目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
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2006年12月02日  男の手料理 

昨日の夜は、アリーが久しぶりに帰ってきたこともあり、アパートでゆっくり時間を過ごした。

外で長い時間食事をするのも、心配だったので久しぶりに僕が料理をした。

別にたいしたものを作ったわけではないけれど、マッシュルームのソテーとラムチョップ、小さなポテトをガーリックで炒めたものと、温野菜の4品を用意した。

アリーのアパートで、まともな料理をしたのは初めてだったけれど、料理をしているうちに段々自分でも調子が出てきたようで、キッチンでワインを開けてからは絶好調で、ほろ酔い気分で料理を続けた。

アリーは、それが面白かったようで、何度も用もなくキッチンに来ては、僕の料理を楽しそうに見ていてくれた。 

料理がようやく出来上がり、アリーはソーダー水で、僕はキッチンから飲み続けていたワインで乾杯をして料理を食べた。

アリーが
『ワインで一緒に乾杯できないけど我慢してね』と言って笑った。
 
僕は
『一緒に水で乾杯しろって言われたら困るけどね』と言っておどけて見せた。

暖かい夜ではあったが、せっかくだったので暖炉に火を入れた。
 
ろうそくの灯と暖炉の灯が、やわらかく揺れたお陰で、僕の見栄えの悪い料理も、ちょっとは美味しそうに見えたかもしれない。

食事が終わり、二人でソファにもたれて横になっていると、裏庭を見ながらアリーが
『もう12月だね。本当だったら、ロンドンに行くはずだったのに、ゴメンネ』と小さな声で言った。 

僕は
『ロンドンは、君が元気になったらいつでも行けるから』と答えた。

アリーはソファの上の僕に背を向けて寄りかかっているので、僕からはアリーの顔を見る事はできなかった。 

暗い話をしないように、僕は頭の中をフル回転させた。
 
楽しい話、くだらない映画、テレビドラマ、音楽、話を変えてくれるものだったらなんでも良かった。

でもこういう時には、なかなか良いアイディアがすっとは浮かばず、僕は、ただ黙ったままアリーを後ろから抱きしめる事しかできなかった。

 

