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ゆっくりとうなずいた安部教授は、話を切り上げることにした。「わかった。論文、楽しみにしているよ。AIの開発が、先進医療技術に貢献していることは、喜ばしいことだが、君が言うように、今後、AIをどのように医学に利用するかが大切だ。特に、異常脳の研究に役立てることができれば、知的障がい者、精神障がい者の救済にもなるからな。長話になってしまった。論文は、いつでも持ってくるがいい」鳥羽は、原発テロ対策に協力させられそうになり、不愉快になっていたが、グリア細胞の研究が理解されたことに気をよくした。ついでに、貧困労働者として賃上げ闘争をすることにした。つまり、教授の助手をすることは、別に不満はなかったが、アルバイト料をもう少し上げてげてほしかった。というのは、安部教授は、九州各県の土地を買収している大金持ちとのうわさを聞いたからだ。

 

 鳥羽は、頭をかきながら、お願いした。「ちょっと言いにくいのですが、お願いがるのです。いいでしょうか?」立ち上がりかけた教授は、少し浮かした腰をストンと落とした。「お願い?いったいどんな?」鳥羽は、両手を膝に乗せ、マジな顔つきでお願いした。「お願いというのは、バイトの時給をあげてほしいのです。時給800円は、ちょっときついのです。今のところ、助手以外に、バイトもできないし、ほんの少しでもいいのです、あげていただけませんか?」教授は、助手というものは、教授とのマンツーマン授業と考えていた。バイト料を払うどころか、授業料をもらって当然と考えていた。「バイト料をあげてほしいというのか?まったく、訳の分からんことを言うな~~。君は、助手を何だと思っているんだ。イヤだったら、いいんだ。ほかの学生にやらせる」

 

 鳥羽の顔から血の気が引いた。まさか、ここまで罵倒されるといは夢にも思っていなかった。このままだと一生嫌われてしまうと思い、謝罪することにした。即座に立ち上がった鳥羽は、フロアに正座した。「申し訳ありません。まったくバカなことを言ってしまいました。助手に選んでいただいたにもかかわらず、恩知らずなことを言ってしまい、誠に申し訳ありません。このバカをお許しください。今言ったことは、忘れてください」鳥羽は、頭を下げ、しばらくの間額をフロアにこすりつけた。教授は、ちょっと言い過ぎたと思い、やさしく言葉をかけた。「いや、ちょっと言い過ぎた。も~いい。さあ、座って」

 


 腰をあげた鳥羽は、今にも泣きそうな表情でソファーに腰掛けるとうなだれた。教授は、鳥羽の生活事情を気遣った。「まあ、君の訴えもわからんこともない。今の奨学金とバイト料だけでは、食べるだけが精いっぱいだろう。ほしいパソコンもタブレットも書籍も、買えないだろう。デートしたくても、彼女をレストランにも誘えないだろうな~~。気の毒に思うが、これが現実なのだ。生きていく上では、お金が必ず絡んでくる。別に話を蒸し返すわけじゃないが、さっきのプロジェクトの仕事をやれば、それ相応の報酬はもらえる。そうすれば、買いたいパソコンも買えるし、彼女とレストランで食事もできる。君のポリシーを曲げろとは言わない。もう一度、考えてみてはくれないか?」

 

 鳥羽は、しばらく黙っていた。教授の言葉が鳥羽の心にグサッと突き刺さっていた。安部医科大の学生のほとんどは、富裕な医者の子で、彼女を助手席に乗せて高級車を乗り回し、高価なハイスペックPCを使って研究していた。それに比べ、中古の原チャリにしか乗れず、デートするどころか、美緒におごってもらって感謝している自分が情けなかった。貧乏な家に生まれたことを恨んだことはなかったが、今の経済状況では、十分な研究ができないことは確かだった。もっと高性能のパソコンも欲しい、買いたい書籍もある。できれば、新車の原チャリも欲しかった。いつもおごってもらい頭が上がらない美緒に、たまには、和牛ステーキをおごってやってビックリさせたかった。

 

 鳥羽の政府の仕事をやりたくないという気持ちは変わらなかったが、もう一度、原発テロ対策について確認することにした。「今でも原発テロ対策は政府がやるべき仕事だと思っています。なぜ、政府の仕事を教授は請け負ったのですか?教授は、いつから、ビジネスマンになられたのですか?」原発テロ対策プロジェクトは政府とは関係なかった。教授はこの点をはっきりと伝えることにした。「確かに原発テロ対策の仕事は、政府がやるべきだ。だが、政府は、原発テロを真剣に考えていない。それどころか、今もって、原発再稼働のことばかり考えている」

 


 鳥羽は、そうだそうだ、と心でつぶやきうなずいた。教授は、話を続けた。「近年、原発労働者の被曝問題が大きくなったため、原発労働者が不足してしまった。そこで、政府は移民法を改正して、多くの外国人労働者を長期間雇い入れることにした。そして、原発管理会社は、マフィアを使って、高額な日当を餌に外国人労働者を失踪させ、さらに、原発労働に関する労働基準法に違反した原発労働を彼らに強いている。つまり、政府は、原発テロに対する対策を取らず、原発テロを誘発するような愚かな行為をやっているということだ。そのことに気づいたモサドは、ユダヤ系若者だけでも救出しようとして、ヤマト・へブル帝国建国に乗り出したわけだ。今回のプロジェクトは、モサドが主導している。私は、それに賛同し、協力しているわけだ」

