目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
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2006年09月21日  闘うこと  

今朝は朝から良い天気だったが、僕の気持ちはちょっとブルーだ。

前に話したが、僕達が作った会社の社長をしていた十何年来の友達の山藤が背任行為を行い、僕達は彼を解雇した。 

その山藤が、不当解雇を理由に僕達を訴えた。

僕も被告として訴状を受け取り、送達された訴状に目を通した。

僕は仕事柄、人に訴えられる事は決して少なくないので、訴状を見たぐらいでは何とも思わないが、原告に、その友達の山藤の名前を見た時には、なんとも言えず寂しい気持ちになった。

人はここまで変わってしまうのだろうか?
 
お金ってそんなに人の気持ちをかえてしまうのだろうか? 

最初に会社を作った時にはもっと夢があって、夢の実現のために頑張ってきたのじゃなかったのか?

僕はお金を儲ける事が一番になっちゃいけないと思う。

お金じゃなくて、自分には夢があって、その夢にはちゃんと世の中に貢献できる目的があって、その結果、ご褒美としてお金が貰えるのであって、お金はあくまでも結果の一部で、一番の目的じゃないと思う。

山藤にはそのことが見えなくなってしまったんだろうか?

会社を作ったのは十年以上前の事だった。

色々な人を口説き落として、結局、一人数千万円ずつお金を出しあって8人で会社を作った。

資本金2億円ちょっとの小さな会社だった。

十年間、遮二無二働いて会社は波に乗り、年商数百億円の会社に成長した。

山藤は会社の株式公開をして上場をしたがった。

僕らは会社の使命や目的をはっきりさせておきたかったので、上場をして株価を上げる為に、会社の取るべき道を誤りたくなかったので、上場には反対した。
 
今から思えば、あの頃から歯車が狂いだしたのかもしれない。

大変だったけれども楽しかった時の思い出が、走馬灯のように浮かんでは消えた。

明日どうなるか全くわからないような中で、兎に角、自分達の夢を叶えようと頑張ったあの頃。

会社設立のための賛同者を集めるために、色々なところを回り、ホテル代を節約するために、場末のモーテルに泊まった事。

レンタカーを借りて街から街へ出かけたこと。

あの時にはこんな日が来るとは夢にも思わなかった。

僕達は一生を通じての友達であり盟友だろうと思っていた。

今、僕の手には山藤が原告の訴状が握られている。

 

僕だってこのまま引き下がるわけにはいかない。

売られた喧嘩は必ず買うし、山藤を叩き潰すために全身全霊を込めて戦う。

僕は山藤と一緒に叶えようとした夢をまだ追っているから。 

あの時に語り合った夢を、僕一人になっても実現しなければいけない。

今日は出だしからこのお陰で気分が悪く、色々厄介な問題が満載の一日だったけれど、アリーがバイト先に行く途中に、僕の仕事場に立ち寄ってくれたので、僕はほんの少し仕事場を抜け出し、6番街のジャンバジュースというスムージーを売っている店までアリーと出かけた。

昼食代わりにフルーツジュースを飲み、ほんの15分くらいだったけれども、アリーとジュースを飲みながら街を歩いた。

アリーは今日、血液検査の結果が出たのだが再検査になってしまい、また木曜日に病院にいくことになった。

でもアリーは、前のように弱気になったりしていなかった。

本当はきっと不安でたまらないのだろうけれども、アリーは、アリーなりに僕に心配をかけまいとして頑張っているのだろう。

僕と手を繋ぎながら、もう片方の手でジュースを大事そうに抱えているアリーを見て、信号待ちのチャンスにアリーを抱き寄せてキスをした。

アリーと別れて仕事場に戻り、また気の重くなるような仕事を続けた。

仕事場の僕の机の前では何人もの弁護士が口から泡を飛ばしながら議論をしている。

今夜は、アリーと僕は別行動だ。

僕は今夜は簡単には仕事を抜けられそうもないし、アリーはオフオフブロードウェイで女優をしている友達のショーを見に出かけた。

劇場に出かける前に、アリーから電話があった。

『アタシの事は、心配しないで良いから仕事をしてきてね』とアリーは言った。

アリーの健気な言葉にちょっと心が温かくなった。

電話を切り、また議論に戻った。
 
僕は自分の手で自分の友達と戦い、自分を守るために山藤を社会的に抹殺しなければならない。 

でも僕が仕掛けたわけではない。

そんな事を何度も何度も考え続けた。

ただいくら考え続けても、悔やんだり嘆いたりしたところで、時計の針を戻せるわけではない。 

僕は夢を守らなければならないし、売られた喧嘩に負けるわけにはいかない。

悲しい覚悟が、僕の心の中でだんだんと固まっていくのを感じた。

 

