目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
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2006年11月01日  ハロウィン

今日、アリーは女の子達だけで集まってハロウィンパーティがあり、僕はゲイの友達にハロウィンパーティに呼ばれているので、お互い別行動になる。

夜一緒にいられないので、アリーが学校に行く前に会おうということになり、3時過ぎに6番街のスターバックスで、アリーと待ち合わせをした。

僕は仕事場を途中で抜け出し、ハロウィンで浮かれ気味の街を歩いて、待ち合わせ場所のスターバックスへ急いだ。

スターバックスに近づくと、既にアリーはスターバックスで紅茶を買って、通りに立って僕が来るのを待ちながら、紅茶を飲んでいた。

路上でアリーを抱きしめ、キスをして二人は、セントラルパークの方向に手を繋いで歩き始めた。 

セントラルパークに入ると、沢山の観光用の馬車が客待ちをしており、馬丁が僕らに、
『馬車に乗らないか?』と盛んに誘った。
 
アリーは、
『馬車に乗って学校に行こうか?』と冗談を飛ばした。

僕らは笑いあい、落ち葉を蹴っ飛ばしながら歩き続けた。 

どこまでもアリーとあるいて行きたかった。
 
このまま地球の果てまで歩いて行きたかった。

でもそういうわけにも行かないので、半分ほど歩いたところで、アリーと別れ、僕は自分の仕事場に戻った。

アリーは、ウエストビレッジのハロウィンパーティに女友達と連れ立って出かけた。 

僕はゲイの友達に拉致され、イーストビレッジのゲイのハロウィンパーティに付き合わさせられた。

 

パーティーはオールナイトで続くが、僕は明日の仕事が早かったので、夜中前に帰ることにした。 

丁度深夜の0時になった。 

今日は、アリーの誕生日だ。
 
僕はアリーの携帯にメッセージを送った。

”誕生日おめでとう。僕は、最愛の人の誕生日を一緒に祝う事が出来て最高に幸せです。本当に沢山の愛をいつもありがとう。君の誕生日は、僕にとってとっても重要な日です。なぜならば、今日は、僕がこの世の中で一番愛している人がこの世に生を受けた日だからです。この日がなければ、今の僕はいなかったし、今日のこの日をこんな最高な気持ちで過ごせてはいなかったでしょう。僕は貴方を何よりも強く愛しています。そして、その愛が決して変わらないことを約束します。”

すぐにアリーから返事のメッセージが届いた。

”メッセージありがとう。私も貴方をなによりも愛しています。その愛の深さは、貴方が想像している以上に遥かに深く強いものです。”

 

と書いてあった。

僕はイーストビレッジの雑踏を歩きながら、携帯に光るアリーのメッセージを何度も読み返した。

 


2006年11月02日  誕生日プレゼント

今日はアリーの誕生日だ。

朝早く起きてジムに行き、トレーナーのネルと2時間汗を流し、まずは鈍った体を覚醒させた。

ネルは最近ユダヤ人の彼氏と別れたようで、ジムの最中に、元カレの悪口を色々聞かされた。

こっちは運動をしながらなので、青息吐息でネルの話を聞いていたのだが、たまに、
『アタシの話、ちゃんと聞いてるの?』と強い口調で問いつめられ、僕はタジタジになってしまう。

ネルは僕に雇われているトレーナなのに。

僕はジムの時間に一生懸命運動をしながらネルの失恋話を聞いていないと怒られる。

でも、これも僕の人生だからしょうがない。

トレーニングが終わり、僕は熱いシャワーを浴びて、いつもアメリカでは硬い格好はしないのだけれども、今日はアリーの誕生日なので、久しぶりに背広を着てネクタイをしめた。

