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ネコのバス

 六月二十三日のお昼過ぎ、三ノ宮を海側に下った御幸通りに、そのバスは停まっていた。ミケ猫をデザインした大きなバスだ。屋根の前には、保護猫のシンボル、カットしたさくらの耳まで付いている。ボデイの横には

「ホゴネコが家族と出会うネコのバス」

そう、可愛くペイントされている。係りの若い女性に、おずおずと声をかける。

「あのー、ほんのちょっと地域猫の活動に携わっている者なんです。今、里親にはなれないのですが、譲渡会の様子を見学させていただいてよろしいですか?」

「まあご苦労様です。どうぞゆっくり見てください。これ整理券です。一度に七、八人しか入れないので」

にこやかに応対していただき、ほっとする。グッズを販売しているスタッフや案内の方も何人かいる。厚かましくいろいろたずねてみた。

このバスは、キャットフードを製造販売しているネスレの子会社が運営していて、全国をめぐっているという。もちろん猫を乗せて走るわけではない。バスを快適な状態にして、譲渡会場にしているのだ。簡単なアンケートに答えて、入場券代わりのキットカットを五百円で買って(これは寄付の扱いになる)バスに乗る。手足を消毒、私はストッキングだったので、ソックスをプレゼントしていただいた。

八人の人が片側のシートに座る。もう片側は二段の棚になっていて、ケージが置いてある。子猫は二匹、成猫は一匹、そのケージに入っている。棚の上に乗って悠然とした大きな黒猫もいたけれど、他の猫は,緊張しているのか丸くなっている。十匹の猫たちだ。それぞれプロフィールが書かれており、係りの方の説明もある。

お隣に座ったご夫妻が、「ちまきちゃん」というシロキジの二歳の猫を抱っこさせてもらっていた。去年、十六年一緒に暮らした猫を看取られたそうだ。他の方もそれぞれ

「この子、撫でてもいいですか」

「我が家にはもう猫がいるんですけど、大丈夫でしょうか?」

などどおっしゃっている。それに対して

「この子はものすごい甘えたで、一匹飼いの方がいいですね。こちらの黒の子は、だれとでもほんと仲良く過ごしますよ」

「この子たちは兄弟なので二匹飼っていただけるならうれしいです」

などと、和やかな説明も入る。

時間が来て、バスを降りることになった。

「ちまきちゃん」の里親になろうかなと考えておられるご夫妻は、保護主さんとネスレのビルでの面談に向かわれた。高齢者の場合は家族の同意とか、飼えなくなった場合のこととか条件があるらしい。

「どうか話がスムーズに進んで、あの静かな瞳でこちらを見ていた「ちまきちゃん」が、家族に迎えられますように」

そう祈って、ふわふわした気持ちのまま、家路についた。


この本の内容は以上です。


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