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挑戦

2013年9月21日 東京


「沖田さん。こちらへどうぞ。」
「はい。」
 心臓がトクンと強く打つのがわかる。
 今日は第1志望の会社の1次面接だ。
 再開後何度か面接を受けて合格ももらっていたが、いざ第1志望となると、自分が本当にうまく話せるかどうか不安になる。
 案内の女性について行き、面接室の前に立つ。
 深呼吸をひとつ。
 とにかく全力でやるだけだ。
 ドアをノックする。
「失礼いたします!」
 ドアノブを手にとって部屋に入った。

 この1か月半、秋採用に向けて準備を進めてきた。
 結果的に僕は個人経営も含めて学習塾3社、生命保険会社3社、イベント企画会社2社にエントリーシートを提出した。
 例年10月になると、内定式直前に辞退した学生分だけ新入社員を確保しようと各企業の再募集が増える傾向にあるが、それを待っている必要はなかった。
 調べ始めたらすぐに僕の希望に沿っていると思われる会社がいくつか見つかったからだ。
 それらの会社のエントリーや面接でうまくいかなかった場合は10月以降に増加する募集を当てにしようかとも考えていたが、無事エントリーシートは全て通過した。
 そして、春と同様、面接やグループワークが始まった。
 就職活動を再開して、合否の連絡が来るようになると、いよいよ就職活動を再開したという実感が湧いてきた。
 面接やグループワークの結果はほとんど合格だったが、学習塾1社からお祈りメールを受信した。合否の通知をもらうとやはり志望度は揺らいだ。
 それだけ真剣にそれぞれの企業のことを考えているんだと荻原さんから言われたことは救いだった。
 荻原さんとはあの時以来会っていないが、メールで何度かやりとりしてアドバイスをもらっていた。
 始めは学習塾や生命保険会社のように直接人と接してものごとを伝えて喜んでもらう仕事に惹かれていたが、徐々にイベント企画の仕事への興味が強くなってきた。
 今日受けに来た第1志望もそのうちの1社だ。
 大きなホールを借り切っての女性向け起業イベントや社会人向け朝活イベントなどを企画、開催している。
 きっかけはポニーとのやり取りだった。
 不思議なものだが、いつの間にかポニーは僕の就職活動のパートナーになっていた。
 荻原さんからは意見交換して協力できる友達が必要だともアドバイスをもらった。
 人に話すことで自分の考えが整理されるし、人にもよるが就職活動による過度のストレスを発散することにも繋がるからだそうだ。
 しかし、もともと人に頼らずに就職活動をしていたし、この時期になっても就職活動をしている同期もあまり知らなかったので、自ずとそういった流れになった。
 ポニーからは他に同じようにまだ就職活動をしている同期もいるのではと聞かれたが、仮にいたとしても、逆に話しにくいと思い、知らないと答えた。

