目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
感想&レビュー

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2007年 2月 雪のバレンタイン

2007年02月01日  愛しい人  

今日も底冷えのする寒い一日だった。

最近忙しくてジムに行く事も忘れていたので、今日は無理に時間を作ってトレーナーのネルに来てもらい、2時間程汗を流した。

ネルは、僕を見ると
『痩せたね』と言った。
 
痩せたのは嬉しいけれど、あんなに苦労しても痩せなかったのに、こんな事で急に痩せてしまうのだから、人間なんて皮肉なものだと思った。

僕はシャワーを浴びて着替えをして、アリーの病室に向かった。

昨日の今日だったので、アリーもまだ疲れており、会話が弾むという感じではなかったけれど、アリーは僕を見るなり、両手を広げて僕を迎え入れ、暖かいハグをくれた。

二人は口数も少なく、ただお互いの手を繋いだまま並んで座っていた。

僕は頭の中で会話のネタを探していた。
 
それを見つけては二人でちょっと話をし、話が尽きると二人で手を繋ぎ合ったまま、小さな病室の壁を見ていた。 

話す事がなくなっても、僕にとってアリーはかけがえのない、世の中で一番大事な愛おしい人だ。
 
あと二週間頑張れば、バレンタインがやって来る。

その時に、天使のデザインの指輪をアリーに渡す予定だ。

こんな事を考えてはいけないと思うのだが、もう残された時間が少ない気がして、どうにもならない焦りが僕の気持ちを狂わせる。

あともう少し時間があれば。
 
あともうちょっと時間があれば、僕はこの最愛の人と、もっと沢山の思い出をつくる事ができるのに。

焦ってもしょうがないのだけれども兎に角、悔しい。

時間がなさ過ぎる。

焦れば焦る程、うまく話をすることができず、結局、だまったままアリーの手を握り続ける事になる。

わかってはいる事だし、覚悟はできているけれど、いざとなると、どうにもならないのが人間の弱さのようだ。

今、僕にできる事はアリーの手を握ったまま、涙がこぼれないように天井を見つめる事だけだ。

2007年02月02日  あたらしい発見

ニューヨークは寒い日が続いている。

まだ雪が積もらないだけましだけれども、今週になって何回か雪が降った。
 
そんな季節になると、ニューヨークの道には凍結剤がまかれるので、そのおかげで車は真っ白になってしまう。

僕はマフラーに顔を埋めてアパートの駐車場に行き、真っ白になった僕のトラックに飛び乗ってエンジンをかけた。
 
エンジンが温まり暖房が効き始めるまで、僕は手を擦りながら白い息を吐いた。

朝の渋滞を縫いながら仕事場に向かった。
 
やりかけの仕事を一段落させ、僕はいつものように更正施設にボランティアに出かけた。
 
子供達といつものように話し合い、アリーだったらどうするかを考えながら、注意深く言葉を選んで会話をした。 

そのせいで2時間も話をしていると僕の脳みそは、カラカラになってしまう。

でも言葉は、本当に注意をして選ばないといけない。 

不注意に使った言葉で子供達の心を傷つけてしまうと、彼らは二度と心を開いてくれないからだ。

心を開いてもらうまで、どんなに時間がかかろうと、ただただ辛抱強く、言葉を選んで会話をしていかなければいけない。
 
心を開いてもらうのはこんなに大変な事なのに、心を閉ざせるのはとても簡単だ。

不用意な言葉一つで、簡単に今まで築き上げた関係を壊してしまう事ができる。

 

ボランティアを終えた後、車にのり、アリーが通っていた学校に、講義で使われた資料を受け取りに行った。
 
せっかくアリーが心機一転、決断をして学校に戻ったのに、病気のおかげで諦めないといけないのでは、あんまりなので、せめてアリーがベッドの中で勉強を続ける事ができるようにと言う想いで始めたものだ。

残念ながら単位は取れないけれども、少なくとも講義の内容を知る事はできる。

後は元気になってから、また学校に戻ればよいと思う。

学校を出て、また車に乗り、仕事場に戻って残りの仕事をこなした。
 
夜の8時半頃に、大体仕事も一段落したので、途中でメキシカンのテイクアウトを買って、アリーの病室に行った。

病室のドアを開けると、アリーは丁度、アリーのお婆さんの誕生日カードにコメントを書いている所だった。 

子供のような真剣な目つきで、カードにコメントを書いているアリーを見て、僕は、ただただ微笑んでしまった。

なんと純真で無垢な人なのだろう。

アリーは、ドアの横で微笑んでいる僕にようやく気がついたようで、
『来てたんだったら、声をかけてよ』とちょっとはにかんで笑った。
 
僕も笑いながら、いつものようにアリーの横に座って、アリーの顎を持ち上げて、いつものようにキスをした。

僕といつものようにキスをすると、アリーは、またお婆さんに渡すカードに向かい、色々と独り言を言いながら、適当なコメントを考えていた。
 
たまに独り言なのか、僕にコメントを求めているのか良くわからず、アリーに話を聞いていないと言われる事があるので、僕はアリーの独り言にも返辞をするようにしている。

そんな奇妙な会話が二人の間で暫く続き、アリーはやっと自分が満足できるコメントを考えつき、それをカードに丁寧に書いて、満足げに微笑んだ。

『お婆さんの誕生日は、いつも皆で中華料理に出かけたんだ。でもアタシは本当は中華料理が嫌いなの』とアリーは言って、鼻に皺を寄せて笑った。

そう言えばアリーとの付き合いも長いけれど、中華料理を食べたのは数える程しかなかった事を思い出した。

 

最後に二人で中華を食べたのは、2年くらい前に、僕の仕事のディナーに無理矢理付き合ってもらって、中華料理のレストランに行った時なので、本当にアリーは、中華料理が嫌いなのかもしれないと思った。

僕はアリーに
『君とはもう長いけど、まだまだ知らない事ってあるんだろうな。また新しい事を知って、なんか得した気分だな。長く一緒でも、毎日あたらしい発見があるよ』と言って笑った。
 
アリーも笑った。

その後、暫く、二人でテレビのニュースを一緒に見た。

テレビを一緒に見ていると、アリーが急に
『パリも良いけど、病院を出たらカリブの島に貴方と行ってのんびりしてみたいな』と言いだした。 

全く気まぐれだなと思ったけれど、それはそれでアリーの可愛いところなので、僕はテレビから目を離して、
『カリブの島でも良いよ。君の好きなところに行って、暫くのんびりしようか?』と答えた。

