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学生が二人、夕焼けで赤く染まった帰り道。



「え?何て言ったの?今」
まるで普通のことのように、何でもない事のように薫が言うから、私は聞き流せなかった。
冗談は冗談らしく、もっと大げさに言ってほしい。
なのに、薫はさっきと同じように、(まるで今日の夕飯の献立は何だろうね、って言うような口調で)繰り返す。
「私、夏休みになったら引っ越すんだ」
「おかえり、アカリ」
家に帰っても、ご飯を食べる気にもならず、部屋へ駆け上った。
なのに、部屋の前には可愛らしい女の子が一人。
可愛らしい外見に不釣合いな、胸元が見えそうなタンクトップと、すらりと長い手足が見える短パン。
私の部屋の扉に背中を預けて、あぐらをかいて座ってる。
彼女は私の親戚。
「……今、話したくないんだけど」
「あら……そんな可愛くない口をきくのはどの口かしら」
「いた、いた、いたいってばっ」
立ち上がると手を伸ばして私の頬をぎゅっとつねる。
私が大声を上げようとすると、その前にさっと手をひっこめて。
「年上には敬意をはらうものでしょう?」
その子はとっても可愛い笑顔を見せる。
とっても可愛い、でも、とっても怖い……。
「さあ、どうして暗い顔をしてたのか、教えてちょうだい」
「あらまあ、そんな事」
「そんな事って言わないでよ」
私はベッドに顔をうずめる。
制服がしわになるかもしれないけど、着替える気にもならない。
そういう点、お母さんと違ってあの子は何も言わない。
さっきの事を話してる間も話し終わった後も、私が寝ている隣に腰掛けて、私のことを見ている。
「どうしてそんなにショックなの?」
「………」
「水晶玉の予言で見たとおりでしょう?」
私は確かに知っていた。
薫が引っ越すこと、転校すること。
「私が悲しかったのは、転校じゃなくて」
涙と一緒になってじわりじわりと沸いてくるのは、何だろう。
「薫が何でもない事みたいに、言っちゃうからだよ」
ぽとぽと、シーツに染みができる。
お母さんなら絶対、ティッシュで拭いなさいって言うんだけど。
この子は違う。
ただ、私が泣いている間中、そばに居るだけ。

でも何だか安心できて、私はそれだけでよかった。
「メールしてよね。電話も」
「うん、絶対。アカリも遊びにおいでよ」
「うん…約束」
薫の目には、涙がいっぱい溜まってる。
私も色々言いたかったけど、言葉にできなくて。
話したら泣いてしまいそうで。
薫のお母さんが、出発するよって言うまで、二人でうなずき合ってた。
ありがとう。
ありがとう。
元気でね。
またね。
私たち親友だよね。


引越しのトラックが角を曲がって見えなくなっていく。
私は振っていた手をゆっくりと下ろした。
もう、今までみたいに会うことはないだろうけど。
今までみたいな友達では居られないだろうけど。

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