「沖田さんが学生時代に一番大変だったこととか、苦労したことって何ですか?」
 志望会社の話をしているときに突如この質問が投げかけられた。
 驚いたのもあるが、なかなかすぐに答えは出てこなかった。
「うーん。なんだろうなぁ。」
「私は荻原さんにこれを聞かれて自分のやりたかったことが見えてきたんです。」
 荻原さんが経験から自分のやりたいことを見出すという話をしていたことを思い出した。
 ちなみに、ポニーは中堅のアパレル会社に内定し、受諾した。
 最初は人に良いものを届けたいということと親の影響で食品メーカーを受けていたそうだが、最終的にモノではなく人の良いところを見つけて伝えることでお客様に喜んでもらえる仕事がしたいと思ったそうだ。
 化粧品会社等も受けたそうだが、内定はもらえなかったと聞いている。
「部活とかバイトとかは何をやってたんですか?」
「部活じゃないけどテニスサークルと、バイトは事務系だね。どっちの大変だったかって 言われると難しいけど、頑張ったのはサークルかなぁ。」
「沖田さんってテニスサークルだったんですか!?なんかイメージと違いますね。」
「そう?まぁ、うちはかなりまじめにテニスするサークルだからね。」
 テニスサークルというと、軽いのりでちゃらちゃらしているイメージなのだろう。
 面接でもそういうイメージで捉えられたと感じることも多かった。
 そういうところもイメージを悪くしないように気をつけた方が良いのだろうか・・・。
「あ、すみません。それで、そのサークルの中で一番沖田さんが苦労したことってどんなことでした?」
「あ、ああ、そうだね。」
 考え事をしていたため、反応が遅れたこともある。
 しかし、僕はこの質問にすぐに答えることができなかった。
 僕がサークルで一番苦労したことってなんだったんだろうか。
 一番力を入れたのは練習統括として練習メニューを考えたりしたことだが、それは日常的にやっていたことだから、特に苦労したことかと聞かれればそうでもない。
 では、その他に何かやってきていただろうか。
 ぱっと思いつかなかった。
 後から考えれば、自分の嫌な思い出として記憶の奥底に押し込んでいたのかもしれない。
「沖田さん?」
「あ、うん。何かぱっと思いつかなくてね。」
「そうですかぁ・・・。何かイベントの幹事とかやったりしたとか、そういうのでも良いと思うんですけど・・・。」
「うーん。イベントかぁ。・・・ん!」
 そういえば・・・。
 自分が中心に実施したイベントがあった。
 他の大学のテニスサークルと一緒に開催した合同練習。
 次の年も開催されるほどサークルのメンバーからも好評だった。
 そう。
 ただ、このイベントが元恋人の篠田真紀と出会ったイベントであった。
 そして、真紀と別れてから僕の就職活動は負のスパイラルに入った。
 この2つの事実が合同練習の記憶を奥底にしまいこむ原因だったのだろう。
 いつの間にか忘れていた過去の出来事を思い返してみる。
 まぎれもなく僕にとって一番苦労して成功させたものだ。
 サークル代表の平山は合同練習開催だけ決定して何もしなかったので、相手方との調整から練習場所の確保、大学への手続きに至るまで全部僕がやった。
 もちろん初めての企画だったから、分からない事だらけで他のサークルの友達に聞いて回ったりと苦労した。
 しかし、その分成功したときの喜びは一入だった。
 後輩たちは楽しそうに練習しており、合同練習内で実施した練習試合も盛り上がった。
 頑張って開催して良かったと心から思ったのを鮮明に覚えている。
 確かに、こういったことを社会人になってできたら楽しいかもしれない・・・。
 そして、僕の最終的な目標でもある、日本全体に良い影響を与えるというものも、開催したイベントを通じて多くの人に影響を与えることができれば実現できるかもしれない。
 これだ・・・!
 僕の中で何かがガチャリとかみ合った。
「沖田さん?」
 しばらく黙ってしまっていたのか、ポニーが心配そうに呼んできた。
「あ、ああ、ごめん。イベントやったことがあったよ。しかも、それがまぎれもなく僕が一番力を入れた活動だった。
 ありがとう!
 ちょっとその線で考えてみるよ。」
「そうですか!
 何かお役に立てたかは微妙ですけど良かったです。
 頑張ってください!!」
「うん。じゃあ、また。」
 そう言って電話を切った。

