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この電子書籍は、私春昼がブログで発表したテレビ批評の自作選です。ドキュメンタリー、ノンフィクション番組の批評を集めています。ブログでのテレビ批評は続いています。電子書籍の内容は、時々更新します。更新時にはこのトップページに更新履歴を書いていきます。ブログ「7代後の孫への話」のリンクはこちらです。

表紙画像は、ジョージ・フレデリック・ワッツ(1817-1904)「希望」(1886)です。希望とかいってかなり絶望的な状況の絵ですが(笑)、絶望的状況でも希望をつないでいく必要があるってことで。

<最近の更新履歴>
2010年12月5日:NHKBS『死の国の旋律~アウシュビッツと音楽家たち』の批評を追加しました。


NHK『ふたり・しのぎあい、果てなき絆~日本料理人・山本征治×奥田透~』

(2010年8月21日ブログにて発表)
熱帯夜で眠れずにテレビを見ていたらNHKで『ふたり・しのぎあい、果てなき絆~日本料理人・山本征治×奥田透~』の再放送がやっていた。今まで何百本とテレビ番組を見てきたが、最良の番組だったと思うくらい、刺激を受けた名作だった。

『ふたり』は、二人の人物のドラマ、絆を描くドキュメンタリー。今回の二人は、四国にある老舗でともに修行時代を過ごした日本料理の達人。銀座に店を構える奥 田さんは、ミシュランで3年連続星3つに選ばれた日本料理の王道を歩む人。六本木に店を構える兄弟子の山本さんは、ミシュランで星2つだったが、「世界のレストランベスト50」に日本料理で初めて選ばれた、日本料理の革新者。二人は今でも互いの店に通って、互いの料理を食べあい、議論を続けている。

何故この料理を出すのか、奥田さんの店に来た山本さんが矢継ぎ早に質問する。他にも色々な選択があるのに、何故この料理にしたのか、突き詰めて考えていれ ば、明確な答えが返ってくるはずだという山本さん。二人の一流料理人の語りに圧倒されたが、二人とも、最初から有名なわけではなかった。

奥田さんは四国の老舗に弟子入りした際、厨房にも入れさせてもらえなかった。与えられた仕事は、店主の運転手と、下足番。奥田さんは夜、仕事が終わった後に、一人料理の勉強を続ける。ある日遊びに行った兄弟子の下宿に、日本料理の本がたくさん並んでいた。蔵書を見て奥田さんはすぐ「こいつできるな」と思ったという。自分も読んでいる本が揃っているし、なかなか手に入らない日本料理の専門書も並べられていたという。自分と同じものを目指しているなと感じた奥田さんは、以降山本さんの下宿に足しげく通うことになる。

奥田さんは、兄弟子山本さんのことを絶賛する。発想、考え、作り出すもの、自分が勝っていると思ったことは一度もないという。神様は僕に山本さんが持っている才能を与えてくれなかったと涙を見せる。どんな大統領や首相や国王が食べに来ても、緊張しないが、山本さんが食べに来る日だけは嫌で嫌でしょうがないと語る奥田さん。山本さんに比べて才能がないと思った奥田さんは、日本料理の王道を突き詰める道を歩む。そして奥田さんは、ミシュランで3年連続星3つをとる。

星2つだった山本さんは、どんなに有名な人が星3つをとっていても、悔しいと思うことはないだろうが、奥田さんが星3つで自分は2つだった、こんな悔しいと思うことはなかった、思い出すこともできないと語る。山本さんは日本料理の常識にとらわれない斬新な料理を次々と発表し、日本料理の革新者として、海外からの注目を集める。歴史的に評価されている日本料理と同じものを作っても、先人たちに申し訳ないと山本さんは語る。自分は日本料理をすごいと思っているのだから、この歴史をさらに進めて、先人たちが見なかった次の料理を創造すること、先人たちと同じ土俵で戦うことが、自分の生きている責任だと語る。

無名時代、下宿で日本料理について二人で語り合っていた頃、奥田さんは、風船になった日本料理が火山の溶岩の中に入ろうとしたら、自分は命がけで風船をとりにいくと語ったという。山本さんは、 自分も溶岩をおそれずに日本料理を守り抜くと答える。二人は、生涯をかけて、日本料理の頂点を目指す約束をしたのだった。

番組視聴中ずっと、自分の人生の歩み方について考えさせられた。インターネットの情報は、ゆるくて、柔らかいものが多い。久々にかっちかちにかたい本気の生き様を見た。考えて、考え抜いて、どういうものを創造するのか、いつでも答えられるようにしておくこと。常に誰より厳しく、自問自答を続けること。

も し小説や文学や哲学や思想が風船になって溶岩の中に落ちそうでも、自分は命がけで取りに行かないだろうと思った。さめていて、かつ自分がかわいいのだ。こ うやってネットで書いていれば、表現欲求も緩和される。書くことを仕事にする必要はないんじゃないかと思うようになっていた。

しかし、何故書くのか? 小説、文学、哲学、思想を信じることができなくても、言葉だけは信じることができる。何のジャンルにも特定されていない言葉になら、自分 は、二人のように、命をかけることができる。昼間仕事をしていても、夜書くことができる。それで十分と思うのは、言葉に人生をかけようと思っていないせいだ。

