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○ ナイトレートの劣化
ステージ1:画像がアンバー系に変色または褪色する。微かな有毒臭を発する。フィルム缶の輪状のサビがロール上に転移する。
ステージ2:エマルジョンが粘着化し、巻き取りの際にフィルムとフィルムがくっついてしまう。
ステージ3:フィルムの一部がぐにゃぐにゃになり、ガスを発生して泡状に膨れ、刺激臭を放つ。
ステージ4:フィルム全体が柔らかくなり、一つの塊となる。表面が粘り気のある泡で覆われる場合もある。とても強い刺激臭を発する。
ステージ5:フィルムのかたまりが崩れるか、あるいは完全に茶系色の粉末になる。この粉が何らかの刺激によって発火する可能性もある。

3.42 アセテートの劣化:ビネガー・シンドローム
アセテート・ベースのフィルムはいわゆる「ビネガーシンドローム」の脅威にさらされています。劣化段階で発生する酢酸(ビネガー)臭からこう名付けられたビネガーシンドロームは、分子レベルで起こる化学変化に由来し、取り返しのつかない深刻なダメージをフィルムに与えます。水分・熱・酸が混ざるとベース面は酢酸を発生しはじめます。この過程は自己破壊的ともいえるものです。というのも、いったん分解がはじまると自ら分解を促し、劣化はさらに増幅するからです。フィルムが自己破壊点に達したとき、発せられる酢酸の量は急激に増加しはじめます。アセテートが先天的に持つこの性質には、気候が大きく関与しています。なぜなら、フィルムが取り込む水分の量は気温によって決まり、さらに熱が化学反応に必要なエネルギー源となるからです。ここで重要なのは「マイクロ/ミクロ環境」です。この用語はフィルム缶の内部の環境を指して使われます。ビネガーシンドロームは伝染のおそれがあるので、この病にかかったフィルムは「健康」なフィルムから隔離しなくてはなりません。ビネガー臭はアセテートフィルムの劣化の兆候として、もっとも顕著なものです。しかし、兆候はそれだけではありません。フィルムの状態は酸を検出する試験紙によって調べることで、フィルムの保存状態を客観的に判断し、必要な処方を把握できます。エッジの白い粉はプラスチック・ベースの分子が脆くなることによって発生し、ベースの破壊を意味します。さらに劣化が進行すると、フィルムは縮んでボロボロになります。1%以上縮んだフィルムは映写機にかけることによってさらに傷んでしまうので、上映しないでください。(「5.映写」参照のこと) 

※ ビネガーシンドロームを検出する試験紙
IPI=イメージ・パーマネンス・インスティチュート(所在地:米国NY州ロチェスター)が開発・販売している「A-D Strips」のこと。http://www.imagepermanenceinstitute.org/

縮みを回復する技術(リダイメンショニング)を施せば、完全な回復は無理でも改善することはできます。しかし回復は一時的なもので、フィルムを台無しにしてしまう危険もはらんでいるため、ネガやニュープリントを作成するときなどの最終手段として、あくまでも現像所など専門機関に依頼してください。 

 

○ アセテートの劣化 

1. 酢酸臭 

2. 縮み 

3. 反り(カッピング):フィルムがカーブして平らにならず波状になる 

4. クレイジング:エマルジョンが剥がれて画像がぐちゃぐちゃのモザイクのようになる 

5. エッジに白い粉が表出、バインダーの劣化(バインダー=ベースとエマルジョンのつなぎの役割を果たす部分) 

6. フィルムの巻きが角張ってくる (上部イラスト参照) 

7. フィルムが柔軟性を失い、乳剤面やベースが剥がれ落ちる 

 

3.43 褪色と劣化 

往々にしてフィルムには褪色などの化学的劣化がつきものです。これは現像の仕方に問題があったり、保管状態が長期にわたって不適切であったりすると起こります。褪色したフィルムは元には戻せません。しかし、より良い保存場所に移すことで褪色の進行を遅らせることは可能です。(「8.家庭での収蔵」参照のこと) 

 

4.検尺、取扱い、クリーニング、補修 

 

フィルムの状態検査は、今後のフィルムの運命を決定づける作業です。すでに劣化しているフィルム、または傷みの激しいフィルムが寿命をまっとうするには、適切な環境に保管されていなくてはなりません。縮み具合や傷み具合は、それ以上悪化させないためにも、きちんと把握しておく必要があります。深刻な場合は最寄りのフィルムアーカイブ、あるいは専門機関(現像所など)へ問い合わせてください。 


4.1 準備 

フィルムの取扱いと補修に必要なものは以下の通りです。ほかに(細かい屑が出るため)小型の掃除機やフィルムバスケットがあると便利です。 


・ 毛羽立たない布地 

・ フィルムクリーナー 

・ スプライシングテープまたはフィルムセメント 

・ 布手袋 

・ 不燃性のフィルムリーダー(新品) 

・ コア(巻き芯)とフィルム缶(フィルムアーカイブ仕様のもの) 

・ カッター、剃刀の刃 

・ はさみ(和ばさみ) 

・ アシッドフリーのテープ (画材用品、博物館仕様のもの) 

・ ルーペ、拡大鏡 (または古い映写レンズ) 

・ A-D Strips

・ パーフォレーション補修テープ 

・ 乾燥剤(富士フイルムの商品名は「キープウェル」) 

