閉じる


六 秋は夕暮れ(杜の都の巻 下)

 

その時、紅葉の山の地面が揺れ、また、その山を目掛けて、台風のような突風と消火栓から放たれたような勢いのある水が吹き付けられた。一瞬で、火レンジャーを覆い隠していた紅葉の葉の山は消え去った。その後には、ぜえぜえと息も絶え絶えの火レンジャーが四つん這いになって、ちじこまっていた。

 

「大丈夫か。火レンジャー」

 

そこには、風、水、地の三体の塔レンジャーが揃っていた。

 

「ありがとう。助かった」

 

だが、火レンジャーは、呼吸困難に陥っているのか、四つん這いになったままで、動こうとしない。まるで、中学生が体力測定で、千五百メートルを走らさせられた時に起きる、酸欠状態のようだった。

 

「これを食べて、元気を出せ」

 

仲間たちが差し出したのは、赤や黄、緑、茶など、色彩豊かな三角形のお菓子。そう、生八つ橋だった。それこそ、お菓子の紅葉だ。火レンジャーは、ごくりと唾を飲み込んで

 

「これがきなこ、これが抹茶、これがチョコレート」と、一つひとつ味を確かめ、楽しみながら、食べていく。

 

その度ごとに、失われていた力が、一つの三角形が四つ組み合わさって四角形となり、さらに四つが組み合わさり八つとなり星型になっていくように、元の力を取り戻した。更に、八つ橋を二通り、計十六個食べると、力は元の倍のとなった。その姿を見て、仲間の塔レンジャーたちも大きく頷いた。そして、ようやく、敵の存在に気が付いた。

 

「お前は」

 

四人のレンジャーが大きな城の前に屹立した。

 

「何者だ」

 

四人の声がハーモニーとなって響き渡る。

 

「俺か。俺は、杜の都だ」

 

杜の都は両肩のついている三層の櫓を揺らして、ガラガラ声で威嚇した。

 

「何故、京の都に来た。何故、観光客たちをひどい目に遭わすのだ」

 

「ふん。何が京の都だ。都とは、俺がいる杜の都のことだ」

 

巨大な城は何故か、片目だった。だが、その片目がきらりと光った。

 

「それ、行け」

 

杜の都が手を大きく振り下した。すると、どこに隠れていたのか、その後ろから、馬が何百頭、何千頭と出現し、四人のレンジャーに向って走ってきた。このままでは馬の蹄に踏みつぶされてしまう。

 

「トゥー」

 

塔レンジャーたちは飛び上がり、馬の大群をかわした。だが、馬たちは、そんなことは百も千も承知のように、京の街中を駆けずり回った。そして、寺や神社、川べりなど、京の街の紅葉や銀杏の木などに突進した。その衝撃で、絢爛豪華な錦の彩を誇っていた何万枚もの木々の葉は、あっという間に落葉し、丸裸になってしまった。

 

「くしゅん。恥ずかしい。」

 

 木々たちは、寒さよりも恥ずかしさが上回ってか、体をよじって、秘部を隠した。

 

「このままでは、京の街の紅葉が全て終わってしまうぞ」

 

危機感を抱いた塔レンジャーたちは、京の街の四方に散って、水、風、火、地震を使って、放たれた馬を退治しようとした。水レンジャーが馬に向って水をかけると、あれほど勢いづいていた馬は急にシュンとなると、紅葉の葉に形を変えて、地面に濡れ落ちた。

 

「馬の正体は、紅葉の葉だったんだ」

 

「これなら、すぐに倒せるぞ」

 

「いや、紅葉の葉は、この京の都に大量にあるから、現地調達をすれば、いくらでも、馬が現れることになるぞ」

 

「じゃあ、いくら倒してもきりがないな」

 

「よし。それなら、元を断とう」

 

塔レンジャーたちは声を合わせると、空に飛び上がり、合体した。巨大化したレンジャーが杜の都にレンジャーキックを放つ。

 

「ぐへ」

 

紅葉の葉を馬に変える術を使っていた杜の都は、不意を突かれて、地面に倒れた。術が解けたのか、それまで勢いよく街中を駆け抜けていた馬たちは、はらりと一枚の紅葉の葉となって、道路に落ちた。その葉を馬から逃れようとした人々が乗った車のタイヤが踏んで、こなごなかつちりじりなった。

 

「よくも、やったな」

 

杜の都は、はらりと白装束を脱ぎ捨てると、空に投げ捨てた。白装束はふわふわと漂いながら、合体レンジャーを包んだ。

 

「前が見えないぞ」

 

「それに、体も動かない」

 

「息も苦しい」

 

「もうだめだ」

 

合体塔レンジャーは、空中からまっ逆さまに地上に落ちていく。そこは、京の街並み。観光客を始め、多くの人たちが歩いている。京の都を守るはずの塔レンジャーが、反対に、街にも人にも、多大な被害を与えてしまいそうだ。

 

「どうだ。これも、自業自得だ」

 

杜の都が片目を両目分大きく開いて、笑う。

 

「これで、京の都は滅んだも同然だ。これからは、杜の都こそがこの国の真の都になるぞ。はっはっはっはっはっ」

 

杜の都の高笑いの空気の振動で、何とかしがみついていた街中の紅葉の葉も全て落ちていく。

 

「ううん?」 

 