「失礼します!ありがとうございました!!」
 面接室から出るときに元気よく挨拶する。
 手ごたえは、ありだ。
 合同練習の話も絡めて僕がやりがいを感じることと、それがこの会社でできると考えていることをちゃんと伝えられたと思う。
 あとは面接官がどう判断するか、そこは“縁”だ。
 以前就職活動をしているときは、そんなふうに思えなかった。
 こちらがうまく話せたら絶対に受かる。
 自分の出来不出来で結果が全て決まる。
 そんな考えだった。
 まるで大学受験のような感覚だ。
 しかし、そうではないとようやくわかってきた。
 荻原さんからのアドバイスがきっかけだった。
「自己分析が終わって、いざ就職活動に挑む学生さんみんなに伝えていることなんだけど、オレは就職活動って結局最後は“縁”だと思っているんだ。
 確かに、絶対にこの企業に入りたいって強い思いを持っている学生さんもいるんだけど、会社側も絶対にこういう学生が欲しいと思っているわけで、それが食い違っていたらそもそも内定なんてあり得ない。
 お互いのこういう会社に入りたいというイメージとこういう学生が欲しいというイメージが一致したときに初めて内定ってもらえるわけで、そう考えると、就職活動って友達とか恋人を探すのと似ていて、“縁”の要素が切り離せないんじゃないかって。
 ただ、学生も企業も自分イメージを正しく相手に伝えられているかっていうのは難しくて、特に学生側は面接のときに正しく自分の行動特性や思いを伝えられていないことが多いっていうのが事実だと思う。
 沖田君たち学生の立場で言うと、企業に正しく自分の姿を説明することができなくて不合格という判断をされている人が大多数いるってことなんだ。要するに、この前やったような自己分析ができていないか、自己分析した結果を正確に伝えられていないってこと。これは非常にもったいない。何で不合格になったのか学生には分からないし、それこそ自分自身を否定された気になってしまう。
 でも、沖田君はこの前自己分析をしたし、その上でそれをちゃんと説明するだけの力があると思うから、それが面接の場で出せれば、あとはその企業との相性の問題ってこと。
 合わない会社に入ったら働き始めてから辛くなってしまうから、それを就職前に知ることができると考えれば不合格もありがたいよね。もちろん全部そうやって不合格になったら困るけど、自己分析をしっかりやって、それを伝えた上でどこからも内定がもらえなかったという学生さんにはオレ自身会ったことがないよ。
 自己分析の結果や自分のやりたいことを相手に伝わるように話したら、あとは結果を待つだけ。相性が良い会社であれば内定はもらえるはずだから、臆せずに頑張ってね。」
 就職活動が友達や恋人を探すという人間関係の構築に似ていると言われて自分が試験のように考えてきたことが恥ずかしくなった。
 確かにその通りだ。
 会社というと無機質なイメージだったが、結局はサークルと同じで人が集まって組織を成しているのだ。
 一緒に働きたい人、そうでない人があるに決まっている。
 以前も就職活動を一生懸命やっているつもりだったが、そんなことに思い至らなかった。

 面接のために切っていた携帯の電源を入れた。
 程なくしてメールを3通受信した。
 先週受験した生命保険会社から1次面接合格の連絡と2次面接の案内が届いていた。
 良かった。
 ふうっと安心のため息をついて次のメールを見る。
 ポニーからだ。
 第一志望の面接という話はしていたので、応援のメールが届いていた。
 残念ながら面接の前に見ることはなかったが、ありがたいものだ。
 親に合格の連絡をした後にでもお礼の連絡をしよう。
