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十 再び 冬はつとめて(新東の京の巻 下)

 

「馬鹿な奴め。自分から雷雲を呼び寄せて、雷を受けるなんて」

 

 その様子を見ていた新東の京タワーが唾を吐き捨てた。その唾が落ちていく先には合体塔レンジャーたちの姿があった。

 

「そのまま、三体とも地面に激突しろ」

 

新東の京タワーは、合体塔レンジャーたちのことは頭から消えた。だが、合体塔レンジャーは気を失ってはいなかった。互いに声を掛け合い、励まし合う。

 

「みんな大丈夫か」

 

「少し頭がくらくらする。だが、これくらい」

 

「かえって、頭や体がシャキッとしたぞ」

 

「よし、それなら、二条の城と京のタワーも助けよう」

 

 合体塔レンジャーは先に地面に降りたつと、二条の城と京のタワーの二体を全身で受け止めた。

 

「お」

 

「もい」

 

「これが」

 

「歴史の重みか」

 

「だが、何とか、二条の城と京都タワーに傷一つ付けていないぞ。それに、京の街並みも壊さずに済んだ」

 

「だが、二条の城と京のタワーは気を失ったままだ」

 

「どうする?」

 

「それなら、これだ」

 

 仲間の一人が包みを開く。甘い香りが辺り一面に漂った。金平糖とは異なる、どろりとしたタレの甘い匂いだ。

 

「これは・・・」

 

 仲間の一人がそのお菓子の名前を呼ぶ前に、「うーん」と呟きながら、二条の城と京のタワーのまぶたが開いた。そして、目の前の包みに気が付くと、思わず目が大きく丸くなる。

 

「おおこれは、みたらし」

 

「団子!」

 

 二人の声が一致した。そして、塔レンジャーの承諾もなしに、団子に素早く食らいついた。串に刺さった団子の一つひとつの味を確かめるように食べる二人。時には、皿に残っているたれに、団子の白い部分を擦り付ける。皿には団子が通った後のたれの筋が、轍のように残った。

 

そして、最後の一個の団子が二人の口に運ばれた。それでも、名残惜しそうに、舌を出すと、皿にへばりついたたれを舐める二体。その残ったたれがなくなる頃に、ようやく二人は合体塔レンジャーの存在に気が付いた。

 

「ああ、塔レンジャーじゃないか」

 

「どうしてここに」

 

二体は、暢気のノンちゃんの口ぶりで尋ねた。雷を受けたショックで、二条の城と京のタワーは新東のタワーからの操りから解放されるとともに、みたらし団子の力で体力が回復したのだった。

 

「あなたたちは、新東のタワーに操られていたのだ」

 

「操られて」

 

「いた?」

 

「そうだ」

 

二条の城と京のタワーが前方に見える巨大なタワーを睨む。

 

「ゆ」

 

「許せん」

 

二条の城と京のタワーは声と体を同時に震わせた。

 

「あいつは、我々を分断させ、同士討ちをさせようとしたのだ」

 

「だが、その分断も、みたらし団子の力で再び、一つになることができた」

 

「ありがとう、みたらし団子」

 

「よし、俺たちもみたらし団子でパワーをもらおう」

 

「俺たちは団子で結びついた、団子兄弟だ」

 

塔レンジャーたちも、一斉に、みたらし団子の串を手に取り、団子を咥えると、一気に、串を引いた。団子が四個、口の中に転がり落ちた。

 

「うっ」

 

喉に詰まりそうになり、思わず、えづきそうになる。

 

「まあまあ、慌てないで」

 

「お茶でも飲んで」

 

二条の城と京のタワーが、宇治の茶が入った茶碗を差し出す。

 

「本当は、伏見のお神酒がいいんだけど」

 

「それは、この闘いが終わった後だ」

 

塔レンジャー四体と二条の城、京のタワーが新東のタワーの前に並ぶ。

 

「ふん。学芸会はもう終わりか。雑魚ども。六体と言わず、何体でも束になってかかってこい」

 

「言われるまでもない」

 

塔レンジャーは再び合体した。また、二条の城と京のタワーも合体した。合体二チームの結成だ。そして、その二チームが更に合体した。総合体塔レンジャーの登場だ。体は、新東の京タワーに匹敵するぐらいの大きさになった。これで、もう、恐れることはない。

 

「こしゃくな」

 

これまで、自分が一番大きいことを誇りにしていた新東の京タワーだが、その一番の誇りが、今、傷つけられ、崩されようとしていたのだった。

 

