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第一話 26回目の夏休み その五

 バス停のゴミ箱に捨てた蚊取り線香に、まさかまだ火がくすぶっていたとは知らず、いっしょに捨てた爆竹に引火してしまった。結局は祐輔たちの時限爆弾が、見事にタイミングぴったりで破裂したのだ。パニックに陥る寸前の爆音は、よほどの衝撃だったようで、気絶するとは夢にも思わなかった。でも考えてみたら、彼が気絶してくれて良かったのかも。あのままパニックに陥っていたら、もっと大変な事態になっていたかもしれない。


 彼が気絶した後は、久しぶりの大騒ぎだった。介抱はキクばあちゃんに任せ、私は大急ぎでキクちゃん商店まで戻ると、赤電話でゴロベエ先生を呼び出し、続けて、何かトラブルがあった場合の連絡先である、村長代理と高井和先生へ連絡した。ついでに母にも連絡し、タオルやら洗面器やら、とにかく何か役に立ちそうな物を持ってくるように催促した。


 祐輔と寛太は、畑に出ている富美蔵おじさんをダッシュで呼びに行った。トラクターを担架代わりにするためだ。富美蔵おじさんはすぐに駆けつけると、バス停から近い公民館に彼を運ぶことにした。しかし、悪臭のせいで、彼をトラクターの荷台に乗せるのにも一苦労。富美蔵おじさん一人では抱えきれず、悪ガキたちとキクばあちゃんまでもが加わって、やっとのことで彼を持ち上げた。そうやってみんなが悪戦苦闘している間に、私はキクばあちゃんの指示で、ばあちゃんの布団を二往復して公民館に運んだ。

 やがてゴロベエ先生がオンボロ自転車で駆けつけると、騒ぎを聞きつけた父や他の住民たちがぞろぞろと集まり出して、公民館のまわりは、あっというまに野次馬たちで溢れた。

 聴診器を鞄に仕舞い、ゴロベエ先生が私たちを見回す。

「さて、後は何人か付いてやって、そろそろ解散したほうが良かろう。爆竹で気絶するほどの神経の細かい青年だ。目が覚めて、大勢に取り囲まれておったら、また警戒するかもしれん」

「それじゃあ、私が付いててあげようかね」

 キクばあちゃんが、座ったまま、彼の近くにすり寄った。

「うん、そのほうが良いね。最初に会った人が居たほうが、少しは安心するだろうから。キクばあちゃん、すまんがお願いするよ」

「お安いご用だよー」

 と、キクばあちゃんは顔をほころばせる。すると、

「おれも!」

 祐輔がキクばあちゃんの真似をしてすり寄った。寛太もその後に続く。こうなったら、私も付き添わないわけにはいかない。

「じゃあ私も」

 と、手を挙げた。そしたら明代姉さんが、

「後はよろしくね!」

 私の肩をポンと叩いて言った。

「明代ったら、期待通りのゲストだったら、真っ先に付き添ってたくせに」

「あら、克子お姉様ったら、何のことかしら? おほほほほほ」

 呆れる克子姉さんを横目で見ながら、明代姉さんは笑って誤摩化した。


 結局、最初に出迎えた私とキクばあちゃんと祐輔と寛太、それから、お昼ご飯を取りに行っている静香おばさん、さらに高井和先生が加わって、彼の側に残ることになった。

 野次馬たちが蜘蛛の子を散らすように帰って行くと、それまでシンとしていた近くの柿の木の蝉たちが、思い出したようにジワジワと騒ぎ始めた。気が付くと、腕時計の針は十二時をとうに過ぎていた。



第二話へつづく…


illustration  SAKOYAN


この本の内容は以上です。


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