このヨルダン行きの列車に乗ろう。

街から街へ、人々を乗せながら。

信じる事が全てだよ。

ドアを開けて、人々を乗せてあげよう。

神を信じる全ての人々に望みがありますように。

誰でも乗れるけど、自分の事しか考えないで、その為に他人を傷つけてしまうような人は、乗れないよ。

用意はいいかい。

ほら、お迎えが来たようだ。

<People Get Ready>


呟くでもなく、唄うでもなく”People Get Ready”を口ずさみながら、アリーとの色々な楽しい思い出が浮かんでは消えた。

 

アリーの言うように、新しい朝を二人でまた迎えられた事を心から感謝した。

今まで当たり前だと思っていたが、実は大変な事で、当たり前だと思っていた事に、心から感謝ができるのは、僕の心が少し大人になったからかな?などと思った。

本当は全てアリーのおかげで、僕自身はちっとも成長していない。
 
どんどん先に大人になってしまうアリーを、僕は後から懸命に追いかけているだけだ。

僕ら二人に迎えの列車がくるまで、汽笛が聞こえるようになるまで、僕は自分の荷物を、がつがつトランクに入れて列車を待つのではなく、全てを手放して、体一つで列車に乗れるような、心の綺麗な人間になるように努力をしないと。

アリーが乗れて、僕が乗れないなんて事になると困るから。

僕は用事があったので、アリーにまた夜に見舞いに来ると告げてアリーの病室を後にした。

明日はクリスマスだ。


2006年12月25日  クリスマス プレゼント

クリスマスの日は曇り空だった。
 
空が低く、手を伸ばせば雲に手が届くような感じがした。

いつものように朝早く起きてジムに行き、身支度をして、既に家に届けられていた、沢山の友達や、日本の里子達からのクリスマスカードの束をバッグに入れた。

アリーが戻って来る訳ではないけれど、僕は、部屋をピカピカになるまで綺麗に掃除をし、誰も見る訳ではないけど、クリスマスの飾り付けをした。

綺麗になった部屋の真ん中に腰を下ろし、一人でゆっくりと紅茶を飲んだ。

窓を開け空気を入れ替え、裏庭に出てポインセチアの世話をした。

これだけ綺麗にすれば、もしも僕に何かあったとしても恥ずかしくないなと一人で悦に入り、僕は綺麗になった部屋を眺めた。

約束の時間になったので、僕は荷物を持ちアリーの病院に向かった。
 
タクシーで行っても良かったのだが、僕は何となく歩きたいと思い、街をゆっくりと眺めながら、周りの景色を自分の目に焼き付けるようにして、ゆっくりと歩いて病院に向かった。

曇ってはいたけれど、いつも見慣れた景色が、僕には透き通ったように美しく見えた。

いつもより時間をかけ、僕はゆっくりと歩いて病院に向かった。

病室のドアを開けると、いつものようにアリーは僕を見つけて微笑んだ。

どこで手に入れたのか、アリーは赤いサンタクロースの帽子を被って、笑いながら僕の事を待っていた。

『メリークリスマス』と僕は言ってアリーの頬にキスをした。
 
アリーも
『メリークリスマス』と言って僕に微笑んでくれた。

『どこでその帽子を手に入れたの?』と聞くと、アリーは
『姪っ子から貰った』と言った。

『これじゃあ、ドレスも着る訳にはいかないし、せめて帽子だけでもと思ってね』とアリーは言って笑った。

白いベッドに、白いシーツ、アリーのまわりは白一色だったので、アリーの頭に乗っていた小さなサンタクロースの帽子の赤が、目に刺さるように鮮やかだった。

 

僕はいつものようにベッドのとなりのパイプ椅子に座り、アリーの手をとって、昨日の出来事と、今朝の出来事を一通り話をした。
 
アリーは、窓の方に目をやって、僕の話を聞きながら、
『そろそろ外に出てみたい。病院にいてもつまらないから』と呟いた。 

僕は、ただアリーの手を取って強く握りしめ、アリーを見て微笑んだ。

アリーは一瞬哀しげな表情をしたが、すぐ思い直したように、僕をみて同じように微笑んでくれた。

僕は、家に届いた沢山のクリスマスカードをアリーに渡し、そのひとつひとつをアリーとあけてみた。
 
古い友達からのカード、最近の友達からのカード、日本の里子からのカード、様々な人達から心のこもったカードを貰った。
 
そのひとつひとつを読みながら、アリーと色々話しをした。

アリーは嬉しそうに、そして懐かしそうに、そのひとつひとつに書かれた言葉を指でなぞり、声を上げてそれを読んだ。

 