暫くしてアリーは、そのまま手足を猫のように伸ばして、大きなあくびをしながら、僕を振り返り、
『もうそろそろ寝ようか?』と言って微笑んだ。

僕も微笑んでソファから立ち上がり、ソファに座っていたアリーを抱き上げ、ベッドに連れて行った。

アリーは、抱き上げられながら、
『一番会いたかったのは、抱き上げられてベッドに連れて行ってもらうことだったかもしれない』と言って笑った。

アリーをベッドに寝かせ、片付け物を簡単にすませてから僕もベッドに入った。
 
アリーが猫のように僕に寄って来た。

僕はアリーのぬくもりを感じながら、アリーが寝付くまで、アリーの髪の毛を撫で続けた。
  
アリーが眠りに落ちたのを確認して、そっとアリーの腕を離し、僕はベッドから出た。

夜になって少し雨が降ったようだが、気温は余り下がらず、生暖かい夜になった。

僕はウイスキーのボトルを持って裏庭に出た。
 
椅子についた雨の露を取り払い、椅子に腰を下ろしてウイスキーをラッパ飲みした。

中年オヤジが、よれよれの黒いコートを羽織り、ポインセチアの花畑の中で、一人壊れかけの椅子に座ってウイスキーを飲んでいる。

全く絵にならない風景だが、僕はそうやって酒を飲み続けた。 

窓越しにアリーの寝顔が見えた。

花を眺め、アリーの寝顔を眺め、夜空を眺めて、たまに目に溜まった涙をぬぐい、僕は一人でウイスキーを飲み続けた。


2006年12月03日  天気の良い週末  

今日は朝から素晴らしい天気になった。

昨日の夜もあまりよく眠れなかったので、朝方うつらうつらしていると、アリーも早く目を醒ましたようで、僕の上に覆いかぶさりおはようのキスをしてくれた。

カーテンをあけ、外の光を室内に入れながら、僕らは、まだベッドの中に潜ったままで色々と話をした。

僕が
『今日は、何をしたい?』と聞くと、アリーは
『髪の毛を切って、それから貴方と街を一緒に歩きたい』と言った。

天気も良く気温もそれほど寒くないので、僕らはアリーの言う通りに土曜日を過ごす事にした。

明日の午後には、僕はまたカリフォルニアに行かなければならないので、二人で一緒にいられるのは今日が最後だ。

日曜日に飛行場に行く前に、僕はまたアリーを実家に戻さなければならない。

何で髪を切りに行きたいのかな?と思って、それとなく聞いてみたら、アリーは笑いながら、
『せっかく大好きな人と一緒にいるんだから、綺麗に見せたいと思うのは女として当然でしょ』と言った。

馬鹿な事を聞いちゃったなと思って、ちょっと照れてしまったけれども、綺麗な所を僕に見せたいっていうアリーの気持ちが嬉しかった。

午前10時近くまで、ベッドの中でテレビを見たりしてゆっくりと過ごし、アリーに簡単な朝食を食べさせて、僕はアリーを美容院まで車で送って行った。

美容院の前で、アリーは振り返り、
『綺麗になって来るから待っていてね』と言って微笑み、キスをして美容院の中に消えて行った。

 

髪の毛を切ったアリーを2時半に迎えに行き、アリーの具合も良さそうだったので、冬の訪れを見せるセントラルパークの中を、二人で手を繋いでゆっくりと散策をした。

その後二人で少し買い物をした。立ち寄った店のひとつで、何気なくアリーの指輪のサイズを測った。

薬指が6号で小指が3号だった。
 
これで、バレンタインのサプライズの情報がかなり集まってきた。

サイズがわかったので、後はアリーの好みを研究しながら、アリーの好きそうな指輪をデザインするだけだ。

買い物を終え、二人でアパートに戻った。 

途中でデリに寄り、チーズとサラミとクラッカーを買った。

家に帰ってソファに横になりながら、チーズとサラミをつまみ、二人で映画を見た。

予想通り、アリーは途中で寝てしまい、結局二人がおきたときには、夜の10時を回ったところだった。

どうしようか迷ったけれど、アリーが外食したいというので、アパートの近くの行きつけのイタリア料理屋に出かけた。

レストランに着いた時には、11時近かったけれど、オーナーは嫌な顔をせずに、僕とアリーのためだけに料理を出してくれた。

レストランのオーナーは、事情は全く知らないが、僕らのテーブルに腰をおろし、色々と話をしてくれ、帰るときには、
『神のご加護がありますように』と言ってくれ、僕らに大きなハグをしてくれた。

レストランを後にして僕とアリーは、手を繋いで一緒にアパートまで歩いて戻った。
 
僕はエンジェルをコートに包んで、歩きなれた街角を、二人でかみ締めるようにして歩いた。

次に二人を待ち受けるものを見る事が怖くて、このまま二人で永遠と街を歩き続けたい気持ちがした。
 
覚悟はしているけれどやはり怖い。
 
どうしようもない恐怖が僕を支配した。

 