午後からは、ダウンタウンでミーティングがあったので、先ずはそちらに向かって会議を行った。

会議が終わりしだい僕は車に乗り、仕事場の近くにある有名な花屋さんに向かった。

そこで誕生日用の花束を作ってもらう為だ。 

花屋に入り、誕生日用の花束のアレンジをお願いした。
 
基本的には薔薇なのだが、紅葉した楓を入れたり、秋の装いをアレンジしてもらった。

そのまま花束を車に積み込み、いつもの仕事場に戻った。

アリーとその後も何度かメールのやり取りをしながら、できるだけ早く仕事を片付けるべく真面目に働いた。

後、小一時間で僕はバイト先にアリーを迎えに行く。
 
ディナーをダウンタウンの落ち着いた店に行く事に決めた。

プレゼントも持った。



楽しい夜になると良いな。



8時前にバイト先にアリーを迎に行き、そのままトライベッカにある、フランス料理のレストランに出かけた。

僕は店の奥のほうのテーブルを予約しておいた。
 
いつもそうなのだが、僕はあまりドアの近くや、隣の席が近いところには座りたくないので、いつも一番奥のテーブルを予約する。

アリーは、僕の性格を知り尽くしているので、奥のテーブルに案内されながら、また僕の方を向いて笑っていた。


僕はキャンドル越しに、一際眩しく見えるアリーの手を取って席についた。
 
段取りは事前にレストランに指示をしてあるので、僕らは席についても自分たちの会話を邪魔される事はない。 

こういう気遣いをするニューヨークのレストランは、非常に大人だなと言うか、お客の要望にプロフェッショナルに対応するところは流石だと思う。

先ずはピンクシャンパンで、アリーの誕生日を祝して乾杯をした。 

アリーは、バイト先の同僚から誕生日の花束を沢山貰った事、午後にカップケーキでちょっとした誕生日のお祝いをして貰った事、フロリダの兄弟から誕生日を祝った電話を貰った事などを、僕に教えてくれた。

ちょうどハロウィンの翌日だったので、昨日のハロウィンでの出来事など、色々な話で盛り上がった。

料理にあわせて白ワインを頼み、料理とワインを楽しみながら、僕らはゆっくりとした時間を過ごした。

最後に小さなケーキでまた乾杯をした。

アリーは、料理が一杯でもう食べられないと言っていたが、笑いながら、またケーキに口をつけた。

ようやく食事も終わり、レストランを後にし、僕らはトライベッカの街並みを少し歩いた。

アスファルトの舗装ではなく、石畳の道にナトリウム電気の黄色い光が差し、ストリートに立ちならぶレンガ造りの建物の窓からこぼれる灯りが、僕らを優しく照らした。

僕らは、アリーのハイヒールが石畳の隙間に挟まらないように、ゆっくりと歩いた。 

アリーは僕の肩にもたれかかりながら、
『今日は、本当にありがとう。でも、アタシは貴方とだったら、近くのダイナーでサンドイッチを食べるだけでも幸せなのよ』と言って笑った。
 
僕も笑った。

僕はアリーのそういった拘らない気さくなところも大好きだ。

暫くトライベッカを散策した後、僕は助手席のドアを開け、アリーを車に乗せて、アリーのアパートを目指した。

アパートに到着し、僕はリアシートに隠していた花束をアリーにあげ、もう一度
『お誕生日おめでとう』と言った。
 
アリーは大きく手を広げて僕にハグをくれ、とっても素敵な花束だと喜んでくれた。

 

花瓶付きの花束で、結構大きいものなので、僕が花束を持って、アリーの後をついていくような形で、二人で家に戻った。
 
家の中に入りキッチンに花束を置いて、僕は隠していたもう一つのプレゼントをアリーに渡した。

それは、アリーが欲しがっていたバッグだった。
 
アリーの好みはなかなか難しいし、アリーを連れて行ってアリーのいる前でプレゼントを買うのは野暮なので、なにか言い方法がないかとずっと考えていた。

その結果、僕はある方法を思いついて、それを1ヶ月前に実行した。

その方法とは、アリーに日本に住んでいる僕の姪っ子の大学入学祝いにバッグをプレゼントしなければいけないので、バッグ選びを一緒にやってくれと頼んだのだ。

アリーと有名なバッグの店を何件も回り、アリーは色々と僕の姪っ子の為にバッグを探してくれた。 

バッグをアリーに選んでもらう中で、アリーが自分で使うのだったらどれが良いかとか色々さりげなく聞いてみた。

アリーと僕の姪は歳が違うので、アリーは姪っ子には、もっと若めのバックを選ぶが、
『アタシが使うんだったら、こっちの色でこの形が良いけど、姪っ子さんだったら、そっちの方が良いわね』と一度だけ言った事があった。

僕はその言葉を頼りに、アリーが気づかない間に、姪っ子用のバッグの他に、アリーが言った別のバッを買い、別のバッグは、後で店に取りに来るからとそっと店員に告げ、姪っ子用のバッグだけを持ってアリーと店を出た。

