| 作者 | 浅茅原 竹毘古 | 状態 | 完成 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| カテゴリー | 小説・ノンフィクション (ミステリー) | 価格 | 430円(税込) | ページ数 | 31ページ (Web閲覧) 196ページ (PDF) |
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京都で大学図書館司書をしている小泉佐保(こいずみさほ)(25歳)に恩師の谷崎教授から別荘開設祝いの招待がきた。そこは奈良県北部の山間で、出入(ではい)りが長いトンネルだけの孤絶した鬼添里(きさな)村だった。
佐保はそのトンネルで異様な「物」に襲われ「くるな」のメッセージを受け傷を負った。その直後に近くの神降寺(じんこうじ)でハイカーが惨殺され、別荘に着くと村の遊刺木(ゆさき)青年が「一ヶ月前にも村の老女が井戸に逆さ吊りになっていた」と話し、別荘開きの祝宴は騒然となった。
日頃は事件一つ無い村なのに、二十年に一度の宵宮が近づくと、凄絶な連続殺人事件が起こる謎の鬼添里で、探偵司書・小泉佐保の冒険が、始まった。
佐保はそのトンネルで異様な「物」に襲われ「くるな」のメッセージを受け傷を負った。その直後に近くの神降寺(じんこうじ)でハイカーが惨殺され、別荘に着くと村の遊刺木(ゆさき)青年が「一ヶ月前にも村の老女が井戸に逆さ吊りになっていた」と話し、別荘開きの祝宴は騒然となった。
日頃は事件一つ無い村なのに、二十年に一度の宵宮が近づくと、凄絶な連続殺人事件が起こる謎の鬼添里で、探偵司書・小泉佐保の冒険が、始まった。
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プロローグ
深夜に目覚めた。窓の外で引きずるような音がした。
耳を澄ますと、しんとした。
うとうとすると、また聞こえた。
「なんや?」と思った。
しんとしていた。
足音が徐々に遠ざかっていった。
「御山(おやま)に向かっているんや、……」
部屋は北側にあり、窓の外は大きな庭だった。
寝間着のまま起き出した。そっと勝手口にいき、買ったばかりの下駄を履いた。はなおがきつかったが、しっかり両の親指を押し込んだ。
庭は凍てついていた。
小便がしたくなった。
寝間着にかからないように、たくし上げて、椋(むく)の木の根にふりかけた。身体を大きく震わせたとき、空を見上げた。
人の顔ほどの月があった。満月だった。
雲が見えた。山が暗く、血の色をしていた。
御山に登る裏庭の石段が白く浮かんでいた。
石段に染みがあった。かがんでみると、濡れた大きな足跡が見えた。指でなぞって、匂いを嗅いだ。血。
「やっぱり、御山に登ったんや」
まだ寝ぼけていたが、ためらいもなく後をつけた。
すぐに、頂上近くに着いた。
「いた!」
黒い大きな「モノ」が地面に四つんばいになって、ゼエゼエと息をはき、肩の肉を振るわせていた。犬に見えた。
「犬やない。おっきすぎる」怖くなった。「咬まれる」岩陰に隠れた。
モノが立ち上がった。大きい。
月の影になって真っ黒な塊に見えた。
モノは満月に向かった。毛だらけの両手を高く空に挙げた。
「オオカミやぁ」挿絵で見たオオカミ男そっくりだった。
目を擦ってもう一度見た。
「……」人にも見えた。
見覚えがあった。家族でないことに、ほっとした。しかし、どこかで見たことがあった。
月に向かって低く長く吠えた。身体全体に響きが伝わるほど、低い遠吠えだった。
「やっぱり、オオカミ人間や。人が死ぬ。わし、食べられるのいやや」怯えた。
少年は利発だった。
幼稚園に通う頃から村の老人の話し相手にされてきた。
(坊(ぼん)や、祭りが近づくと、新仏(しんぼとけ)がでるで。村の衆はこりごりじゃ。大抵は、だれか町のもんが、なんも知らんと身代わりになってくれよる)
(おじい、祭りはいつなんや。わし、見たことない)
(坊が、そうやなあ、学校にあがったころ、でっかい祭りが来るで。村中明かりがついて、度肝抜くぞ、坊)
少年は指折り数えてきた。見たこともない明かりが村にともり、大松明がたかれ、食べたこともない御馳走(ごっつっお)が家々で出される。おっちゃんらは酒に浮かれ、おばちゃんらも、病気の母も、きれいに着飾って鎮守の社にお参りする。
毎日想像してきた。そんな、でっかい祭りが来る日を待っていた。
今年がそうだった。待ち遠しかった。しかし、その時、新仏が必ず出るという怖い話も覚えていた。
「あれや、あの変な怪物が、人を食い殺すんや」
少年は寒気がし、汗が出、また小便をちびりそうになった。
ぶるっと身震いをした拍子に熊笹の葉を、はじいてしまった。
「しもた」
モノが振り返った。
本当のオオカミだった。目が金色に光っていた。顔中毛につつまれ、大きな口が血だらけに見えた。髪が銀色になった。月光でまぶしかった。少年は、怯えて悲鳴を上げた。
モノが少年に気づき、うなった。
ひと跳びした。
岩の真向こうに立っていた。
少年は岩に手をかけたまま左向きに回ろうとした。オオカミがつられて左に回った。