 僕はまず電話のアプリを起動して家に連絡した。
 僕が大学院に行くと言ってもめた日から両親とは事務的な内容を除いてほとんど会話をしていなかったが、就職活動を再開したことを伝えると、母親は安心したように涙を流した。
 父親もしばらくは勝手だと怒っていたが、今では僕の取り組みを認めてもらえるようにまでになっている。確かに勝手をしたと僕自身が思っているので、それでも泣くほど心配していた母親と、結局は僕の味方をしてくれる父親に感謝している。
 そんな思いから、合否の連絡があったときはすぐに連絡するようにしていた。
 3コールほどで母親が電話に出た。
「もしもし、航?」
「うん。母さん、この前受けた生命保険会社から1次面接合格の連絡が来たよ。来週の火曜日に2次面接みたい。」
「そう!
 おめでとう!!
 本当によかったわぁ。お父さんにも知らせておくわ。」
「まだ1次面接だから、そんなに騒ぐもんじゃないよ。前のときも1次とかではそんなに落ちなかったし。」
「そう・・・?
 でも、合格は嬉しいじゃない。
 気をつけて帰っていらっしゃい。」
「うん。じゃあ、また後で。」
 電話を切る。
 次は、ポニーだ。
 メールにしようか電話にしようか迷ったが、何となく電話かかけた。
「はい。宮村です。」
 すぐに出た。暇なのか?
「あ、沖田です。
 面接終わりました。メールありがとう!」
「いえいえ。第一志望だって聞いてましたし。
 どうでした?」
「うん。まぁ、ちゃんとしゃべれたと思う。」
「そうですか!じゃあ、あとは“縁”ですね。」
「だね。」
「あと、この前受けた生命保険会社から1次面接合格のメール来たよ。」
「すごいですね!ほとんど負けなしじゃないですか!?」
「でも、前に就職活動していたときも1次面接はそんなに問題なかったから、何とも言えないけど。」
「そうでしたね。そもそも私とは違うんでした・・・。」
「あはは。でも、結果的には宮村さんの方が先に内定とってるじゃん。」
「うう。ありがとうございます・・・。」
 第一志望の面接で実力が出せたことと、合格の連絡をもらったことからか、何か自分が饒舌になっているように感じる。
「ごめんごめん。まぁ、僕もいよいよって感じだよ。」
「そうですね。でも、沖田さんなら大丈夫な気がします。荻原さんも沖田さんは今まで見てきた学生よりもかなりできるって言ってましたし。」
「とはいえ、前の就職活動では結局内定はもらえていないんだし・・・。
 最終とかの前にはもう一回自己分析結果とか整理しておきたいから、良かったら今度時間とって話できないかな?」
「えっ?あ、っわたしですかっ?」
「う、うん。そうだけど。」
「あ、いえ、いつも私から無理矢理押しかけている感じで、こんなふうに沖田さんに誘われたことなかったですから・・・。
 えっとぉ、内定式以外なら基本いつでも大丈夫です。」
 そう言われてみると、確かに僕から誘うことは初めてかもしれない。
 気づいて顔が熱くなっていくのを感じた。
 別にデートに誘っている訳ではないし、そもそも、恋愛感情とかそういう・・・。
「沖田さん?」
 一時的にフリーズしていたらしい。
「あ、はい。いや、この前のサークルでのイベントの件とか、宮村さんと話していると頭が整理できるから。」
 そう答えるのがやっとだった。
「そうですか。そ、そう言ってもらえると嬉しいです。えっと、あ、また沖田さんの都合のいいときに連絡ください。」
「うん。今日の面接の結果次第っていうのもあるし、また連絡します。」
「そ、それじゃあ、失礼します!」
 何か恥ずかしくなってそそくさと電話を切って家路についた。
 今日の夕飯は僕だけまた1品多かった。