僕のトリックを途中でバッグ店のゲイの店員に伝えると、まるで大事な秘密を打ち明けられたかのように、ゲイ独特のポーズで驚きの表情を見せ、喜んで僕のプランに協力してくれた。

そうやってやっとの思いで選んだバックだった。

アリーは包みを開けて中からそのバックが出てくると、全てを理解したようで、急に笑い出した。

『絶対何かやってると思ったのよ』とアリーは言った。

でもそれがこのバックだったとは分からなかったようだ。
 
アリーはバッグをとても気に入ってくれたようで、もう一度大きなハグを僕にくれた。

僕はアリーを抱きかかえ、ベッドまで連れて行き、アリーを寝かしつけた。

僕はアリーの髪の毛を撫でながら、これから長い間、何回も何回もアリーの誕生日を祝う事が出来たら、なんて幸せだろうと思った。

 


2006年11月16日  セントラルパーク    

天気予報では今週一杯、雨模様のようだ。

だからちょっとでも太陽の日が差し込むと、どうしても窓から外の様子を覗ってしまう。
 
やはり人間は太陽の光が必要な生き物らしい。

アリーもどうやら同じ事を考えていたようで、アリーから午後になって僕の仕事場に電話があった。

『夕方の講義が始まる前に、何処かで待ち合わせて、セントラルパークを一緒に歩かない?』とアリーは言った。
 
僕の方は、仕事が溜まっている事は溜まっていたのだが、何とかスケジュールを都合して、アリーと3時過ぎに57丁目の交差点で待ち合わせる事にした。

革のジャケットを羽織り、僕は11月の街に出た。
 
太陽が出ているせいかいつもより暖かく感じた。
 
街は、既にクリスマスの飾り付けが始まり、観光客の数も増えてきたような気がする。

僕は57丁目の交差点につき、アリーを待った。
 
57丁目の交差点は、ティファニー、ブルガリ、ルイビトンが4つ角のうちの3つを押さえているショッピング街の中心地で、57丁目と5番街の交差点の上には、クリスマスシーズンになると巨大なオーナメントが飾られる有名な場所だ。

僕はその4つ角に立ち、アリーが歩いてくるのを待ちながら、ぼーっと行き交う人達を眺めていた。

暫くして、アリーがiPodを耳につけながら歩いてくるのが見えた。
 
穴の開いたジーンズをはき、銀色のラメの入ったフード付きのパーカーの上に、赤いバックスキンのジャケットを着たアリーは、僕を見ると大きく手を振り、交差点で僕らは大きなハグをした。

僕らは手を繋いでセントラルパークサウスに向かい、公園の中を散策した。

公園の木々は既に紅葉のピークを過ぎ、多くの木々が葉を散らし始めていた。

落葉が遊歩道にじゅうたんのように敷き詰められ、僕らはそれを蹴飛ばしながら歩いた。

太陽が出ているといっても、アリーの手が冷たくなってきたので、僕は握っていた手をほどき、両手をジャケットのポケットの中に突っ込んだ。
 
アリーも右手を自分のジャケットのポケットに突っ込み、左手を僕のジーンズのお尻のポケットに突っ込んできて、
『こっちの方が、暖かいや』と言って笑った。

 

二人で笑いながら、子供のように落ち葉を蹴っ飛ばして遊歩道を歩いた。 

反対側から歩いてくる人達は、自然に僕達に道を譲ってくれる。
 
アリーはそれが可笑しかったらしく、一人でニヤニヤとしていた。

知らないおばあさんが、僕達とすれ違いざまに振り向き僕らに微笑んだ。
 
僕らもおばあさんに微笑み返した。

歩きつかれたのでベンチに二人で腰を下ろした。

アリーは週に2時間、犯罪や家庭崩壊で社会に適合できなくなった子供たちのカウンセリングのボランティアを始めたので、その事を夢中で僕に話をした。

『アタシは自分の世話も出来ないのに、犯罪を犯した子供たちの世話をしようって言うだから、どうかしてるよね』とアリーは僕の肩にもたれかかりながら呟いた。 

『でもアタシは自分が情熱を感じる事をしたいから』とアリーは続けた。

あとどの位、生きられるかわからないアリーにとって、自分の生きた証を感じられる対象が、社会に適合できなくなった子供の更正にあるのだとすれば、僕はアリーを精一杯サポートしたいと思った。 

ただ、今でさえ十分時間がないのに、更に他人の世話までするわけだし、真面目なアリーの事だから、人の問題をまるで自分の問題のように悩む事は目に見えており、それがアリーの体力を消耗する事を僕は恐れた。