すると、アリーは嬉しそうに笑って、
『それじゃあ、早速、プランを練らなきゃ。いついけるか分からないけど、アタシは貴方との旅行のプランをしてると、何か、楽しくなっちゃうんだよね』と言った。

アリーと一緒だったら僕は何処でもいい。
 
アリーと微笑みながら時間を過ごせる場所だったら、何処に行っても、そこは、僕にとっては天国だ。

そう思いながら僕は自分の最愛の天使の方を見た。
 
アリーはすっかりカリブの島にでも行く気で、鼻歌を歌いながら雑誌をめくっていた。

僕は雑誌を見ていたアリーの顎を持ち上げ、アリーにキスをした。 

僕らは少しだけ現実世界から離れ、空想の中で、カリブの青い海と青い空を楽しんだ。


2007年02月04日  お帰りなさい。

かなり前から医者と話をしていて、アリーをちょっとの時間でも病院の外に連れ出してあげたいと言っていたのだが、ようやく医者からOKが出た。

アリーが不意に倒れて入院をしてから、早いもので、もう2ヶ月がたっていた。

色々医者と相談をして、結局、日曜日の午後に遠くに行かない事を条件に、アリーを外に連れ出す許可を貰った。

前日の土曜日にアリーを見舞い、何気なく
『明日、外出していいってさ』と言うと、アリーは最初キョトンとした顔をしていたが、僕の言った事を理解するなり、
『嘘でしょ? 嘘でしょ?』と何度も聞き、僕が
『本当だよ』と言うと、まるでプレゼントを貰った子供のように、大きな声で叫び声をあげ、僕を力いっぱい抱きしめてくれた。

よほど嬉しかったようだった。

『早く寝ないと、明日外出できないよ』と僕は遠足の前日に興奮して眠れない子供をあやす様に、アリーを諭して、眠りにつくまでアリーの隣に座っていた。

かなり長い時間がたって、ようやくアリーは寝息を立て始めたので、僕は病室を片付け電気を消しアパートに帰った。

家に帰ってアパートの掃除をし、ベッドシーツを新しいものに変え、食料品店に行って明日の晩飯の食材を買い込んだ。

アリーを遠くに連れて行くことは出来ないし、無理もさせられないので、僕はアリーをアパートに連れて行き、そこで僕の手料理をご馳走することにした。

二人でゆっくり、久しぶりに自分達のアパートで時間を過ごす事ができれば、アリーも嬉しいかなと思ったからだ。

結局、掃除をしたりで僕は一晩中おきていた。

遠足の前日に興奮して眠れない子供のようなのは、アリーではなく、僕のほうだったようだ。

日曜の朝になり、僕はいつもどおり午前中は、ジムで汗を流して、昼過ぎにアリーを病室に迎えに行った。

病室のドアをあけると、アリーはもう既に外出する準備を終えており、ベッドに座って僕が来るのを、満面の笑みで待っていた。
 
隣にいつもの看護婦が、困ったような顔をしてアリーの身繕いを手伝っていた。

『おはよう。今日も寒そうだけど、天気が良くて良かった。雪とか雨だったら嫌だなと思っていたからね』とアリーは陽気に言った。

 

僕は微笑んで、アリーと少し会話をし、病院で必要な手続きをした。 

夕方までに帰ってこないといけないのだが、どうせ帰りが夜になるのは、看護婦も感ずいているようで、
『ちゃんと電話をして下さいね』とぶっきらぼうに僕に念をおした。

この看護婦さんには本当に御世話になっている。
 
見た目はとっつきにくいけれども、僕らのことを本当に心配してくれているのは分かっているし、何度か物陰でアリーに隠れて泣いているのを見た事がある。

僕は看護婦に、
『迷惑はかけないようにするから』と言って、笑って彼女の肩を叩いた。 

用意ができたので、僕はアリーを抱き上げて車椅子にのせ、病院の前に止めてある車に向かった。
 
あまりにも前日のアリーのはしゃぎぶりが可愛かったので、意味はないけども、何となく病院に来る前の店先で、小さな白いテディベアを見つけて、それを買い車椅子にのったアリーにテディベアを渡した。

アリーはそれを素直に受け取り、自分の膝の上に置いた。
 
アリーとテディベアを乗せた車椅子は、僕に押されて病院の玄関を抜け、寒気の中を通って車の前についた。

アリーは
『思った以上に寒いんだね。ほら、息がこんなに白い』とまるではじめて北国に来た子供のように、はしゃいでいた。

僕はアリーを抱きかかえ、車に乗せ、車椅子をたたんでアパートに向かった。

本当はまっすぐにアパートに行くつもりだったのだが、アリーが海が見たいというので、ちょっと遠回りをしてマンハッタンの東側を走る高速に乗り、イースト川を横に見ながらバッテリーパークを目指した。

車の中でアリーは、あそこに二人で出かけて何をしたとか、あそこのレストランに二人で出かけたとか、途中で、二人で出かけた場所を見つけては指をさし、まるで僕たちの出会いから今日に至るまでの思い出を、一つ一つ噛み締めるように、もう一度振り返っているかのようだった。 

バッテリーパークは、マンハッタンの南端に位置する公園で、自由の女神が見守るニューヨークの港を一望できる場所だ。 

僕は公園の近くに車をとめ、車の中からアリーと一緒に海を眺めた。

アリーは、車椅子にのって外に出たがったが、風が冷たかったので、風邪をひかせないように、車の中から景色を眺める事にした。

 

近くのスターバックスでチャイティーを買い、アリーとそれを分け合いながら、港を見ながら色々な話をした。

『海はいいよね。前にアタシが眠れない時に、夜中に二人でコニーアイランドの海を見に行ったのを覚えている?
あの時に、貴方がアタシのおきているのに気がついて、夜中なのに、二人で海を見に行こうかって言ってくれたのが、凄く嬉しかった』とアリーは言った。

『こうやって考えると、アタシたちには、本当に数え切れないくらいの沢山の思い出があるんだね』とアリーは呟いた。

僕は
『そうだね。思い出が沢山あるね』と言ってアリーの肩を抱きよせた。

思い出は人によって多かったり少なかったりするのではなく、ちょっとした事でも、記憶の底に留める様な心の機微があるかどうかが、思い出の数の多さ少なさに繋がっているのだと思った。
 