今日は遅くまで打ち合わせがあったので、アリーを起こしては可哀想だと思い、自分の家に帰って寝ようと思っていた。

仕事を切り上げる頃に、アリーから携帯にショートメッセージが入っていた。

『ちょっとだけでも良いから、仕事が終わったら家によって』と書いてあった。

遅かったのだが、仕事場を出て駐車場に向かいながらアリーに電話をしてみた。

アリーはまだ起きていたので、アリーの家に立ち寄る事にした。

駐車場に行くと、よく知っている黒人の大男の管理人が、小さいパイプ椅子から滑り落ちそうな格好で、テレビをつけっぱなしたまま眠っていた。 

僕の足音を聞いて、彼は冬眠から起きた熊のように目をこすって伸びをして僕に向かって微笑んで
『今日は遅いじゃないか。こっちは全く一日いいとこなしだ。あんたの一日も疲れたって顔してるぜ』と僕に鍵を渡しながら言った。

僕は彼に
『これから彼女を暖めに行くから、そうしたら元気になるよ』と答えて鍵を受け取り、彼に目配せをした。 

でも人に疲れてるって思われるようでは、僕もプロではないなとちょっと反省して、精一杯の目配せをしたのだが、彼はにっこり笑ったまま僕の肩を2度ほど叩いて、
『また明日』とだけ言った。

どうやら僕の精一杯の取り繕いも、僕の疲れた気持ちを隠す事はできなかったようだ。

車のエンジンをかけるとカーステレオからは、チェットベーカーの”No Problem”(ノープロブレム)が流れ出した。

これは”危険な関係”と言うフランス映画の主題曲で、原本はフランスでも発禁になった禁断の小説だ。 

氷のように冷たい青白い炎のような、チェットベーカーのトランペットの音色が、人気のいなくなったパークアヴェニュに吸い込まれていった。

人気のないストリートを滑るように、僕はアリーのアパートに車を走らせた。

 

アリーのアパートにつくと、アリーは青いバスローブを着てベッドの上に横になり、本を読んでいるところだった。

僕がドアを開けて入ってくると読んでいた本を脇に置き、美しい笑顔を見せてドアのところまでやってきて、僕を抱きしめキスをしてくれた。

僕はアリーを抱き上げ、病気のせいで随分軽くなってしまったなと内心悲しくなりながら、そんな気持ちはアリーに見せずに、アリーを抱きかかえてベッドまで歩いていった。

そのまま靴を脱いでアリーと一緒にベッドに横たわり、アリーを抱いたまま、お互いの一日について色々話をした。

アリーの友達が出演しているオフオフブロードウェイの演劇は、まずまずだったようだ。

その後に楽屋に友達を訪ね、近くのバーで友達と少し話をして帰ってきたそうだ。

それから、フロリダのお姉さんの家が突然の停電に見舞われてしまった話とか、その他の家族の話、自分の行っている病院では結局問題が解決されず、別の病院に移って精密検査を受ける事になった話とかを、アリーは僕の腕の中に抱かれながら色々話してくれた。

僕の方からも今日の一日について話をしたが、例の友達の山藤から訴えられた話はアリーにはしなかった。

僕自身がまだ消化しきれていない問題をアリーに話して、アリーを心配させたくなかったからだ。

僕はその日に起こった取りとめのない話や、可笑しかった話なんかをアリーに話して聞かせた。

暫く話をして話も途切れた頃に、アリーは僕の上に覆いかぶさってきて、アリーの下になった僕の目を見つめて
『いつも私に優しくしてくれて有難う。今夜は、私が貴方を癒してあげる番だから』と言って微笑んだ。