アパートに帰り、二人で残っていたクリスマスプレゼントのラッピングを少しした。
 
日本の子供たちに、アリーも一言ずつメッセージを書き込んでいった。
 
アリーは、まるでマリアのような優しさで、自分が会った事もなく、おそらく会うこともないであろう子供たちに慈愛に満ちたメッセージを一言一言、大事に書きとめていった。

夜もかなり更けたので、アリーに寝るように諭した。
 
アリーは、最後の夜だったので眠りたくないといったが、具合が悪くなるといけないので、二人でベッドに入った。

僕はアリーを抱きかかえたまま、結局一睡もせずに夜を明かした。
 
アリーも寝付かれないようだった。

色々辛い事も多いけど、僕はアリーの体温を感じながら、アリーと一緒に時間を過ごせる事を神様に感謝した。

このまま朝が来なければ良いと思ったが、そんな願いがかなうはずもなく、いつものように朝が来た。

僕が目を醒ました時には、アリーも目を醒ましていた。

僕はアリーにキスをしてベッドを出て、シャワーを浴び、服を着て飛行場に行く準備をした。

アリーは、まだ裸のままベッドの中で休んでいた。
 
服を着替え、旅行の準備を済ませた僕に、アリーがまたベッドに手招きをした。

僕はアリーに招かれるまま、服を着たままベッドに横になり、アリーと一緒にテレビを見た。 

10時半過ぎになって、アリーが、
『私もシャワーを浴びて用意をしないといけないから』と言い、やっとその言葉をきっかけにして、僕も飛行場に出かける決心がついた。

アリーに見送られ、僕はアパートを出て車に乗り飛行場に向かった。

アリーとの楽しい4日間は、あっという間に終わってしまい、僕は仕事の為にカリフォルニアに向かう事になった。


2006年12月06日  大切な思い出

カリフォルニアに来ると、いつも時差の関係で、早朝から仕事を始めないといけない。

僕は朝の5時に起きて今日のスピーチの用意をした。

午前中にスピーチを終え、少し外の空気を吸いにホテルの外に出た。

別にどこに行くと言う当てがあるわけではなかったが、清々しい朝の空気を吸いながら、ホテルの周りを歩いた。

ちょうどニューヨークの10時過ぎだったので、アリーに電話をして、歩きながら少し話をした。

毎日の電話なので別にたいした話があるわけではない。

ただいつものようにお互いを気遣い、それぞれの一日について話をした。

アリーに、カリフォルニアの気候は素晴らしく、今、一緒に散歩をする事ができれば、どんなに楽しいだろうと言った。

アリーは
『自分だけで楽しんでないで、早く仕事を終わらせて帰ってらっしゃい』と悪戯っぽく冗談を言って笑った。

僕も笑った。

次の仕事の時間が迫ってきたので、僕はアリーとの電話を切り、ホテルに戻って、僕に会いに来た仕事の関係者と、昼食を兼ねたミーティングをした。

その人は、つい最近まで映画会社で働いていたが、最近会社を退職して起業をし、ベンチャーファンドから活動費として8億円を調達してまさに活動を始めたばかりの若者だ。

 

僕は2001年にレバノン人の友達(ビリー)の会社を買収し、2004年に大当たりをさせた事から、西海岸の起業家の中では、それなりに名前が知れ、この手の起業家から、相談を持ちかけられることが多い。

今日会った若者もそういった起業家の一人だ。
 
彼のビジネスがうまくいくかどうかは、僕にはわからないが彼と昼食を取りながら、色々話を聞いて僕のわかる範囲でアドバイスをした。 

この手の相談事は、全くの善意でやっているので、全くお金にはならないが、この業界は結局人間関係だし、誰が大当たりするかわからないので、誰にでも出来るだけ、時間を割いて真摯に対応をするように心がけている。

彼とのミーティングが終えてホテルの部屋に戻り、ホテルをチェックアウトし、迎えの車に乗り込んで、太平洋を見渡すベニスと言う街に出向いた。

そこで、また別の人と夕食を食べながら話をする事になっていた。 

ベニスは、イタリアのベニスをまねて町をデザインし、ベニスのように水路をめぐらせようとしたが結局計画が挫折し、町の名前だけが残ったと言う奇妙な歴史を持つ海沿いの街だ。

一時はヒッピーブームの頃に若者の町になり、その後ドラッグや色々な犯罪問題でスラム化したが、最近は再計画ですっかり綺麗になった。
 
ハリウッドスターが大きなレストランを出店していたり、最近はむしろお洒落な街という印象だ。

僕は海沿いの中華料理屋で、別の人と待ち合わせをした。
 
その店はビーチの方向に大きなデッキがあり、サンデッキで海を見ながら食事ができる。

僕はそこの一番奥のテーブルを予約し、海を眺めながらソーダー水を注文して、その人が来るのを待った。

暫く遅れて、彼らは現れた。

 

