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愛ちゃんとの逃避

愛ちゃんとの逃避

 大好評発売中のラブ・コミュニケーション・ゲームが大幅に機能を向上させ、ラブ・コミュニケーション・ゲーム2として発売されます。ゲーム機に内臓のカメラで彼女(または彼女になってほしい人)の写真を撮るだけで、あなたと彼女のコミュニケーション空間がクリエートされます。最新の顔認識システムで、動かなかった画像がゲーム機の中では生き生きとした表情であなたに語りかけます。しかも、新搭載の音声認識システムが、キーを打つ作業を不要にし、ゲーム機の彼女も音声で返事をしてくれます。
 実際の恋愛で深く心を痛めた経験のあるあなた。このラブ・コミュニケーション・ゲームの人工知能は絶対あなたを嫌ったり裏切ったりしません。あなたとゲーム機の中の彼女とのコミュニケーションレベルが、あなたに彼女が夢中になる時間に影響を与えるのです。
 さあ、あなたは、何日かけて彼女を「おとし」ますか。
 
 
 テレビで、新製品のCMがこれでもかと流された。しかもあの話題のゲームのバージョンアップ版であるという安心感が多くの人の購買意欲に火をつけた。
 当時、僕には彼女がいたが、彼女と遠距離恋愛だったため、このゲームが彼女との距離を縮めてくれると思って購入した。
 ひさしぶりに彼女に会いに行く日、バックの中にゲーム機を入れた。ゲーム機を見た彼女は最初ちょっと嫌な顔をしたが、
 
「これがあのゲーム機なんだ。でもこれって、偽物の相手との会話なんでしょ。ちょっと変態っぽくない?」
「そんなことないよ。身近な人とコミュニケーションしながらゲームを進めていくって面白いよ」
「そうかしら」
「だって、僕らそれぞれの仕事の都合があって、お互いが会話できるリアルな時間って短いよね。君に迷惑かけずに、もっと話をする時間を作りたいんだ」
「でも、それって嘘なのよ。私の知らないところで私と話しているなんて気味悪いわ」
「だいじょうぶ。同じ話を後で君にするから」
 
 彼女はしぶしぶ同意し、カメラの前で微笑んだ。
 
 しばらくはとても幸せな日々が過ぎていった。彼女はますます僕との会話時間を短くしたが、その後何時間もゲーム機の「彼女」と話をし、僕らは十分理解し合った。もう、本物の彼女に電話することやメールすることが、面倒になってきて、ゲーム機の中の「彼女」を彼女にすることに決めた。
 
 ある日、とんだ事件が発生した。ハイビジョンに映る女性大臣をゲーム機に取り込み、自分の虜にし、勝手な政策をインターネット上の動画サイトで発表することがはやり始めたのだ。
 
「私は、少子化防止のため、六つ子政策を実行し、6人以上子どもを作らない30歳以上の成人には、強制労働を科します。」
「私の彼を大臣にするために、今日私は引退し、彼に大臣職を委譲します」
など、など。
 
 驚いた政府は、本当の記者会見には「リアル」。ゲーム機の画像には「バーチャル」と右肩に映すことを義務化した。
 しかし、いたずらはより悪質化し、ついにゲーム機そのものが製造中止、強制回収となった。
 
 
 僕は、彼女と離れることは我慢できない。○○県境の山中に「彼女」をバックに入れ、隠れることにした。