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カレラの報道、眉には唾をたっぷりと

カレラのホードー、眉には唾をたっぷりと 

 

報道に携わる人たちの無能あるいは怠惰あるいは腰抜け、あるいはその全てを今更敢えて言立てする気はない。

 

無能の、あるいは怠惰の、あるいは腰抜けの、あるいはその全ての表れをいくつか取り上げてみる

 

カレラが殆ど知らぬ顔の半兵衛を決め込む一件をめぐっては、"John J. Geoghan"(ジョン・J・ゲイガン)(元司祭にして有罪判決を受けた幼児性愛嗜好者。二〇〇三年、マサチューセッツ州刑務所内で受刑者仲間に殺害された)という固有名詞の例文を、『現代英語力標準用例集』に四例載せた。"pedophile"(幼児性愛嗜好者)と"pedophilia"(幼児性愛)という語もこの重大犯罪、カトリック醜聞関連で載せることになった。

 

しかし、カトリックなかりせばマルキ・ド・サドもマンク・ルイスも誕生し得ず、『薔薇の名前』を耽読する快楽も味わえなかったはずだ……などと始めると危なっかしい方向に筆が進みかねないのでここはひとまず自制することとするが、カトリックなかりせば、この世の逸脱の総量もまた大いに減ずることになるというか、存亡の危機に瀕することにもなろうから、逸脱の、もしくは逸脱ならぬ逸脱の乏しき世の荒寥は……、と転がり過ぎる言葉。少し自制。ただし、自主規制でも自己検閲でもない。このほぼ四字熟語、既にカレラの第二の本能と化している。

 

カレラのホードーには、事実を伝える情報が果たしてどの程度紛れているのか。受け手一人一人が体験することも十分可能な情報、自身が体験していない場合には、身近にいる体験した他者に確認することも容易であるような情報、例えば野球やサッカーの試合結果の報道くらいは事実を伝えていると判断してもいいだろう。ただし、スポーツに関してさえ、評価や評判についての報道はまったく当てにならないと思ったほうがいい。

 

例えば、イチローの一シーズン安打記録の一件、当時かなり手間隙をかけて合衆国の報道サイトをあちこち調べ回り、その結果を、『顧みられぬもの、語られぬこと』という文章にまとめた。日本で大々的に報道されたイチローの一シーズン安打記録、数字そのものは確かな情報であるが、全米を熱狂させはしなかったことは殆ど伝えられなかった。唯一、SANSPO.COMが、合衆国のメディアは熱狂的になることはなかった、と伝えていた(注1)

 

カレラは英語もろくに読めないというか、読んでいないというか、その客観的証拠を手にしたと思わせてくれた一件である。取り分けカレラの中のスポーツ担当連中は合衆国の報道媒体(web site)になど殆ど目を通していない。こまめに目を通していればずいぶんと面白い記事が書けるはずだ、と思うことたびたびなのである。

 

その一例。ロンドン五輪女子サッカー決勝戦前日のusatoday.comの記事(U.S. soccer rematch against Japan for gold all about respect By Robert Klemko, usatoday.com, 8/8/2012)には、二人の選手の安堵の色をにじませた実感が報じられている。

 

アビイ・ワンバックの「もう顔をなぐられる心配をしなくてすむ("Abby Wambach isn't worried about being punched in the face again.")」と、カーリ・ロイドの「これで頭を踏みつけられることはない("Carli Lloyd is pretty sure she won't have her head stomped.")」である。

 

それまで合衆国チームは弱いチームとサッカーを戦ってきたのではなく、サッカーとは無縁の暴力的行為と闘ってきたのである。ワンバックの言葉。「日本とは、いいチーム同士だから、サッカーだけすればいいんだ。("The Japanese team is so good, and we are so good, that it's going to be all about the soccer.")

 

当時の日本女子サッカーチームの有りようと、その時点において至りついていた高みをよく表した記事だった。(たぶん)どのスポーツ紙にも一般紙にも紹介されていなかった記事である。

 

もう一つ、テキサス・レンジャーズのホーム球場での対エンジェルス戦、先発ダルビッシュが一回表を零点に押さえ、その裏レンジャーズがエンジェルスのエース、C.J. ウイルソンから一点を奪い、なおも一死満塁という時点で降雨中断。約二時間後に再開、ウイルソンは交代したがダルビッシュは続投し、5回3分の1を投げ、3失点、3安打、3四球、7奪三振がこの日の投球内容。

 

この試合を伝えるESPNの記事Josh Hamilton homers twice as Rangers top Angels (8:05 PM ET, May 11, 2012, Associated Press)mlb.comの記事Hamilton's two homers back admirable Yu in win (By T.R. Sullivan / MLB.com | 5/12/2012 2:38 AM ET)の内容に大きな相違はない。

 

両記事にこの日本塁打を二本打ってダルビッシュを援護したレンジャーズの主砲ハミルトンの「(長時間の中断後も)続投して粘り強く投げぬいたダルビッシュを本当に誇らしく思った。("I was really proud of him coming back out there and sticking it out," Hamilton said. "It says a lot to his teammates about him." (mlb.com))」という発言が載っている。

 

mlb.comによれば、この夜、ダルビッシュは「同僚の敬意を勝ち得た("He earned the respect of his teammates")」。

 

この記事も日本の主だった新聞には紹介されていなかった(たぶん)。

 