駐車場の管理人にも見破られたが、アリーにもお見通しだったようだ。

不惑の歳になりながら、迷いや疲れが顔に出るようでは、僕もまだ修行がたりないなと思ったが、一方で、アリーの気遣いが何よりも嬉しかった。

僕の上で、僕を覗き込んで微笑んでいるアリーのブロンドの髪を両手で掻きあげて、微笑みながら、アリーにゆっくりとキスをした。

少し開けられた窓から秋の夜の風が入り込み、赤いビロードのカーテンを揺らした。


2006年09月23日  市民権

今日は仕事を終えてから夜の8時過ぎに、アリーの大学にアリーを迎えに出かけた。

大学の正門の前に車を横付けにして、アリーが出てくるのを待った。
 
暫くして授業が終わり、たくさんの学生が正門から吐き出されてきた。

多くの学生がいたが、僕はすぐアリーを見つける事ができた。

僕がアリーを好きだからというのもあるのだけれど、やっぱりアリーは他の学生に比べて年齢が高いので、ちょっと見た感じでは生徒と一緒に先生が歩いているようにも見える。

アリーを正門の前でピックアップして、近くのレストランで食事をすることにした。

食事をしているの間、アリーは学校で学んだ事を色々僕に教えてくれる。

アリーは国際関係論をとっているが、昨日の授業で、初めてアメリカで市民権を取得される場合、エイズ患者だと特別の場合を除き、自動的に市民権の取得が拒否される事をしったようだった。 

僕は外人なので、市民権や永住権で、いかに外人が差別されているかは身をもってよく知っているし、僕自身も永住権の取得にあたってはエイズ検査を受け、兵隊への召集令状も一応貰った。

 

(召集令状は、形だけで、実際は僕の年齢が高いので、自動的に放棄されたが、若い人は今でも兵役の義務がある。)

アリーに、僕もエイズの検査受けさせられたよと言うと、アリーはびっくりした顔をして僕を見つめた。

もっとアリーを驚かせたのは、ほんの15年前まで、アメリカの市民権を得ようとする外人が、同性愛者であることがわかると、精神障害の一部と判断されて、市民権の請求が拒否されていた事だった。

 

アリーは、目に見える形で人の為にサービスをしたいと思って、大学に戻り勉強を始めたのだが、実際はこの国では、今でも沢山の障壁があるという現実を知ってショックだったようだ。

僕らは食事を終えてアリーのアパートに帰った。

アパートに帰ると、二人でテレビの前のソファに横になりTVを観た。

アリーはフロリダのお姉さんに電話をし、同じテレビ番組を観ていたお姉さんと、色々テレビのストーリーの話で盛り上がっていた。

なんか、そういう子供っぽいところも可愛いなあと思いながら、僕はアリーを後ろからそっと抱きしめた。

アリーは来週の月曜日に別の医者との面談があり、最近は医者をたらい回しにされている事もあり、ちょっと精神的に不安定になっている。
 
なかなかはっきりとした結果が分からず、医者をたらい回しにされるアリーの不安を考えると、僕としても何かしたいと思うが、ちょっと良いアイディアが浮かばず自分ながらもどかしい。

そんな中で僕ができる事は、アリーが望む限りアリーと一緒にいて、アリーの話を聞いてあげる事なのではないかと思っている。

アリーが眠りについた後、僕はウイスキーのボトルを抱いて、ビルの屋上に上り、雲に覆われた夜の空を見ながら、一人、ウイスキーを飲んだ。 

屋上に置き去りにされた古い木箱に腰を下ろし、ウイスキーをラッパ飲みし大きいため息をはいた。

 

僕の願いはただひとつ、アリーの幸せだけだ。
 
アリーの屈託のない笑顔を見る事ができさえすれば、僕は他のものはいらない。 

僕は木箱に座り、空を見上げウイスキーを片手に、独り言とも祈りともつかない調子で、僕の願いを神様に伝えようとしていた。 

頬をつたって落ちて来た涙を手の甲で拭うとウイスキーの味と重なり、ウイスキーが少し、しょっぱく感じた。


2006年09月25日  日曜大工

秋の空は、青く澄んでとても美しい。

今日は、アリーのアパートの押し入れの棚を作る約束をしていたので、僕は車に飛び乗り、早めにアリーのアパートに行く事にした。

アリーのアパートに着いたのは、丁度12時くらいだった。 

僕がアパートに入ると、アリーは自分の服をベッドの上一杯に広げて洋服を区分けしている所だった。

アリーのアパートの押し入れにある、衣装をかけるロッド(木の棒)が、衣装の重みに耐えかねて折れてしまったのだが、それを機会に、アリーは着られなくなった洋服を処分する事にした。 