だけれども、色々考えれば、アリーが情熱を傾けられるものに、情熱を傾ける事が、今のアリーにとっては一番大事なことだろうと考え、僕はアリーに
『それは、素晴らしい事だと思うから、頑張ってやったらよい。僕も何でも手伝うし相談にのるから』と言ってアリーに微笑みかけた。

暫くその話や家族の話をした。

そのうちアリーは、カバンの中から学校のレポートを取り出し、僕に色々と説明を始め、コメントを求めた。
 
アリーは、政治学を専攻していて、国際連合とエイズの取組みが、今回のアリーのレポートのテーマだった。 

話をしている間も、木々からは、絶えず木の葉が落ちてきて、その一枚が広げているノートの上に落ちた。

アリーは話をやめ、落ち葉をつまみ、暫くそれを眺めていた。
 
そして何かを決心するような顔をした後に、僕の方を向いて微笑み、
『少し歩こうか?』と言った。

 

二人でまた遊歩道を歩いた。
 
途中で小さい動物園のそばを通った。 

アリーがオットセイを見たいというので、暫く二人でオットセイの水槽の前に腰を下ろした。
 
丁度エサの時間だったので、エサ欲しさに、色々な動きをするオットセイを、アリーは子供のように喜んで眺めていた。

アリーの大学の授業の時間が近づいて来たので、68丁目で公園の外に出て、僕はアリーを大学まで歩いて送っていった。

時間は丁度4時をちょっと回ったところだった。
 
ほんの一時間ほどだったが、急に日が傾き、あたりが暗くなってきた。

薄暗くなってきたパークアベニューを僕は、アリーの肩を抱きかかえるようにして歩いた。 

アリーがぼそっと、
『アタシ達は、いつまでこうやって一緒に歩く事ができるのかな?』と言った。

僕はそれには答えずに、ただアリーの肩を強く抱いた。
 
アリーもそれに答えるように、僕に回した手に力を込めた。

大学の角まで来て、アリーを抱きしめキスをして、アリーは大学の中に消えていった。

校舎に消えていったアリーの後姿を暫く見送って、僕はもと来た道を仕事場に向かった。

さっきまでは二人で楽しく歩いた道のりを、一人でポケットに両手を突っ込み僕は歩き続けた。

さっきと全く同じ風景が僕には全く違って見えた。
 
一人で落ち葉を蹴っ飛ばして歩いてみた。 

冬はもうそこまで来てるようだ。


2006年11月19日  キティちゃんの指輪

カーテンを開けたまま寝てしまったので、朝、肌寒い湿った風に頬を撫でられて目が覚めた。

アリーは僕の隣で、まだ猫のように丸くなって可愛い寝息をたてており、僕が髪の毛を撫ぜると、一瞬微笑んだように見えたが、それは僕の気のせいのようで、またスースーと寝息をたてていた。

紅茶を飲みたいなと思ったが、僕がベッドから起きるとアリーを起こしてしまうので紅茶は我慢して、そのままベッドで時間になるまで、低い空が奏でる色々な音を聞いて時間を過ごした。

じきにアリーが目を覚ました。

『おはよう』と言って僕を見上げ、朝のキスをくれた。

僕もアリーに、
『おはよう』と朝の挨拶をして、シーツの中のアリーを抱きしめた。 

アリーは、起きぬけに強く抱きしめられるのが好きだと言っていた。

そうすると寝覚めが良いと聞いたが、それが本当かどうかは未だに分からない。

ただアリーにそういわれて以来、朝目が覚めるとベッドの中で、アリーを抱きしめるのが僕の習慣になった。

アリーを抱きしめ朝の挨拶をして、僕はベッドから出て紅茶を立てた。 

ベッドに紅茶を持って行き、二人で紅茶を飲みながら少し話をした。

僕は朝早く目が覚めてしまい、空が低かったので、色々な音を聞いたことと、紅茶が飲みたくなったが、アリーが起きるまで我慢していた事を話した。

アリーはそれを聞いて笑い出した。

アリーは
『アタシは貴方と話がしたいからいつも起こしちゃうけれど、貴方は、ちゃんと寝かしてくれるのにね』と言って笑い出した。

僕も笑って、
『僕は起こしてもらって、一緒に話をする方が嬉しいから』と答えた。

今朝はアリーは病院に行くことになっていたので、二人で出かける準備をし、僕はアリーを病院まで車で送って行く事にした。

いつも通り助手席のドアを開け、アリーを車に乗せてから僕も車に乗り込み、イグニッションキーを回して車を目覚めさせ、ギアを右手で握りながらアリーの手を握った。

いつも通りアリーの手を握ると、小指に小さな指輪をしているのに気がついた。

アリーは指輪が嫌いで、アリーが指輪をしているのをあまり見た事がない。

 