太陽の日差しを受けて、神々しいまでに輝やいていたはずの杜の都に影がかかった。空を見上げる。空には大きなパラシュートが開いていた。いや、パラシュートではない。杜の都が身に着けていた白装束だった。その白装束を両手で広げて、ゆっくりと、合体塔レンジャーが地面に下りてくる。そして、京の街に何の被害を与えることなく、ゆっくりと大きく足を広げ、無事不時着した。京の都にとっても、合体塔レンジャーにとっても、街の人々にとっても、大きな一歩だった。

 

「あんたの白装束のお陰で、無事に空から降りることができたよ」

 

と、皮肉を込めて、その白装束を杜の都に向って投げつけた。白装束は杜の都の顔に覆い被さった。

 

「これでも被って、出直して来い」

 

「くそっ」

 

杜の都は、体を覆った白装束を払い除けると、怒り心頭で、顔は真っ赤になっている。そのまま、牛のように突進してきた。合体塔レンジャーは、背の高さは杜の都と同じくらいの大きさだが、骨格は塔なので細い。ラグビーのフォワードを思わせるような体格の杜の都の突進が当たれば、体はバラバラにされてしまうだろう。それでも、合体塔レンジャーは相手の突進を余裕の表情で待ち構えながら

 

「さあ、来い」と、笑みを浮かべている。

 

「俺の、オールブラックスも吹き飛ばすタックルを受け止められるか」

 

杜の都が今まさに合体塔レンジャーの体を捉えようとした瞬間、目の前に白い布が現れた。

 

「そんなもので、俺はごまかさないぞ」

 

杜の都がその白い布に真っすぐに飛び込んだ。すると、急に、白い布がはらりとのき、目の前が明るくなった。と思うと、山に頭から激突した。

 

「痛い」

 

額を押さえる杜の都。振り返ると、合体塔レンジャーが杜の都の白装束を両手に持って、揺らしていた。いわゆる、合体塔レンジャーが闘牛士の役で、杜の都は闘牛の役をやらせられていたわけだ。そのことを知った杜の都は、これまで以上に、顔を赤らめ、白装束を赤い旗に見立てて、突進していった。旗を自分の体の前で揺らす合体レンジャー。

 

これで決まりだ。杜の都の頭の先端のしゃちほこが合体塔レンジャーの体を射抜こうとした瞬間、旗と共に、合体塔レンジャーの体が目の前から消えた。

 

「あれ?」

 

目標物がいなくなったものの、杜の都の突進の勢いは止まらない。そのまま鴨川の中に飛び込んでしまった。

 

「少しは、頭を冷やせたか」

 

振り返ると、同じ場所に、合体塔レンジャーが、笑みを浮かべて、白い旗を揺らしていた。それは、降参の旗ではない。挑発の仕草だ。

 

「くそ。舐めやがって」

 

杜の都は反転すると、再び、旗と合体レンジャーの体を目掛けて、突進した。

 

「今度こそ」

 

しゃちほこが白装束に触れたかどうかの瞬間、今度は目の前には、再び、山肌が仲間意識を持って現れた。再度、山肌との熱い抱擁。そして、山肌からの激しい拒絶を受けて、その場に崩れ落ちた。

 

「くそっ」

 

それでも、不撓不屈の精神で、立ち上がる杜の都。そして、余裕綽々で、笑みを浮かべる合体塔レンジャーに突進した。杜の都は、山肌に衝突して、土で汚れた体を洗う川での水浴びや、再び、そのきれいな体を山肌の衝突で汚すことを何度も繰り返した。この見慣れたシーンがビデオテープの巻き戻しのように、永遠に続くのかと思われた。

 

「はあはあはあはあ」

 

「ハアハアハアハア」

 

突進疲れの杜の都。かわし疲れの合体塔レンジャー。この間にも、時間は過ぎていき、杜の都が何をしなくても、紅葉の葉は、一枚ずつ、木の枝から別れを惜しむかのように、落ちていく。そして、全ての葉が落ちてしまった。季節は秋が終わり、もう冬だ。京の都も、紅葉が落ちるように、観光客たちはいなくなった。杜の都はその有様を見て

 

「もう、戦いも終わりだ。ここに用はない」

 

と言い切ると、踵を返して故郷の北に向って帰ろうとした。

 

「忘れものだぞ」

 

合体塔レンジャーが、杜の都に向って白装束を投げた。白装束は空に広がると、白い紙飛行機のように杜の都の背中に向って飛んでいった。

 

杜の都は振り返ることなく、右手で白装束を掴むと、さっと広げて、すぐに着こなした。再び、白装束となった杜の都だが、ただし、白装束は、これまでの戦いのせいで、一部が破れたり、黒ずんだりしていた。もちろん、白装束だけでない。杜の都と合体塔レンジャーの体も、柱に傷が入ったり、瓦が割れたりしていた。互い満身創痍だったわけだ。

 

「また、会おう」

 

合体塔レンジャーが、その大きな背中に声を投げ掛けた。あれほど力の限り激しく戦い合った二体だが、だからこそ、今では憎しみはなく、かえって、親しみさえ感じたのだった。杜の都は振り返らず、右手を軽く上げるのみであった。

 

言葉は交わさなくても、二人に間には、熱くかつ深く通じるもの、つまり友情のようなものが芽生えつつあった。互いが自らの都を守りたいという強い思いを確認することで、尊重し、尊敬しあえた瞬間だった。そう、自分たちが住んでいる場所こそが、都なのだ。

 

 

 


この本の内容は以上です。


読者登録

阿門 遊さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について