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  • 魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女
  • 魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女
  • ポピーは魔法の世界に住む少女。その世界では「キャビッチ」という、神から与えられた野菜で魔法を使う――「食べる」「投げる」「煮る」「融合」など。 13歳になったポピーは、新たに「シルキワス」という伝統の投げ魔法を会得し、充実した毎日を送っていた。 そんなある日ポピーは母親に頼まれて、祖母の家までおつかいに出た。その祖母こそ、ポピーにシルキワスを教えた人であり、魔法界に――そして鬼魔(キーマ)界に名だたる伝説の魔女・ガーベラその人だった。 おつかいの途中でポピーは、ふしぎな声を耳にする。気になりながらもその正体はつかめずにいた。 そして祖母の家でポピーは、長いこと旅に出ていた父親と再会するが、彼女にくっついて来たポピーのライバル鬼魔・ユエホワを見て祖母と父が言った言葉に、はげしく動揺するのだった――
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「おばあちゃん」私はぼう然と呼んだ。「どうしてここにいるの?」

「あなたたちがうちの上を通り過ぎて行ったから、追いかけてきたのよ」祖母は答えながら、梢近くで翼をゆっくり羽ばたかせているラクナドン類に近づいていった。

「あ、危ないよ」私は思わず手をさしのべた。

「あなた、この子を乗せてちょうだい」祖母はかまわず、ラクナドン類の背中の上に箒ごと乗りあげ、完全に気をうしなって祖母にくったりともたれかかっているユエホワを海竜型鬼魔の大きな背中の上に寝かせた。

 ラクナドン類は、ほえたり、身ぶるいしたりいっさいせず、だまっておとなしく祖母の好きなようにさせていた。

「えっ」私は目をまるくした。「なんでこの鬼魔、怒らないの?」父に振り向いてきく。

「おばあちゃんの右手を、よく見てごらん」父がそっと答える。

 言われてあらためて祖母を見ると、その右手にはたしかに、ごく小さな、てのひらの半分あるかどうかというぐらいの大きさのキャビッチが、のせられていたのだ。

 そしてそのキャビッチは、赤く、ふわ、ふわ、ふわとまたたいていた。

「かなりのダメージを受けているわね」祖母はユエホワの頬に手を当てて、様子を観察した。「これは、キャビッチでやったの? ポピー」

「う」私は、マント人間に魔力をかけられてもいないのに声をつまらせた。「ごめんなさい」思わずあやまる。いや、なんであやまる必要があったんだろうか。

「そう」祖母は、ふ、と短くため息をついた。「三人落ちていってたけど、一個のキャビッチでいちどきに攻撃したの?」

「う、うん」私はうなずいた。「リューイで……小っちゃいキャビッチだったから二個合わせて」

「うーん」祖母は腕組みして空を見た。「倒すべき相手は二人だったのでしょ。ならば合わせてではなく、一個ずつそれぞれにリューイを同時にかけて投げるべきだったわね。そうすればユエホワまで巻き込まずにすんだでしょう」

「はい」私はうつむいてうなずいた。

「けれど、ぼくは相手の魔力で魔法も身動きも封じられてしまったけども、ポピーにはそれが効かなかった」父が、首を振りながら言った。「マハドゥが……さっきポピーが学校で唱えたマハドゥの効力が、今までずっと続いていたということだ。素晴らしい」声をふるわせる。

「え、そうなの?」私はおどろいて父を見た。

「まあ」祖母が大声を出したので、私は少しびくっとなった。「マハドゥが使えるようになったのね。素晴らしいわ」

「あ、え、えへへ」私は少しだけ笑顔になって言った。

「あとはそのマハドゥと、今のリューイとを同時がけできるようになれば、申し分ないわね」祖母はなんどもうなずきながら、まるで私の今後のレッスンスケジュールを頭の中でコウチクしているかのようにぶつぶつとひとり言をつづけた。

「同時がけ」私は思わず眉をひそめながらくり返した。うう、またむずかしそうなことをおぼえなきゃいけないんだ……

 

「ガーベランティ」

 

