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             鳥羽の選択

 

 78日(月)鳥羽は、安部教授の教授室に呼ばれていた。教授は、安部医科大入学への勧誘として、将来、姫島の診療所建設を約束していた。この約束は、反故(ほご)にされることはなかったが、安部教授は、原発テロが迫っていることを考えると、一刻も早く、地下組織を確立させ、地下ヤマト・へブル帝国をつくる必要性を感じていた。そこで、信頼できる鳥羽を代理としてAI医科学研究所設立プロジェクトに参加させたかった。すでに、九州各県に10か所以上の研究所用地を買収できていた。カツラ・コーポレーション系列のカツラAIシステムズは、そこに、AI関連の企業を建設し、優秀な学生や研究者を受け入れる計画を進めていた。

 

 安部教授は、ソファーに腰掛けた鳥羽に打診した。「今日、来てもらったのは、鳥羽君の将来についてのことなんだ。もちろん、約束した姫島の診療所は、必ず、建設する。そこでなんだが、今、重要なプロジェクトが進められている。そのプロジェクトというのは、原発テロ対策としてのAI関連の研究所設立プロジェクトなんだ。当然、AI医科学研究所設立プロジェクトも現在進行している。鳥羽君、どうだろう、AI医科学研究所設立プロジェクトのメンバーになってくれないだろうか?君は、学生の身分で学業以外の仕事はできないというだろうが、君の才能であれば、両立できると思うのだ。考えてくれないか?」

 

 突然の意味不明の依頼を受けて鳥羽の頭は混乱してしまった。なぜ、原発テロ対策に医学生が引っ張り出されるのか、さっぱりわからなかった。「ちょっと、待ってください。原発テロ対策は、政府がやることじゃありませんか。どうして、医学生が引っ張り出されなくてはならないのですか?筋違いじゃありませんか?僕には、まったく、関係ないことだと思います。教授もそう思われるでしょ」教授は、ちょっと顔をしかめて、返事した。「確かに、君のいうことはもっともだ。そうだな、説明不十分だな。原発テロ対策プロジェクトには、極秘の事情があるんだ。でも、君を説得するには、話さなくてなならないだろうな。事情が分かってくれたなら、考えてくれるか?」


 極秘の事情を説明されたとしても、医学生と原発テロ対策とは無関係だと思うことには、変わりなかった。「教授、たとえ極秘の重要な事情を説明されても、僕は、医学生であって、政府の仕事をするビジネスマンにはなりません。考える余地はないと思いますが」鳥羽は、頑固だとはわかっていたが、ここまで屁理屈をこねるとは思っていなかった。教授は、とりあえず、事情を話すことにした。「君の気持ちは、よくわかった。ここまで話したんだ。一様、事情は話しておく。話を聞いて、断ってもらって構わない」鳥羽は、事情を聴いても考えは変わらないと思い、事情を聴きたくなかったが、入学当初から教授には御世話になっていることを考えれば、事情ぐらいは聞いてみてもいいかと思った。

 

 教授は、一度ため息をつくと話し始めた。「君も知ってると思うが、2011311日、福島原発テロが起きた。いまだ、政府は、テロであることを公表していない。でも、間違いなくCIAによる原発テロと考えていい。これは、モサドからの情報だ。次の原発テロを予測はできないが、万が一、西日本の原発がテロにやられれば、もはや、本州には居住できる場所はない。となれば、居住できるところといえば、九州しかない。そこで、日本の優秀な若者を救済するために、モサドは、九州の地下にヤマト・へブル帝国を建国する計画を立てたんだ。その第一段階として、AI関連の研究所を建設することにしたんだ。簡単に言えば、こういうことだ。わかってくれただろうか?」

 

 首をかしげた鳥羽は、自分の考えを述べることにした。「福島原発事故がテロかどうか、僕にはわかりません。そもそも、なぜ、日本がテロ攻撃を受けなければならないのですか?原発テロは、考えすぎじゃありませんか?日本は、確かに、地震国です。だから、地震による原発事故対策は必要だと思います。その点は、政府の対策がなされるはずでしょ。仮に、テロによる原発事故を想定したとしても、対策は政府の仕事です。医学生には、関係ありません」教授は、説明を付け加えることにした。「確かに、地震や津波が起きた後に、福島原発事が起きたわけだから、原発テロとは断定することは、できない。でも、日本がテロの攻撃を受ける理由があるんだ」

 

 


 教授は、一呼吸おいて話を続けた。「最近のDNA鑑定から、日本人のルーツは、ユダヤ人であることが判明した。日ユ同祖論というのを聞いたことはあるだろ。これは、あくまでも、日本人とユダヤ人にDNA共通遺伝子があるということに過ぎないが、日本人のルーツはユダヤ人と考えて間違いない。日本人のルーツがユダヤ人だからといって、特に、国際関係上問題になるわけではない。また、我々日本人には、ルーツにこだわる特別な事情はない。ところが、アーリア人には、日本人がユダヤ人であることが問題となってくる。歴史的にアーリア人は、ユダヤ人を迫害してきた。だから、アーリア人はユダヤ人に復讐されるのではないかと恐れている。この妄想とも思える恐怖心から、ユダヤ系日本人を抹殺しようとしているんだ。54基の原発は、そのための準備だったんだ。もう、我々に残された時間は、わずかなんだ。わかってくれるか?」

 

 鳥羽は、教授の説明を聴いているとますます疑問がわいてきた。「たとえ、我々がユダヤ系日本人だからといって、アーリア人は、世界中を放射能汚染するような愚かな原発テロをやるでしょうか。僕には、考えられません。原発テロを想定したとしても、政府のテロ対策で十分だと思います。さっきも言ったように、教授は心配しすぎです。教授はそんなことを考えるより、脳の研究をやってください。AIの研究が先行し、肝心の脳の研究が遅れを取っているじゃないですか。AIを脳機能にどのように活用するかを考えるのが、僕ら、研究者でしょ。AIが脳機能に悪用されて、人間が兵器化されるほうが心配です」安部教授は、これ以上の説明は不要と思ったが、テロの悲劇を話すことにした。