アリーは病気のせいもあり、この1年でかなり痩せてしまい、殆どの洋服が大きすぎて着られてなくなってしまったのだが、それらを集めて教会に寄付をする事にした。

寄付をする洋服を選び出し、袋につめて二人でダウンタウンの教会まで出かけた。

教会で服を寄付して、二人はそのままウエストビレッジの小さなバーに行き、昼過ぎだったけれども、ビールとナッツで昼代わりにした。

外に出されたテーブルに腰を下ろし、昼間から二人でまったりとビールを片手に時間を過ごした。

本当は、二人ともこのままのんびりしたかったが、色々やらねば行けない事があるのでビールを飲み干し、車でアリーのアパートまで戻った。

アパートに戻り、僕は押し入れに入り、コンクリート用のドリルで壁に穴を開け、中にアンカーを入れて棚を取り付けた。 

押し入れの中は暑いので、僕は上半身裸になり、大汗をかきながらも二段の棚を取り付け、新しいロッドを取り付けた。

 

僕が日曜大工をしている間、アリーは料理を準備していた。

2時間程で棚とロッドの取り付けが終わり、ベッドの上に並べられた洋服をロッドに吊るし、靴を整理した。

掃除が終わり、アリーと二人で、料理に足りない素材を近くのスーパーまで買いに行った。
 
外に出た時には、気持ちのよい秋の風が吹いていた。
 
僕とアリーは、どちらからともなく手をつなぎ、秋の風を楽しみながら歩いた。

アリーは歩きながら僕の方を向いて、
『本当に何から何までどうもありがとう』と言って微笑んだ。
 
そして、
『何でそこまで優しくするの?』と聞いた。
 
僕は、
『君が好きだから』と言って笑った。

アリーも笑った。 

僕には理由なんかない。

アリーが好きだから、アリーに幸せでいて欲しいから、アリーの哀しみや辛さを少しでも分かってあげたいから、アリーといると心が安らぐから、ただそれだけだ。 

アリーが微笑めば僕も心が優しくなるし、アリーの涙を見れば僕も心が沈む。 

こうやって自然を感じながら、二人で手をつないで歩く事になりよりも幸せを感じる。
 
僕には小さな幸せが何よりも嬉しい。

スーパーで買い物を終え、買い物袋を下げて、また二人で手をつなぎながらアパートまで歩いて帰った。
 
秋の風は相変わらず優しく僕らに吹いていた。


2006年09月26日  朝日 

僕のアパートは川に面しているので、カーテンを開けたまま寝ていると、朝日が川面を反射する光で目を覚ます事が多い。 

今朝もあまり眠れずうとうとしている時に、目をさす川面の光で目を覚ました。

今日は数日ぶりに美しい日になった。

風はちょっと強かったけど、秋の澄んだ空がなんとも美しかった。

僕はベッドから抜け出し、ベランダで秋の涼しい風を感じ、川面の光に目を細め日の光に自然に手を合わせた。

生き馬の目を抜くような毎日の中で、ほんの一瞬だけ全てを忘れる事ができる時間だ。

ジムに行き1時間程汗を流した後、熱いシャワーを浴びて身繕いをし、車に飛び乗り仕事場を目指した。

今日は、昔レコード会社の社長をしていた古い知り合いのロンと昼飯を食べる事になっていた。

ロンはメジャーアーティストを何人も手がけて一時代を築いた人だった。

僕はアメリカに来てレコード業界のしきたりを全てロンから学んだと言っても良い、僕にとってはメンター(師匠)の一人だ。

既に生活に困らないだけのお金を稼いだはずだが、浪費と度重なる結婚、離婚でかなりのお金をなくしたようで、iPod等のインターネットの流れについて行けずに、メインストリームから消えてしまった人だ。

そんなロンから連絡があり、今日の久しぶりの再会になった。

ロンと再会し、色々昔話に花を咲かせたが、結局は生活に困っているので仕事が欲しいという話だった。

往年のロンの成功を見て、僕がニューヨークに流れ着いた時の彼の羽振りの良さを考えると、時が流れて当時小僧だったアジア人の僕の所に仕事を貰いに来るなんて、どんな気持ちだったのだろうと思うと、ちょっと寂しくなった。

