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第一章

 

【まえがき】

 はじめまして&おひさしぶりです。この度は「凸凹ぶらり旅」を手に取っていただき、ありがとうございました。

 さて。ご存じの方もいるかもしれませんが、私は旅をするのが大好きです。もっとも私の場合は「旅行=国内旅行」。海外にも興味はあるのですが、言葉の通じないところへは恐くて行けません。「ほんやくコンニャクおみそ味」でも実用化されない限り、海外へ行くことはないと思います(笑)。
 そうすると、必然的に目標は「日本全国制覇」これになります。また団体行動は好きではないので、昔はほとんど一人旅でした。今は相方がいるので、たいてい二人旅です。それはいいんですけど。この相方、あちこち連れ回しても、あまり旅の内容を覚えていないというんですね。で、どんなコトなら覚えているか、よくよく聞いてみると……「食べ物を食べた場所」。これはけっこう覚えているらしい。
 それならば! いっそ「おいしいもの全県巡り」をしようじゃないか!
 そうすれば相方でも、旅の記憶が心のアルバムに刻まれるはず。全国制覇も具体的に達成できてイイ感じじゃない?

 みたいな。例えばネットで「……県 名物 おいしい」で検索して、一番に出てきた物を食べて回るとか。

 と、考えたのが二○○七年三月のこと。スタートは地元「埼玉県」、ゴールはもちろん我が心の故郷「北海道」。ここまでは順調だったのですが、いざ始めてみると意外にうまくいきませんでした。「県」で括ったのが広すぎたのか、いまいち絞り込めなかったんです。それに県名を頭に入れて検索しても、なかなかその県の名物が出てこない、ということもありました。逆に東京などは日本全国すべての店があるんじゃないか、というほどいろいろな食べ物が引っかかる。ダメだ、こりゃ。

 というわけで、予定変更。旅した先々での写真や出来事を「旅行記」としてまとめていくことにしました。これなら相方が一度忘れてしまっても、また思い出す手がかりにもなりますしね。そうして出来たのがこの本「凸凹ぶらり旅」です。
 一度の旅行ではなく、何度かの旅のハイライトをピックアップしていく形式にしました。掲載順は時系列順ですが、必ずしも連続して訪れた場所とは限りません。また各観光地を訪れた時期が極端に離れている場合もありますのでご注意ください。旅行好きなアナタも、そうでないアナタも。手に取ったすべての人に楽しんでいただければ幸いです。

 ちなみに。第一回「名物にうまいものあり? 日本全県巡り」に予定されていた「埼玉県」編は、ダイジェストですがブログの方で掲載してあります。
 何を食べに行ったかというと「十万石まんじゅう」。この企画をやると決めてから、「埼玉県」なら絶対これを食べに行こうと思っていた物です。埼玉県民ならまず知っている、有名なコマーシャル「風が語りかけます。うまい、うますぎる。十万石まんじゅう」。
 初めてこのコマーシャルを見たのは小学生の頃だったでしょうか。我が家は「埼玉テレビ」が映らなかったので、従姉妹の家で見たのを覚えています。クラスの誰もが知っているくらい、ローカルでは有名な「十万石まんじゅう」。
 が、しかし! 実物は見たことも食べたこともない! 誰もが知っているのに、誰も食べたことがない。それが「十万石まんじゅう」。
 というわけで、「十万石まんじゅう」を買うためだけに車で出発したのでした。「十万石まんじゅう」を扱っているのは「株式会社十万石ふくさや」、本店は行田。途中川越で渋滞に巻き込まれながらも、なんとか入手してめでたく賞味。
 ……うぅ~ん、なんだか食べたことのある味、食感。なんだったっけ、この感じ。あ、あれですよ、あれ。鹿児島銘菓「かるかん」! 長年憧れていた埼玉県銘菓は、なんと鹿児島県銘菓と似たような感じでした。思えばこの時点で、すでに暗雲垂れ込めていたんですね、日本全県巡り。


第三章

 

【ひこにゃんに会いたくて】

 その話はめずらしく相方から提案されたものだった。「めずらしく」というのは、普段、相方は私の行きたい場所に付いてくるだけで、自分からどこかへ行きたいと言い出すことがなかったからだ。
「彦根城へ行こう!」
 相方はそう言った。
「彦根城ってどこにあるか知ってるの?」
「知らん!」
 どこにあるかも知らないで、なぜ行きたいというのだろうか。この男の行動はときどき、いやいつも予測が付かない。
「テレビでやってたんだ。すげーかわいいネコがいるらしいよ。ひこにゃんだって」
「ネコ! ひこにゃん?」
 猫と聞いて私は即座に反応した。そう私は大の動物好き、そして中でも大の猫好きなのである。「かわいいネコ」と聞いて行かずにおられようか。いや、おられまい。