「誰がなんと言おうと、俺は一番でないといけないんだ。二番ではダメなんだ」

 

この言葉が口の中で唾液と一緒に、鳴門の渦のように繰り返し回っていた。それだけに、目の前の総合体した塔レンジャーたちは許しがたいものがあった。

 

「俺が一番だということを思い知らせてやる。それ」

 

「お前が一番でないことを思い知らせてやる。おう」

 

巨大な体躯が激突した。だが、この二体が地上で戦えば、京の都は破壊されてしまう。総合体塔レンジャーは、新東のタワーとがっぷり四つのまま、「大トゥ―」の掛け声とともに、空に飛びあがった。

 

巨体が空に浮かんだまま、動かない。それは、闘いをしていないのではなく、互いに力が拮抗しているため、動かないのだ。いや、動けないのだ。がっぷり四つのまま、一分が経過し、二分が経過した。

 

総合体塔レンジャーの額から、脇の下から、背中の腰の上のくぼみのあたりから、股関のV字から、膝の裏から、足の指の間から、汗がにじむ。もちろん、新東の京タワーも同様だ。三分が経過した。

 

ここで、空を飛んでいた、カラスやハト、スズメが近寄ってきて、「カーカーカー」、「ぽっぽっぽ」、「チュンチュンチュン」、と、鳥語で、水入りですよ、と囁いた。互いに顔を見合わせる巨体二体。

 

「少し、休むか」

 

先に声を掛けてきたのは、新東の京タワーだった。最初は、自分が一番でなければダメだと思っていたが、こうして、総合体塔レンジャーたちとがっぷり四つになっていると、同じ力を持っている者がいることとを知るとともに、心地よささえ感じ始めた。

 

それは、塔レンジャーたちも同様だった。最初は、京の都を守るために、新東の京タワーと戦っていたが、こうしてがっぷり四つになると、相手の温もりを心地よく感じていたのだった。

 

こうして、水入りが数十回、数百回と続いた。相変わらず、互いの力は拮抗しており、微動だにしなかった。ただ、汗だけが体中から噴き出し、京の街を雨のように濡らした。

 

人々は、当初は、京の街を守ってくれる総合体塔レンジャーに向かって地上から大声援を送っていたが、梅雨でもないのに、雨ばかり降り出したので、嫌になってきた。それに、この雨は、少し汗臭い。

 

そのうちに、その季節遅れの寒波がやってきた。寒波のせいで、塔レンジャーたちと新東のタワーの汗は、小雪となり、京の街を覆いつくした。金閣寺が白銀閣寺に、銀閣寺も白銀閣寺に変わるほどであった。それこそ、街中が白銀の世界となった。

 

その美しさに、人々は見とれるとともに、総合体塔レンジャーたちも一旦闘いを中止して、その景色を眺めるのであった。そのため、巨大な二体から汗は出なくなり、雪は止んでしまった。

 

最後の寒波が去り、春一番が吹くと、一挙に、京の街は暖かくなり、鴨川沿いの両岸の桜を始め、街中の桜が芽吹きはじめ、長年の抑圧から解放されたかのように、一斉に花を開き始めた。その有様を、総合体塔レンジャーと新東の京タワーもうれしそうに見つめていた。

 

「あっ、いけない。こうしちゃ、いられないぞ」

 

新年度になると、これまで在住していた人々が転勤で東の京を離れるとともに、新たに社会人や学生たちが大勢、東の京に集まってくる。それを思い出したのであった。

 

「じゃあな」

 

新東の京タワーは、これまで、闘っていたことを忘れ、まるで友人が久々の邂逅の後、、別れの言葉を述べて立ち去るかのように、日出ずる東の京へと帰っていった。

 

「俺たちもこうしちゃいられない」

 

総合体塔レンジャーも、合体から分離すると、京の街を去る人々を見送り、新たに京の街にやってくる人々を出迎え、桜の鑑賞に訪れる観光客たちを歓迎するために、それぞれの持ち場へと戻っていった。

 

こうして、世界中では国同士や民族同士、宗教の違いから争いが絶え間ない中、京の都には、非日常という平和が戻った。だが、その頃、東シナ海を万里の長城が、インド洋をエッフェル塔と凱旋門が、太平洋を自由の女神が、大西洋をビッグベンとサクラダファミリアが、静かに、京の都に近づいていることを、京の人々を始め、塔レンジャーたちも、誰一人として気づいてはいなかった。

 


この本の内容は以上です。


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