 

僕はあくまでもロンに最大限の敬意を払い、昔の社長と小僧の時のように彼に接した。 

僕の仕事場の最上階は、役員用のダイニングになっており、お客さんが来た時の接待用の場所として使えるようになっている。
 
僕はロンをそのダイニングに招待し、ニューヨークを一望しながら、昔話に花を咲かせ彼と2時間程食事をした。

別れ際にロンにいくつかの仕事を紹介し、また再会を約束して僕はロンを見送った。

生き馬の目を抜かないと生き残れないのが、この街、ニューヨークだ。 

僕だっていつ敗者になるかわからない。
 
ただ今の僕にできる唯一の事は、お世話になった恩のある人に対しては、最大の礼儀をつくして恩返しをする事だけだ。 

僕はアリーの病気を通じて、人間の無力さ、儚さを身を以て学んだ。

今の世の中でのちょっとした成功なんて取るに足りないものだ。 

それよりも、天を敬い、人を愛する、西郷南州のように生きる事によって、神様になんとかアリーを救って欲しいと身勝手にも考えている。

今日も僕がロンに優しく接したのは、彼の事を思ったからではなく、アリーを救って欲しいが為に、他人に優しくしたような気がする。 

動機は不純で自分勝手だけれども、今の僕には人に優しくして、その分だけアリーが助かるんだと信じ込まないと、気が狂ってしまいそうだ。

 

一日の仕事が終わり、8時過ぎにアリーのバイト先に、アリーをピックアップしに行った。 

定刻通り、黄色のセーターに白いスカートを履いたアリーが、ブロンドの髪をなびかせながら建物から出て来た。 

まるで映画のスローモーションの一コマを見るように、僕はアリーがゆっくり僕の車に向かって来るのを見つめていた。

アリーは明日が期限のレポートがあるので、そのことで頭が一杯だ。

二人で急いで家に帰り、アリーは今、僕の隣でレポートと格闘している。

アリーが何か真剣に取り込めるものがあればそれで良い。

たまに色々と質問をされたり、意見を求められたりする。
 
政治学は僕の専門外だから質問されても困るのだけど、だてにアリーより10歳年上ではない所を見せないといけないので、一生懸命賢そうにコメントをしている自分が滑稽だ。

もう少ししたらアリーの誕生日がやって来る。
 
アリーの誕生日のプランをまた考えないと。
 
大変だけれども、そういう事に時間を使っている時が、僕は何よりも幸せだし楽しい。
 
アリーの不安や哀しさを少しでも少なくする為に、不器用な僕は毎日色々と考えている。

もしもアリーがいなくなってしまったら、いったい僕はどうなってしまうのだろう?
 
ふとそんな事を考えて怖くなる事がある。

また僕は昔のように目標を失って、手に触れるものを全て壊してしまうようになってしまうのだろうか?
 
