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受付嬢はコンパがお好き?

 「おはようございます」 

 「あれ?なんだかご機嫌ですね。今日はデートですか?」

 「えっ、わかる?」

 「やはりそうなんだ」

 「なんて嘘だよ。今日は大学時代の同期に久しぶりに会うから楽しみで」

 「ほんとう?」

 「本当だよ。野郎ばかりで寂しいから良かったらどう?」

 「遠慮しておきます」

 「そうだよね。得体の知れない野郎と飲んでも楽しくはないだろうし」 

 

 危なかった。女性の勘は鋭いとは言うけれど朝の挨拶だけでわかるなんて。そんな彼女は私よりも1年先輩。年齢は私の方がひとつ上。世間にはどこにでもいるようなふたりだが仕事ではいつも助けられている。だから私は彼女に頭があがらないのだ。その上、いつも監視をされているようで私は苦手だった。さっきも色々と詮索をされたくなかったので本当のことを言わずに咄嗟に嘘をついたと言うわけ。でも、これが後でとんでもないことになるとはこの時の僕にはまったく予想できなかった。

 

 (えっ、本当かよ?そんな女性達とコンパが出来るなんて?)

 (そうなんだよ。いつも営業に行く会社の受付嬢にダメもとで今度飲みに行こうよと誘ったらコンパだったら良いですよというのだよ)

 (でも、その子は受付嬢かも知れないけど他のメンバーは?)

 (それが彼女が言うには全員受付嬢を呼ぶっていうんだよ)

 (マジかよー、考えただけでも鼻血が出そうなんだけど)

 (で、三上は参加する?)

 (そこまで話をしてから返事を聞くなよ。もちろん参加だよ。残業があろうがなかろうが必ず10分前には駆けつけるよ)

 (わかった。じゃ詳細が決まったらまた連絡する)

 (おう、宜しく)

 あれから3週間。今日は待ちに待った受付嬢とのコンパ。今日は仕事を適当に切り上げ早く帰るぞと思っていると部長に呼ばれ嫌な予感。

 「三上君、ちょっと」

 「はい」

 「三上君は八王子に住んでいるんだよね?」

 「はい、そうですが」

 「良かった。それでは今日は早く帰っても良いから帰り際にこれを届けてくれないか?」

 「えっ、これを私がですか?」

 「そうなんだよ。先方がどうしても今日中にというから困っててね。じゃあ、頼んだよ」

 そういうと部長はさっさと自分の席に戻っていった。嘘だろ、今日は大事な大事な受付嬢とのコンパ。しかもあわよくばあんなことやそんなことまで…。それを早く帰って良いからこれを持っていけだと。あの禿げと部長を見ると伊達さんがこちらを見て二ヤついていた。

 

 「三上さんもついてないわね。デートが台無しじゃないのどうするの?」

 「だからデートじゃないって言ったじゃないですか」

 「素直じゃないんだから。それでどうするつもりなのそれ?」

 「正直、非常に困っています」

 「そうだよね。久しぶりの再会だもんね。大学のと・も・だ・ち・と

 またしてもニヤけて伊達さんはいった。

 「なんかさっきからニヤニヤして感じ悪いですよ。伊達さん」

 「良いの?私にそんなことを言っても。助けてあげないよ」

 「えっ、なんか作戦があるんですか?」

 「ないわよ」

 「そんな怒らないでくださいよ。何かご馳走しますから」

 「えっ、本当?」

 なんて現金な奴なんだと思わずにはいられなかったが、受付嬢とのコンパを思えば背に腹はかえられぬため彼女にすがるしか方法はなかった。

 「それでどうすれば良いのですか?」

 「その前に何をご馳走してくれる?」

 「えっ、それでは今度飲みに行きましょうよ。ご馳走しますから」

 「よし、契約成立」

 (やれやれ)もちろん、伊達さんには悟られないよう細心の注意をしての嘆きだ。

 「それでどうすれば良いのですか?」

 「それを貸して」

 「えっ、これですか?」

 「そう」

 書類を受け取ると伊達さんはあっという間に部長の元に行き何やら交渉していた。

 

 「部長、先ほど三上さんに頼んだ書類の件ですが、バイク便ではだめですか?というのも三上さんは体調が悪いらしく帰宅前に病院に行くらしいのですよ」

 「なんだ。だったらさっきそのように言えば良かったのに」

 「部長が困っていたので言い難かったんだと思いますよ」

 「そうか、それは悪いことをしたな。書類はバイク便で何の問題もないが今日の夕方までに必着で頼むよ」

 「了解しました。必ず今日の夕方便で届けます」

 伊達さんは振り向くと私に小さくOKサインをだした。書類の行方は気になりつつもOKサインで私の頭は既にコンパへとシフトチェンジしていた。

 