慌てて右を向き、家に続く道を駆け下りた。
「グォロー」大音響がした。振り返った。
モノが四つんばいになって、岩を飛び越え追ってきた。
少年は道の傍の磐座(いわくら)に跳びつき、その後ろに回った。
突然、足がすぽんと伸びて、真っ暗になった。
目が覚めた。どこにいるのかわからなかった。暗かった。
「御山に登ったんや」少年は節々の痛みで、頭がはっきりしてきた。
深い穴だとわかった。鉄格子に引っかかっていた。
目を開けて上を見ると、明るい空が見えた。
「おーい、坊(ぼん)、どこにおるんやぁ」
大人達の声が重なって聞こえた。母の声も、父の声も混じっていた。「ここやぁ」半泣きになって叫んだ。
痛みで気が遠のいた。
次に目覚めたとき、毛布に包まれていた。
「オオカミやぁ」少年は、毛布をはがし絶叫し、立ち上がろうとした。
父の顔を見付けた。
「助かった」と、思ったとき、また気を失った。
耳を澄ますと、しんとした。
うとうとすると、また聞こえた。
「なんや?」と思った。
しんとしていた。
足音が徐々に遠ざかっていった。
「御山(おやま)に向かっているんや、……」
部屋は北側にあり、窓の外は大きな庭だった。
寝間着のまま起き出した。そっと勝手口にいき、買ったばかりの下駄を履いた。はなおがきつかったが、しっかり両の親指を押し込んだ。
庭は凍てついていた。
小便がしたくなった。
寝間着にかからないように、たくし上げて、椋(むく)の木の根にふりかけた。身体を大きく震わせたとき、空を見上げた。
人の顔ほどの月があった。満月だった。
雲が見えた。山が暗く、血の色をしていた。
御山に登る裏庭の石段が白く浮かんでいた。
石段に染みがあった。かがんでみると、濡れた大きな足跡が見えた。指でなぞって、匂いを嗅いだ。血。
「やっぱり、御山に登ったんや」
まだ寝ぼけていたが、ためらいもなく後をつけた。
すぐに、頂上近くに着いた。
「いた!」
黒い大きな「モノ」が地面に四つんばいになって、ゼエゼエと息をはき、肩の肉を振るわせていた。犬に見えた。
「犬やない。おっきすぎる」怖くなった。「咬まれる」岩陰に隠れた。
モノが立ち上がった。大きい。
月の影になって真っ黒な塊に見えた。
モノは満月に向かった。毛だらけの両手を高く空に挙げた。
「オオカミやぁ」挿絵で見たオオカミ男そっくりだった。
目を擦ってもう一度見た。
「……」人にも見えた。
見覚えがあった。家族でないことに、ほっとした。しかし、どこかで見たことがあった。
月に向かって低く長く吠えた。身体全体に響きが伝わるほど、低い遠吠えだった。
「やっぱり、オオカミ人間や。人が死ぬ。わし、食べられるのいやや」怯えた。
少年は利発だった。
幼稚園に通う頃から村の老人の話し相手にされてきた。
(坊(ぼん)や、祭りが近づくと、新仏(しんぼとけ)がでるで。村の衆はこりごりじゃ。大抵は、だれか町のもんが、なんも知らんと身代わりになってくれよる)
(おじい、祭りはいつなんや。わし、見たことない)
(坊が、そうやなあ、学校にあがったころ、でっかい祭りが来るで。村中明かりがついて、度肝抜くぞ、坊)
少年は指折り数えてきた。見たこともない明かりが村にともり、大松明がたかれ、食べたこともない御馳走(ごっつっお)が家々で出される。おっちゃんらは酒に浮かれ、おばちゃんらも、病気の母も、きれいに着飾って鎮守の社にお参りする。
毎日想像してきた。そんな、でっかい祭りが来る日を待っていた。
今年がそうだった。待ち遠しかった。しかし、その時、新仏が必ず出るという怖い話も覚えていた。
「あれや、あの変な怪物が、人を食い殺すんや」
少年は寒気がし、汗が出、また小便をちびりそうになった。
ぶるっと身震いをした拍子に熊笹の葉を、はじいてしまった。
「しもた」
モノが振り返った。
本当のオオカミだった。目が金色に光っていた。顔中毛につつまれ、大きな口が血だらけに見えた。髪が銀色になった。月光でまぶしかった。少年は、怯えて悲鳴を上げた。
モノが少年に気づき、うなった。
ひと跳びした。
岩の真向こうに立っていた。
少年は岩に手をかけたまま左向きに回ろうとした。オオカミがつられて左に回った。
慌てて右を向き、家に続く道を駆け下りた。
「グォロー」大音響がした。振り返った。
モノが四つんばいになって、岩を飛び越え追ってきた。
少年は道の傍の磐座(いわくら)に跳びつき、その後ろに回った。
突然、足がすぽんと伸びて、真っ暗になった。
目が覚めた。どこにいるのかわからなかった。暗かった。
「御山に登ったんや」少年は節々の痛みで、頭がはっきりしてきた。
深い穴だとわかった。鉄格子に引っかかっていた。
目を開けて上を見ると、明るい空が見えた。
「おーい、坊(ぼん)、どこにおるんやぁ」
大人達の声が重なって聞こえた。母の声も、父の声も混じっていた。「ここやぁ」半泣きになって叫んだ。
痛みで気が遠のいた。
次に目覚めたとき、毛布に包まれていた。
「オオカミやぁ」少年は、毛布をはがし絶叫し、立ち上がろうとした。
父の顔を見付けた。
「助かった」と、思ったとき、また気を失った。




