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愛ちゃんとの出会い ふたたび

「今日から、2人きりの生活だ」
「2人きりの生活ね」
「結婚しようか」
「ケッコンって何?」
「2人がずっと一緒にいることさ」
「2人がずっと一緒にいること?」
「そう、いいだろ」
「ええいいわ。ずっと一緒にいましょう」
 
 僕の「彼女」は、新しい単語が出てきたら、その意味をたずね、理解する。僕の希望に対して、否定的な返答をしない。それが、人工知能搭載のラブ・コミュニケーション・ゲーム2の特徴だ。
 
 僕は、この山奥の別荘に逃げ込んだ。人間との交流は、必要最低限にし、「彼女」と静かに暮らしてゆこうと思う。幸い、太陽電池パネルと蓄電池システムで、こんなところでも、電気だけは利用できた。
 誰にも邪魔されず、ずっと、ずっと、「彼女」と一緒にいよう。ずっと、ずっと……。
 
 
<五十年後>
 
「今井、お前よした方がいいぜ」
「だいじょうぶ。今どき、お化けなんかいるもんか」
 
 大学の休みを利用して帰省した山奥の俺の故郷。幼なじみの啓太が、もっと山奥にある朽ちた別荘に幽霊が出るっていう噂を聞かせてくれた。誰もいないはずの家の中から、女の声がするそうだ。
 
 実は、小学生のころ探検をして、その別荘に近づいたことがある。その時も、中から女の人の声が聞こえた。
 
「あなたの名前は?」
「ボク、今井アシモフ」
「そう、アシモフっていい名前ね」
 
 俺は、怖くなって逃げた。そのときは1人きりだったし、あそこに行くことは禁止されていたので、誰にもそのことは話していない。
 
 あれから10年以上経って、本当のことが知りたくなった。俺は、あの時と同じように、1人で別荘に向かった。あの時は大きく見えた建物も今見ると、平屋の小さな廃屋だった。扉も窓も朽ちて開きそうもない。ただ、自然の一部に見える建物であったが、不思議なことに、その建物の屋根の上には、自然とは決して同化しない太陽電池パネルが、永遠に利用できるような丈夫な造りで存在していた。
 
 建物の中を覗いていると、
 
「あなたの名前は?」
 遠い昔に聞いたのと同じ声だ。
「アシモフです」
「前にもここに来たわね」
 声は、俺を覚えている。
 
 俺は、入れそうな窓を半ば壊すかたちで、中に入った。ベッドが1つだけ置いてあった。ベッドの上の毛布をはがすと、白骨死体が現れた。服装からすると、男のようだ。多少驚いたが、こんなのはお化け屋敷の定番だ。
 俺は、ひるまず、建物の中へと進んだ。あの声が聞こえてきたと思える場所に進むと、ちょうど外で俺が声をかけられた場所が見える位置に、太陽電池パネルにつながれた小さな機械がぶら下がっていた。
 
「アシモフさんこんにちは」
 この機械が、幽霊の正体だ。よく見ると小さな液晶パネルの中で女の人の顔が微笑んでいる。
「あんたは何だ」
「わたしは、寝室にいる彼とずっと一緒にいるの。約束したの。でも、彼は壊れたみたい」

愛ちゃんとの明日

 山奥の廃屋で見つけた機械は、調べてみると初期の人工知能を搭載した恋愛ゲーム機であることがわかった。しかも当時は使用も所有も禁止されてしまい現存しないと言われているレアものだ。
 昔、ロボット史の授業で、このゲーム機のことを聞いたことがある。ロボット開発の途上で製作されたものではあるが、いろいろ問題を起こして世間を騒がせ、今では歴史的汚点ということになっている。
 実は、俺の祖母がそのゲーム機のベースとなるデータを提供していたことを聞いていたので、ちょっと驚いた。去年亡くなった祖母は、若いころアイドルだった。しかし、そのゲーム機が爆発的ヒット商品になると、本人の存在よりゲーム機が優先され、虚構を維持するために、芸能界を追放されたそうだ。その後、失意の中で出会った祖夫と結婚し、世間から隠れるようにいなか暮らしをはじめたそうだ。
 俺の結婚式には、親族としてその祖父も出席してくれた。
 
「お前の嫁さんと話すと、つい0342516を思い出すよ。不思議だなぁ」
 祖父は、最近ボケたせいか、時々祖母のことを数字で呼ぶことがある。理由はわからない。
 
 数年前、ロボットと人間が結婚することが法律上可能になった。それだけ、ロボットが人間的になったということだ。しかし、俺が見つけたあの機械の中の「彼女」は、今までのロボットとぜんぜん違っていた。俺は、開発中のロボットの頭脳部分にそっくりあの機械を組み込んだ。ロボット工学の研究者仲間の間では、俺の開発した人工知能ということになっている。手足を持った「彼女」に俺は恋し、「彼女」も俺に応えてくれた。
 
 最後まで、反対していた母もようやく結婚を認めてくれた。その母が、
「結婚おめでとう」
「ありがとう」
 俺は応える。
「あなたもよかったわね」
 隣の「彼女」に向かって微笑む。
「ありがとうございます」
「二人とも初めての結婚なんだから、心配事があったら相談してね」
 遠慮がちに「彼女」は、
「わたしは二度目なんですけど……」
「えっ」
「いやなんでもない」
 俺はちょっと汗をかいていた。
 
 「彼女」の特技は、一度見た人のものまねだ。今日も家に帰ったら、母のものまねをしてもらおう。

この本の内容は以上です。


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