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菊池通隆のこんなはずじゃなかった

 ピー。
「こんばんは、松井菜桜子です。えー今日はちょっと御機嫌伺いの電話をかけてみました。また電話します」
 ピー。
 な、なんだ? 御機嫌伺いって? ……あ! ま、まさかエッセイ集の仕事が遅れていることがバレたのか!?
 なんでバレるんだ?
 あ、あたりまえか、そんなこと。
 菜桜子さんは今回の仕事の中心にいるんだから。
 な、なんか電話の向こうの菜桜子さんは明らかに笑っていなかったような……気がした。
 これはマズイっすよ。
 
 思えば松井菜桜子という人の文章を見たとき、口語体で読みやすく、なおかつオチが所々に効いているそのさまに、いたく感心させられたのを覚えている。
 楽しい文章を書くなぁ。
 その少し前からエッセイ集の企画が自分の中にあった。そこでこの人でいってみようと思い本人に聞いてみたところ快く承諾してくれたので、この企画は動きだすこととなった。
 実をいうとこの本に収められているエッセイのほとんどは、企画がスタートしてからかなりの短時間で書き上げられたような気がする。
 これには僕もそうだったが、担当の鈴木さんも驚いていた。
 よっぽどだったんですねぇ。
 なにが?
 
 そうこうしているうちに『電撃王』でも連載が始まったりなんかして。
 ある日ふと気がついた。
 たしか、この企画が始まったときは「オシャレで午後のティータイムなんかに女性のセカンドバッグからチラリと覗いている本」というものではなかったか?
 
「波乱万丈な人生を送っているんですねぇ」
 ある程度まとまった原稿を読んだ後の素直な感想が口からでる。
「そうでしょうか」
 と菜桜子さん。
 キョトンとしている。
 いやそうですよ、菜桜子さんの人生に比べれば僕のそれなんて平穏なものでしたよ。
 仕事に関していえば、超波乱万丈だけど。
 このエッセイを読むと思わず、口元が笑ってしまう。
 これほどまでにオチがちゃんとついているエッセイが今まであったろうか? いやない!!
 本当にこんなすばらしいオチが用意されていたんでしょうか。
 菜桜子さんの日常に。
 ただズラズラと起こったことを書き綴るエッセイは、この本を見て勉強したほうがいいね。
 なぜならオチは基本だもの。
 全てにおいて。
 クリエイティヴな仕事をしているならなおさらですよ。
 付け加えるなら、このエッセイのすばらしいところは笑いだけじゃなく、所々に見え隠れするペーソスで、それがいい味を出していると思う。
 たとえるならそれは、クレイジーキャッツの映画でドタバタの合間にふと見せる植木等の憂いを含んだ瞳であったり、『男はつらいよ』のなかで寅さんが見せる真剣な表情に、通じるものがあるのではないか。
 そうだとしたら、最初にあったオシャレな本なんて跡形もなく吹き飛んでしまう。
 人間の真実の生き様の前に、見栄えだけを気にかける飾り物になど対抗する術(すべ)はないのだ。
 これでいいのだ!!
 
「松井菜桜子です。おはようございます」
「あ、こんばんは」
「は? なに言ってるんですか。まだ、朝ですよ。そういえばエッセイ集の後書きができたそうで」
「え? あ、ああ。ええ。そうですねぇ。今やっているところです」
 こうなるとただの作家と編集の会話である。
「そうですか。楽しみにしています。出来上がったらファックスで送ってくださいね」
 電話の向こうの菜桜子さんは、おもいっきり顔に笑みを浮かべているような……気がした。


あとがき

「なんてこったい!?」を書いたのは、もう十数年前。
 当時、実はタイトルを「何様のつもり?!」にしたかったのだけれど、既にナンシー関さんの著作があるのを知り、変更したという経緯があります。
 書き上がってみたら、「何様?!」と言われるほどの内容ではなく、情けない「トホホ」な青春エッセイになっていたので「なんてこったい!?」にして良かったなぁと今は思っています。
 
「インタビュー形式にしては?」という出版社の提案を断り、執筆中は昼間はアフレコやナレーションの仕事をし、夜中はワープロに向かう日々を半年続けました。
 睡眠時間が削られて身体はしんどかったけれど、小学生の頃から書き溜めた日記をめくりながら「書きたいこと」が形になっていくのは楽しかったです。
楽しくて楽しくて、気がつけば規定ページをオーバーしていたほどでした。

 今回は、そんな事情で泣く泣く諦めた「食えないヤツ」「一杯のラーメン」「ハワイ親孝行旅行<日記編>」の未発表の3作も掲載していただきました。「一杯のラーメン」はその頃流行っていた「一杯のかけそば」を意識したものです。後者のお話と同様に感動物語のつもりだったのですが、何故か私の場合はラストに「トホホ」がもれなく付いてきます。

 
 そういえばこの「なんてこったい!?」を読んだ雑誌の編集長さんから「普通、エッセイを初めて書くと誰でも『人生の教訓や説教じみたもの』がどこかに必ず出 てきてしまうんだけど、これにはそれが全く無いのが凄い! 自分を俯瞰で見られないとなかなか出来ないのよ」と褒められたことがありました。(褒めてるの か?!(^_^;)
 元はといえば「トホホ」な日常のせいなのですが、かなり嬉しかったことを憶えています。
 だって、「こんなトホホなヤツがいるんだなぁ」と笑って、読者の方が日頃の憂さをひととき忘れる本が書きたい、というのがエッセイ集を書く目的でしたから。
 そして十数年の時を経て、この本がまた形を変えて明るい場所に置かれるかと思うと胸がいっぱいです。
 
 最後に、今回電子書籍版の話を推し進めてくださった大沼先生、掲載写真を探し出し提供してくださった麻宮先生、 諸々の許可を取り付けてくださった編集の鈴木さん、メディアワークスさま、ありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。

 そしてなにより、この本が読者の方々と再び出会えたことに、感謝感激です。最後までお読みいただきありがとうございました。
 
 実は私、また「書きたいこと」が溢れ出してきています……。今。
 
2010年12月 松井菜桜子


この本の内容は以上です。


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