・ 埃よけマスク


まずは清潔な作業場を用意してください。フィルムを巻き取るときは、明るい場所で安定した台を使用してください。台の上にフィルム缶を乗せるときは、すり傷防止のために清潔なタオルで覆いましょう。金属製の道具類(例えばスプライサー)は電器店などで手に入る100%アルコールで清掃してください。90%アルコール(薬局などで売られているもので、残りの10%は水分)しかない場合は、メタル部分を拭きとった後、錆ないよう注意してください。フッテージカウンターやプラスチック製の道具は精製水を使用して汚れを落としましょう。 

 

フィルムを扱うときはコットンの手袋を着用し、こまめに手を洗ってください。テープスプライスの箇所が多いと、テープに綿毛が付く可能性もあり、またフィルムが裂けるといった新たなダメージにもつながりかねないので、場合によっては手袋をしないほうが安全です。フィルムはエッジを持つようにしてください。フレームやサウンドトラックに触れる場合は手袋を着用してください。皮膚から出る油がフィルムに付着しないように注意します。フィルムに触ると指紋が残ります。フィルムは非常に裂けやすい物質ですから、常に細心の注意を払ってください。 


4.2  巻き取り前 

【見ため】巻き取る前にフィルムのエッジを必ず確認してください。湿気の多い場所に保管されていたフィルムは、カビの被害を受けていることがあります。エッジにカビの被害がある場合、フィルムクリーナーをコットンに含ませてフィルムの巻きの流れに沿って丁寧に拭きとってください。全体的にカビに覆われている場合は、現像所に持ち込んでクリーニングを依頼するのが賢明でしょう。カビの種類にもよりますが、中には乳剤を食べて画像を消してしまうものもあります。カビがひどい場合は人体への影響もあるので、菌を吸い込まないよう注意し、マスクの着用を心掛けてください。工具店などには使い捨てのフィルター付マスクが、カビ用や煙霧用など用途別に販売されています。カビの生えたフィルムを扱った後は必ずすべての道具を拭き掃除して、他のフィルムにカビが転移しないよう注意してください。 

 

カビが発生していなくても、エッジのクリーニングはおすすめです。巻き取りの前に汚れを落として画像に汚れが付くのを防ぎましょう。


【臭い】フィルムの臭いをかいでみてください。樟脳(ナフタリン)の臭いは1920~30年代のフィルムにはつきもので、劣化の兆候とはいえません。乾燥しすぎて干からびるのを防ぐために使用されたと考えられています。劣化のはじまっているアセテート系フィルムは酢酸臭を放ちます。もし酸っぱい臭いがしたら、そのフィルムの劣化はかなり進行しているので、ほかの「健康な」フィルムから隔離し、優先的にフィルムからフィルムへの複製や低温保存をおこなってください。より正確に劣化の進行を知りたい場合は A-D Strips を使用してください。これは染料でコーティングされた紙片を使って、フィルムから発生している酢酸量を検知するものです (リトマス試験紙に似ています)。 


「ビネガーシンドローム」にかかったフィルムは以上のような方法で汚れを落とし、乾燥剤と共に保管することもあります。フィルム専用の乾燥剤は、密封したフィルム缶の中でフィルムを取り囲む水分や酢酸などを吸収します。 

 

現状でフィルムが室温管理されているのであれば、より低温、より乾燥した環境で保管できるよう工夫してみてください。そうすることでビネガーシンドロームや褪色といった劣化の進行は、間違いなく遅らせることができます。 


4.3 インスペクションと補修
指先でフィルムの両側のエッジをはさんで持ち、ゆっくりとフィルムを巻き取っていくと、エッジの傷みを感じることができます。マスキングテープやセロテープ(フィルムアーカイブ仕様ではないテープは酸性の接着剤を含み、フィルムと化学反応を起こして劣化の原因となります)、クリップやホチキスなどの付着物を丁寧に取り除き、接着剤の残りはフィルムクリーナーで拭きとります。エッジが滑らかであることを確認してください。エッジのトリミングには新品のはさみか剃刀の刃を使用してください。古いスプライスでテープの素材が不明のものは貼りかえます。古いテープを剥がすのは難しいこともありますが、クリーナーを多量に使用して少しずつテープを柔らかくして剥がしていってください。 

磁気録音のトラックで、とくに湿気の多いところに保管してあったものは、くれぐれもゆっくりと巻取ってください。サウンドトラック部分が剥がれて、フィルムの裏側にくっついてしまうことがあります。巻き取りのペースが速過ぎると、中央でフィルムが割けることもあります。万一このようなことが起こったら、スプライシングテープで補修してください。割け目がないかぎり、パーフォレーション(スプロケット穴)はテープで塞がないようにしてください。テープは両面に貼り、フィルムはエンドが外側にくるようにして保管してください。 
古いスプライスは両側に少し湾曲させて強度を調べてください。古いスプライスを剥がすときは、クリーナーを染み込ませた毛羽立たない綿布や綿棒などを使用してくさい。フレーム破損もスプライシングテープで補修することがあります。ライトボックスの上にフィルムをテープで固定してからテープ補修をして、最後にスプライサーで穴をあけます。簡単ではありませんが、スクリーンにこの避け目が映らないように補修するのが理想です。パーフォレーション壊れは、スプライシングテープを小さく切ってエッジのみをカバーし、後で穴をパンチする方法で補修することもできます(画像をテープで覆うことはできる限り避けるべきです)。最初から穴のあいているエッジ幅のテープを使用することもあります。こういったテープは16mm、35mm用などが販売されています。破損を悪化させないために、切れ目にV字型のカットを入れることもあります。


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