そして、それらを全て読み終わって、僕の方を向いてにっこりと笑いキスをしてくれた。

そしてもう一度
『メリークリスマス』と言った。

一段落して、僕はアリーに持って来たクリスマスプレゼントを渡した。
 
アリーは子供のように喜んで、そのひとつひとつの包装を開けた。
 
アリーが入院している間に読みたがっていた本が殆どだったが、僕はそれ以外に、二つのサプライズプレゼントを用意しておいた。

アリーは、まず小さい方のプレゼントの包みを開けた。 

そこにはパリ行きの飛行機チケットが二人分入っていた。

アリーは、包みの中から飛行機のチケットが出て来ると、
『パリ?』と言って微笑んだ。

僕は、だまったまま微笑んで頷いた。

チケットの下には、フランスのCDを何枚か入れておいた。

『パリに行くまでは、雰囲気だけでもパリを味わっていて』と僕は言って笑った。

 

アリーは、暫くパリ行きの飛行機のチケットを灯りに透かして見るように見つめた後、
『ありがとう』と言って笑った。

暫くしてアリーは、最後のプレゼントを開けた。
 
包みを開けると、そこには額に入れられた書類と、それとは別に分厚い契約書が出て来た。

アリーはそれを暫く見つめて怪訝な顔をして、
『これは、なに?』と聞いた。

僕は微笑んで、その書類の説明を始めた。

僕はアリーが病気になってから、アリーがやろうとしていた更生施設のボランティアを代わりにやり始めて、アリーが自分の人生でやろうとしていた事が、何なのかを理解しようと一生懸命考えた。

人に尽くすという事。

子供達の面倒を見るという事。

ボランティアをする事。

僕なりにアリーが人生のなかでやりたい事は、なんだったのだろう?と考え、あのアリーの純真さ、無垢な心、慈愛の心は、全て弱いものに尽くすという一点にあるのだろうと思った。

昔、アリーと話をしている時に、アリーが大学院に戻って弁護士の資格を取り、子供のチャリティ基金の仕事に関わりたいと言っていたのを思い出した。

僕はアリーに会うまでに散々の人生を送り、アリーと巡り会って、アリーと時間をともに過ごす事で、全うな人間として、本来の優し自分を取り戻す事ができた。

そういった意味では、僕もアリーに救われた子供達と同様に、アリーに魂を救われた一人だ。

アリーに巡り会わなければ、今の僕はいない。
 
アリーへの恩返しの意味も含めて、僕はアリーの生きる証を目に見える形で残してアリーにプレゼントをしたいと思った。

 

僕は、別にお金持ちでも何でもないけれど、アリーへのクリスマスプレゼントの為に、僕の財産の半分を子供達を救う基金として寄付をし、その寄付金をベースに、アリーの名前がついた慈善事業財団を設立し、アリーを初代の理事長にした。

額に入れた書類は、その財団の設立趣意書を額にいれたものだった。

『これは、なに?』と言うアリーに、僕は
『これは、君が理事長に就任する、子供の為の教育基金運営の財団の設立趣意書だよ。君が理事長で、僕は理事だから。これで、君の名前と、君と僕の夢は、僕達がいなくなった後でも永遠に残るから』と言ってアリーに微笑んだ。

 

額を握りしめていたアリーの手が震え始めた。
 
アリーは、言葉を発する事ができず、ただ額縁を握りしめて泣いていた。

僕も言葉が続かずアリーの肩をただ抱いていた。 

暫くして、アリーは涙を一杯溜めた目を僕に向け、
一言、
『I love you.』と言ってくれた。

僕はアリーの肩を抱いたまま、
『そういうことだから、理事長さんは早く元気になって子供達を幸せにしてください』と言ってアリーの涙を指で拭い、アリーに笑いかけた。

かなり長い間、アリーの病室にいたので、病室を出た時には既に夜になっていて、雨がかなり降っていた。
 
僕は傘を持っていなかったので、そのまま雨に濡れながら、クリスマスの夜の街を一人で歩いた。

結構思い切った事をしたので、僕の財布も僕自身も身軽になってしまったけれど、お金は墓には持って行けないし、これで良いと思った。
 
アリーに生きたい、生きなければいけないと思う気持がふえて、アリーの名前が基金の存在する限り永遠に残り、アリーの夢が、アリーがいなくなった後も誰かに受け継がれるのだとすれば、それが一番良い事だと思った。

