閉じる


<<最初から読む

2 / 34ページ

目次

1.はじめに …………………………………………………………………………… 3

2.フィルム考察:ストックとサウンド・トラック ……………………………… 3
2.1 フィルム・ベース
2.11 ナイトレート
2.12 アセテート
2.13 ポリエステル
2.2 白黒VSカラー
2.3 リバーサルVSネガ
2.4 サウンド・トラック
2.41 スーパー8&レギュラー8
2.42 サウンドと画のずれ
2.43 磁気録音

3.敵を知れ:ダメージと劣化 ……………………………………………………… 7
3.1 フィルム年齢の確定
3.2 機械的ダメージ
3.21 パーフォレーション壊れ
3.22 傷
3.3 生物学的ダメージ
3.4 化学的ダメージ
3.41 ナイトレートの劣化
3.42 アセテートの劣化:ビネガー・シンドローム
3.43 褪色と劣化

4.検尺、取扱い、クリーニング、補修 …………………………………………… 10
4.1 準備
4.2 巻取り前
4.3 インスペクションと補修
4.4 クリーニング(完璧なインスペクションを終えて)

5.映写 ………………………………………………………………………………… 15

6.複製 ………………………………………………………………………………… 16
6.1 テレシネ
6.2 フィルム→フィルムへの複製

7.収蔵準備 …………………………………………………………………………… 16
7.1 コア
7.2 スーパー8
7.3 缶と箱
7.4 リーダー
7.5 ラベル貼り

8.家庭での収蔵 ……………………………………………………………………… 19
8.1 室温と相対湿度
8.2 フィルムの冷凍:5段階
8.3 フィルムの解凍:ステージン
8.4 収蔵場所の選択肢

9.災害に備えて ……………………………………………………………………… 22
9.1 地理的分散
9.2 洪水

10.用語解説 ………………………………………………………………………… 23

1.はじめに

書棚や引き出しの中、あるいは押入れの奥には、今も実に多くの映画フィルムが眠っています。中には新品同様の16mm実験映画も、1930年代の8mmホームムービーもあるでしょう。汚れているもの、褪色しているものもあれば、現像所から届いたその日と変わらない鮮やかな色を留めているものもあるはずです。いかなる映画フィルムも有機物を含んでいるため、有機物の宿命ともいえる腐蝕は避けられません。過去数十年にわたり、世界各国の映像アーカイブはフィルム保存の技術を次々と見い出してきました。その技術の多くは、規模が小さく資金も限られている個人のコレクションには複雑かつ費用がかかり過ぎるものとされてきましたが、しかし実のところ、家庭に収蔵されているフィルムに応用することもできるのです。本書はとくに個人コレクションに頻繁に見受けられる種類のフィルムに焦点を絞り、フィルム保存についての実用的かつ基本的な情報を提供します。加えて、映画フィルムの安定性を左右する様々な要因について考察し、インスペクション(点検)、取扱い、クリーニング、補修、収蔵準備の適切な進め方、そして理想的な収蔵方法についても述べることとします。 

 2.フィルム考察:ストックとサウンド・トラック

市販されている映画フィルムには多くの種類があり、それぞれに特質が異なりますが、どのフィルムにも共通するのは「ベース」(支持体)と「エマルジョン」(乳剤)という二つの主要な部分から成り立っている点です。エマルジョンとはゼラチンの中に画像となるもの(ハロゲン化銀粒子または色素)を分散させた薄い層のことです。そのゼラチン層が透明なベースにコーティングされているのが映画フィルムです。ベースにはアセテート、ナイトレート、ポリエステルの三種があります。

※ エマルジョン(乳剤)
エマルジョンとはゼラチンの薄い層を指し、画像はここに潜んでいる。エマルジョン面はベース面とくらべて艶(つや)がなく、マットな仕上げになっているので区別がつく。一方のベース面はすべすべしていて艶がある。カラーフィルムの場合は両面に艶があるが、フィルムを光にあてれば区別できる。

2.1 フィルム・ベース
2.11 ナイトレート
初期の劇場公開用35mmフィルムは、ナイトレート(硝酸)セルロース・ベースを使用して製造されていました。ナイトレートフィルムは極めて燃えやすく、いちど発火したら完全に燃え尽きるまでその火が消えることはありません。そのため「危険物」に指定され、映写・保管・輸送は法律で厳しく制限されています。もしあなたのコレクションの中にナイトレートが含まれるなら、できる限り低温で保管し、間違っても密封はせず、通気性の良い缶を使用してください。不燃性フィルムからは隔離しましょう。詳しい取扱い方法はフィルムアーカイブにご相談ください。

ナイトレートには特徴的な甘い臭い(硝酸臭)がありますが、コダック社製のフィルムの場合、画像の確認できるところまで巻き取ってエッジを調べるのがもっとも容易な識別方法です。1920年代に不燃性フィルムが登場して以来、コダック社はほとんどすべてのナイトレート製品のエッジに「NITRATE FILM」と印字しましたエッジを確認しても判然としないときは、現像所にナイトレートの識別テストを依頼することもできます。

ナイトレートが化学的に不安定な素材であることはよく知られていますが、近年の研究から、適切な条件下、つまり気温の低い環境下におけるナイトレート・ベースのフィルムは、かなり長期に渡って保存できることがわかっています。

※ ナイトレート識別テストの一例
トリクロロエチレンにフィルムの断片を入れ、試料が沈殿すればナイトレート・ベース、浮遊すればアセテートないしはポリエステル・ベースと識別できる。

