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3.敵を知ろう:ダメージと劣化

フィルムの傷みは三つのカテゴリー(機械的・生物学的・化学的)に分けて考えることができます。ここではダメージや劣化の原因について述べ、劣化をくい止める技術を紹介します。
 
3.1 フィルム年齢の確定
フィルムの状態は必ずしもその製造年によるものではありませんが、フィルム年齢を調べるに越したことはありません。まずはフィルムの製造番号を確認してください。コダック社製のフィルムにはエッジに沿って小さく製造コードが印字されているので、このコードから製作年を割り出すことができます。ただし製造から数年を経て撮影に使用される場合もあるので、これがそのまま製作年にあたるとは限りません。またコダックのコードは20年周期で同じものが使用されています。したがって1955年のコードと1975年のコードはまったく同じなわけです。そうなると、画像から年代を推察する必要も出てきます。オリジナルではなく、複製を所蔵している場合は、どの世代のフィルムの製造コードなのかを判断する必要があります。現像所でプリントの際に前世代のコードが焼き込まれる場合(プリントスルー)もあります。すべてのコードを書き出して、もっとも新しいものからそのフィルムの年齢を判断してください。 

3.2 裂け/破れ
フィルムが裂けたり破れたりするのは、たいてい巻き取り時か映写時の不適切な取扱いが原因です。また、古いスプライスが剥がれてきたときにも同様の問題が起こります。すべての裂け、破れ、スプライス壊れは、テープ・スプライサーかセメント・スプライサーで補修しなくてはなりません。



3.21 パーフォレーション壊れ
パーフォレーション破損もよく起るダメージの1つです。これは映写機へのセットの仕方が不適切な場合に起こります。フィルムのトップ/エンドや悪質なスプライスの前後にとくに著しいので、トップにもエンドにも十分な長さのリーダーを付けて悪化を防ぎましょう。古いスプライスはすべて補修し、フィルムはメンテナンスの行き届いた映写機に正しくセットしてください。縮んだり脆くなったりしているフィルムは絶対に上映しないでください。

3.22 傷
映写機のローラーの傷や埃が原因となって、上映中にフィルムの両サイドに傷がつくことがあります。すり傷は映写機だけが原因ではなく、フィルムの巻きがきつすぎたり緩すぎたりするだけでも起こります。現像所、撮影現場、あるいは編集段階でも傷がつく可能性はあります。傷の原因になるので、フィルムの端は決してきつくコアに巻つけないでください。フィルムの「若返り」方法としてのコーティングやラッカー塗布はおすすめできません。害のある化学薬品が含まれていないとも限らないからです。ベースの傷は複製の際に(フィルムからフィルムへの複製でも、テレシネでも)ウェットゲート・プリントによって目立たなくすることができます。これはフィルムを一時的に溶剤に浸すことで、溶剤が傷を埋める役割を果たし、新しいプリントに傷が焼き込まれることを防ぐ方法です。

3.3 生物学的ダメージ
フィルムは保管中に傷んでしまうことも十分考えられます。とくに高温多湿の気候において、あるいは地下室や車庫のような湿気の多い場所においては、フィルムのエマルジョンにとって致命的なダメージとなるカビや菌類の発生が懸念されます。カビは徐々にエッジ近くからフィルムに被害を与え、最終的には全体に広がります。ときには艶のない水玉のようなシミとして残ったり、画面全体にうっすらとカビが生えたりすることもあります。生物学的劣化を防ぐためには、適切な保管場所を用意しなくてはなりません。とりわけ夏期は湿度が長時間にわたって高くなる場所を避け、換気をよくしてください。

3.4 化学的ダメージ
ナイトレートやアセテートのようなフィルムを構成する物質や色素の化学変化は、避けようがありません。 

3.41 ナイトレートの劣化
ナイトレートの化学変化は時の経過とともに起こります。今日残存するナイトレートの状態はつまるところ、そのフィルムの製造と保管の歴史をありのままに体現しているのです。劣化段階はその特徴的な変化に沿って5段階に分類されます。以下にあげるのはもっとも広く利用されている劣化5段階の判断基準です。

○ ナイトレートの劣化
ステージ1:画像がアンバー系に変色または褪色する。微かな有毒臭を発する。フィルム缶の輪状のサビがロール上に転移する。
ステージ2:エマルジョンが粘着化し、巻き取りの際にフィルムとフィルムがくっついてしまう。
ステージ3:フィルムの一部がぐにゃぐにゃになり、ガスを発生して泡状に膨れ、刺激臭を放つ。
ステージ4:フィルム全体が柔らかくなり、一つの塊となる。表面が粘り気のある泡で覆われる場合もある。とても強い刺激臭を発する。
ステージ5:フィルムのかたまりが崩れるか、あるいは完全に茶系色の粉末になる。この粉が何らかの刺激によって発火する可能性もある。