僕とアリーの心の機微はアリー病気のこともあって、より小さな事にも反応するようになっているのだろう。 

夕方になり、更に気温も下がって来たので、僕らはバッテリーパークを離れ、アパートに向かった。

アパートに向かう車の中でアリーは、ずっと車の窓から外の景色を感慨深げに見つめ、一言、
『懐かしいね』と呟いた。

車をアパートに横付けし、僕はアリーを抱きかかえて、アパートの中に入った。
 
ドアを開けアリーをベッドに寝かせ、僕はアリーに
『おかえり』と言ってキスをした。

アリーは笑って
『ただいま』と言い、
『家の匂いがするね』と言って周りを懐かしそうに見回した。

『やっぱり家が良いね。たくさんの色があるし、貴方の匂いがするし、大好きなものが沢山あるし、やっぱり家が良いね』とアリーは呟いた。 

そして
『アタシを連れて帰ってくれてありがとう』と言った時に、アリーの頬に涙が流れた。

僕はもう一度アリーを抱きしめて、アリーの横に座り、アリーの手をとって、アリーと一緒に小さなアパートの隅から隅を眺めて、改めてアリーが帰って来た事を実感した。

僕は
『僕の所に帰って来てくれてありがとう』と言って、もう一度アリーにキスをした。

 

コーヒーテーブルにはアリーを迎える為に、大きな百合の花束を買って花瓶にいけておいた。 

アリーは、百合を良い香りだと言って、暫く目をつぶって匂いを楽しんでいた。

僕は暖炉に久しぶりに火を入れた。
 
暖炉に焼べられたもみの木が、パチパチと音をたてて、柔らかいオレンジ色の炎を放ち、僕とアリーは、暫く暖炉の暖かさと、炎の色と、パチパチと言う音を楽しんだ。

暖炉の炎でアリーの顔を赤く照らされた。
 
アリーは暖炉を見つめながら、
『暖かいね。そして良いにおい』と言った。

僕はアリーの瞳に映ったオレンジ色の炎を見つめていた。
 
アリーはそれに気づき僕に向かって微笑んでくれた。
 
僕もアリーに微笑んだ。 

 

車の中ではあれほど沢山話をしていたのに、家に帰ったら二人の会話が少なくなった。 

会話はなくても二人は暖かい気持ちに包まれた。

僕は何よりも幸せな気持ちになり、アリーがここに帰って来た事を神様に感謝した。

会話をする必要がなかった。
 
二人で寄り添って家の中の小さな事に、目をやり、耳を傾け、匂いを感じるだけで、二人の気持ちは通じ合った。

暫く僕らはその感覚を楽しんだ。
 
そして僕はアリーの為に夕飯の用意を始めた。
 
食事は簡単なもので、マリネートされた骨付きの肉をソースにつけてグリスしたものと、サラダにパスタを用意した。

アリーはベッドから僕が料理をするのを眺めていた。
 
たまに料理や食材について質問をした。

さっきとはかわって僕らは会話を楽しみながら、まるで二人で料理をするかのようにして時間を過ごした。

料理ができ、僕は料理をベッドに持って行った。
 
お酒は飲めないので、クランベリージュースで乾杯をした。 

アパートの灯りを消して、ロウソクをたくさん灯し、暖炉とロウソクの火の中で、ステレオからは季節外れのジャネットケイのレゲエをかけて、ゆっくりと食事を楽しんだ。

時間をかけて二人で食事を楽しみ、食事が済むと僕は、簡単に洗いものをすませ、アリーの隣に腰をおろして、また暖炉とロウソクの炎を眺めながら二人で話をした。 

なんとも静かで、優雅で、愛おしい、幸せな時間がながれた。

 

僕らはこのままずっと二人で一緒にいたかったけれど、既に病院に戻る時間を遥かに過ぎていたので、僕はアリーを諭して抱きかかえ、病院に戻る事にした。

アリーは、名残惜しそうに部屋を見回し、僕の腕の中で
『またつれて帰って来てね』と言った。

僕はアリーに笑って頷き、アパートを後にして、アリーを車に乗せて病院に戻った。

病院について、アリーを車いすに乗せようとすると、アリーが珍しく
『車椅子じゃなくてこのまま抱きかかえて、アタシを病室まで連れて行って』と甘えてみせた。

アリーが元気な頃は、御姫様だっこをするのが結構重労働だったが、病気でやせて、簡単に抱き上げられるようになっていたのが、ちょっと切なかった。

僕はアリーに言われた通り、アリーを抱きかかえたまま病室に戻った。 

例の看護婦が呆れた顔で僕らの事を出迎えた。
 
僕は看護婦にウインクをして、
『遅くなってごめんね』と謝った。
 
看護婦さんは、それには答えずに、
『早く着替えてくださいね』とだけ言って、アリーの着替えを手伝ってくれた。

僕らはアリーを病院のベッドに戻し、病室の光景は、今朝、僕がここを訪れた時と同じになった。

僕はいつものようにアリーを寝かしつけ、その後で病室を片付け病院を後にした。
 
今日の一日を思い起こして、独りでニヤニヤと笑いながら、病院の前に止めてある車に戻った。

寒さも感じない程、幸せな一日だった。


2007年02月09日  残された時間

入院後、アリーに初めて外出許可が出て、僕らは久しぶりに二人で家に戻ることが出来た。

アリーを病院に戻して、またいつもの日々に戻った。

あれ以来アリーは機嫌が良くなり、気持ちがポジティブになってきたような気がする。

アリーの気持ちがポジティブになると、僕の気持ちも自然にポジティブになる。
 
僕自身のためにやらなければいけないことに加えて、アリーのためにやらないといけない事も沢山あるので、忙しい毎日を送っているが、アリーに生きようという気持ちが強くなればなるほど、僕の気持ちにもハリが出てきて、何とか頑張ろうという気持ちになる。

自分の仕事をし、財団の仕事をし、更正施設のボランティアをし、大学に行き、アリーの身の回りの世話をする。
 
ほんの何ヶ月の事だけれども、もう何年もこういったサイクルで生活をしているような気がする。

一日の始まりや終わりに、アリーを病室に見舞い、僅かな時間、手を握りながらお互いの話をする。
 
限られた時間を惜しむように、僕らは毎日お互いの話をしている。

いつかこういった時間にも終わりが来る。

終わりが近い事もお互いに分かっている。
 
だけれども、最後の最後まで、惜しむようにその残された時間を大切に使いたいと思っている。

また来週あたりには、外出許可を貰いたいと思っている。

バレンタインあたりに、外出ができたら最高だけれども、別にバレンタインデイでなくても、アリーと一緒にいられれば構わない。

僕はたまに思い出したように引き出しから、アリーに渡す指輪を取り出し、その天使のデザインをした指輪を眺めては、一人アリーのことを考えている。
 
あと少しで、僕はアリーに気持ちをうちあける事になる。

バレンタインデイまであと5日。

 