開花

2013年10月14日 東京


「では、学生時代に最も力を入れて取り組んだことを教えてください。」

 ついに第一志望の第三次面接までたどり着いた。
 ネットから得た情報では、この第三次面接が最終面接とのことだった。
 他にも2社が最終面接を残すのみという状態まで来ている。
 残る3社は残念ながら不合格だった。                     
 チャンスが残り3社となり徐々に余裕のない状態になってきているものの、3社のうちどこからかは内定がもらえるのではないかと感じるようになってきていた。
 内定をもらったことがない僕が言っては何も根拠がない話になるが、以前就職活動をしていたときと比べて、面接の手応えを感じるようになってきているように思う。
 以前は自分が言いたいことが言えたという感覚が面接の手応えにつながっていたが、今は面接官としっかり会話ができていたか、という点で面接を自己評価できているのも大きいと思う。
 また、残っている3社については、今までの面接で僕のやってきたことをかなり買ってくれていたと感じているし、僕も面接官の雰囲気や考え方が自分に合っていると感じていた。
 とはいえ、できるのであればこの面接で内定が欲しい。その気持ちは非常に強い。

「はい。最も力を入れたのは、所属しているテニスサークルで別の大学のテニスサークルと初の合同練習を開催したことです。
 私が所属しているテニスサークルは一般的なテニスサークルと異なり、学生同士の交流ではなくテニス自体を楽しむことを目的としたサークルです。私はそこで練習メニューを考え、指導する役割を担っていました。テニス自体やその上達を楽しみたい学生が集まっているため、効率的に練習して、上達を促せる練習メニューを作ることを意識していましたが、問題点もありました。
 大学内のテニスサークルでは、交流メインのサークルが多いため、基本的にいつも練習はサークル内のメンバーで行っていました。その結果、参加している大会を除き他のサークルに参加する学生と練習や試合をする機会が少なくなり、様々なタイプの相手とプレーすることができない環境にありました。私自身、上達するためには様々なプレースタイルの相手とボールを打ち合う経験が大切だと考えていたため、この点を改善したいと考えるようになりました。
 ちょうどこういった問題意識を持ち始めた頃にゼミで他の大学でテニスサークルに所属している学生と知り合い、合同練習を企画するに至りました。
 合同練習を企画するといっても、これまでサークル内でそういったことを実施した経験がなかったため、練習場所の確保から大学への申請が必要なのかどうか等、分からないことだらけでしたが、サークルメンバーの協力を得て無事合同練習を開催することができました。
 合同練習は私が所属するサークルメンバーだけでなく、相手の大学の学生にも好評で、多くの後輩から感謝されました。苦労したものの、その分成果があったおかげで大きな達成感を感じることができました。また、好評だったため合同練習は毎年実施することになり、昨年実施した初回に続き今年も第2回が開催されました。そうやって代々引き継がれるイベントになったことも私自身の喜びになりました。
 社会人になっても、自分が苦労してでも作り上げた場で多くの人に楽しんでいただけるような経験がしたいと考えております。」
「はい。ありがとうございます。
 では、いくつか質問させてもらいます。」
 いよいよここからだ。この質疑で僕の将来が決まるかもしれない。
 大学時代にやってきたことというのはどの面接でもだいたい聞かれる。この点については、一昨日もポニーに話していろいろと質問してもらうことでより掘り下げができたと思っている。
 若干脚色を入れてでも相手に伝わるようにという荻原さんのアドバイスも織り込み済みだ。
 実際合同練習をやるぞ!と言ったのは会長の平山だが、そういった詳細は聞いている面接官にしてみれば些細なことでしかない。要は自分が何を思い、どういう行動をとったのかということが大事なのだ。
 以前の僕であれば、事細かに自分の経験したこと全てを理解してもらうことに主眼を置いてしまっていたが、そのアドバイスを経てそうではないのだと分かった。
 面接官も人間なのだから、聞きやすい話とそうでない話があれば前者を好意的にとらえる。中身の前に相手に理解してもらいやすい話の流れなのかということが大事になってくるということだ。
 今では質疑応答も同じだと感じるようになってきていた。
「お話いただいたイベント開催で結果好評だったからやりがいを感じたというように聞いていて感じましたが、失敗していたらイベント企画にやりがいを感じなかったんではないですか?」
 いくつか簡単な事実確認のような質問に答えた後、この質問が来た。
 確かに僕の言い方だとこのように受け取られる可能性があるのは確かだ。以前の僕なら、この質問を単なる指摘として捉えて「そんなことはない」と否定することに躍起になってしまっていたが、今は違う。
 面接官はイベント企画会社の面接官だ。学生時代に企画したイベントがたまたまうまくいったから志望してくる学生をふるいにかけているのだろう。失敗を機に次へのモチベーションが著しく低下してしまう人材を確保してしまうことは会社にとっても良いことではない。
「今回は運良くうまくいったため、失敗に終わっていたらどう感じていたかということは分かりませんが、おそらくまた別の機会を見つけて合同練習なり練習試合などの企画を立てていたと思います。
 理由は、2つあります。
 ひとつは、先ほども申し上げたように、私自身が様々なタイプの相手とボールを打ち合う経験を増やした方が良いという問題意識を持っていたことです。合同練習がうまくいかなくなる理由はいくつかあると思いますが、それを改善して次につなげることで、サークルメンバーにも納得してもらえる企画を作り上げることができるようになるのではないかと感じています。
 もうひとつは、イベントを機に幹部同士の連帯感が強まったことです。これはイベントの成功失敗に関わらず、それまでの苦労を共にしたことで得られたものだと感じています。この連帯感によってイベント企画前よりもサークル運営に対する幹部同士のコミュニケーションが活発化し、普段の運営もスムーズとなりました。何よりもお互いが非常に仲良くなりました。このようにイベント通じて仲間同士のつながりを強化できることも効果がありますし、魅力の一つだと思いますので、再度イベントを企画しようと考えたと思います。」
「そうですか。よく分かりました。」
 緊張から話が長くなったような気もしたが、そこそこ答えられたような気がする。
 面接官も話の間よく相づちを打ってくれていた。