3.42 アセテートの劣化:ビネガー・シンドローム
アセテート・ベースのフィルムはいわゆる「ビネガーシンドローム」の脅威にさらされています。劣化段階で発生する酢酸(ビネガー)臭からこう名付けられたビネガーシンドロームは、分子レベルで起こる化学変化に由来し、取り返しのつかない深刻なダメージをフィルムに与えます。水分・熱・酸が混ざるとベース面は酢酸を発生しはじめます。この過程は自己破壊的ともいえるものです。というのも、いったん分解がはじまると自ら分解を促し、劣化はさらに増幅するからです。フィルムが自己破壊点に達したとき、発せられる酢酸の量は急激に増加しはじめます。アセテートが先天的に持つこの性質には、気候が大きく関与しています。なぜなら、フィルムが取り込む水分の量は気温によって決まり、さらに熱が化学反応に必要なエネルギー源となるからです。ここで重要なのは「マイクロ/ミクロ環境」です。この用語はフィルム缶の内部の環境を指して使われます。ビネガーシンドロームは伝染のおそれがあるので、この病にかかったフィルムは「健康」なフィルムから隔離しなくてはなりません。ビネガー臭はアセテートフィルムの劣化の兆候として、もっとも顕著なものです。しかし、兆候はそれだけではありません。フィルムの状態は酸を検出する試験紙によって調べることで、フィルムの保存状態を客観的に判断し、必要な処方を把握できます。エッジの白い粉はプラスチック・ベースの分子が脆くなることによって発生し、ベースの破壊を意味します。さらに劣化が進行すると、フィルムは縮んでボロボロになります。1%以上縮んだフィルムは映写機にかけることによってさらに傷んでしまうので、上映しないでください。(「5.映写」参照のこと) 

※ ビネガーシンドロームを検出する試験紙
IPI=イメージ・パーマネンス・インスティチュート(所在地:米国NY州ロチェスター)が開発・販売している「A-D Strips」のこと。http://www.imagepermanenceinstitute.org/

縮みを回復する技術(リダイメンショニング)を施せば、完全な回復は無理でも改善することはできます。しかし回復は一時的なもので、フィルムを台無しにしてしまう危険もはらんでいるため、ネガやニュープリントを作成するときなどの最終手段として、あくまでも現像所など専門機関に依頼してください。 

 

○ アセテートの劣化 

1. 酢酸臭 

2. 縮み 

3. 反り(カッピング):フィルムがカーブして平らにならず波状になる 

4. クレイジング:エマルジョンが剥がれて画像がぐちゃぐちゃのモザイクのようになる 

5. エッジに白い粉が表出、バインダーの劣化(バインダー=ベースとエマルジョンのつなぎの役割を果たす部分) 

6. フィルムの巻きが角張ってくる (上部イラスト参照) 

7. フィルムが柔軟性を失い、乳剤面やベースが剥がれ落ちる 

 

3.43 褪色と劣化 

往々にしてフィルムには褪色などの化学的劣化がつきものです。これは現像の仕方に問題があったり、保管状態が長期にわたって不適切であったりすると起こります。褪色したフィルムは元には戻せません。しかし、より良い保存場所に移すことで褪色の進行を遅らせることは可能です。(「8.家庭での収蔵」参照のこと) 

 

4.検尺、取扱い、クリーニング、補修 

 

フィルムの状態検査は、今後のフィルムの運命を決定づける作業です。すでに劣化しているフィルム、または傷みの激しいフィルムが寿命をまっとうするには、適切な環境に保管されていなくてはなりません。縮み具合や傷み具合は、それ以上悪化させないためにも、きちんと把握しておく必要があります。深刻な場合は最寄りのフィルムアーカイブ、あるいは専門機関(現像所など)へ問い合わせてください。 


4.1 準備 

フィルムの取扱いと補修に必要なものは以下の通りです。ほかに(細かい屑が出るため)小型の掃除機やフィルムバスケットがあると便利です。 


・ 毛羽立たない布地 

・ フィルムクリーナー 

・ スプライシングテープまたはフィルムセメント 

・ 布手袋 

・ 不燃性のフィルムリーダー(新品) 

・ コア(巻き芯)とフィルム缶(フィルムアーカイブ仕様のもの) 

・ カッター、剃刀の刃 

・ はさみ(和ばさみ) 

・ アシッドフリーのテープ (画材用品、博物館仕様のもの) 

・ ルーペ、拡大鏡 (または古い映写レンズ) 

・ A-D Strips

・ パーフォレーション補修テープ 

・ 乾燥剤(富士フイルムの商品名は「キープウェル」) 

・ 埃よけマスク


まずは清潔な作業場を用意してください。フィルムを巻き取るときは、明るい場所で安定した台を使用してください。台の上にフィルム缶を乗せるときは、すり傷防止のために清潔なタオルで覆いましょう。金属製の道具類(例えばスプライサー)は電器店などで手に入る100%アルコールで清掃してください。90%アルコール(薬局などで売られているもので、残りの10%は水分)しかない場合は、メタル部分を拭きとった後、錆ないよう注意してください。フッテージカウンターやプラスチック製の道具は精製水を使用して汚れを落としましょう。 

 

フィルムを扱うときはコットンの手袋を着用し、こまめに手を洗ってください。テープスプライスの箇所が多いと、テープに綿毛が付く可能性もあり、またフィルムが裂けるといった新たなダメージにもつながりかねないので、場合によっては手袋をしないほうが安全です。フィルムはエッジを持つようにしてください。フレームやサウンドトラックに触れる場合は手袋を着用してください。皮膚から出る油がフィルムに付着しないように注意します。フィルムに触ると指紋が残ります。フィルムは非常に裂けやすい物質ですから、常に細心の注意を払ってください。 



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