 私が慌てて待ち合わせの場所に行くと既に幹事の須藤、山田、村木、富永、そして、いつもは間違いなく遅刻の木田まで既に来ており私が一番最後だった。

 「みんな早いな、このスケベが」

 「あのな三上、このスケベはないだろうこのスケベは。大事な人との待ち合わせに遅れない。これビジネスマナーの基本中の基本だよ。三上は新人研修で習わなかったの?時間にルーズな人は社会で信用されず仕事も出来ない。だから君たちは時間厳守を心掛けること、なんて鬼軍曹みたいな親父に徹底的にしごかれた過去が。私はそのお蔭で入社以来遅刻なんて一度もしてないよ」

 「なるほど」

 鼻の下を伸ばしながら他のメンバー全員が大きくうなずいたので私は思わずふき出した。

 「ところで今日のメンバーだけど本当に受付嬢なんだろうか?」

 いつもは無口な木田が言った。

 「それはそうだろう。受付嬢がそう言うのだから」

 「だとしたら今回は本当に期待ができるぞ」

 「そうだよな。受付は会社の顔だから変な子はいない筈。これは本当に楽しみだ」

 「まさかとは思うけど制服ではないよな?」

 富永の的外れな質問に一瞬固まったが、我々はそれを無視し鼻の下を伸ばしながら店を目指した。

 

 「さすがにまだ来てなかったな」

 「まっ、良いさ。その分、作戦会議が出来る」

 「我々にも好みはあるけど、いつも通り女性に主導権を持たせる戦略で良いかな」

 「異議なし」

 「今回は6名と人数が多いけど全員がカップルになれるよう頑張ろう」

 「そうだな」

 「ところで須藤は幹事の子を狙っているんだよね?」

 「うん。でもそんなに親しい訳ではないし、選ぶ権利は女性にあるのだから別に気にしなくても良いよ」

 「そうか悪いね。いつもコンパの企画をして貰って」

 「友達なんだから当たり前だろ。気にすんなって」

 「ところで前回のコンパで意気投合してた看護士さんとはどうした?」

 「あの子となら普通に付き合っているよ」

 「そう、それは良かった。えっ、普通に付き合っている?では、今日はどうして来ているの?」

 「どうしてって別に結婚した訳ではあるまいし悪い?」

 「それはそうだけど。俺は彼女を大事にした方が良いと思うけどな」

 「大事にしているさ」

 「ふふっ、大事にね」

 今さら須藤に言うつもりはないけれど、私はその看護士を狙っていた。ただ、女性が須藤を選んだので私にはどうすることもできなかった。それだけにその後が気になって何気に聞いてしまったのだが、それにしても彼女をキープしておきながら受付嬢に声をかけるなんて・・・。まっ、それが須藤らしくて良いけれど。

 私も今夜は何とかしなければと心に誓った時、女性陣が現れた。

 

 「幹事の須藤です。仕事の都合でひとり遅れている方がいるようですが、時間になりましたので始めたいと思います。それでは男性から順番に簡単な自己紹介をお願いします」

 「山田です。趣味はディズニーランドに行くことです」

 「村木です。みんなに韓流スターの誰かに似ていると言われますが、それが誰なのか言われたことがありません。心当たりがあれば教えてください」

 「富永です。生粋の江戸っ子です」

 「三上です。緊張していますが宜しくお願いします」

 「木田です。カラオケが好きです。関西出身なので突っ込みはお任せください」

 「それでは女性陣もお願いします」

 「はじめまして幹事の近藤です。趣味はお城の見学です。特に高知城が好きです」

 「原田です。趣味は料理と温泉巡りです」

 「沖田です。趣味は剣道です。今も剣道を習っています」

 「芹沢です。趣味はサイクリングとカラオケです。サイクリングしながら歌を歌うのは最高です。今度一緒に行ってください」

 「土方です。私もディズニーランドが好きです」

 この自己紹介に男性陣から「ウォー」と声が出た。

 「やったな、山田」と私もついでに冷やかした。 

 

 「1名遅れるということでしたが、自己紹介も終わりましたのでここで乾杯をしたいと思います。なお、乾杯のあとはそれぞれご歓談ください。それでは乾杯!」

 「乾杯」

 

 大きな声で乾杯といったものの私の正面だけ空席だった。山田の話ではないけれどこんな日に遅刻だなんて期待できないなと思いながらひとり寂しく飲んでいると

 「何をニヤニヤしているのですか?」

 「うん、実はここに来る前に待ち合わせをしていたんだよ。そうしたら今日に限って皆の集合が早くてさ、それで皮肉を込めて皆にこのスケベがと言ったんだ。すると山田がというかディズニーと言った方がわかり易いかな?時間にルーズな人は社会で信用されず仕事も出来ないなんて言うから、きっとこれから来る女性も期待できないなと思ったらおかしくてね」