 その後、話はゼミなどの大学での勉強の話になったが、あまり深く聞かれることはなかった。
 また、他の会社の就職活動状況についても聞かれた。
 正直に他にも2社受けているが、あくまで御社が第一志望だと伝えた。
「仮に弊社から内定を通知したら他の2社は辞退できますか?」と直接的な質問もされたが、「はい。」と素直に答えた。
「それでは、面接は以上です。お疲れ様でした。」
 面接官が面接終了の挨拶に入った。
 僕も立ち上がって答える。
「お忙しいところ面接していただきありがとうございました。宜しくお願い致します。」
 深く礼をする。
「ご丁寧にどうも。数分待てますか?」
「はい。」
 そう答えながらも、こんなことを面接後に言われたのは初めてだったので、少し動揺した。
 通常であれば、「気をつけてお帰りください」などと言われてすぐに退室を促されるところだ。僕もそうなると思ってすぐに鞄を持って退室する動きをとろうとしていたので、変な体勢で固まってしまっていた。
 面接官は資料を全て手に持って僕を残して部屋を出て行った。

 もしかして、という気持ちが膨らんでいた。
 ネットでも最終面接のその場で内定がもらえたという話は聞いたことがあったが、このように面接官が一時退室したというのは見たことがなかった。
 5分と言ったが、もう10分15分経ったように感じる。
 時計を見たが、まだ2分程度しか経っていなかった。
 心臓の音と振動が巨大スピーカー越しで聞くように全身に響いてくる。
 時計から目が離せなくなり、無心で秒針を追っていた。
 30秒ほどカウントした頃に扉が開いた。
 面接官が戻ってきた。
「お待たせしました。」
 立ち上がって礼をしたが、言葉が出なかった。
 面接官にも緊張していたことがすぐに分かったようだ。
「ははは。緊張させてしまったようだね。申し訳ない。面接の様子を見ているとそんなに緊張しないようにも見えたけど、よく練習してきたのかな。」
「あ、はい。」
 適当な返事になってしまう。
 そんなことよりも結果はどうなんだ。
 僕の頭にはそれしかなかった。
 ゆっくりと席に着く。
 面接官が席につき、再び口を開く。
「沖田さん。」
「はい。」
 一瞬の間が永遠のように感じる。早く次の言葉が聞きたい。
 早く。早く。早く。早く!

「おめでとうございます。
 合格です。
 是非弊社で働いてください。」

 一瞬息を飲んだ後、ふうぅぅぅ・・っと大きなため息が漏れた。それと同時に両手の拳は力強く握りしめられていた。
 背筋の力が抜けて自然と体が椅子の背もたれに寄っかかる体勢になったが、面接官がまだ目の前にいることに気づく。
「あっ、すみませんっ。ありがとうございます」
 そう言って即座にすっと体勢を立て直して礼をする。
「いえいえ。就職活動では苦労したという話も前回の面接官から聞いていますし、もう面接は終わっています。気にしないでいいですよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「この場で内定とさせていただきたいところですが、沖田さんはまだ他の会社さんも受けられているとのことですので、そちらを辞退された後に正式に内定とさせていただきたいと思います。2社への辞退後弊社に再度ご連絡ください。」
「かしこまりました。」
「また、弊社では秋採用者の内定式を1月に実施します。入社前の健康診断と同日となります。詳細は内定後またメールで連絡しますので、よく読んで参加してください。」
「はい。メールよろしくお願いいたします。」
「では、本日の内容は以上です。何か質問はありますか?」
「いえ。本当にありがとうございました!」
 再度立ち上がり深く礼をした。
 本当に嬉しかった。
 そして何よりほっとした。
 開放感を全身で現したい衝動に駆られたがギリギリのところで我慢した。
「では、お気をつけてお帰りください。入館証は受け付けで忘れずに返却してください。」
「はい。失礼します。ありがとうございました。」
 そう言って、部屋から出た。

 気づいたらビルを出ていた。受付の人に入館証を返さなくてはならないのだが、手元にないのでちゃんと返したのだろう。
 携帯の電源を入れて電話アプリを起動する。
 家に電話をかけようとしたが、手を止めた。
 もっと先に合格を知らせたい相手がいる。
 一次面接の後の電話から、意識するようになっていた。何かあるとすぐ相談し、自然と用がなくても会話するようになった。
 会話していると就活生として自分の考えが整理されるというだけでなく、自分を受け入れてくれる人がいるという安心感を得ることができる相手になった。
 就活で面接官から否定され続けた心を癒やしてくれた。そんなことをしてくれたのは長かった就活期間で彼女だけだった。
 呼び出しのコールが鳴る。
 相手はすぐに出た。
「沖田さん。面接終わりましたか?」
「うん!なんと内定までもらえたよ!!」
「すごーい!!お、おめでとうございます!!」
「ありがとう!!宮村さんのおかげだよ。本当にありがとう!!」
「いえいえ。私なんかが力になれたなら嬉しいです。」
「お礼がしたいし、就職活動は終わったけど、今後も会ってくれるかな?」
「あ、えっ?」
 一瞬の逡巡の後、彼女は明るい声で答えてくれた。
「はい。もちろんです!」