2007年02月10日  ありがとう

相変わらず寒い日が続いている。

僕は昔は寒い日が嫌いだったのだが、最近は寒い日に暖かい格好をして、冬景色の公園や街並を歩くのが結構好きになった。

今日もコートを羽織りマフラーで顔を隠して、ポケットに手を突っ込み、ウエストビレッジの街並を一人散歩した。 

冬の凛とした太陽の光に包まれると、心も体も清められる気がする。

この街には、アリーとの思い出が沢山詰め込まれている。
 
どの街角にもアリーとの思い出があり、僕とアリーにとっては忘れる事のできない街だ。

今日も一人街を散歩しながら、ふと立ち止まり周りを見渡すと、僕は昔そこをアリーと一緒に歩いた思い出をいくつも思い出す事ができる。

それは夏の夜に二人で通りに出されたオープンカフェのテーブルで、手を繋ぎながらコスモポリタンを飲んだ思い出だったり、雨の日に、二人で身を寄せ合って一つの傘で雨をしのぎながら、歩いた思い出だったり、春に二人で散歩をして、通りのコンクリートの割れ目から元気よく生えて来た雑草を見つけた思い出だったり。

後でアリーをまた病院に見舞いに行こう。

最近はどんな小さな事にも、命を感じ、感謝の気持を感じる。
 
小さなものにも命があり、自分は周りによって生かされている。

全てのものに感謝をしながら、僕はまた冬の街を一人歩き始める。

”ありがとう”という気持ちが、僕の心の中に満ちて来る。

僕の周りには悲しい事や切ない事が沢山あるけれど、それでも僕はこうやって生きている。
 
しかし生かされているからこそ、今日のこの日をこうやって過ごす事ができる。

この世から去るその日まで、残り少ない日々を全てのものに感謝しながら、毎日噛み締めるように大切に生きて行く事にしよう。

アリーが、その翼を再び広げて天国に帰る時に、僕も連れて行ってもらえれば嬉しいなと考えながら、優しい気持ちで独り街を歩いて行く。

ありがとう。

2007年02月11日  テネシーワルツ

アリーが初めて外出許可を貰ったのは2月4日だった。

その後、経過も良くそれ以来アリーも明るくなり、僕らは僕らなりに精一杯生き、二人の僅かな時間を悔いなく過ごそうとした。

この一週間は本当に僕らに、久しぶりに訪れた楽しい愛に満ちた日々で、若い頃の恋のように情熱的なものではないけれど、僕らは僕らなりに静かだけれども何とも心温まる一週間を送る事ができた。

だがあれから一週間してアリーの容態が急変し、ついにアリーは、僕の呼びかけにも答えなくなってしまった。

今日も夕方近くにアリーの病院に行き、アリーの隣に座り手を握りアリーに話しかけても、アリーは、眠りについたままで、あの愛くるしい目を開けて、僕に微笑みをくれる事もなければ、僕の手を握り返してくれる事もない。

ただ僕の最愛の人は、ベッドで呼吸器の助けを借りながら目を閉じたままでいる。

明日の朝には、アリーの両親もフロリダからニューヨークに飛んで来る。 

僕はただアリーの隣に座り、目を閉じたままのアリーに静かに語り続けた。
 
今日の出来事を語り思い出話を語り、アリーの手を握ったままで丸一日、話を続けた。

話が尽きると僕は、アリーの隣で鼻歌を歌い始めた。

昔の唄、僕らが好きだった唄、子守唄、知ってる唄を全て唄った。

アリーの手を握ったまま、その握った手でリズムを取りながら、まるでアリーを寝かしつけるように、いつまでも唄を唄った。

最後に僕は”テネシーワルツ”を唄い始めた。
 
カントリーの名曲で、僕が若い頃にアメリカを彷徨った時に覚えた曲だ。

 

日本では江利チエミという歌手がこの唄を唄っていた。

そんなことを目をつむったままのアリーに語りかけながら”テネシーワルツ”を何度唄っただろうか。 

今日僕は、この病院にまた泊まる事になる。
 
もう夜中の1時近くなので周りに人はいない。
 
アリーの手を握り唄をうたおう。
 
アリーが僕の唄でもう一度目をさましてくれる事を、心から祈りながら。


<テネシーワルツ ー 訳詞>

私は、愛するあの人と、テネシーワルツを踊っていた。

私の幼友達が、たまたまそれを見かけたから、

私は、あの人に幼友達を紹介したの。

そして、彼女があの人と踊りを踊っている間に、

彼女は、私からあの人を奪って行ってしまった。

私は、あの夜とテネシーワルツを忘れない。

私は、失ったものの大きさを知ってしまった。 

そう、あの美しいテネシーワルツが流れていた夜、

私はあの人を失ってしまった。

<テネシーワルツ>


2007年02月12日  やせ我慢

本当は心は張り裂け、気持ちは千切れてしまいそうなんだけれど、こういう場面では、最後まで男らしくカッコをつけていたい。

別に誰かの視線を気にしているわけではないけれど、あえて言うならば、最後までアリーが自慢できる恋人になれるように努力をしたいので、精一杯、やせ我慢をして強い男のふりをしている。

取り乱すことなく、泣き叫ぶことなく、ただただ最後の最後まで、アリーの手をとって静かに話を続けたい。
 
昔の日本人のように、天命に凛として向き合っていきたい。

昔の人は、天命を認めながら冥加に尽きるまで、凛として努力を続けた。
 
僕も日本人の男の端くれであるならば、最後は日本人としてそのような男でありたい。

僕は今もアリーの手を取りながら、一人、静かにアリーと話をしている。

天気の話、施設の子供達の話、ボランティアの話、大学の話、財団の話、グラミー賞の話、カンヌ映画祭の話、アリーの好きなファッションの話、話題は尽きない。

たまに話が途切れると、僕は天井を向いて次の話題を探したり、少し立ち上がって窓の景色をみたりしている。 

いつもと変わらない風景だが、ただ病室は静かで、僕の声だけが響いている。

 