 小さな声が、聞こえた。

 私たち三人は、いっせいに口をとざし、目を大きく見ひらいた。

 妖精。

「どこにいるの」私は一瞬でキャビッチを手にした。

「お待ちなさい」祖母がすばやく止めたかと思うと「ヴェニュウ」と唱え、手にしていたキャビッチを頭上たかくさし上げた。

 まわりが、音もなく暗闇になった。

「えっ」私はびっくりしてきょろきょろと見回した。

「闇を呼ぶ魔法だよ」父がすばやく説明する。「ヴェニュウだ」

「ヴェニュウ――あっ」私は思わず箒の上で半歩あとずさりした。

 なぜかというと、祖母の呼び寄せた闇の中、そのまっくらな中に、まっ白でごくちいさな、雪のような光が、ふわりと浮かんでいたのだ。

 私の、すぐ目の前で。

 ついに、見つけた。

 この光が、妖精なんだ。

 私は少しのあいだ、ことばを口にすることもできずにいた。

 とても小さく、ふんわりと輝く、妖精。

 その輝きは、眩くて目を向けられないというものではなく、逆に、ずっと目で追いたくなるような、とても不思議で、心をくすぐって、愛らしいものだった。

 私は無意識のうちに、その光に両手を丸くして差し伸べていた。

 光の妖精は私の望み通り、ふんわりと手の中に飛んできてくれた。

 妖精が羽をそっとたたむと、白い光はすうっと消えてゆき、そして妖精の可愛らしい顔が――

 

「こんにちは」

 

 私を見上げてにっこりと笑うその笑顔は、私の祖母と同じくらいの年齢の、お婆さんのものだった。

「うぁ」私は無意識に、目と口を大きく開き喉の奥からうめき声を挙げてしまった。

「あなたは私の、昔のお友達に似ているわ」小さな、雪のようなお婆さんの妖精はにこやかに私に話しかけた。「ガーベランティっていうのだけれど、ご存知かしら?」

「え……ガーベラ、ンティ?」私はそっとくりかえしながら、祖母を見た。

「ハピアンフェル」祖母はまばたきもせずその妖精を見つめていたが、消えちゃいそうな小さな声で言った。「あなた……ハピアンフェル……なの?」

「ええ」小さな生き物は祖母の方へふりむき、小さな頭を大きくうなずかせた。「そう、ハピアよ。ああ、ガーベランティなのね」

「ハピアンフェル!」祖母は両手で頬を抑えて叫んだかと思うとその両手を前いっぱいに伸ばし、私の手からその中へまっすぐに飛んでいった小さな生き物をやさしくつつみこんで、胸元に引き寄せた。

「ガーベランティ!」小さな生き物も祖母の手の中で叫び、すっぽりとおおい隠されながらもその中できらきらと輝いていた。

「友だち?」私はぼう然とそうきくしかなかった。

「そうだったのか」父もぼう然と私のうしろでつぶやいた。「昔の、友だちだった――妖精とお母さんは、森の中でいっしょに遊んだ仲なんだ」

「ずいぶん、ひさしぶりだわ……二人とももう、すっかり大人になったわね」祖母がそっと手をひらいてそう言い、うふふ、と肩をすくめて笑う。

「なりすぎぐらいだわ」妖精――ハピアンフェルもそう言って、くすくすと笑う。

「私はもう、おばあちゃんよ。さっきあなたが話しかけた子が、私の孫なの」祖母は両手を注意深く動かして、ハピアンフェルに私の姿が見えるようにした。

「ポピーです」私は自己紹介をして「こんにちは」さっきはきちんとできなかったので、ぺこりと頭を下げあいさつした。

「こんにちは、ポピー」ハピアンフェルは羽をひろげてもういちど白い光に包まれながら、祖母の手の上でふわりとすこしだけ飛び上がった。

「ぼくは、マーシュです。ポピーの父親です。よろしく、ハピアンフェルさん」

「こんにちは、マーシュ。私の本当の名前は、ハピア。でもハピアンフェルと呼んでくださるとうれしいわ」

「うふふ」祖母がまた笑う。「本当になつかしいわ。ハピアンフェル」

「うふふ」ハピア――ハピアンフェルも笑う。「本当になつかしいわね。ガーベランティ」

「ええと」父はその質問を、どうしても胸の中にしまっておけないようだった。「その、長い名前は――何なんです? あだ名?」遠慮がちにたずねる。


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最終更新日 : 2019-07-05 20:50:54

この本の内容は以上です。


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