 

 鳥羽は、政府の原発事業に反対していた。だからこそ、原発テロ対策は政府が責任を持ってやるべきだといいたかった。原発テロが、実際に起きるとは信じがたかったが、万が一のことを考えれば、原発事故から人々を救う仕事は、不可欠だと思った。教授がモサドの原発テロ対策に賛同したことは、もっともなように思えてきた。もう一度、プロジェクトについて聞くことにした。「教授、プロジェクトの仕事ですが、マジ、医学の勉強の妨げになりませんか?僕は、必ず医者にならなければなりません。マジ、国家試験に落ちるわけにはいかないのです。本当に、勉学と両立できますか?」

 

 鳥羽が賛同してくれたと思い、教授は笑顔を見せた。「医学の妨げになるような仕事など、君に与えるわけがない。君は学生だが、僕の代理として、AI医科学研究所設立プロジェクト会議に出てほしいんだ。僕の代理ができるのは、鳥羽君しかいない。君が、優秀な医学生であることは、メンバーに報告しておく。そして、学生としての君なりの意見を述べてもらえばいい。君の研究にも役立つはずだ。姫島の診療所勤務まで、AI医科学研究所で働いてもらってもいいぞ。そこで、運営資金を稼げばいいじゃないか。今回のプロジェクトの仕事は、将来的にも役に立つ仕事だと思うが。どうだ、やってくれるか?」


 

 鳥羽は、教授の代理での仕事であれば、勉学には差し支えないように思えた。鳥羽は、再度確認した。「教授の代理で、プロジェクト会議に出席するだけでいいのですね。そして、会議の報告をすればいいのですね。それだけですね」教授は、うなずき、返事した。「そうだ、プロジェクト会議の報告をしてもらえればいい。それと、現在建設中現場の視察をお願いしたい。視察は、1月に1回ぐらいだ。日当も交通費も、事前に支給するから、金銭的なことで心配することはない。やってくれるんだな」鳥羽は、今の経済状況を考えるとお金が今すぐにでも欲しかった。それと、将来、孤島での診療所運営を考えると、多額の運営資金の蓄えも必要だった。両手に握りこぶしを作った鳥羽は、しばらく考え込んだ。小さくうなずいた鳥羽は、教授の依頼を受けることにした。「はい。原発テロから、国民を守る仕事です。喜んで、やらせていただきます」教授は、笑顔を作り、大きくうなずいた。


             シナ・マフィア

 

 現在、篠田校長は、俳優、歌手、ダンサーを育成するNKS芸能アカデミー校の校長をやっていた。このNKS芸能アカデミー校は、カツラ・コーポレーション系列のカツラ・ビジネスが運営していた。これは、くノ一・エージェントの組織拡大のために、カツラ銀行の融資を受けて建設されたものだった。校長は、シナ・マフィアからの情報収集を急務としていたため、特に、優秀なソープ・エージェントを発掘していた。ソープ・エージェントとして採用できそうな生徒を発見すると極秘に説得していた。ジュリナもその一人だった。また、実践教育をするために、校長自ら、ソープ・エージェントとしてプラチナで働いていた。午前中は校長として勤務し、午後からは、エージェントとして働いていた。

 

 79日(火)ジェットコースター記念日。毎週火曜日はプラチナ勤務の日だった。校長は、プラチナでは、マリという名で勤務していた。本日は、チンギス・ハンの末裔と名乗る70歳を超えた老人のお得意様がお相手だった。6時の予約であったため、5時過ぎには、プラチナに入店した。プラチナの通常入浴時間は、120分、20万円だったが、このお得意様老人の場合は、特別に、60分延長し、180分、30万円で入浴させていた。スタッフに案内されたハン老人の手を取ったマリは、ゆっくりとハン老人を気遣いながらVIPルームに向かった。2部屋しかないVIPルームは、VIPプラチナ会員とプラチナを20回以上利用された会員が使用できる最高級の部屋だった。マリは、ハン老人の服を脱がせると、足元に注意を払い、皇帝が座るような豪華な椅子に腰掛けさせた。ハン老人は、健康ではあたが、足元がおぼつかなく、常に介護が必要だった。

 

 ハン老人は、マリがお気に入りで、マリ目当てに3年前から通っている。最初の年は、1か月1回程度だったが、2年目あたりから、毎週、火曜日にはやってくるようになった。ハン老人は、かなりの富裕層の老人と見えて、花束と一緒に、宝石、高級ブランドのバッグ、コートなどの高価なお土産をマリにプレゼントしていた。さらに、帰るときには、50万円のお小遣いを渡していた。マリは、結婚の支度金のように思えて、高価なプレゼントは受け取りたくなかったが、ハン老人はシナ・マフィアのボスに違いないとにらんでいたため、マリは、情報を入手する目的で快く受け取っていた。ちょっと困ったことは、来るたびに、結婚を申し込むことだった。これには、かなり辟易したが、情報を入手するために、うまくかわしながら、老人を引き付けていた。



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