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7.5  ラベル貼り 
フィルムにラベルを貼るというのは、忘れてはならない作業です。各巻の各フィルムに、「タイトル、巻数、ネガ/ポジ/オリジナル・ネガ/音ネガ等の種別」を明記しましょう。リーダー上にトップまたはエンドの別を記すのも良いアイディアです。アーカイバル仕様のインクのペンを使ってください。画材店などで入手できます。摩擦で消えないことを確かめてください。もし特殊なフィルム(例えばハンドペイント)であれば、それもリーダーに明記してください。言うまでもなく、フィルムを入れる缶や箱にもラベルを貼ってください。すべてのフィルムケースにラベルを貼り、フィルムに何か変化を加えたら、その都度記録を残すことをおすすめします。また何を何処に収蔵しているかも記録してください。簡単なリストを作成するか、あるいはパソコンに記録しておくと便利でしょう。フィルムに対応するタイムシートなどの紙資料も捨てないでください。統一感のあるラベルはあなた自身にとってだけでなく、現像所やフィルムアーカイブ、そして、あなたのフィルムを受け継ぐ次世代の人々など、将来的にあなたのフィルムに触れることになるすべての人々の役に立つでしょう。 
 
8.家庭での収蔵 
 
理想の収蔵場所とは、温室度を制御できる場所です。低温度と低湿度は映画フィルムの延命の素です。通常の条件̶例えば室温が摂氏20度・相対湿度50%の場合、色素は褪せ、トリアセテート・ベースのフィルムは長期保存の許容範囲を超えた速度で劣化します。冷やすことと乾燥させることがフィルムの長期保存にはもっとも重要です。頻繁に使うフィルムではないのなら、家庭用の冷凍庫が代替保存庫として適しています。長期とは、ここでは「数ヵ月以上」を指します。冷凍庫や冷蔵庫は温度の調節は可能ですが、湿度を正しく調整することができません。そこでミクロ環境の湿度を調整するため、防水包装をする必要があります。

※ 摂氏→華氏の換算公式:(華氏温度)= 1.8℃(摂氏温度)+ 32 
 
※ 絶対湿度 
容積中の水分量(g)。基本的には、1立方メートル中(1m×1m×1m)の水分重量を示す。 
 
※ 相対湿度 
飽和水蒸気量(水が空気中、気体でいられる最大量の絶対湿度)に対しての割合(%)。飽和水蒸気量は気温が上がると増え、下がると減る。 

8.1 室温と相対湿度 
通常の家屋(摂氏20度・相対湿度50%)に保管されている映画フィルムの平均寿命は40~50年ですが、明らかな劣化(例えばビネガーシンドロームや褪色など)がはじまる前に、もし摂氏10度分だけでも温度を下げれば、その寿命は100~125年にまで延びます。フィルムの延命のために推奨される保管環境は、摂氏4~10度・相対湿度20%〜40%です[参考:Preservation Calculator(IPI)]。極端な乾燥(相対湿度20%以下)はフィルムを脆くする可能性があります。一方で、じめじめした空気は低温度の環境でもカビの発生を促します。カビは通気を良くすれば防止できますが、相対湿度70%を超える日が数日続けば発生します。 
 
湿度にしても気温にしても、急激な変化は避けるべきです。冷凍はフィルムによくないと考える人が多いようですが、冷凍→解凍のサイクルをうまくコントロールすれば、フィルムは損傷を受けないというテスト結果が出ています。しかしながらフィルムに水滴がつくのは極めて危険なので、結露を避ける必要があります。 

8.2 フィルムの冷凍:5段階 
第一に、フィルムとその梱包物が室温にあることを確かめてください。フィルム素材の温度を釣り合わせるのにそれほど時間はかかりません。しかし、それ以前に湿気の多いところに保管されていたフィルムの場合は、乾燥にならすために2~3週間が必要となることもあります。フィルムを缶に入れた状態で蓋を開け、湿度50~60%を越えない室内でしばらく放置します。フィルムの冷凍準備にはそのような環境の室内が必須です。気温の高い日や蒸す日は準備日に適しません。条件によっては、フィルムや梱包物に結露が起こる危険性が高いからです。 
 
スペースと予算さえ許せば、フィルム専用のフリーザーを購入しましょう。コレクションの規模にもよりますが、家庭用冷凍庫や業務用の冷凍庫などの選択肢があります。

1. 缶/箱をアーカイブ仕様のテープで密閉し、できる限り真空に近い状態にする。 
2. 分厚いジップロックのフリーザーバッグに入れる(厚さ3ミル以上のものを使用)。 
3. 缶をフリーザーバックに入れ(複数缶をまとめて1枚に入れても良い)、バッグをテープで閉じる。バッグの中の空気は最小限に留める。バッグにラベルを貼り、開けなくても中味がわかるようにする。 
4. さらにもう1枚のバックに重ねて入れ、テープで閉じる。可能であれば、1枚目と2枚目のバッグの間に水分指示器を入れる。 
5. 上方からの圧力があまりかからないように冷凍庫の中に入れる。段ボール板を間に挿入してフィルムを支え、積み重なったフィルムを安定させる。 
 
※ 3ミル=0.0762ミリメートル。家庭用として日本の代理店から販売されているジップロックのフリーザーバッグは0.068ミリメートルなので、若干薄い。 

8.3 フィルムの解凍:ステージング 
冷凍状態[摂氏3度・相対湿度30%]から通常の室温[摂氏20度・相対湿度50%]へ移すときは、結露を防ぐためにその中間の状態で慣らす必要があります。慣らし室(ステージングルーム)の環境は、 気温、相対湿度ともに、冷凍状態の温度と室内の気温のちょうど中間の値をとるのが理想です。簡単に言えば、冷凍室から冷蔵室、そして作業場へと順に移して、フィルムに結露が起こらなければ問題ありません。 
 