旅立ち

2014年3月31日 品川駅喫茶店


「ワタル君?ワタル君?」
 呼ばれて目を開ける。
 眼下を見下ろすと相変わらず家路につくサラリーマンの群れが見えた。
「ワタル君ずっと目を閉じて何もしゃべらないから寝てるのかと思っちゃった。」
 目の前にポニーテールの女性がいる。ポニーだ。
 就職活動が終わった後も何度か会っていたが、就職活動が終わっても気が合うことが分かって冬に正式に付き合うことになった。
 事実上ほとんど付き合っているような状態で改めて告白するのはどこか恥ずかしいところがあったが、ポニーは喜んでいた。
 荻原さんも「やっとか。」などとからかいながらも喜んでくれた。
 僕は明日の入社式に向けて今日宿泊しなくてはならないが、ポニーは明日朝に出勤すればいいので飲み会までという短い時間にもかかわらずわざわざ足を運んでくれたのだ。
 確かに、学生のときと違って社会人になると会える時間も短くなるし、継続して付き合っていくことが難しくなるのだろう。
「あ、ごめんごめん。さっき下に就活生っぽい人がいたじゃん?何かいろいろ思い出しちゃってさ。」
「そうなの?気づかなかったぁ。うまくいくといいね。」
「そうだね。僕たちは苦労したけど、後輩たちにはそういう思いはあんまりして欲しくないね。」
 そう言いながら、一年前の自分は何も分かっていなかったというのを思い出していた。
 周囲の学生と自分を比べて都合のいい物差しで自分の優位性を信じて自信を持っていた。
 自分の言いたいことを言ってアピールすれば面接官が勝手に理解してくれて合格がもらえると思っていた。
 だからこそ、不合格だったときは自分自身が否定されたと思って一回一回落ち込んでいた。
 自分が落ちて周囲が合格すると、自分の方が出来が悪いのだと思って妬んでいた。
 やりたいことがないと就職できないと思って学業のためでもなく大学院に行こうともした。
 思い出すだけでも恥ずかしくなって胸がざわつく。
 逆に言えば、それだけ当時は本気で悩んでいたということなのだろうが。

 そういえば、内定が出た後サークルの同期たちと久々にテニスをやった。
 思い悩んでいた約半年間はあんなに縁遠く感じた同期たちも、就職活動を終えた後は元に戻ったように楽しく関わることが出来た。
 話を聞くと、ともに練習統括をしていた渡辺亮一は公務員試験に失敗して留年することになったそうだ。「試験は試験。合否がつくものだし、来年また頑張るさ。」と前向きだったのが印象的だった。
 新入生歓迎会で夢を持っている亮一に嫉妬したのも懐かしい。
 自分よりも進んでいそうな人をつかまえて勝手に嫉妬して、自分を追い込んで空回りしていた。
 右往左往してたどり着いた今の内定先に不満はない。就職活動を始めた頃は眼中になかった会社だが、自分がやりたいことができる可能性を感じているし、将来に向けたスキルの習得もできると思っている。
 でも、就職活動を始めた頃はそんなことは全く考えなかった。ネームバリューや一見したかっこよさを追い求めていた。そして、それを自覚できていなかった。その結果、現実の厳しさにぶつかったときに自分のせいだと思えずに面接官や社会のせいにしようとしていた。
 就職活動は確かに苦しいことが多かったし、自分の無力さを痛感して逃げ出したくなることも多々あった。実際に一度大学院への逃げ道を考えた。でも、そうしてもがき苦しんだ結果いろんなことが学べたのも事実だ。
 自分にかかる結果は自分に何かしらの原因があること。
 自分が何をやりたいかだけでなく、相手が何を求めているかを考えることが重要だと言うこと。
 最後は自分一人で面接に向かうとしても、頼れる先輩や仲間がいることでどれだけ大きな力になるかということ。
 他にもたくさんあるが、これらが社会人になるにあたって最低限必要なものなのだとしたら、就職活動は必要な過程なんだと思う。
「本当に無事に就職できて良かったねぇ。」
「そうだね。でも、大事なのはこれからだからね。やっとスタートラインだよ。」
「確かに。何かスタートラインに立つのが大変過ぎて勘違いしちゃうけど、これからなんだよね。」
「うん。お互い目標を達成できるように頑張らないとね。」
「そうね。はぁ、何か緊張するなぁ。」
「ははは。それはみんな同じなんじゃない?でも、就職活動でも苦労しながらも乗り切ったから多少のことだったら難なく乗り越えられるよ。」
「ありがとう。わたしも頑張ろっと。」