2007年02月13日  君が残した優しい思い出

アリーの両親がニューヨークにつき、アリーの看病を始めたので、結果的に、僕はアリーの病室を去らなければならなくなった。

理不尽だとは思うけれども、アリーの前で喧嘩をしてもしょうがないので、僕は不本意ながら病室から立ち去った。

手を離すと、アリーともう二度と会えないような気がしたけれど、僕はアリーの手をもう一度硬く握り、話しかけ手にキスをして立ち上がった。 

目を閉じたままで何も言わないアリーの顔を暫く見つめ、僕はドアを開けて病室から出た。

廊下であのぶっきらぼうな看護婦が、僕を見て泣いていた。

僕は彼女の肩を抱いて、
『あとは宜しく頼む』と伝え、アリーに何かあったら電話をするように頼んだ。

看護婦は、赤くなった目を伏し目がちにして、僕の顔を見ないで頷いた。

何日ぶりにか、僕は病院の外に出た。
 
もうかなり時間が経ったような気もするし、全ての出来事がほんの昨日だったような気もする。

肌を刺すような寒気の中、僕は歩き始めた。
 
今夜から雪になるという事で、刺すような寒気も若干湿っているように感じられた。

僕は別に行くあてもなく歩き始め、気がつくと、アリーが通っていた大学の前に立っていた。

ベンチに腰を下ろし、行き交う学生達をぼうっと眺めていた。

その中にアリーの幻を何度も見た。

この大学にも沢山の思い出がある。

アリーは夜学に通っていたので、いつも授業があるたびに、僕はアリーを車で迎えに出かけ、ここでアリーを待っていた。

春の夜、夏の夜、秋の夜、冬の夜と季節を越え、その季節ごとに、大学の中から出てくるアリーを思い浮かべる事ができた。

車に乗り込むや否や、その日の授業での出来事をまくし立てていたアリー。

試験の前に神経質になっていたアリー。
 
先生からの質問に見事に答えられたと得意げになるアリー。

そんな事を思い浮かべながら、僕は行き交う学生達を、一人ベンチに腰を下ろして眺めていた。

明日は、雪が降るらしい。
 
雪のバレンタインデイは久しぶりの事だ。

このまま雪が降り出すまで、ここに座っていようかなとふと思った。

2007年02月14日  雪のバレンタイン

昨日の夜からニューヨークでは雪が降り続き、今朝は一面雪景色になった。

アリーの両親は夜遅くまでアリーの病室にいたが、その後、仮眠を取りに家に帰ったので、僕は夜中過ぎに病院へ戻り、アリーの病室で朝まで時間を過ごした。

病室の明かりを消したまま、アリーの手を取って話を続けた。
 
病室が暗いので窓から雪が舞うのが良く見え、キラキラと光って見えた。

病室の中は静まりかえっており、僕の声の他には、スチームヒーターの蒸気の音と、雪が降る音だけが聞こえた。
 
雪のおかげで空が低く、明け方になると通りで人が話をする声や、遠くの電車の汽笛まで様々な音が聞こえてきた。

僕はそういった音を聞きながら、アリーの手を握り続け話を続けた。

夜があけ、朝になり、そろそろアリーの親が戻ってくる時間になったので、僕はもう一度アリーに話しかけ、キスをしてその場を立ち去った。

ひょっとしてバレンタインデーだから、アリーが目を醒ましてくれるのではないかと淡い期待もしたが、現実はそんなには甘くない。

『また来るね』とアリーにつげ、僕は病院を出て車に乗り込んだ。

灰色の空の下を、僕は仕事場まで車を走らせた。

空からは無数の雪が舞い落ちてきた。

信号待ちをしている間に空を仰ぐと、本当に天使がおりてくるような感じがした。

僕の大事な天使も、低い灰色の空から姿を現してくるような気がした。
 
後ろの車のクラクションで我に帰り僕はまた車を走らせた。

今日の夜遅くに、またアリーのところに帰るつもりだ。

バレンタインデーをアリーと一緒に過ごす為に。

 

他の大都市同様、ニューヨークも雪に弱い。

雪が降った途端に道路は混乱し、歩道もいたる所が雪のために歩く事が困難になる。

僕はそんな朝の混乱の中を車を走らせ、いつもの通り自分のビルの駐車場に車を滑り込ませた。

駐車場から下界に出ると、いたる所にバレンタインの風景を見る事ができた。

雑貨屋の店先には、バレンタイン用の花束が並べられ、チョコレートやキャンディの箱が売られていた。

街のいたるところにバレンタインの文字や、ピンクや赤のリボンが飾られていた。

雪の中でも道を行き交う人々の中には、花束を抱えて歩いている人をちらほら見かけた。

一人の若者が雑居ビルの入り口の前に立ち、大きなバラの花束を抱えながら、携帯電話で彼女に電話をしているのに出くわした。
 
きっと、バレンタインの花束を渡す為に、雪の中を彼女の仕事先まで来て、彼女を驚かそうとしているのだろう。

昔の自分を見ているような気がして、自然に僕は微笑んでいた。
 
僕と同じで、彼のそばを通り過ぎる通行人は、男女を問わず、皆、優しく微笑んでいるように見えた。

通行人の一人の老婆が、電話をかけ終わり、ビルの入り口で彼女が降りてくるのを待っていたその若者に、笑みを浮かべながら、
『ハッピーバレンタインデイ!』と言葉をかけた。

その若者も、照れ笑いをしながら通りすがりの老婆に
『ハッピーバレンタインデイ!』と返事をした。

僕も何となく心が温かくなり、微笑みながら彼の脇を通り過ぎた。

純粋な愛情には、それが誰であり、心が温められるようだ。

 

僕の仕事場は、ビルの高層階にあるので、仕事場の窓から見える下界の世界が、まるで天界から見下ろしているかのように見えた。 

ビル風に煽られて雪が、横なぶりに、たまには、下から上に吹き上がっているように見えた。

夜になるとそれがビルのライトに照らされて、夜光虫のように美しく光った。

僕は夜遅くまで仕事場で仕事を続けた。
 
夜の8時過ぎには、ビルの清掃員がやって来て、いつものように僕の部屋を掃除してくれた。
 
僕は彼らにバレンタインの菓子箱をあげて、
『ハッピーバレンタインデイ!』と言って微笑んだ。

その年老いた清掃員は、人懐っこい顔をくしゃくしゃにして、
『グラシアス』と言って笑うと、菓子箱を受け取り、スペイン語で鼻歌を歌いながら、別の部屋を掃除するために去っていった。

