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はじめに

この度は「liferデジタルシナリオ」よりStg:3『鞄鞄』をお手にとっていただきまして、誠にありがとうございます。

こちらはlifer(http://lifers.jp/) にて上演しました戯曲を、使用時ほぼそのままの形(下「原本より変更点」参照)で掲載しております。加えて、少々特殊な書き方となっている部分などもござ いますので、「読んだだけでは状況が解らない」などシナリオとしては至らない点もアルかと思いますが、どうぞご了承の上お楽しみください。
なお、テキストは「青文字」がト書き、他が台詞となります。

原本より変更点
  • 舞台装置の説明を加筆。
  • 細かい演出上の説明を加筆。
  • ほか誤字など訂正。

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最終更新日 : 2012-01-05 00:03:02

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登場人物

氏(眠る哲学者のたまご、ニコライあるいはコーリャ)
栄と洋子
全人(真知)
Backgroundさん

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最終更新日 : 2012-01-05 00:03:02

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目次

[一]

対象を定めての話し始めから事の起こりまで。
夢インサイド、すなわちBGではない生の人生。

i   眠る哲学者の哀れな仕事 
ii  鉄道に乗り損ねる始まり
iii 奇人の自慢は他人の恥部
iv  栄と洋子の静かな晩餐会
v   男でも女でも性でもなし 
vi  奇人と夫婦とその子の癌
vii 神は在り也無し也と問う
viii 心神喪失から殺害する迄 

[二]

修練して夢妄からリアルに思想がフィードバックするまで。

ix   通録ヨリ弌「己ヲ発掘スル現場ニ立ツ」
x    通録ヨリ弍「眼ガ七ツ有ル児童ト遊ブ」
xi   通録ヨリ參「老人ガ鞄ヲ開ケヨウトスル」
xii  通録を経て中を垣間見る
xiii 実際の状態を冷静に観る
xiv  何故殺害したのかを学ぶ
xv   遺書を書き試行を終える

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一幕

対象を定めての話し始めから事の起こりまで。
夢インサイド、すなわちBGではない生の人生。

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最終更新日 : 2012-01-05 00:03:02

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i 眠る哲学者の哀れな仕事

※舞台、高さ3mほどの足場が三基、のみ。下手からA基~C基とする。
上下に分かれる二層構造はそのまま意識の上であるか下であるか。上には人が、下には意識が板付いている。
人のウチの一人(B基上)が手元の鞄、とはいえ男の身体と比べて小さくもないそれを叩き始める。それは意識下に反響して音楽になる。金属音が交わり、声が加わり、吟詠となる。
それが終わって

小汚男  いったいこの音楽ってやつと単なる音とは何が違うんだろうかね。ま、今のが音楽かと言われれば確かに怪しいところだけど歴史に名を残す音楽家の皆さんが、否名を残さなかったにしても色々考えてきた。何が違うのか。ジョン・ケージによるあの沈黙を貫いた楽曲は、(ひとしきり黙って)そうそうこんな感じ。まぁ前衛?っつの?文字通り音楽にして音楽にあらず、それ以前に音にあらず。聞いていてホント退屈。笑っちゃう話だけどああいった前衛?ナントカ・・・音楽に限らず何でもそうよ映画だって美術だってこの前衛と名の付くやつはアレね、観る側聴く側が試されている感じがする。
声(栄)  ここから何も感じないのか!?愚鈍なやつだね君は!
小汚男  嘗められている気がする。ムカッとする。ま、そもそも音楽の不確定性によって正にそこを考え積極的に耳を傾けることが目的っちゃ目的よ。試されてること自体に腹を立てるのもそりゃ筋違いなんだそんなことはいいんだが言いたかったのはそうやって先人達も悩んだわけよ。どう違うんだと。そりゃ一つの文化であるわけだからそんなもの端から答えなんてない。そりゃ誰だって解ってるわけ。つまりこれは哲学であるわけですよ。
声(栄)  解った風なやつはすぐに『哲学』と言うね。
小汚男  叡知を!
声  (バックで)とはいえ哲学は君らの偉大な発明と認めざるを得ないですよ。
小汚男  愛する者はいつだって新しい物を求める。だが新たな息吹とは常にして人民に理解されない。
声(栄)  そいつは大きな間違いだ!
小汚男  (笑)大正解。大間違いというのが大正解。一つ、俺達の知らない遠い所の部族が音楽と呼んで崇拝しているものがあったとして