 

 教授は、気落ちした言葉で話し始めた。「そうだな、医者は、政治家でもなければ、ビジネスマンでもない。しかし、万が一、原発テロが起きれば、日本民族は全滅だ。原発ホロコーストだな。テロが起こらないことを祈る以外ないということだ。鳥羽君には、余計な時間を取らせてしまった。悪く思わないでくれ。診療所建設の約束は守る。ところで、君は、グリア細胞の研究をやっているのか?何か、発見はあったか?」鳥羽は、自分のグリア細胞の研究について報告しようと思っていた。「そのことですが、研究は不十分なのですが、現段階の研究論文に目を通してもらいたいと思っていました。今週中にまとめてお持ちします。それと、研究手法としての論理学についても、教授の意見を聴かせていただきたいと思います」


ゆっくりとうなずいた安部教授は、話を切り上げることにした。「わかった。論文、楽しみにしているよ。AIの開発が、先進医療技術に貢献していることは、喜ばしいことだが、君が言うように、今後、AIをどのように医学に利用するかが大切だ。特に、異常脳の研究に役立てることができれば、知的障がい者、精神障がい者の救済にもなるからな。長話になってしまった。論文は、いつでも持ってくるがいい」鳥羽は、原発テロ対策に協力させられそうになり、不愉快になっていたが、グリア細胞の研究が理解されたことに気をよくした。ついでに、貧困労働者として賃上げ闘争をすることにした。つまり、教授の助手をすることは、別に不満はなかったが、アルバイト料をもう少し上げてげてほしかった。というのは、安部教授は、九州各県の土地を買収している大金持ちとのうわさを聞いたからだ。

 

 鳥羽は、頭をかきながら、お願いした。「ちょっと言いにくいのですが、お願いがるのです。いいでしょうか?」立ち上がりかけた教授は、少し浮かした腰をストンと落とした。「お願い?いったいどんな?」鳥羽は、両手を膝に乗せ、マジな顔つきでお願いした。「お願いというのは、バイトの時給をあげてほしいのです。時給800円は、ちょっときついのです。今のところ、助手以外に、バイトもできないし、ほんの少しでもいいのです、あげていただけませんか?」教授は、助手というものは、教授とのマンツーマン授業と考えていた。バイト料を払うどころか、授業料をもらって当然と考えていた。「バイト料をあげてほしいというのか?まったく、訳の分からんことを言うな~~。君は、助手を何だと思っているんだ。イヤだったら、いいんだ。ほかの学生にやらせる」

 

 鳥羽の顔から血の気が引いた。まさか、ここまで罵倒されるといは夢にも思っていなかった。このままだと一生嫌われてしまうと思い、謝罪することにした。即座に立ち上がった鳥羽は、フロアに正座した。「申し訳ありません。まったくバカなことを言ってしまいました。助手に選んでいただいたにもかかわらず、恩知らずなことを言ってしまい、誠に申し訳ありません。このバカをお許しください。今言ったことは、忘れてください」鳥羽は、頭を下げ、しばらくの間額をフロアにこすりつけた。教授は、ちょっと言い過ぎたと思い、やさしく言葉をかけた。「いや、ちょっと言い過ぎた。も~いい。さあ、座って」

 


 腰をあげた鳥羽は、今にも泣きそうな表情でソファーに腰掛けるとうなだれた。教授は、鳥羽の生活事情を気遣った。「まあ、君の訴えもわからんこともない。今の奨学金とバイト料だけでは、食べるだけが精いっぱいだろう。ほしいパソコンもタブレットも書籍も、買えないだろう。デートしたくても、彼女をレストランにも誘えないだろうな~~。気の毒に思うが、これが現実なのだ。生きていく上では、お金が必ず絡んでくる。別に話を蒸し返すわけじゃないが、さっきのプロジェクトの仕事をやれば、それ相応の報酬はもらえる。そうすれば、買いたいパソコンも買えるし、彼女とレストランで食事もできる。君のポリシーを曲げろとは言わない。もう一度、考えてみてはくれないか?」

 

 鳥羽は、しばらく黙っていた。教授の言葉が鳥羽の心にグサッと突き刺さっていた。安部医科大の学生のほとんどは、富裕な医者の子で、彼女を助手席に乗せて高級車を乗り回し、高価なハイスペックPCを使って研究していた。それに比べ、中古の原チャリにしか乗れず、デートするどころか、美緒におごってもらって感謝している自分が情けなかった。貧乏な家に生まれたことを恨んだことはなかったが、今の経済状況では、十分な研究ができないことは確かだった。もっと高性能のパソコンも欲しい、買いたい書籍もある。できれば、新車の原チャリも欲しかった。いつもおごってもらい頭が上がらない美緒に、たまには、和牛ステーキをおごってやってビックリさせたかった。

 

 鳥羽の政府の仕事をやりたくないという気持ちは変わらなかったが、もう一度、原発テロ対策について確認することにした。「今でも原発テロ対策は政府がやるべき仕事だと思っています。なぜ、政府の仕事を教授は請け負ったのですか?教授は、いつから、ビジネスマンになられたのですか?」原発テロ対策プロジェクトは政府とは関係なかった。教授はこの点をはっきりと伝えることにした。「確かに原発テロ対策の仕事は、政府がやるべきだ。だが、政府は、原発テロを真剣に考えていない。それどころか、今もって、原発再稼働のことばかり考えている」

 



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