僕は彼の後姿を見送り、また仕事に戻った。
 
ラジオからはバレンタインに因んだ唄が流れ続けていた。 

たまに仕事の山から目を離し、僕の机の上で微笑み続けるアリーの写真を手にとって見た。

アリーは写真の中でいつもと変わらず、愛らしい微笑を僕に投げかけてくれていた。

暫く仕事を続けたが、かなり遅くなってきたので、日付が変わるまでに慌しく仕事場を後にし、僕はアリーの病室に戻った。

花屋さんに頼んで作ってもらった花束を持って、病室の扉を開けた。

昔読んだ子供の童話のように、僕の眠れる美女は、今朝見た時と同じように、静かにベッドの上で目を閉じていた。

聞こえる音は、病室の暖房のスチームの音と、アリーに取り付けられた生命維持装置の音が聞こえるだけだった。 

僕はまるでパントマイムでもしているかのように、アリーに微笑んで、花束を飾り、椅子に腰を下ろして、アリーの手を握り
『ハッピーバレンタインデイ!』と語りかけ、握っていた手にキスをした。

花束を花瓶に刺して、バレンタインカードを花瓶に貼った。
 
アリーに宛てて書いたカード。

もう何回も、アリーにカードを渡したけれど、今回ほど何を書こうか悩んだ事はなかった。

悩んだ挙句、僕は、カードにこう書いた。

 


”ハッピーバレンタインデイ!
いつも僕と一緒にいてくれてありがとう。
君が僕の人生に舞い降りてきてくれたその日から、僕の人生は、愛の力によって大きく変わり始めました。
そして、何年かの月日がたった今でも、愛の力は衰えるどころか、どんどん強さを増し、君のおかげで僕の人生は、より意味深い、幸せなものになりました。
そんな君の優しさと深い愛情に、感謝します。
ありがとう。
君が眠ったままになってしまった今でも、僕は、君の手を握っているだけで君の愛を感じ、それは僕に力をくれます。
いつか君とまた昔のように話が出来るようになった時には、君の愛の力のおかげで、僕がどれだけ成長したかを見せられるのを楽しみにしています。
永遠の愛を誓って。”


僕はアリーにそれを読んで聞かせて、もう一度、
『ありがとう』と言い、カードを入れた封筒の封を閉めた。

そして僕は病室の明かりを消して、パイプ椅子に深く腰掛け、アリーの手を握ったまま目を閉じて、アリーに語り始めた。

僕らのバレンタインデイは、そうやって終わって行った。


2007年02月16日  僕は信じている

バレンタインも終わり、また普通の日々が戻って来た。

雪は14日の夜には止んだが、それまで降り積もった雪が、道端に集められ、いたる所に灰色の雪山ができあがっていた。

僕は相変わらず夜中に病院に行き、アリーのベッドの隣で、アリーに語りかけながら夜を明かし、朝になると仕事に出かけるという生活を繰り返している。

昼間、仕事をしながら居眠りをしたりするのが日課になってしまった。
 
僕の仕事関係の人達は、アリーの病気の事を誰も知らないので、僕がまた遊びほうけて、昼間ついつい居眠りをしていると思っているらしい。

いつかアリーとまた話ができるようになった時に、二人の笑い話にしよう。

今日も仕事が暇になると机の上に足を投げ出し、目をつむって仮眠を取り、時間を見つけて更生施設のボランティアに出かける。

そして夜遅くまで働いて、またアリーの眠る病室に戻るという毎日だ。

全てはアリーの為と、僕の為。

アリーが目を醒ました時に、恥ずかしい所は見せられないので、少しでも成長した所を見せたいという一心だけだ。 

アリーとは一緒に成長して行くと約束したから。

病院で昏睡状態になってから、1週間以内に覚醒しないと、覚醒する可能性が非常に少なくなるという話を聞いた。 

 

アリーの親はどう思っている知らないが、僕はまだアリーが帰って来ると信じている。
 
そう信じているし、そう信じないと、僕の存在も否定されてしまうようで、どうして良いのかわからない。

今日もアリーの手を取って、僕はアリーに話しかける。

『僕は、君を信じているよ』とアリーに話しかけた。
 
気のせいか、アリーが僕の手を握り返したような気がした。
 
でもそれは気のせいのようだった。

僕はちょっと微笑んでアリーの顔を眺め、アリーの手を取ってキスをした。

何を話そうかと考えたけれども、思い出したように僕は”I Believe”(アイ・ビリーヴ)を唄った。

唄声は、低く病室に響いた。

 

アリーは目を閉じたままだけれども、僕はアリーに聞いて欲しくて、ただ一人唄を唄った。


<I Believe ー 訳詞>

闇の中を光を求めて闇雲に歩き回った。

闇雲に歩いて、なんとか救いの手を見つけ、

すがろうとした。

どうして?なんて聞いちゃいけないし、

無理に理解しようなって思わない方が良い。

心を開いて、気持ちを自由にして。

そうすれば、僕と君は、

そんなに離ればなれじゃないって気づくはずさ。

だって、僕は、愛が答えだって信じているから。

愛が、道を示してくれるって信じているから。

<I Believe>

 


2007年02月19日  愛の力

アメリカは日本に比べて連休が少ないが、今週はプレジデントデイの祝日(大統領の日、2月の第3月曜日)で月曜日が休みになり3連休となる。

土曜日は朝から晴れわたりとても美しい日になった。

僕は金曜日の夜中からアリーの病室にいて、いつものようにアリーに話かけ続け夜を明かし、いつのまにかうたた寝をしてしまったようで、冬独特の、柔らかい朝日を感じて目を醒ました。

うたた寝をしてもアリーと手を繋いだままだ。
 
目をこすりながらアリーの方を見て、
『おはよう』と声をかけた。 

朝日が昇りきるまでアリーの隣で時間を過ごし、アリーの両親が来る前に僕は病室を出た。
 
『夜になったら、また話をしに来るよ。』とアリーに伝え、僕は病院の外に出て土曜の朝の道を歩いた。

僕は週末早くのニューヨークを歩くのが好きだ。
 
車も人も少なく、いつもとちがってこの広い通りに僕一人。
 
とても贅沢な気持ちがする。

息をするたびに、冷たい空気が気管の奥に入って来るのを感じながら、僕は雪のセントラルパークを少し歩いた。

 