今度こそ僕は自分の手で自分の事を殺してしまうだろう。

たまに僕の心の中に悪魔が頭をもたげ、そんな事を考えさせようとする。 

だけれども今の僕にはアリーがいつも近くにいる。

アリーを幸せにする為に余計な事を考えている暇はない。


2006年10月03日  メルトダウン   

今朝は早くから仕事があったので、僕は朝早く家を出た。

アリーは医者の診察があり、手術の段取りを決める事になっていた。 

ちょっと気になったので、アリーに電話をしたが、留守電につながったので、メッセージを残してそのまま仕事を続けた。
 
それから3~4時間しても連絡が来ないので、おかしいと思って、アリーのバイト先に電話をした。

アリーは受話器を取ったが、その声で、直ぐに僕は、何かおかしいことがわかったので、アリーに
『大丈夫か?』と聞くと、アリーは
『大丈夫じゃない』と答えた。
 
アリーはバイト先の人達に病気の事を知られて同情されたくないので、
『今は、話ができないから後で電話をする』と言って電話を切った。

僕は全く様子が分からないので、最悪の場合を考えてしまい、アリーと電話を切ってからは何も手につかなくなってしまった。
 
アリーはアリーでバイト先で一生懸命頑張っているのに、僕が何度も電話をする訳にもいかず、悶々とした気持ちでアリーの電話を待った。

暫くしてアリーから電話があった。

どうやらアリーの話では、今日逢うはずだったお医者さんに緊急の手術の為にドタキャンをされ、彼の診察が来週に変更されたそうだ。

今日まで頑張れば先が見えると何とか気持ちを張って頑張って来たアリーの緊張の糸が切れてしまい、メルトダウンを起こしてしまったようだった。

兎に角、最悪の状況ではなかったのでちょっとホッとしたが、アリーのナーバスブレイクダウンも、もっともの話だった。


8時にバイト先にアリーを迎えに行った。
 
車に乗って暫くはアリーも気丈に振る舞っていたが、ちょっとしたきっかけで涙が止まらなくなり、まるで子供が泣きじゃくるように泣き通した。

アリーのアパートにつき、僕はアリーを抱きかかえるようにしてアリーの部屋に入った。

アリーはその後も泣き続け、息ができなくなるまで泣きじゃくった。

 

僕には気休めの言葉などかけられるはずもなく、ただ黙ったまま、アリーを抱きしめている事しかできなかった。

アリーはしゃくり上げながら全てをぶちまけた。

アリーは、過去にアリーが巻き込まれた強姦事件の加害者が、16年の刑期を終えて出所し、その為に、忘れようとしていた過去にまた苛まされるようになったり、婚約者と別れたり、仕事を辞めたり、34歳になって大学院に戻る不安、全てを投げ出して、自分の幸せの為に人生を再出発した矢先での病気になったりと、この2~3年程は多くの事が、アリーを次々と襲った事もあり、アリーの人生の選択が間違っていたのではないかと、泣きながら僕に訴えかけた。

僕は前の職場にいた時に、アリーが自分の境遇を不幸に思って毎晩泣いていたのを知っていたので、今は辛い事が立て続けに起こっているけれど、34歳になってアリーは、初めて自分の意思で人生を切り開いて行く事にしたのだから、その判断そのものは、間違っていないと思うと伝えた。

アリーは完全に緊張に糸が切れてしまったようで、
『もうアタシには、これ以上頑張り続ける事ができない』と言って泣きじゃくった。

僕らは部屋の電気もつけずに、真っ暗な部屋のソファでただ二人で抱き合ったままアリーは狂ったように泣き続け、僕はなす術もなく、ただただアリーを抱きしめているだけだった。

 

こんなに大切な人が、こんなに苦しんでいるのに、僕には何もできない。

 

途方もない無力感が押し寄せて、決してアリーの前では涙はみせないと随分前に誓ったのだけれども、涙がこぼれて来てどうしようもなかった。

 

何時間このまま抱き合っていただろうか。

かなり時間が経ってアリーも落ち着いて来たので、アリーをベッドに移した。
 
ただベッドに移した後でも、アリーは僕の手を離そうとしないので、アリーが眠りにつくまで、僕はアリーの手を握り、もう片方の手でアリーの頭を撫で続けた。

何もできない自分が情けなかったし、ふがいない自分に無償に腹が立った。

何処にも持って行きようのない怒りを抱えながら、僕はなんとか気持ちを落ち着かせようとしたが、考えれば考える程、何の役にもたっていない自分が情けなく思えた。

アリーが泣きつかれて寝てしまったのを見計らい、僕はウイスキーのボトルを片手に、またビルの屋上に上った。 

誰もいない屋上で僕は涙を流した。
 
ボトルを開けてしまっても全く酔う事もできなかった。 

叫び声をあげる訳にもいかず、何かを殴りつける訳にもいかず、なんとか心の平静を保とうと歯がギリギリと音を立てるまで、歯を食いしばった。

月もない真っ暗な夜の闇の中で、僕は一人、木箱に腰を下ろしながら歯を食いしばり続けた。

 

 

 

昨日は結局一睡もできなかった。

アリーが寝ている間は、僕は一人で色々と考え事を続け、アリーが目を覚ますと、またアリーを抱き寄せて、落ち着かせ、結局、一睡もせずに悶々とし、朝日がカーテンの隙間から差し込んで来るまでずっと起きていた。

