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(1)プロローグ

 

「おじちゃん。来たよ」

 

峠にある駄菓子屋には、今日も子どもたちで賑やかだ。自転車で乗り付けてきた子や塾帰りに手提げバッグを持ったままの子など、様々だ。

 

店の奥には、髪の毛は真っ白で、ところどころに地肌が見え、顔は皺なのか、笑顔なのかがわからないくらい豊かなほうれい線が入った、子どもからおじちゃんと呼ばれたおじいさんがパイプ椅子に座っていた。彼は、店の中に自分の家のように次々と入ってくる子どもたちを目を細めて眺めていた。

 

「これ何?」

 

男の子が吸盤がかすかに残っている干したイカの足が入った袋を差し出す。「するめだよ」「食べられるの?」「もちろんだよ。美味しいよ」「じゃあ、ちょうだい。いくら?」「十円だ」「安いね」「駄菓子屋だからね」。

 

男の子はポケットからマンガのヒーローの絵が張り付けた財布を取り出した。

 

「はい」チャックを開けて十円玉をおじいさんに手渡す。

 

「ありがとう。その絵は何かな?」「これ?」

 

男の子は財布を見る。そんなことも知らないの?という顔で「正義の味方のウルトラマンだよ」と自分もあたかも正義のヒーローのように胸を張った。

 

「地球を守ってくれるんだ」

 

「ほう。そうかい。おじさんが子どもの時にもウルトラマンがいたよ」

 

「へえ。ウルトラマンはおじさんよりもおじいさんなんだ」

 

「そう言うことになるかな」

 

おじいさんとの会話に飽きたのか、男の子は袋を破ってイカの足を取り出すと、口に咥えたまま、イカの足の数よりも多い子どもたちの群れの中に入っていった。それを愛おしそうに見つめるおじいさん。

 

「おじちゃん。これ、やりたい」

 

おじいさんの前に、別の男の子がやって来た。この男の子はみんなの輪からはずれ、いつも一人ぼっちで、片隅でマンガを読んでいた。それでも、それを不満ともせずに、時折、マンガを読むのに飽きると、みんなが遊んでいるのをにこにこと部屋の隅から見つめていた。

 

その男の子が指さしたのは、ガチャガチャだった。

 

「中に何が入っているの」「地球を守るものさ」「僕も地球を守りたい」

 

男の子は左手にマンガの本を持ったまま、右手でガチャガチャのハンドルを回そうとする。だが、ストッパーが付いているためハンドルは回らない。

 

「お金を入れないと回らないんだよ」

 

おじいさんはハンドルを一生懸命に回そうとしている男の子の背中に向って声を掛ける。男の子がさっと振り向いた

 

「いくら」「百円だよ」「高いなあ」男の子は額に皺を寄せた。

 

「地球を守るにはたくさんのお金が必要なんだよ」と、おじいさんは男の子を諭すように呟いた。

 

「ふうん。そうか」

 

男の子はポケットから財布を取りだした。その財布にはさっきの子どもとは違うマンガの絵が描かれていた。それも五人だ。それは誰だい。おじいさんが男の子に尋ねた。

 

「正義のヒーローだよ。地球を悪から守ってくれるんだ。それも、五人いるんだ」

 

男の子も自分が正義のヒーローになったように腰に手を当てた。

 

「じゃあ、地球を守るために、はい」男の子が手のひらを差し出した。

 

そこには、日本の経済活動のために活躍したためか、最初の輝きは失い、汚れて数字さえも見えづらくなった十円玉が幾重に積み重なっていた。

 

「百円玉じゃないと入らないんだよ」

 

おじいさんは男の子が差し出した十円玉の塊を数も数えずに、レジから取り出した一枚の百円玉と交換した。

 

「ありがとう」男の子は百円玉を掴むと、ガチャガチャのお金の差し込み口に入れた。そして、ハンドルを回した。ハンドルが右に回り、ガチャ、ガチャと音がするたびに、四角い箱の中のボール状のケースは、小学校の先生が、この答えわかる人?と尋ねたときに、はい、はい、はい、はい、と子どもたちが身を乗り出して手を上げるように動いた。

 

ハンドルがちょうど一回転した時に、下の取り出し口からケースが一個落ちてきた。男の子は素早くケースを掴むと食い入るようにケースの中を見つめている。ケースはちょうど男の子の手のひらの上で揺れていた。

 

「何が入っているかな?」おじいさんが男の子に尋ねると、店の中にいた他の男の子たちも知らない間に集まってきて、ガチャガチャとその男の子の周りを取り囲んでいた。

 

「何?」「何?」「何が当たったんだよ」とケースの所有者の男の子に矢継ぎ早に質問をしてくる。

 

「さあ、開けてごらん!」おじいさんの声に合わせて、男の子はケースの真ん中辺りを地球の赤道をひねるように右に回した。蓋がぽっかりと空いた。中には・・・。

 


この本の内容は以上です。


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