そういえば何年か前にアリーと一緒に雪の後に、セントラルパークを歩いた事がある。 

あの時も周りに人がおらず、まるでセントラルパークが、二人のもののように思えた。 

二人で雪に埋もれた林の中を手を繋いで歩き、雪の中に足跡をつけて歩いたのを思い出した。 

『とてもロマンチックだね』とアリーが言ったのを今でも覚えている。 

僕はアリーのその言葉を思い出すように、あのときと同じように、雪のセントラルパークを歩いた。

あのときと違って、足跡は一つだけだけど、僕の心の中にはあのときのアリーがいた。 

何故か幸福な気持になり、暫く独りで歩き続け、たまに立ち止まって空を見上げ、木々の間から見える抜けるような青い空を眺めた。

僕は毎晩アリーの病室に行き、アリーと手を繋ぎアリーに語りかける。 

それも重要な事だけれど、僕はこうやって物理的にアリーと離れていても、心を通い合わせて、アリーを感じる事ができるのかも知れないなとふと思った。

言葉で説明するのは難しいけれど、独りでいるような気がしなかった。

アリーの気持が、僕の心に通じているような感じがした。 

独りよがりかもしれないけれど、それでも構わない。
 
僕は、アリーの愛の力を信じているから。
 
全てを乗り越えて分かち合える心があると信じているから。 

だから、こうやってアリーと心を通い合わせられる気持ちでいられる事を、思わず感謝した。

僕は、独りじゃない。


2007年02月22日  ある別れ

バレンタインデイの前日に雪が降り始めて以来、ニューヨークは寒い日が続いている。

僕の仕事の後輩がニューヨークを捨て、新天地を求めてヨーロッパに移住する事になった。

僕は日本人会の付き合いをしていないので、こちらで日本人の友達が余りいないのだが、その後輩とは、ひょんな事から知り合いになり、何度か一緒に仕事で関わった事があった。

その後輩は鈴木健吾という名前で、僕より8歳年下の30代半ばの青年で、日本で公認会計士の資格を持ち、アメリカでも会計士(CPA)の資格を持っているなかなかの秀才だ。
 
だけれども、それを鼻にかけることもなく、日本企業のニューヨーク支店で働いていた。

僕がその日本企業と仕事で関わった時に、鈴木健吾とはじめてあった。

健吾にとっては、僕は、型破りの日本人だったようで、その後、親しくなり、一緒にのみに行ったり、お互いの相談にのったりするようになった。

健吾は、こちらに来てから離婚をしたり、アメリカにいながら日本企業独特の壁にぶつかったり、色々荒波に揉まれていたが、一度過去のしがらみを全て断ち切って、もう一度自分の力を試してみたいと思ったそうだ。

僕は健吾に今の仕事をやめて、僕と一緒に働いてみないか?と誘ったけれど、健吾は、微笑んでやんわりとそれを断った。

人の助けを借りずに自分の力だけでやり遂げたいと言うのが、健吾の理由だった。

健吾は、にっこりと笑って、
『ヨーロッパで一旗あげたらニューヨークに帰ってきます。その時には、一緒に仕事をさせてください』と言った。 

 

久しぶりに清々しい気分になった。

『じゃあ、その日が一日も早く来る事を待ってるから』と僕も答えて、健吾に微笑んだ。

健吾とミッドタウンのバーで少し酒を飲んだ後バーを出て、健吾に別れの握手をした。

健吾はまた笑って、僕に背を向け通りを歩き出した。

僕はそのまま健吾を見送った。

ちょっと寂しい気持ちもしたが、健吾が果敢に挑戦をしようとしているその後姿をみて、ちょっと頼もしい気がした。

挑戦することを諦めた時点で、人は老いるんだと思う。

年齢という事ではなく 精神という意味で・・・

人は幾つになっても挑戦をし続けることが出来る。
 
そんな当たり前な事を健吾の後姿を見ながら思い出した。


2007年02月23日  別れの季節

鈴木健吾の他に、僕は二人の長い友達をニューヨークから見送る事になった。

ひとりは僕の大先輩でニューヨークに通算20年いた強者だが、日本の大企業から役員待遇で迎えられ、そのオファを受けて日本に帰る事になった。

もうひとりは僕と同じ年の友達で、彼もニューヨークに通算15年いたが、やはり日本企業の社長として迎えられ、日本に帰る事になった。

別れは連鎖反応のように重なるようだ。 

一期一会という言葉の通り、僕は常に人と接する時に、その人と会うのがこれで最後だと思って、誠心誠意、人に尽くすよう心掛けているが、やはり何十年も苦労をともにしている人が、いなくなるのは、寂しいものだ。

ただ、僕にとって嬉しいのは、それぞれの友達が、みな新しい挑戦をしている事だ。

やはりニューヨークという生き馬の目をぬく街で生き残って来た日本人だけはあり、皆、転んでもただでは起きないしぶとさを持っているようだ。

僕は皆を見送って、まだここに独りで立っている。
 
僕には、ここしかないから。 

僕はそれでもニューヨークが大好きだから。

明日は、僕が顧問を務めるレバノン人の友達、ビリーの会社の取締役会がある。
 
この会社も紆余曲折があったが、会社は次の飛躍の為に色々と準備をしている。

別れは寂しいけれど、僕には干渉に浸る時間はないようだ。
 
やりたいこと、やらなければならない事はまだ山ほどある。

そして僕には何にも代え難い、最愛の眠り姫がいる。

アリーの為に。

2007年02月24日  I'm in.