今度は、映画会社の人で、新しい映画の資金集めと配給についてのミーティングだった。
 
ハリウッドの場合、映画の製作には、大体1年半から2年の月日がかかるのが一般的だ。
 
最近は、撮影の他にCGがふんだんに導入されている事もあり、費用は更にかかるようになってしまった。

最近僕は、エンターテイメントの仕事からは遠ざかっていたので、彼らの話を聞きながら、ちょっと金額の桁が違うのではないかと思いながら、彼らの話を半分聞き流しながら、海を見つめていた。 

彼らが帰った後も、僕はその場所に暫く座っていた。

アリーとこの前、海に来たのはいつだったろう?と考えた。
 
何ヶ月か前に、夜眠れずにアリーと一緒にコニーアイランドまでドライブして、朝日を一緒に見た事を思い出した。

色々な事があったなあと思いをめぐらした。
 
僕の思い出には、いつもアリーが関わっていた。
 
アリーとの思いでは、楽しいものでも、哀しいものでも、僕にとってはかけがえのない宝物だ。

僕は今、その儚い、壊れてしまいそうな、思い出をなんとか両手でかき集め、自分の胸の中で守ろうとしている。

海を見ていてちょっとセンチメンタルな気分になったが、僕はこの後、サンフランシスコで別の仕事があったので、車をロサンゼルス国際空港のバンカーに向かわせ、そこに待たせておいた飛行機に乗り、サンフランシスコに向かった。

今日の夜から、今度はヨーロッパに移動する。

ヨーロッパではクリスマスツリーのためのオーナメントを買って帰ろうかな?等と楽しい事を考えるように努めた。

両手からこぼれてしまいそうな大切な思い出が、なくならない様に一生懸命、楽しい事を考えようとした。


2006年12月07日  北欧紀行

前日の夜遅くにニューヨークを発ち、朝にはフランクフルトに着いた。

ドイツに来るのは久しぶりだ。

生憎、今朝は曇り空で、灰色の低い空の下に、ドイツの田園地帯が静かに広がっていた。

迎えの車に乗り、フランクフルトでの最初の仕事に向かった。 

途中でアリーに電話をした。
 
ニューヨーク時間はまだ早かったので、アリーはまだベッドに入っていたが、僕の電話を待っていたようで、少しの間だったが話をした。

アリーは、若い頃ドイツに住んでいた事があるので、ドイツ語がはなせる。
 
僕はドイツ語があまり得意ではないので、
『君が一緒だったら、もっと仕事も楽なのにね』と言うと、アリーは
『アタシは、高いわよ』と言って笑った。

午後にはフランクフルトの仕事を終え、空港で待たせておいた飛行機に乗り、コペンハーゲンに向かった。

コペンハーゲンは、あの人魚姫で有名なヨーロッパの港町だ。

ここでの仕事は簡単だったので、数時間で仕事を終え、街に出る事もなく、僕はそのまま今日の最終地のストックホルムに向かった。

僕は仕事の関係で、ノルウェーやスウェーデンと言った北欧諸国に来る事が多いが、北欧は、他のヨーロッパの国と違った独特の雰囲気がある。

空港を出て迎えの車に乗り込み、ハイウェイを目的地に向かって走った。
 
まだ4時頃だったが既に日は沈み、まるで夜のように暗くなった。

これも北欧の特徴だ。

 

何とも言えない切なさを胸に抱えたまま、僕は大きな車の後部座席に深く腰をかけ、北極海の黒い海を眺めていた。

少し北極海の風にあたりたいと思い、車の窓を少し開けると冷たい海風が僕の顔を撫でた。

暗い空と、暗い海の間を走る一本の高速道路。
 
僕は窓を開けたまま、暫く北極海の風に自分をさらしてみた。

やっとミーティング場所につき、仕事を始めた。 

議事進行を聞きながら、僕はパソコンを立ち上げた。
 
パソコンにはアリーからのメールが入っていた。

”あなたがいなくて本当に寂しいです。私はあなたを愛しています。”

