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エピローグ 

 

「地球だ!」

 

男の子はケースの中から小さな青い球を取り出した。その球には、ユーラシア大陸やアフリカ大陸、太平洋や大西洋などが精巧に描かれていた。しかも、若干だが凹凸がある。

 

「ほう。よく知っているね」

 

駄菓子屋のおじいさんは感心の声を上げた。

 

「うん。僕の家にも地球儀があるんだ。でも、もっと大きいよ」

 

男の子は自慢そうに、両腕で弧を描いた。

 

「ちょっと見せてよ」

 

ガチャガチャを取り囲んでいる子どもたちの輪からすっと手が伸びた。女の子だった。女の子が指を差した。

 

「ここが日本だよ」

 

「じゃあ、アメリカはどこ?」

 

肩を並べた隣の男の子が尋ねる。

 

「ここかな」

 

女の子は小さな地球の上に指をすべらした。

 

「じゃあ、中国はここだね」

 

輪の中から別の指が伸びて来て地球のおもちゃの表面に触れた。

 

「そこは、モンゴルだよ」

 

女の子はすぐさま答えた。

 

「すごいなあ。僕にも教えてよ」

 

地球のおもちゃは、所有者の手を離れると、店の奥から店先の方に大移動していった。

 

「いいのかい?」

 

おじいさんは真の所有者であるがちゃがちゃを回した男の子を見た。

 

「うん。みんなが喜んでくれるのなら」

 

男の子はマンガを一人で読んでいる時のように、にこにことほほ笑んでいた。

 

「君はまるでウルトラマンのようだね」

 

おじいさんは男の子を誉めた。まだ、小さいのに大人だ、と心の中で呟いた。

 

「そんなことないです。ウルトラマンはおじいさんです」

 

意外な返答におじいさんは驚いた。

 

「俺が、いや、私がウルトラマンかい?」

 

「はい。だって、いつも、僕たち子どもたちを見守ってくれていますから。僕たちのヒーローです」

 

「いやいや、私は商売をしているだけだよ」

 

照れたように、顔の前で大きく手を振るおじいさん。

 

「でも、おじいさんがいるから、こうして僕たちが集まって来られるんです」

 

男の子はおじいさんの頭の上の柱時計に気が付くと「あっ、いけない、帰る時間だ」と小声で叫ぶと、ないはずの胸のタイマーが赤く点滅しているかのように、店から飛び出して行った。おじいさんは、男の子の背中に向って、シュワッチという別れの言葉を投げ掛けた。

 


この本の内容は以上です。


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