今日はビリーの会社の取締役会があり、久しぶりに昔の仲間が、ニューヨークに集まった。

僕に死ぬまでついてくると約束した社長のビリー。

伝説的な数学者で、骨が溶けていく奇病にかかり、首から下を動かす事ができなくなってしまった最愛の奥さんを看病しながら、家族と自分の誇りの為に最後まで完全燃焼しようとしている、技術担当副社長のダグラス。

サンフランシスコで弁護士を雇う事ができない貧しい人達を弁護する公選弁護士(パブリック ディフェンダー)の経歴を持つ熱血弁護士だった、法務担当副社長のトーマス。

新聞社のオーナーで、僕らのようなベンチャーと転がり続ける事が大好きで、数々のシリコンバレーのベンチャーに投資をしたことがある投資家のロベルト。

僕の商売敵で、僕より倍以上の資金調達力を持つ、の業界での大先輩で、厳しいけれども僕の事を気にかけてくれ共同事業に乗ってくれたイタリア人の取締役、マードック。

僕の商売敵だけれども、年齢が近い事もあり、いつしか僕と無二の親友になったイギリス人の取締役、ケビン。

去年の11月に最愛の奥さんを癌で失い、一人娘と一昨年養子にした息子を、男手ひとつで育てようと悪戦苦闘している、僕の20年来の顧問弁護士のジョン。

そして、それに僕。

久しぶりの当時のメンバーが一同に顔を合わせた。

この半年程、僕が脳漿を絞り出す程苦心をして考えたこの会社の新しいプランを、他のメンバーに説明した。 

このプランにはアリーのアイディアが、かなり入っている。

僕のプレゼンテーションを聞いた、他のメンバーは、暫く黙り込んでいたが、一番最年長の新聞王のロベルトが、急に笑い出して、
『I am in.(一枚噛むぜ)』と言った。

皆もそれぞれ、
『I am in.』『I am in.』と意思表示をした。

これで新しい挑戦をする事が決まった。

簡単な道のりじゃないけれど、僕らはどこまでも転がり続ける。

最年長のロベルトが、
『俺は、お前らのように若くないのだから、俺が死ぬ前に結果を出してもらわないと困るぞ』と言って笑った。

僕は指を一本突き出して
『1年だ』と言った。

僕らの新しい旅が始まった。

 


2007年02月25日   Wild Horses  

昨日の夜中の2時過ぎに僕の携帯がなった。

電話をとると声の主は、あのぶっきらぼうな看護婦さんだった。
 
看護婦さんが言うには夜中過ぎにアリーの容態が急変し、意識を取り戻したので早く病院に来いというものだった。

僕は、たまたま前の晩が友達の会社の取締役会で、そのまま食事に出かけたので、取りあえず家に帰って着替えをしている所だった。

僕はとるものも取り敢えず、病院に車を飛ばした。

途中で赤信号を3つ程、すっ飛ばしたけれども、そんな事は僕にとってはどうでも良い事だった。

病院に着き、アリーの病室を開けると、あのぶっきらぼうな看護婦と医者に看護をされているアリーがベッドに横たわっていた。

 

僕はアリーの横にいつものように歩み寄り、アリーの手を取って、久しぶりにアリーの瞳を見つめ、精一杯の微笑みをアリーに投げた。

アリーも僕を見つめて、疲れた表情だったが、精一杯の微笑みを僕にくれた。

小さな声で何か言ったが、僕には聞き取れなかった。

アリーの髪の毛に手をやり、僕の耳をアリーの口元に近づけ、
『何を言ったの?』と聞いてみた。

アリーは弱々しい手で、僕の頭を抱えるようにして、
『ストーンズの”Wild Horses”(ワイルド・ホース)を唄っていたの』と、かすれる声で呟いた。

アリーは、僕がアリーに毎晩話しかけたり、唄を唄っていたのが聞こえていたようだ。

アリーは夢の中で”Wild Horses”を唄いながら、唄さながらに野生の馬と戯れていたらしい。

僕はまたアリーに微笑んで
『お帰り』と言った。
 
アリーは
『ただいま』と言って
『もう一度逢いたかった』と呟いて、消えてしまいそうに儚いキスをくれた。

僕らはそれから30分程話をした。
 
静かな夜に、静かな時間がたっていった。

僕の手を握りながら、ふと思い立ったように、アリーが僕の方を向き、

『今まで本当にどうもありがとう。貴方を大好きだし、私を愛してくれてありがとう。』と言って、それから
『死んだ後に、一緒に暮らそうね』と呟いた。

”死んだ後に、一緒に暮らそう”は、ストーンズの”Wild Horses”の有名な唄のくだりだ。
 
僕はアリーを見て
『Wild Horses?』と聞いた。
 
アリーは頷いて少し微笑んでみせた。

僕もアリーに微笑んでみせて、

『そうすることを約束するよ』と言って、それから

『そして野生の馬に、いつの日か俺たちも乗ろう。』と言った。

アリーはそれに満足そうに頷いて、また目を閉じた。

それが、僕がアリーと交わした最後の言葉になった。

アリーはそれからまた目を開く事は二度となく、医者と看護婦の懸命の処置も虚しく、朝日が上がるまでに天国に帰って行った。

最後に一筋の涙を流したが、なぜか顔は、微笑んでいるように見えた。

 

アリーの両親が病室に入って来た時には、アリーは、もう旅立った後だった。
 
僕は言葉もなく彼らをただ見つめていた。
 
両親も全てを察し、継母はその場に崩れ落ちた。
 
アリーの父親は僕に、
『暫く私たちだけにしてくれ』と言った。

僕は頷き、アリーの隣の椅子から立ち上がり、病室を出てフラフラと玄関に向かいそこに腰を下ろした。

いつの間にか朝になり、街は静かな日曜の朝を迎えていた。 

今日の夜には、また雪が降るらしい。

僕は病院の玄関の石段に腰を下ろし、ただ静かな街を眺めていた。

ストーンズの”Wild Horses”を呟きながら。


<Wild Horses ー 訳詞>


『俺には自由はあるけれど、

 もう時間がない。
 
 信頼は裏切られてしまい、

 もう涙しか残っていない。

 死んだ後にお前と一緒に暮らそうか。
 
 野生の馬は俺を連れ去る事はできなかった。

 でも、その野生の馬に、

 いつの日か、ふたりで乗ろう。

 野生の馬は俺を連れ去る事はできなかった。

 でも、その野生の馬に、

 いつの日か、ふたりで乗ろう。』


<Wild Horses>


知らない間に、あのぶっきらぼうな看護婦が僕の隣に座っていた。 

目に一杯の涙を溜めて。

そして
『私は、貴方達カップルを見ていて、本当に素敵なカップルだと思った。

羨ましい程に、眩しいカップルだった。』と言ってくれた。

二人で暫くそこに座って、曇った朝の空を眺めていた。



僕のポケットの中には、アリーに渡す事ができなかった天使の指輪が入っている。

僕はそれをみながら、溢れる涙をそのままにニューヨークの空を眺めた。

 




第一章  

愛するということ

 完



第二章 

 

生きるということ 

 

に つづく