 しばらく他愛もない話をしているとポニーが時計を見た。
「そろそろ飲み会じゃないの?」
 18時40分。
 飲み会は19時からだから確かにそろそろ出た方がいい。
「そうだね。ありがとう。じゃあ、そろそろ出ようか。」
「うん。飲み会楽しんできてね。」
「ありがとう。それに、こんな短い時間なのに来てもらっちゃってごめんね。」
「ううん。働き始めてからも、忙しくなるとは思うけど、会えるときには会いたいな。」
「そうだね。時間を見つけて会えるようにしよう。今日も飲み会終わってホテルに戻ったら電話するよ。」
「ありがとう。楽しみにしてるね。」

 会計を済ませて階段を下りる。人の波は18時過ぎよりもましになっていた。
 飲み会の場所と改札は逆方向だ。
「じゃあ、またね。」
「うん。電話待ってるね。」
 そう言ってポニーは僕に背を向けて改札に向かって歩き出した。
 しばらくポニーの背中を見て見送った後、僕も飲み会会場に向かって歩き出した。
 少しだけいつもより早足になる。
 ワクワクとドキドキが折り混じった感情だった。不思議と不安はほとんどなかった。
 せっかくの縁があって入社する会社だ。
 自分の精一杯をぶつけて、できる限りのことを吸収して成長しよう。
 それを発揮できるようになる頃には僕も一人前になっているはずだ。
 そうなったときに自分にどれくらい大きな仕事ができるのか。
 就活を終えた後それを考えるのが楽しみになっていた。
 いよいよこれからがスタート。
 さっき自分で言った言葉を思い出す。
 気づくと駆け足になっていた。


fin.    


あとがき

ここまで読んでくださった皆様

私、佐々木コジローの処女作「10月の桜」ここにお届けいたしました。
いかがだったでしょうか。

まだまだ文章もへたくそで読みにくいところも多々あったかと思いますが、ここまでおつきあいいただきありがとうございます。

 

正直、あとがきを書こうと思いながら、何を書いたら良いものやらと思ってしまいますね。

 

面白いネタも思いつかないので、この本の生い立ちを少しばかり紹介しようと思います。

 

私が就職活動において非常に重要だと思う2つのポイントのうち、1つをメインに物語を起こしました。

2つのポイントというのは、

・就職活動を行う上での心構え、考え方

・自己分析、自己PRをする上での考え方

です。

このうち、一つ目の「就職活動を行う上での心構え、考え方」がこの物語のテーマです。

 

就職活動をしている後輩の支援を個人的にしていたりしますが、どうしても受験勉強等の感覚から抜け出せずに苦しんでいる人が多いと感じていました。

多くの後輩に同じようなアドバイスをするうちに、同様の悩みを抱えている人が多くいるのではないかと思うようになり、一人でも多くの人に伝えられればと思って今回この小説を書いてみました。

 

盛大なる余計なお節介ですね。

 

とはいえ、少しでも多くの人の目に触れて、少しでも何かのきっかけになれば幸いです。

 

では、また次の作品でもお会いできるように今後もがんばりたいと思います。

良かったらまたおつきあいください。

 

よろしくお願いいたします。


奥付


10月の桜


http://p.booklog.jp/book/15607


著者 : 佐々木コジロー
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/kojio1003/profile


発行所 : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社paperboy&co.


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