2.12 アセテート
アマチュア作家や自主映画の監督が使用するほとんどの16mmと、おそらくすべての8mmフィルムのベースは、アセテート(セルロース・アセテート・プロピオネートまたはセルロース・トリアセテート)です。アセテートはナイトレートほど燃えやすい性質ではないため、ポリエステル・ベースと並んで一般に不燃性(セイフティー)フィルムと呼ばれ、家庭での使用にも危険はありません。米国内で製造されたすべての16mm、8mm(および米国内で1952年以降に生産されたすべての35mmフィルム)は不燃性です。

2.13 ポリエステル
ポリエステル・ベースのフィルムはマイラー、またはエスターとも呼ばれます。1950年代に初めて登場し、近年では16mmのネガと上映用プリントへの使用が急増しました。コダック社は撮影用ネガフィルムにはポリエステルを使用していません。

2.3 リバーサルVSネガ

アマチュア映像作家および個人コレクションの16mmと、おそらくすべての8mmはリバーサルフィルムです。つまり、撮影に使用したのと同じフィルムが現像されて上映用プリントになります。ネガがないわけですから、リバーサルフィルムは唯一無二のオリジナルとして慎重に扱う必要があります。ネガ/ポジ工程に比べてリバーサルの優れている点は、フィルムの量が半分で済む、つまりコストが低く抑えられることです。欠点は、上映のたびに(上映回数は時に100回を越えることもあるでしょう)あらゆるリスクを負うことです。リバーサルフィルムを複製するには、同じくリバーサルフィルムに密着焼きすることになります。その場合、画像はオリジナルに比べて鮮明さを欠き、コントラストも高くなってしまいます。16mmネガが手元にある場合、同時期に焼いたポジと同様にネガも劣化(例えば褪色)することを忘れてはなりません。しかし、物質的にはネガのほうが上映用ポジより劣化の可能性が低いといえます。

2.4 サウンド・トラック


古いフィルムや自主制作のフィルムには、光学録音(オプチカル)と磁気録音(マグネ)という2種類の録音方式があります(商業映画の世界では現在、光学録音に加えてデジタルトラックが使用されています)。光学録音は細い光線をフィルムにあて、異なる濃度の光のセンサーを電気信号に変換し、さらにその信号を音声に変換するという仕組みです。一方、磁気録音はフィルムのエッジに沿った酸化帯に記録され、映写機の再生ヘッドで読み取るものです。磁気録音のシステムはカセットテープと同じです。見た目も同じく艶のない茶系色をしていて、これがフィルムのエッジに塗布されています。 とくに自主制作の音付フィルムの場合、スーパー8より16mmのほうが広く普及しました。音声をオープンリール、カセットテープ、近年ではDAT等に別録音することもよくあります。ミキシングの後、音声は光学録音(現像所に依頼した場合)、またはフルコートの磁気トラックとして処理され、音付プリントになります。


2.41 スーパー8&レギュラー8
スーパー8または16mmには、光学録音も磁気録音も両方あり得ますが、音付のレギュラー8の場合は、現像後に加える磁気録音のトラックがほとんどです。当時、録音にお金をかけたのはとくに熱心なアマチュア作家に限られたため、実際、初期のホームムービーで音付のものは珍しい存在です。録音機材自体は1930年代から入手可能でした(プロ仕様で、光学録音・磁気録音切替式の機材があったようです)。1973年、コダック社がスーパー8のサウンド・オン・システムを発売すると次第に撮影用カメラにもマイクが装備されるようになりました。スーパー8は現像後に音を加えることもできました。録音や音声を付ける装置を備えた映写機もありました。音声を加えるとフィルムの片側だけに厚みが増しますが、これを避けるため、磁気録音フィルムはサウンドトラックの反対側に「バランスストライプ」と呼ばれる何も記録されていない磁気ストライプを持っています。これによって、リールに巻いても両側のバランスが保たれます。スーパー8の磁気録音カメラには18fps[FPS=frames per second(フレーム数/秒)]と24fpsがありますが、中にはこれとは違った速度のものもあり (たいていは1フレーム分速いか、あるいは遅い)、再生時に注意が必要です。 

2.42 サウンドと画のずれ
映写機のサウンドヘッドは、画像を投影するレンズより後部に設置されているので、サウンドはフィルム上で本来対応している画像のすぐ隣に並行しているのではなく、若干先行しています。この差はレギュラー8の磁気録音(希少)の場合56コマ分、スーパー8の磁気録音で18コマ分、スーパー8の光学録音で22コマ分、16mmの光学録音で26コマ分、16mmの磁気録音で28コマ分に相当します。
2.43 磁気録音
磁気録音の音付フィルム(とくに独立したフルコートの磁気録音)は、ビネガーシンドロームにかかりやすく、音の付いていないフィルムや光学録音の音付フィルムよりも注意が必要です。劣化の兆候があらわれた時点で、できるだけはやく再録音するのが最善策です。湿気を帯びるとサウンドトラックが粘着性を持ち、部分的にはベースが隣接するフィルムにくっついてしまうこともあります。こうなると、トップ(作品のはじまり)を外側にして保管している場合、再生時にこもった音が聞こえることがあります。画像と同様にエンド(作品のおわり)を外側に保管すれば、さほど耳障りにはならず、エコーのように聞こえる程度で済みます。


読者登録

Film Preservation Societyさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について