 というわけで、我々は一路、彦根城を目指して出発したのだった。ちなみに彦根城とは、滋賀県彦根市にある城で、この年(二○○七年)に築城四○○年を迎えた由緒正しい城である。同年春から「国宝・彦根城築城四○○年祭」が行われており、くだんの「ひこにゃん」もそのマスコットキャラクターとして登場したのだった。

 埼玉県から滋賀県までは、かなりの距離がある。休暇の余裕があれば一般道を走ってのんびり行きたいところだが、今回は三連休しかない。さすがにまったりというわけにもいかず、高速道路を乗り継いで行くことにした。
 もちろん例によって宿を予約してあるはずもなく、ありがとう「道の駅」、ありがとう「サービスエリア」の精神で先へ進む。
 合い言葉は「てけと~」なのである。

 翌朝、七時半頃起床。普段は夜型人間なので、こんな時間に起きていることはまずないが、意外にも気分が良くすっきりしている。車中泊なので朝日が差すのがいいのかもしれない。「豚汁定食」を食べる。
 そういえば、私の車中泊は父から受け継いだものだ。父は宿に泊まるということが基本的になく、家族旅行でも車中泊ばかりだった。しかも食事にもお金をかけない。
 たいてい売店のおにぎりなどが中心で、軽食コーナーやレストランで食べさせてもらえることは、ほとんどなかった。そのせいか、私はサービスエリアの食事にとても浪漫を持っている。我ながら変だと思う。

 高速を走り続け、多少の渋滞を越えた後昼頃、彦根へ到着。この時はまだ「全県巡り」の可能性を視野に入れていたので、滋賀県名物「近江牛」の食べられる店を探しながら彦根城へと向かう。途中一件だけ「近江牛あります」とノボリのある焼き肉屋を見つけるも、他にめぼしい店はなし。

 昼時だし混んでいるだろう。それにこの先も琵琶湖を一周するのだから、他にもいい店があるだろうとスルーしたのが失敗だった。結果、その後も街道沿いに「近江牛」の店は見つからず、帰ってから「オージー牛(ビーフ)」を食べて我慢しようという悲しい決意をすることになるのだった。やはり「全県巡り」はダメだったのだ。

 そんな中、我々は目的の彦根城へと到着した。彦根城は「国宝・彦根城築城四○○年祭」の真っ最中。街中にノボリが立ち、道は観光客であふれ、城とは思えない賑やかな雰囲気に包まれていた。

 以前訪れた際には、「小さくて地味な城」というイメージを持ったものだったが、なかなかどうして。立派なものじゃないか。
 ただ。聞くところによると、ほとんどの観光客が「ひこにゃん」目当てであり、彦根城(と築城四○○年祭)自体の知名度は以前とあまり変わらないのが、関係者の悩みの種であるという。
 確かにその感は否めない。
 現に我々も今回は「ひこにゃん」をメイン目的としている。戦国マニアの私としては、他の観光客とは違う、と言いたいところだが、今回に限っては本当に面目ない。
 しかしそれでも、まずは現地に来てもらう、という観光地の最大の目的を達してはいるので悪くはないはずだ。
 「ひこにゃん」目的で来た一般の人も、しっかり彦根城を見て行くであろうし、いい場所だと思えば、また訪れることもあるはずだ。その点において「ひこにゃん」の成功具合は素晴らしいといえる。

 ところで城というものは、基本的に平坦な作りをしていない。彦根城はそう大きな城ではないのでまだマシな方だが、それでも運動不足な現代人にとっては、上がったり下がったりと一苦労。

 もうダメかと思ったその時。彼の者は姿を現した。途端に沸き上がる歓声。黒山の人だかり。「ひこにゃん」登場である。
「きゃ~、ひこにゃーん」
「こっち向いてー!」
 まさに芸能人並みの大騒ぎ。みな手にした携帯電話で写真を撮りまくっている。私も負けじと写真撮影会に参加した。
 イラストもかわいかったが、着ぐるみは最強だった。動きがまた、なんともいえぬ愛らしさなのだ。それがリクエストにも応えてくれる。「変なおじさん」や「おっぱっぴー」など。「ひこにゃん」人気は伊達じゃないと、私は改めて実感したのだった。



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