ついでに言ってしまおう。程度に差はあれ、眉唾で向き合わねばならないということでは、カレラのムラの客分連中、各種大報道媒体(ここではラジオ・テレビを含む)に寄食する有象無象の評論家やら何とやらといった連中の弄する言辞についても大差はない、ということを具体例を挙げて示したいのだが、資料の収集・保存は目下の私には手に余る作業であるため、ここでは立証作業を保留せざるを得ない。

 

ついでのついでだ。欧米先進国の報道媒体も大同小異である。

 

 代表的ないわゆる高級紙のニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙の日本関連の、取り分け日本やアジアの政治や近現代史関連の記事を読んでいて痛感させられるのは、こうした媒体に掲載されるアジア、アフリカ、中南米、中東などに関わる報道は相当にしっかりと眉に唾つけながら目を通すべきだということである。

 

以前、英国のザ・タイムズ紙のサイトで目にしたジンバブエ(旧英国植民地ローデシア)のロバート・ムガベ大統領の大きな写真には、ザ・タイムズ紙編集者の悪意らしきものを感じさえした。悪趣味の極みとも評すべき、数え切れぬほどの(たぶん)勲章で満艦飾状態の西洋式軍服で身を固めた巨大な上半身と巨大な顔の写真であった。

 

西洋の基準(かなりの程度私の基準でもある)で評価すれば美しさとはかけ離れ、知的とも到底見なし難い容貌のアフリカの小国の大統領がそこにはいた。もう少し写りのいい写真もあるはずだ、と私はこの《著しく評判の悪い》独裁者大統領に、少々ではあるが、同情的になった。この大統領について英国のカレラが垂れ流す内容には眉唾で向き合わねば、と自分に言い聞かせた。

 

ところでザ・タイムズ紙のカレラ、後に独立国家となるジンバブエの位置する地域においてもまた、傍若無人に侵略した上、地域の様々な住民の事情など一切お構いなしにいわばメチャメチャに、ここからあそこまではオレの縄張りだ、と宣言し、「ここからあそこまで」を《ローデシア》と命名し、百年近い過酷な植民地支配を続けたのは英国である、という歴史を直視するどころか、チラと目を遣ることも、見たことも、見ようとしたことさえないのであろうな。

 

アフリカ、中近東、アメリカの地図上に氾濫する見るも無残な直線的国境を直視せよ、ザ・タイムズ紙のカレラよ。アメリカ合衆国とカナダ間の目もくらむほど延々と醜悪な直線的国境。

 

以下、願望を記事に、それも社説にしてしまうというお粗末。

 

二〇〇二年四月十一日、反チャベス派がクーデタを仕掛け、チャベス大統領は拘束されたというベネズエラ情勢を受け、ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)の十三日の社説は「ウーゴ・チャベス退陣[Hugo Chavez Departs(Editorial, nytimes.com, April 13, 2002)]」となった。

 

臨時政府の大統領には同社説によれば「尊敬を集める(ベネズエラ)経済界の大立者[a respected business leader]」であるペドロ・カルモナが就任したが、支持が広がらず、チャベス支持派の大衆行動が激化したことで、たちまち辞任、同じく同社説によれば「破滅をもたらす扇動政治家[a ruinous demagogue]」であるウーゴ・チャベスは早くも十四日には大統領に復帰した。以後、チャベスは二〇一三年三月に亡くなるまでベネズエラ大統領の地位に留まり続けた。

 

普段から抱いていた特殊な願望や偏見の激しさが冷静な判断力を曇らせ、慎重さを失わせたという好例である。ニューヨーク・タイムズ紙の編集委員会の連中、よほどチャベスを嫌っていたらしいことがよく分かる。それとも、ウーゴ・チャベスが一時ではあれ大統領職を退いたのは事実だ、と強弁するか。

 

もう一つ、結果としてブッシュ政権内の対イラク強硬派[administration hard-liners]のお先棒を担ぐ事になったとされる記事U.S. Says Hussein Intensifies Quest for A-Bomb Parts (By MICHAEL R. GORDON and JUDITH MILLER, nytimes.com, September 8, 2002)

 

複数のブッシュ政権高官[Bush administration officials]から、フセインは原爆製造に躍起になっていると耳打ちされ、それをそのまま記事にしてしまい、イラク侵攻の口実として利用されるに至ったとされる記事である。

 

原爆製造疑惑の有力な根拠の一つは、この約三千五百語の長文記事を読んでみると、イラクが大量の高強度アルミ管を手に入れようとしている、ということのようだ("the quest for thousands of high-strength aluminum tubes is one of several signs that Mr. Hussein is seeking to revamp and accelerate Iraq's nuclear weapons program.")。その心は、こうしたアルミ管は遠心分離機製造に必要らしいのである("the aluminum tubes were intended as casing for rotors in centrifuges")。

 

何のことはない。高濃縮ウラン製造に必要な遠心分離機さえいまだ揃っていないということではないか。

 

 

(了)

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(注1)
日本の報道媒体で以下のような冷静な記述に接することは殆どなかった。

  

イチローがシーズン最多安打を達成。新記録は、グローバル化した大リーグの「時代の象徴」でもある。アジア人の挑戦に、米国のファンやメディアは熱狂的になることはなかったが、同時に無視することもなく、冷静に見守った。(「【MLB】イチロー一気に新記録!シスラー抜き259安打に」, SANSPO.COM,2004年10月2日(土) )

 

 


この本の内容は以上です。


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