| 作者 | 浅茅原 竹毘古 | 状態 | 完成 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| カテゴリー | 小説・ノンフィクション (ミステリー) | 価格 | 400円(税込) | ページ数 | 33ページ (Web閲覧) 184ページ (PDF) |
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京都百万遍大学中央図書館に勤務する小泉佐保は精神感応に優れた司書だった。夏の初め、恩師の葛野女子大学教授谷崎に誘われて、友人達と祇園祭宵山へ出かけ、三十代の美しい女性、川上佳子助教授の紹介を受けた。その夜、八坂神社の石見(いわみ)神楽観覧の最中に、演者の鬼が矢を射、見知らぬ中年の婦人が手傷を負い死亡した。矢は川上にも射られたが、彼女は無事だった。
七月末に、谷崎研をおとずれた佐保は意外なプロジェクト参加を請われた。川上が奈良県三輪山・穴師にある宗教団体の要請をうけて「地下博物館構想」を企画し、谷崎もそれに協力する話だった。佐保は後輩でミステリー好きの小沢トモコ、同級のシステムエンジニア大林宏美を誘い、夏の終わりの合宿に参加することになった。
事情で谷崎と佐保、トモコの三人が先に三輪山の北、穴師にある笠御諸道(かさみむろみち)教団に着いた。車中で佐保は、トモコが何気なく語った言葉から、大学三年生のころの悲惨な記憶を思い出した。それは、友人清香(さやか)が同地の巨大な磐座(いわくら)で圧死した事件だった。佐保は記憶に蓋をしていた自分の過去に気が付き愕然とした。
七月末に、谷崎研をおとずれた佐保は意外なプロジェクト参加を請われた。川上が奈良県三輪山・穴師にある宗教団体の要請をうけて「地下博物館構想」を企画し、谷崎もそれに協力する話だった。佐保は後輩でミステリー好きの小沢トモコ、同級のシステムエンジニア大林宏美を誘い、夏の終わりの合宿に参加することになった。
事情で谷崎と佐保、トモコの三人が先に三輪山の北、穴師にある笠御諸道(かさみむろみち)教団に着いた。車中で佐保は、トモコが何気なく語った言葉から、大学三年生のころの悲惨な記憶を思い出した。それは、友人清香(さやか)が同地の巨大な磐座(いわくら)で圧死した事件だった。佐保は記憶に蓋をしていた自分の過去に気が付き愕然とした。
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プロローグ
「ゆうねぇ、どこなの、どこに隠れたの?」
「ここよ、さやか、ここにいるの。はやく来て」
「真っ暗で、なんにも見えない。ライトを付けてくれないかしら」
声が反響するだけで、視界に写るものはなかった。
「そのまま真っ直ぐ、そっと歩けば出口に出られるから。すぐ、そこなのに」
「見えない。ゆうねぇ、なんにも見えない」
「さやか。しっかりして、ほら、私だって、ここまで来られたんだから」
「そうね。ゆうねぇには、見えないのね」
「ほら、外で音がした。彼がまっているわよ。私がちゃんと話をしておいたから、もう外にいるはずよ」
「ゆうねぇ、姉さんには黙っていてね」
「大丈夫。さやかのことをつげ口するなんて、絶対にしないから。さやかは……、いいよね。私も彼氏がほしいな」
「そんなこと。ゆうねぇだったら、どんなに素晴らしい人だって」
「……、彼は違ったわ」
女は聞こえないほどのつぶやきをもらした。
「えっ?」
「さあ、手を出して。ほら。ちょっと階段だから、引いてあげる」
「ああ。冷たい風。助かった。じゃ、先にでるね」
「ほらね、彼がそこにいる」
「どこ? 星しかみえないわ」
「もうすぐ、ほら、逢えるよ」
女はかたわらの石棒を押し下げた。
地響きがした。ざわざわと木々がなった。巨大な物が動いた振動だった。悲鳴さえ聞こえなかった。
しばらくして、樹木の折れる余韻も消えた。
「おわった」
女は、出口の細工された岩の戸を閉め、手をはらい、元の浄闇に身体を滑り込ませた。
「ここよ、さやか、ここにいるの。はやく来て」
「真っ暗で、なんにも見えない。ライトを付けてくれないかしら」
声が反響するだけで、視界に写るものはなかった。
「そのまま真っ直ぐ、そっと歩けば出口に出られるから。すぐ、そこなのに」
「見えない。ゆうねぇ、なんにも見えない」
「さやか。しっかりして、ほら、私だって、ここまで来られたんだから」
「そうね。ゆうねぇには、見えないのね」
「ほら、外で音がした。彼がまっているわよ。私がちゃんと話をしておいたから、もう外にいるはずよ」
「ゆうねぇ、姉さんには黙っていてね」
「大丈夫。さやかのことをつげ口するなんて、絶対にしないから。さやかは……、いいよね。私も彼氏がほしいな」
「そんなこと。ゆうねぇだったら、どんなに素晴らしい人だって」
「……、彼は違ったわ」
女は聞こえないほどのつぶやきをもらした。
「えっ?」
「さあ、手を出して。ほら。ちょっと階段だから、引いてあげる」
「ああ。冷たい風。助かった。じゃ、先にでるね」
「ほらね、彼がそこにいる」
「どこ? 星しかみえないわ」
「もうすぐ、ほら、逢えるよ」
女はかたわらの石棒を押し下げた。
地響きがした。ざわざわと木々がなった。巨大な物が動いた振動だった。悲鳴さえ聞こえなかった。
しばらくして、樹木の折れる余韻も消えた。
「おわった」
女は、出口の細工された岩の戸を閉め、手をはらい、元の浄闇に身体を滑り込ませた。