ステージングの時間はフィルムのロールの大きさによります。小さいロールであれば短時間で済むでしょう。例えば400フィート、6巻もの、16mmの場合、25分で使用可能になり、3時間で完全に環境に順応します。水分防止袋を使えば外側が結露してもフィルムには影響がないため、ステージングの時間も若干短くて済みます。しかしながら、最短でも使用する1時間前にはフィルムを慣らしておくべきでしょう。冷凍状態からフィルムを使用するときは、袋を開ける前にフィルムを室温に慣らしてください。

8.4 収蔵場所の選択肢 
冷蔵するのが無理なら、どこにフィルムを保管すべきでしょう?あなたの自宅を見回して以下の可能性を探ってみましょう。 
 
◎ 屋根裏部屋には保存しない。屋根裏は夏になると暑過ぎ、季節による気温の変化が激し過ぎる。 
◎ 暖房器具、配管設備、セントラルヒーティングのパイプ、スプリンクラー、窓、電源、風呂場、台所の近くにフィルムを置かない。 
◎ 直射日光のあたるところにフィルムを置かない。 
◎ 湿気を避ける。地下室はたいていの場合、湿度が高く、カビの温床になりかねないので保存には向かない。地下室は水害の恐れがある。 
◎ 磁気録音のサントラに関しては、ステレオ用のスピーカーや業務用の電気ケーブルなどに使われている磁石に近づけないようにする。 
◎ 化学薬品、排気ガス、ペンキなどの近くにフィルムを置かない。高湿度の中での大気汚染も含む化学ガスは、画像の褪色や劣化を引き起こす。 
 
独立系の映画作家は、オリジナル素材を現像所のフィルム倉庫に預けることが多いようです。預ける前に現像所に保存環境を問い合わせてください。現像所との連絡は密に取るようにしましょう。現像所の倒産、移築、または売却をきっかけにフィルムが失われるケースは決して少なくありません。 

9.災害に備えて 
 
9.1  地理的分散 
オリジナル・ネガと上映用プリントを共に所有している場合(または同じ作品のプリントが2本以上手元にある場合)、火災や洪水などの災害に備えて、それぞれを別の場所に保管しておくのも一つの手です。ハリウッドの大手映画会社がネガとプリントを国内の別の場所に保管するというのは珍しいことではありません。しかし、いずれも湿温度が制御できて、適切な保管場所に限ります。そのような環境が保証されている場合のみ実行してください。 
 
9.2 洪水 
フィルムが洪水の被害にあった場合は、清潔な冷水にフィルムを浸した状態で現像所に持ち込んでください。そして現像所に洗浄と乾燥を依頼してください。 

10.用語解説 
  
[あ]

アーカイバル ARCHIVAL 
広義には、100年単位の長期保存にかなう収蔵庫や空調などの設備が整っている状態のこと。フィルムアーカイブ内で使用する備品(保存容器、梱包材、包装紙など)を指す場合は、所蔵品の長期保存に際して悪影響を及ぼすことのない素材、つまり化学反応を起こさない(不活性)素材を指す。 
    
アーカイバル・プリンティング[フィルム→フィルムへの複製] ARCHIVAL PRINTING 
復元を専門とする現像所(ラボ)でおこなう複製作業。縮みや乾燥など、劣化の兆候がみられる古いフィルムも傷めることなく扱えることが条件となる。通常は、現存するネガからプリントを作成すること、または現存するプリントからネガ(インター・ネガ)と新しいプリントを作成することを指す。現状ではフィルムからフィルムへの複製を繰り返すことが最善のフィルム保存方法とされている。 
 
アウトテイク OUT-TAKE 
最終プリントの段階で結局使われることのなかった場面を撮影したフィルム。 
 
アセテート ACETATE 
フィルムのベースの一種。遅撚性。ナイトレート・ ベース(可燃性)のリスクを回避するため、1920年代にアマチュア用フィルムとして生産が開始された。ナイトレートの製造が中止された1950年代初頭からは、35mmベースの主流を占めるようになる。アセテート系ベースにはダイアセテートとトリアセテート(=セルロース・トリアセテート/トリアセテート・セルロース/3酢酸セルロース/TAC)がある。近年ではトリアセテートが主流で、ポリエステル・ ベースとともに「不燃性(セイフティ)」とも呼ばれる。アセテート系ベースの成分である酢酸はビネガーシンドロームの要因となる。 
   
映画フィルム MOTION PICTURE FILM
薄く柔軟性のある透明な素材で、通常は片側または両側にパーフォレーションがあり、連続する画像を擁している。 

エッジウェーブ/フラーティング EDGEWAVE/ FLUTING 
フィルムの中央部が縮んで(またはエッジが伸びて)、全体がワカメ状になること。

エッジコード/デートコード EDGE CODE 

フィルムの製造番号。エッジに沿って印刷された記号が、製造年やベース素材などをあらわす。 
 
エマルジョン/乳剤 EMULSION 
感光乳剤。映画フィルムにおいてはハロゲン化銀粒子をゼラチンに分散させたものを指し、これがフィルムのベースにコーティングされる。 
 
エンド TAIL 
フィルムの巻末(トップ HEAD参照のこと) 。

オプティカル・サウンド /オプチカル・サウンド/光学サウンド OPTICAL 
光学技術によりフィルムの端に沿って記録される音声。透明なフィルム上に波線のようにみえるのがエリア で、グレーのグラデーションのようにみえるのがデンシティー。音の抑揚に対応するトラック部分の形状が映写機のエキサイターランプによって読み取られ、その光が音声に変換されて再生される仕組み。 


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