気になって、アリーの手を取ってみて見ると、それは小さなキティちゃんの指輪だった。

『なんでこんな物してるの?』と僕が思わず聞くと、アリーは笑いながら、
『これは私のラッキーリングだから』と言った。 

アリーのお姉さんには一人娘がいる。 

アリーのお姉さんは旦那さんと別れてから、女で一人で一人娘を育てているが、収入が少ないので、アリーが生活費のかなりの部分を助けている。

アリーは17歳の時に、通り魔に襲われて強姦された悲しい過去がある。

その時、子宮が破裂してしまい、肉体的にも精神的にも傷を負い、アリーは子供を産めない体になった。

子供を産む事ができないアリーにとって姪っ子は、自分の分身のようなもので、
『世の中で一番大事な人は姪っ子で、二番目はアナタ』と僕はいつもアリーに言われている。

その姪っ子が自分のおもちゃの宝箱を開けて、
『これをあげる』と言われてもらったのが、何かのおまけのおもちゃの、キティちゃんのリングだった。

もうキティちゃんの絵柄が剥げかかっているプラスチックのリングが、アリーの小指に不釣り合いに収まっていた。

アリーらしいなと思ったので、僕は微笑み、
『なかなか似合うじゃないか』と言って笑った。

アリーも笑った。

アリーを病院で降ろして、僕は自分の仕事場に向かった。

今日はアリーは実家に戻り妹と話があったので、僕は夜遅くまで働きアリーを実家まで迎えに行って、二人でアリーのアパートまで帰った。 

アパートに着いた時には夜10時を回っていた。

アリーの具合があまり良くなかったので、薬を飲ませてベッドに寝かせた。 

アリーは、まだ寝たくないと言ったので、僕もベッドに入り、二人でベッドに横になりながらテレビを見た。 

アリーは、眠くないと言っていたが、暫くすると薬のせいもありテレビを見ながら眠りにおちた。

 

ベッドから出ると、アリーを起こしてしまうかもしれないと思ったので、僕はベッドの中に入ったまま、チャンネルをいくつか変えた。
 
昔のコメディの再放送を見たり、色々時間を潰したけれど、僕は寝つく事ができなかったので、テレビを消して、真っ暗になった部屋で風に揺れるバーガンディのカーテンを見ながら、また考え事をした。

アリーの今朝のキティちゃんの指輪の話を思い出し、僕は、一人でまた思い出し笑いをした。

いかにもアリーらしい話で、何度思い出しても思わず微笑んでしまう。

恋は盲目で、あばたもえくぼと言うが、僕は、アリー程、純粋な心の持ち主に会った事がない。

僕にとってアリーは、かけがいのない天使だ。

僕の人生に光を照らす為に降り立った天使。
 
死ぬ事だけを考えていた僕に生きる喜びを教えてくれた天使。
 
僕にとっては、アリーは間違いなく天使なのだ。

ベッドで横になりながら、指輪嫌いのアリーだけれども、キティちゃんのプラスティックの指輪をはめてくれるのであれば、僕のエンゲージリングもはめてくれるかな?とか色々と考え始めた。

医者は、アリーの余命は、もっても1年かもしれないと言っている。
 
僕はそんな医者の言う事は信じないけれど、こんな状況でアリーと永遠の誓いをするのは、馬鹿げているかもしれないけれど、今日、キティちゃんの指輪を見ていたら、そんな事を考え始めた。