とアリー独特の短いメッセージが入っていた。

僕は他の取締役の手前、難しい顔をしながら、指でアリーからのメールをなぞってみた。

 


2006年12月08日  君のもとに帰る

朝、まだ北欧独特の暗い中、僕はストックホルムを発った。
 
目的地はパリ。

朝まだ早いうちにドゴール空港に到着し、迎えの車に乗り、パリの市内を目指した。

車の中からアリーに電話をしたが、繋がらなかったので簡単なメッセージを入れた。

市内に入り、凱旋門を回って近くのホテルに到着してここでの仕事を始めた。

空は相変わらず灰色で、冬の雲がはっていて、何か寂しい気持ちを掻き立てるものだった。

ホテルのミーティングルームには既に人が集まっており、僕が到着すると同時に議論が始まった。

僕は話を聞きながらホテルの窓から外を眺め、灰色の低い空の下を、群れからはぐれたのか、一人で飛んでいく鳥を見ていた。

ここでの仕事が終われば、ヨーロッパは一段落で、その結果を持って東京に行く。 

午前中のミーティングが終わった。
 
感触はそれなりに良いと思ったが、午後にもう少し、議論を集中させる必要を感じた。

丁度昼食が終わり、エスプレッソを飲んでいる時に、僕の携帯がなった。
 
てっきりアリーだと思って電話に出たら、それはアリーのお姉さんだった。

アリーの両親は、僕を認めていないので、僕が彼らと話をする事はない。

そういった意味で、アリーの家族の中で僕が話をするのは、アリーの腹違いの弟と、このお姉さんの二人だけだ。
 
アリーはいつも口癖のように、
『もしもアタシに万一のことがあったら、その知らせは、私のお姉さんに頼んであるから』と言っていた。
 
でも実際に、僕がお姉さんと話をしたのは、一回か二回だけだった。

そのお姉さんから電話があった。

お姉さんは、アリーの様態が急変し、病院に緊急入院をした事を教えてくれた。
 
病状はあまり良くないようだった。

お姉さんにお礼を言い、動揺しているようだったので、元気づけの言葉をかけ電話を切った。

目の前が、真っ暗になった。

 

午後の会議が始まるところだった。
 
僕はそのまま会議室に戻り議論を続けた。

しかし、頭の中はアリーのことで議論どころではなかった。

このままニューヨークに帰るべきか、パリでの仕事を完結させるべきかと考えていた。

僕は同業者から、いつも甘い奴だと馬鹿にされている。 

最後の詰めが甘い。

情に流されて最後の判断を誤りやすい。

そういう批判をいつも聞いてきた。

だから今度のヨーロッパの仕事には細心の注意を払い、常人離れしたスケジュールで、ここまで話を進めてきた。
 
そして、このパリの午後のミーティングで全てが決まる。

アリーがこれを聞いたら、きっと、パリに残って最後まで仕事をまとめるべきだと言うだろう。

きっとそういうに違いないと思った。

考えあぐねて、僕は、またホテルの窓から外の景色を眺めた。

あの群れから離れてしまった鳥が、まだ凱旋門の周りを回っていた。

”やっぱり帰ろう。”と僕は思った。

僕は自分の部下の一人を呼び、午後のミーティングを取り仕切るように指示をして、車に乗り空港に向った。

僕は夕方のフライトでニューヨークに帰ることにした。 

アリーの病状を聞くと帰らないわけにはいかなかった。

また周りの皆は甘いとか無責任だとか言うだろうが、これは僕の人生だ。

僕の人生はアリーのためにある。

そう考えると迷いもなくなった。

今日の夜にはニューヨークに帰れるだろう。
 
それまでアリーには頑張ってもらわないと。 

誰も受話器を取るはずのないアリーの携帯に電話をして、
『僕は今夜、君のもとに帰ります』とメッセージを入れた。



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