テレビで見た二人は、一日中料理のことについて考え続けていた。言葉に本気で取り組みたければ、少しでも多くの時間、言葉に取り組みたいと思うはずだ。自分が言葉を仕事にする理由を二人から与えられた。この熱を忘れずこれから生きていこう。

NHK・BS世界のドキュメンタリー『よみがえる第二次世界大戦~カラー化された白黒フィルム』

(2010年1月2日ブログにて発表)
2009年12月末、NHK総合の深夜でBS世界のドキュメンタリーアンコールとして、『よみがえる第二次世界大戦~カラー化された白黒フィルム』が放送された。フランス、NHK共同制作、第二次世界大戦の白黒記録映像を最新デジタル技術でカラー化したドキュメンタリー番組である。

白黒とカラーでは迫力が全然違う。スターリン、ルーズベルト、チャーチル、ヒトラー、東条英機がカラーで喋っている映像も驚いが、街中に転がっている市民の死体、戦場で負傷した兵士、親を亡くした子どもの顔が、カラーで動いているのだ。白黒記録映像の数倍、映画やゲームや小説の数百倍、現実感と説得力があっ た。

マッカーサーは戦後日本に突然やってきたと思っていたが、元々マッカーサーはフィリピンにいたのだと知った。マッカーサーは日本の猛攻撃に耐えかねて一度アメリカに引き上げたが、太平洋戦争終盤、フィリピンに戻って日本軍と激戦した。マッカーサー率いるアメリカ軍と日本軍がフィリピン市街で激戦、日米両軍の戦闘に巻き込まれて、血まみれで横たわるフィリピン男性。彼が叫ぶ顔の形相が、頭に刻み込まれた。

フィリピンだけではない、サイパン、硫黄島、沖縄、アジア各地で日本軍とアメリカ軍が戦闘する。海に飛び込む日本の少年兵にアメリカ軍の銃弾が飛ぶ。撃ち殺された少年兵の体と血が太平洋に漂う。戦場で殺しあう日本人とアメリカ人、その戦いに巻き込まれて死んでいく現地の人々。映像を見ている最中ずっと顔が歪んだ。

ドイツ戦の記録も壮絶。パリを去る時、ヒトラーはパリ全壊を命じたが、パリ市民がバリゲードを築いて、ナチスの残存兵力と市街戦を繰り広げた。パリの道路で絶命したナチス将校に走り寄り、とどめを刺すパリ市民の青年と女性。生き残るための殺し合いだった。

ト ム・クルーズ主演で映画化されたヒトラー暗殺計画(暗殺失敗後ドイツ将校即刻大量処刑断行)、ピンチョンの小説に描かれたV2ロケットのロンドン襲撃、連合軍によるドレスデン他ドイツ諸都市への、原爆投下より強烈と言われた無差別空爆、どれもむごたらしかった。戦争終盤、ベルリン市街戦の光景は、少年兵の命を巻き込みつつベルリンの街が全壊しており、地獄絵図という言葉がぴったりだった。日本本土で決戦がなくて本当によかったと思っていたら、原爆投下によ り廃墟というか現代アートみたいになった広島の映像がカラーで出てきて、顔がまた歪んだ。

性別年齢にかかわりなく、たくさんの人間が裸にされて、ごみのように積み重なっているアウシュビッツ他ユダヤ人強制収容所の映像のみは、白黒だった。ユダヤ人団体等の「大人の事情」により、強制収容所 の映像のみ白黒になったのだろうが、裸で殺された人、一人一人を着色していったら、いくらデジタル技術に頼っても精神異常に陥るだろうと思えた。

第二次世界大戦関連資料で、この番組ほど衝撃的で印象深いものは過去なかったと思う。20世紀に起きた国家間の戦争は、絶対に繰り返してはならないと強く思える地獄の黙示録的映像。かつ、この後よくドイツと日本とイタリアは経済成長できたなと思える憎悪と人殺しの連続だった。

さて、昨年の世界恐慌は、第二次世界大戦前の世界恐慌以来の大不況になると予言されたが、世界は意外に大丈夫だった。経済はたぼろだが、アメリカ政府もEUも日本も、 民主主義国家体制を続けているし、テロや事件は数多く起きても、国家間の戦争は起きていない。21世紀、随分世界は危険になったと思いがちだが、2000 年以降起きた国家間の戦争は、アメリカ・イラク戦争のみ。20世紀の大量殺戮の歴史から、人類は「国家間戦争こそ最悪だ」という事実を学んだようだ。

未来から振り返ってみれば、20世紀は、大量殺戮の世紀である。映像、証言、記録が残りまくっている。21世紀以降の人類は、20世紀に比べればましな社会を維持していけるだろうか。未来を担うのは、21世紀を生きている一人一人の選択による。


というわけで、あけましておめでとうございます。新年一発目から大変重い内容の記事でしたが、世界は想像以上に平和なのでした。この平和を維持していけるよう、今年も当ブログをよろしくお願いいたします。


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