アリーも熟睡をしていた訳ではなく、寝たり目を覚ましたりを繰り返し、朝日がカーテンの隙間から差し込む頃には、アリーも目を開いていた。

僕はアリーにおはようのキスをして、簡単な朝ご飯をアリーの為に作った。
 
食事をトレーにのせてベッドまで持って行き、ベッドの中で、二人で簡単な朝食を取った。

今日は素晴らしい天気で、まるで夏が一時的にもどったような感じだった。

アリーは昨日の事がなかったかのように機嫌が良く、僕がベッドまで食事を持って行くと子供のように喜んだ。
 
『ウェイターさん、ミモザを頂戴』とアリーは冗談を言って笑った。

僕も笑った。 

でもアリーの目は、昨日大泣きしたせいで腫れ上がり、声もかすれていて、その陽気さがかえって痛々しく僕には哀しかった。 

アリーは朝の10時に別の医者の予約が入っていたので、僕は少し遅めに仕事場に行く事にして、アリーをセントラルパークウエストの医者の所まで送って行く事にした。

非常に天気が良かったので、アリーは茶色のホットパンツに、ベージュのタンクトップに白いラメのサマーセータを重ね着して、まるでどこかのリゾートにでも行くような格好をした。

アリーを車の助手席にのせ、夏のような日差しのニューヨークの街に僕は車を走らせた。 

79番ストリートを通って、セントラルパークを車で突っ切り、セントラルパークウエストに向かった。 

僕は左手でハンドルを握り、右手でアリーの手を握り、ギアシフトの時には、右手でアリーの手を握ったままシフトチェンジをした。
 
アリーは、この僕のギアチェンジの仕方が気に入っている。

アリーは手や指フェチで、男が車のギアシフトをするのを見ているのが好きだと、昔聞かされた事がある。

それを聞いた時に、僕は思わず笑ってしまい、それだったら、もっと君が好きになるやり方があると言って、アリーの手を使ってシフトチェンジをしてみせて、アリーにいたずらっぽく笑ってみせた。

まだ僕達が病気の事なんて何にも知らなかった時の事だ。

 

僕はアリーを医者のオフィスの近くで車から降ろした。

僕らは今朝からずっと昨日の夜の話はしなかったが、アリーは車を降り際に、僕の方に振り返り、
『昨日の夜は、ありがとう』と言って笑みを浮かべた。

僕は、そのまま車を仕事場に向け駐車場に車を滑らせた。

昼過ぎにアリーから電話があった。
 
丁度医者の診断が終わり、これから継母の所に行く前に、あんまり天気が良いので、コロンバスサークルにひなたぼっこに行くとアリーは言った。
 
丁度昼過ぎだったので、僕も昼休み代わりに外に出る事にし、アリーとコロンバスサークルで待ち合わせる事にした。

 

僕の仕事場からコロンバスサークルまでは7ブロックあるが、天気は最高で、僕はセントラルパークサウスを、夏のような日差しを満喫しながら歩いてコロンバスサークルに向かった。

サークルを取り巻くように設置された噴水の周りを歩いて、アリーを捜すと、アリーはベンチに横になって、iPodを聞きながら目をつぶり日光浴をしていた。

僕はこっそりアリーに近づいて、何も言わずにアリーにキスをした。

驚かそうと思ったのだがアリーは全く驚かず、僕にそのままキスを返しにっこりと微笑んだ。

アリーは、ここで日光浴をしていて暑くなったので、サマーセーターを脱いだら、隣にいた中年に、公共の場所なんだから裸になるなと注意されたと言って笑った。

確かにアリーのタンクトップはベージュなので、そう誤解されたのかな?と思ったが、その場面を想像しただけで、僕は可笑しくなってけらけらと笑ってしまった。

それにつられてアリーも笑った。

僕らは別に話す事もなく、たまに言葉を交わしながら、手をつないだまま公園のベンチに座って、暫く二人でひなたぼっこをした。

ずっとそこに座っていたかったがそうする訳にもいかず、30~40分ふたりでひなたぼっこをした後で、アリーと別れ、僕は仕事に戻った。

たった小一時間の事だったが、僕はとっても気持が落ち着き、優しい気分になれたような貴重な一時間だった。

明日の4時には、また別の医者の診察があり、そこで手術の具体的な日程が決まる事になる。

 



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