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愛ちゃんとの明日

愛ちゃんとの明日

 山奥の廃屋で見つけた機械は、調べてみると初期の人工知能を搭載した恋愛ゲーム機であることがわかった。しかも当時は使用も所有も禁止されてしまい現存しないと言われているレアものだ。
 昔、ロボット史の授業で、このゲーム機のことを聞いたことがある。ロボット開発の途上で製作されたものではあるが、いろいろ問題を起こして世間を騒がせ、今では歴史的汚点ということになっている。
 実は、俺の祖母がそのゲーム機のベースとなるデータを提供していたことを聞いていたので、ちょっと驚いた。去年亡くなった祖母は、若いころアイドルだった。しかし、そのゲーム機が爆発的ヒット商品になると、本人の存在よりゲーム機が優先され、虚構を維持するために、芸能界を追放されたそうだ。その後、失意の中で出会った祖夫と結婚し、世間から隠れるようにいなか暮らしをはじめたそうだ。
 俺の結婚式には、親族としてその祖父も出席してくれた。
 
「お前の嫁さんと話すと、つい0342516を思い出すよ。不思議だなぁ」
 祖父は、最近ボケたせいか、時々祖母のことを数字で呼ぶことがある。理由はわからない。
 
 数年前、ロボットと人間が結婚することが法律上可能になった。それだけ、ロボットが人間的になったということだ。しかし、俺が見つけたあの機械の中の「彼女」は、今までのロボットとぜんぜん違っていた。俺は、開発中のロボットの頭脳部分にそっくりあの機械を組み込んだ。ロボット工学の研究者仲間の間では、俺の開発した人工知能ということになっている。手足を持った「彼女」に俺は恋し、「彼女」も俺に応えてくれた。
 
 最後まで、反対していた母もようやく結婚を認めてくれた。その母が、
「結婚おめでとう」
「ありがとう」
 俺は応える。
「あなたもよかったわね」
 隣の「彼女」に向かって微笑む。
「ありがとうございます」
「二人とも初めての結婚なんだから、心配事があったら相談してね」
 遠慮がちに「彼女」は、
「わたしは二度目なんですけど……」
「えっ」
「いやなんでもない」
 俺はちょっと汗をかいていた。
 
 「彼女」の特技は、一度見た人のものまねだ。今日も家に帰ったら、母のものまねをしてもらおう。

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