雨はますます強く降っていた。

僕はずぶ濡れになりながら、クリスマスのライトアップのされた街を歩き続け、雨のクリスマスも悪くないなと思った。


2006年12月26日  願い事

クリスマスから一夜明け、僕らの生活もまたいつも通りのものに戻った。

仕事を6時頃に終え、僕は病院に向かった。 

アリーの病室のドアを開けると、アリーは僕がプレゼントした本を読んでいるところだった。
 
アリーは僕を見つけると、読んでいた本を閉じ
『おかえり』と言って微笑んだ。

”おかえり”と言うのには少し面食らったが、アリーはここにもう長い間住んでいるのだから、アリー的には、”おかえり”なんだろうと思い、僕も
『ただいま』と言って微笑んだ。

いつもの通りアリーにキスをして、パイプ椅子をアリーの枕元に持って行きそこに腰を下ろした。
 
手を繋いで、お互いの一日についてそれぞれ報告をした。
 
これはもう二人の日課になっている。 

もう当たり前になった事を、当たり前に毎日行い、当たり前に、平凡な二人の毎日について話をした。

こんな当たり前な事をできる事を感謝しながら。
 
こんな当たり前な事を、明日も明後日もする事ができますようにと祈りながら話をした。

暫く話をした後に、二人でテレビのニュースをつけた。

色々なニュースの中で、タイで起こった大津波から丁度2年が経ったニュースが流れていた。
 
あれから、もう2年も経ったのかと思った。
 
あれだけの惨事でありながら、人の記憶からどんどん遠ざかって行ってしまう。
 
特に被害の大きかった地域のレポートがあり、仮設住宅等はかなり建てられ、仮設の学校も建てられたが、多くの子供が津波の直接の被害で死んでしまったらしい。

アリーはそのニュースを見ながら涙を流していた。 

そして
『人は他人事だと思うと、すぐに色々な事を忘れ去ってしまう』と言った。
 
そして
『何かあった時に、他人事としてニュースを見ているか、何が自分にできるのか?と考えて行動を起こすのか、人間は常にその二者択一を迫られていると思う。そんな時にアタシは後者を選びたい』と言った。
 
小さい声だったけれども、力強い声だった。

 

こんな体になってまで、まだ人の為に自分にできる事がないか、考えているアリーには本当に頭が下がった。

なんでそこまでして、人の為に尽くそうとするのだろう。

もう十分やったから、そろそろ自分の事を考えてゆっくりした方が良いよ。
 
喉元までその言葉が出そうになったけど、僕は何も言わずに、ただアリーの手を握ったままアリーの手にキスをした。
 
きっとこの人は、そんな事は百も承知の上で、自分の身を削りながら、自分の目標の為に、ただひたすら前を向いて歩いて行く人なのだろうと知っているから。

津波のニュースが終わり、フセインの死刑が確定したニュースが次に流れたので、僕はTVのチャンネルをかえた。
 
こんなに傷ついてしまった僕の最愛の天使に、これ以上、この地上で起こっている何も生産しない殺し合いのニュースを見せるのは忍びなかった。

コメディのTVを流しながら、僕はアリーが眠りにつくまで色々と話を続けた。
 
アリーが寝入ったのを確かめ、アリーの手を離してシーツの中に入れTVを消した。

アリーの病室を後にして、僕は夜の街を歩いてアパートに戻った。
 
夜の街を歩きながら僕は色々な事を考えた。

アリーにはなんとしても良くなってもらって、いつまでも一緒にいたいと思うけれども、一方で、アリーにこれ以上辛い思いをさせるのではなく、場合によっては近い将来、僕の天使が元々いた場所に、アリーを返してあげる事も、僕としては受け入れざるをえないのではないか?とか、色々と考えつづけた。

僕は、自分の命も含めて他のものは全て投げ出す用意はあるけれど、まだひとつだけ僕にできないことは、今、アリーを手放す事だ。
 
それだけは、今の僕にはできない。

他のものは全て諦めますから、せめてアリーだけは、僕から取り上げないでください。

僕はポインセチアの中で神様にそうお願いしてみた。

ひとつぐらい、お願いを聞いてもらえないかな。

 



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