僕のそんな気持ちを知る由もなく、僕の天使は、僕の胸の上に頭をのせて翼を休めていた。


2006年11月20日  Left Alone  

今朝も天気が良かったが、その分気温が冷え込み、秋の終わりを感じさせるようになった。

今日はアリーは実家で過ごす事になっていたので、僕も自分の家に帰る事にした。

アリーのアパートを二人で出て、車の助手席のドアを開けてアリーを助手席に乗せ、アリーの荷物をバックシートに放り込んだ。

ストリートの街路樹は殆ど葉を落とし、僕の車のボンネットの上に乗っていた枯れ葉が、エンジンをかけると踊りだした。

赤いボンネットの上で舞う枯れ葉に少し目をやり、僕は助手席のアリーを見て微笑み、いつものようにアリーの手を取り車を走らせた。

アリーの実家は、ダウンタウンのユニオンスクエアの近くにある。 

アパートから実家までは、渋滞がなければ20分程の道のりだ。

途中で薬局に立ち寄り、アリーの薬を買った。

アリーは急に
『お茶飲みたい?』と僕に聞いて車を飛び降り、スターバックスにチャイティーを買いに出かけた。
 
暫くしてアリーは、両手にチャイティーのカップを大事そうに抱え戻って来た。

助手席に戻り、僕にとびきりの微笑みを一つくれて、チャイティーのカップを僕に渡してくれた。

僕は微笑んでそれを受け取り、一口飲んで、甘いジンジャーを味わって、アリーにキスをした。

日曜の昼で道も空いていたので、ほどなくアリーの実家に到着した。
 
僕は助手席のドアを開け、アリーを助手席からおろし、アリーの荷物を取って手渡した。

アリーは
『ありがとう』と微笑んで、僕に大きなハグをくれた。
 
アリーがビルの中に消えるまで、僕はそこに立ち尽くしてアリーを見送った。

僕は車に戻り、一人ニューヨークの街を流した。

助手席との間にはチャイティーのカップが二つ。
 
僕は、少しぬるくなった自分のチャイティーを飲み干した。
 
まっすぐ家に帰ろうと思ったが、何故か車のハンドルを反対方向に切り、僕はイーストリバーサイドに向かった。

車を止め、僕はイーストリバー沿いの遊歩道を歩き、マンハッタン橋を眺めるベンチに腰を下ろし、マンハッタン橋を眺めた。
 
手には、空になったチャイティーのカップを持ったままだった。

暫くすると、黒人の青年が一人やって来てサックスの練習を始めた。

なかなか良い音を出す青年だった。

周りには僕ら以外誰もいなかった。

 

イーストリバーの川の音と、ハイウェイからこぼれる車の音、彼のサックスと風の音だけが、僕の周りを舞っていた。

他に人がいなかった事もあり、何となく僕はその青年と言葉を交わし始めた。
 
彼は、僕がジャズが好きだとわかると嬉しくなったようで、色々と話をしてくれるようになった。 

彼が
『どの曲が一番好きか?』と聞いたので、

僕は
『Left Alone(レフト・アローン)』だと答えた。

そうすると彼は僕に背を向け、イーストリバーを向いたまま”Left Alone”を吹き始めた。
 
背を向ける時に彼は、
『人の方を向くと緊張するから、川の方を向かしてもらうよ』と言って笑った。

その青年の”Left Alone”は、なかなかの物だった。

僕は彼の”Left Alone”を聞きながら、その歌詞を口ずさんだ。


<Left Alone ー 訳詞>

心を満たしてくれたあの愛は、どこに行ってしまったのだろう?

決して別れる事はないと言ってくれたあの人は、どこに行ってしまったのだろう?

人は、皆、私を傷つけ、そしてその場を立ち去ってしまう

私は置き去りのひとりぼっちで、他に誰もいない

私には、自分の家と呼べる家などどこにもない

私が、彷徨わない場所などどこにもない

街の雑踏もただ虚しく、私は、一人置き去りにされるだけ

他に誰もいない

探し求め見つけなさいと人は言うけれど、今まで、それが叶った事はない

きっと運命が彼を去らせたのだとするならば、

もしかしたら私が死ぬ前にもう一度彼に出会えるかもしれない

きっと彼にまたあえる時には、私の心が、放たれると願っているけれど、

その時までは、私は、ずっとひとりぼっちで、他に誰にもいない

<Left Alone>


ジャズは夜に聞くものだと思っていたが、昼間に外で聞くジャズも悪くない。
 
僕は晩秋の風にあたりながら、イーストリバーを眺め彼の音楽に耳を傾けた。

何曲か彼の音楽を聴いた後、僕はベンチから立ち上がり、彼にチップを払って車に戻った。

車に乗り、一人でさっきアリーと二人で走った道を走った。

カーステレオのラジオチャンネルをジャズのチャンネルに変えた。

車の中には アリーが飲み残したチャイティーのカップが一つ残っていた。



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