そうした唄、というより獣の声。

小汚男  あぁあぁ五月蠅く、汚く、聞きようによっては耳障りですらあるがなにより彼らがそれに鼓舞されて一匹でも多くの獣を捕まえることができるのならそれは実利的だ。心が豊かになる音楽よりは腹が膨れる音楽のほうが良いに決まっている。実利的とは現実的ということで現実的ということは・・・・・・・・・今回の不眠は今日でもう10日に達する。

そう言っている内にも唄は耳鳴りに。

小汚男  そろそろだ。そろそろ変な音が聞こえてくる。耳鳴りというには不気味すぎるそのゥウンという音は振動が強すぎて吐き気がしてくる。俺一人の耳鳴りと父の耳鳴りと祖父さんの耳鳴りとその前のを合計して一挙に俺の耳を騒がせているわけだから仕方が無いが迷惑この上ない。この耳鳴りは多分に祖父さんのものが勝っている気がする。あの七面倒くさいくそ爺だ。耳鳴りって奴は知ってるか?呪いなんだよ。自分の記憶の。普通の人間なら自分だけの記憶で収まるところだがこれは四代前海驢あしか隆次郎たかじろうから脈々と受け継いだ耳鳴りだ。気持ち悪いったらありゃしない。分かった!分かったからそうやいやい騒ぐな!貯めに貯め込んだこの不眠の反動で今日は、これまでもう一歩届かなかった所まで裏現実の中の歩みを進めてやろうじゃないか。おぃ爺!お前の子孫は厭よ厭よと言いながらちゃんとお前の血脈を受け継ぎ思想を受け継ぎ野望を受け継いでいるから、お願いだから早くくたばってくれ!
栄  さぁおいでおいで!

声と共に手招きをするのはBG。

小汚男  ともうからあっちの奴が
栄  さぁおいでおいで!
小汚男  おいでおいでおいでおいでしているので少年ジャンプの主人公がまるで夢のような世界から一転、ベッドから落ちて現実に目覚めるようにして俺はこの足の着かない現実から転落して夢の中に着床する。

小汚男、高みから落下し、反転して着地。これまで背にしていた(ベッドにしていた)大きな革の鞄も一緒に落下し、それを抱える。
ここからBackgroundさん、セッティングに動いてください。線路的な背景。

小汚男  少年ジャンプの主人公は所詮寝ても覚めてもコミック雑誌の中だが俺らはそうはいかない。案外現世などコミック雑誌と変わりはしない滑稽で残虐で平凡で不安なことが日々起こっているが、それでも何をか見極めて気が違えないように線引きをしていかないといけないと祖父さんは言っていた。こちらの世界では俺は今日はこれだ、日本でない北のほうのどっかをセカセカと歩いて忙しい平凡な男だ。何か用事があったのを思い出してきた。

Backgroundさん(以降、BG)、時折効果音を口で鳴らす。
ここでは高らかに汽笛が鳴る。

ニコライ  そうでした!駅へ向かわないと。Ай-даアーィダ, да ай-даアーィダ.家を出てもう丸一日歩き通してようやくこの首都行きの駅まで辿り着きました。まったく中途半端に交通の便が良くなったモノだからその恩恵からこぼれてしまった私のような連中にとっては、不便でしょうがない。文明というやつは煩い隣人と同じですな。あればあったで世を騒がすしなければどこか物足りない。兎も角ようやく駅へ着いた、時間もまだ間に合いそうだ。

そんなこんな言ってる間にBGさん、鞄に紐を結びつけている。そしてガッと引っ張る。

ニコライ  そうホッと一息ついた時にこれは物凄い力でした。私の大事な鞄をひっつかんで止めた者がいたんですよ。

と、鞄が急にひっつかまれる。ひっつかんだのはとある老人。この老人を含めやりとりは全てマイムになるが、鞄を挟んでの張力はBGさんが協力。

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最終更新日 : 2012-01-05 00:03:02


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