 「なるほど。それは一理ありますよ。私も時間を守れない人は信用しませんから」

 「ふ~ん。そんなものかね」

 「そんなものですよ。私達は受付にいるから嫌でも時間に厳しい人といい加減な人はおぼえてしまいます。しかも時間に厳しい人は仕事とプライベートを分けていますから」

 「えっ、それどういうこと?」

 「時間に厳しい人は受付で今度飲みに行こうなんて絶対に言いませんよ」

 「そうかな?須藤は時間に厳しいと思うけど」

 「そうです。須藤さんは例外です。というか、時間に厳しい人でも飲みに行こうという人は沢山います。でも、口頭ではなく名刺にコメントが書かれていたり、メモを渡されたりひと工夫あるのです。確か、須藤さんも名刺だったはずです」

 「ふーん、あの須藤がね」と言いながら須藤を見ると既にビールを注ぎに移動していた。

 「ちなみに、三上さんは受付で飲みに誘ったことはありますか?」

 「残念ながらないよ。というのも私が営業にいくような会社に人なんていないし、口説きたくても電話が相手じゃ無理でしょ」

 「そうなんですか?受付に電話機?知りませんでした」

 「えっ、本当?今時受付に人がいる方が少ないと思うけど」

 「ふーん、そうなのですね。私の友達には受付をやっている人が多いから知りませんでした。あっ、飲み物がないようですが次は何にしますか?」

 「有難う。でも、自分で頼むのから大丈夫です。ところで最後の人は友達ですか?」

 「それが私もその人だけは知らないのですよ。本当は内緒なんだけどね」

 「へえ、そうなんだ」

 「私が相手では不服ですか?」

 「いや別にそういうつもりで聞いたんじゃなく単純に気になったから」

 「なら良いけど」

 「ごめん、注文ついでにトイレに行ってくるよ」

 少しトイレに行くには早い気もしたが、席を外すにはこれくらいしか思いつかなかった。それにしても不服?と聞かれ「はい」と答える人が世の中にどれくらいいるのだろうと逆に質問をしたいところだった。確かに受付をしているので奇麗ではあるが、私の好みではなかったし、遅れてくる人を見てから最終的な判断をしたいと思うのは私だけではなく男性全員の一致した気持ちだろう。


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最終更新日 : 2018-03-03 12:07:23

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あとがき

 この作品はフィクションです。

 「えっ、何このあとがき」と思った方も多いことでしょう。実は私も変だと思いつつ書きました。もちろん、理由があるからです。作品を書き終え、いよいよ販売の手続きに進みます。その際、本のジャンルを選ぶのですがフィクションの選択肢がない(もしかしたら私の確認ミスかも知れませんが…)のです。その為、あとがきの最初の一文でお断りしました。というのも勘の良い人にはおわかりかもしれませんが、今回の作品テーマがコンパだったので「これってもしかして」と該当するような人が近くにいるかも知れないのです。でも、ご安心ください。世の中には他人の空似などたくさんいるのですから。むしろこれを読み似ていると思う該当者が近くに居るのなら彼や彼女ならどうするだろうと一緒に楽しんで頂ければ幸いです。

 さて、今回の作品についてですが、最初にテーマを決め書き始めました。ただ、よく考えてみたら私自身、今までに一度もコンパに参加したことがなかったので大変苦労しました。例えば「あれ?コンパはどのようにはじめるのかな?」という有り様でしたから。

 また、各章に登場する人物の席次も気にせず書いていたのであとで見直し、辻褄が合わず部分修正をするなど苦労の連続でした。もっとも今回の苦労は次に生かせる財産となる訳ですから無駄にはならないのですが。それでも書き始める前に席次を決め、情報を収集してから行うべきだったと反省しました。ただ、本音を言うと白髪交じりの中年親父が小説のネタを知るためにコンパについて教えて欲しいなどと聞くのも恥ずかしく、今までの人生経験を踏まえ独断と偏見で書いてしまったと言えなくもないのです。したがって、乾杯の音頭や席を外す描写などは歓迎会風になっていると思いますがその辺はご了承下さい。

 そして、もうひとつ。人生には何があるかわからない(私のように兼業で文章を書いたり、講師をしたり)のだからコンパの誘いも恥ずかしがらずに参加すれば良かった。社会人になってからコンパを企画すれば良かったなどという後悔もしたのです。そこでこれをご覧の皆さんに老婆心ながら申し上げれば「コンパの経験がないという方がもしいたら、一度くらいの経験はお勧めしますよ」ということです。若い時には気がつないことでも年齢を重ねれば気がつくこともあるのです。

 最後に、本のタイトル(受付嬢はコンパがお好き?)とコンパの相手である受付嬢について補足するとそもそも私は受付嬢と話をする機会もなく勝手な思いでペンを走らせました。そのため、気分を害するような描写がありましたらそれは私の妄想がなせる業ゆえご了承下さい。

 それではこの本をご購入頂いた方にお礼を申し上げ、次回作(仮題:志望動機はなんですか?)に取り掛かろうと思います。


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最終更新日 : 2018-03-03 12:07:23

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奥付

 

受付嬢はコンパがお好き?


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著者 : Next One
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最終更新日 : 2018-03-03 12:07:23

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