閉じる


風 狂(第64号)目 次

 

【詩】 

朴先生の神業                 高 裕香 

根こそぎ                  なべくら ますみ 

詩人の旅立ち                高村 昌憲 

ペンギンの島                 長尾 雅樹 

鬼の子                   富永 たか子 

登呂遺跡                   出雲 筑三 

模範囚                   原 詩夏至 

 

【風狂ギャラリー】 

三浦逸雄の世界(四十八)          三浦 逸雄 

 

【エッセイ】 

北岡善寿先生の思い出            神宮 清志 

昭和は遠くなりにけり?(7)        高島 りみこ 

 

【童 話】 

パンケとペンケ               宿谷 志郎 

 

【翻 訳】 

アラン『芸術論集』(三)           高村 昌憲 訳 

 

執筆者のプロフィール(五十音順)

 


朴先生の神業      高 裕香

 

好青年の彼は何者だ! 

彼が教室に入ると 

さっと、空気が変わる。 

 

熱い眼差しで児童を凝視し 

心をつなぎ留める 

張りつめた青い空気が覆う。 

 

決して、怒鳴る事はない。 

目でものを言い 

目線で活を入れる。 

 

四十分の授業の間 

児童達は、 

吸い込まれたようになる。 

 

おしゃべりも許されない 

魔法にかけられた様に 

皆、彼の心の中にいるのだ。


根こそぎ       なべくらますみ

 

 

獰猛な台風の日から一ケ月近くが過ぎたのに 

河原の傷跡は癒えない 

 

あの大木は杉か 

水草や自分のものではないはずの枯れ枝まで絡ませて 

根っこごとひっくり返っている 

上流から流されて来たのでもない 

 

河原に立っていたあの木 

鳥の声を響かせて立っていたあの木 

木は川砂混じりの毛根まで見せて倒れている 

この木だけではなく  

少し先の河原にも枯れ始めた木の根を見せて 

倒れている大木 

 

河原に触れた枝の先には 

ビニール袋のようなものが絡まって 

かすかな風に揺れる 

この枝の先から芽が吹いて とか 

絡まった根の先から新しい根っ子が出て とか 

そんな事はあるのだろうか 

 

出て来てほしい


詩人の旅立ち      高村昌憲

 

大嘘をつく詩人でなければならない 

そんな言葉を残して詩人は旅立った 

酷く暑かったと思うが思い出せない 

未だに現実のこととは思えなかった 

 

何故なら会えば何時でも話が好きで

何時までも話題が尽きなかったから 

これからも再びお会い出来るようで 

気さくな楽しい話が続くようだから 

 

本当にこれで予定を書けなくなって 

会えなくなるなんてつまらないのだ 

本当にこれでお会い出来なくなって 

一緒に焼酎を飲んで楽しめないのだ 

 

実父と一緒に飲んだ記憶が無いから 

ついつい甘えていたのかも知れない 

その代わりに創作の場を作ったから 

親孝行された気分でいたなら嬉しい 

 

出来れば又大嘘をつく詩人になって 

存在し得ない直線を表現して欲しい 

出来れば又焼酎を飲む父親になって

隠れた真理を話し続けていて欲しい


ペンギンの島       長尾雅樹

  

直立した歩行姿勢で 

氷の地平線を翔んでゆく 

白と黒の陰影を探して 

軽やかに移動する足跡から 

時計仕掛けの歩幅が虚空を滑る

 

ペンギンの棲んでいる島から 

騒々しく聞こえてくる叫び声 

寒風吹きすさぶ氷原の彼方に 

おうとつの夢の破片が散る 

 

小刻みの間隔で 

歩き廻り走り廻る道化師の風音が遠ざかり 

海に潜った瞬時の絵姿が消える 

水鏡に写った生命の旋律を辿って 

空の彼方に伝播された鼓動を聞く 

氷上に戯れている夢ごこちの歩行者たちに 

凍土の季節が荒れ狂うこともある 

 

生きるということの影絵を刻み 

極楽の手法を映し出して行く南極圏 

ここに生きている無邪気な動物を追い 

瞼の奥で残像を描き続けながら 

生きることの楽しみを無心に繰返している 

 

万年氷の寒冷地帯に 

生の楽園を刻印しながら 

優しい記憶を体内に宿して 

軽やかな天界の呼吸を白く染め上げて 

キョトキョトと仲間に挨拶をしながら 

いつまでも生の極みを演じ続けている 

 

あの鳴き声の向こうに何があるのだろう 

 

氷島は死の楽園を模写しながら

一羽一羽の生死を忘れ去ろうとする。 



読者登録

高村昌憲さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について