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             タケル皇子

 

  51日(水)メーデーであり、今上天皇即位の日。元号は平成から令和へと変わった。皇居前に集まった天皇崇拝者たちは、日の丸を振りながら、天皇、皇后を祝福していたが、秘密裏に南朝方のへブル人による陰謀が企てられていた。その陰謀とは、九州に、”ヤマト・へブル共和国”の建国と南朝天皇の擁立だった。神武天皇以来の天皇制を確立したのは、南朝のへブル人だったが、第99代後亀山天皇を最後に、南朝は滅びてしまった。以後、第100代後小松天皇から第126代今上(きんじょう)天皇まで北朝の朝鮮人天皇が続いていた。だが、南朝のヘブル人たちは南朝復活を決してあきらめることはなかった。

 

 現に、本物の”三種の神器”八咫鏡(ヤタノカガミ)・草薙剣(クサナギノツルギ)・八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)を持っているのは、南朝であり、北朝が持っているのは、形代(かたしろ・レプリカ)に過ぎないと公言していた。また、正統南朝天皇第73世建内スクネ(タケウチノスクネ)には子供はいないということになっていたが、安徳天皇の生まれ変わりとされる正統南朝皇子第74世建内スクネの生存をモサドは突き止めていた。そして、モサドは、九州に、第二のイスラエル国家として”ヤマト・へブル共和国”を建国し、初代天皇に第74世建内スクネを即位させることを決定していた。

 

 南朝は国民を惑わす嘘を言っている、また、南朝は天皇不敬罪に当たる、と北朝は南朝を厳しく非難した。だが、北朝が本物と主張する”三種の神器”を公にできないために、南朝の発言を完全に否定できなかった。そもそも、現在、”三種の神器”を見たという生存者はいない。天皇も見ることができない。つまり、本体と形代があったとしても、”三種の神器”は見ることが許されていないわけだから、そもそも、それらを判別することは不可能なのだ。要は、”三種の神器”は、謎の神器といえた。

 

 


 北朝は、”伊勢(いせ)神宮”にある八咫鏡(ヤタノカガミ)と”宮中”にある八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)については、本物だという自信はあったが、”熱田(あつた)神宮”にある草薙剣(クサナギノツルギ)については自信がなかった。北朝は、秘密裏に、壇ノ浦(だんのうら)の戦いで第81代安徳天皇とともに深海に消えたとされる草薙剣を今でも探していた。また、南朝の誰かが拾い上げ、隠し持っているのではないか?と南朝方に探りを入れていた。北朝方は、第73世建内スクネが持っているという噂を耳にし、物取りに見せかけて家探しをしたが、結局、草薙剣を見つけ出すことはできなかった。

 

 なぜ、突然、正統南朝皇子である第74世建内スクネは現れたのか?彼は、東京からはるか離れた九州北部の小さな孤島で密かに育てられていた。実は、正統南朝天皇第73世建内スクネの側室、平徳子(たいらとくこ)は東京で出産すると糸島市の姫島に身を隠したのだった。彼女は、草薙剣を授けられた正統南朝皇子を安徳天皇の生まれ変わりと信じ、タケルと名付け、身を隠すかのような生活を送っていた。彼が11歳の時、彼女は病死したが、死の間際に、妹の近衛完子(このえさだこ)に「タケルは安徳天皇の生まれ変わりである」と告げ、正統南朝天皇を守るために、タケルを育てて欲しいと懇願した。子供に恵まれなかった完子は、快く引き受け、タケルを我が子のように育てていた。

 


            タケルとの再会

 

 小学6年の夏休み、タケルは、毎朝、拝殿まで階段を駆け上り、手を合わせ、”プロサッカー選手になれますように”と神様にお願いしていた。タケルが境内でリフティングをしていると、G大生の春日真人(カスガマヒト)に「君にはオーラがある」と声をかけられ、さらに、「マラドーナのような神の手を持つ選手になれる」とほめられた。うれしくなったタケルは、真人と初対面にもかかわらず意気投合した。真人は、日焼けしたタケルの顔が誰かに似ていると直感したが、その時は誰だか思い出せなかった。東京の自宅に帰った真人は、タケルの顔に似ている人はいないかと写真集の顔とスマホのタケルと見比べながら根気よく調べてみた。数日間調べてみたが、似ている人物を探し出すことができなかった。

 

 やはり、記憶違いじゃないかと諦めかけていた時、夢に、タケルそっくりの顔がクローズアップされた。彼は、涙を流しながらタラコ唇を震わせ熱弁していた。だれだ?と思った瞬間、突然、目を覚ました真人は、記憶をたどり必死に思い出した。あ、っと声を発した時、その男性の名前を思い出した。その男性は、正統南朝天皇第73世建内スクネことS予備校の日本史講師、建内ムッタンだった。真人は、仲間のT大生ソロモンに、文集ヤタガラスの編集会議で、スマホ片手に”タケルはムッタン先生の隠し子じゃないか”また、”ムッタン先生は、第8代孝元天皇の子孫だから、精力旺盛で、あちこちに子供を作っているんじゃないか”とつい、冗談のつもりで話してしまった。すると、ソロモンは、大きくうなずき唇を右上に引き上げ、ニヤッと笑みを作った。その時、真人はソロモンがモサドであることを知る由もなく、タケルの存在が南朝の陰謀を引き起こすことになるとは夢にも思っていなかった。

 

 真人の心に、いつしか不徳の妄想が拡大し始めていた。それは、マジ、タケルはムッタン先生の隠し子ではないか?不倫相手の子供ではないか?講義中に、ムッタン先生は子供はいないといっていた。でも、それは本妻での話。真人は、確かめずにはいられなくなった。10連休を利用してもう一度、姫島のタケルに会うことにした。51日(水)真人は岐志(きし)漁港1150発の渡船”ひめしま”に乗って姫島にやってきた。渡船を降りると小道を西に向かい足早に姫島神社に向かった。予想はしていたが、境内にタケルはいなかった。早速、神社近くの家に駆けこみ、タケルの所在を尋ねた。近衛タケルの家は民宿の並びだからすぐにわかるということだった。


 真人は民宿の並びの古民家の表札を確認しながら歩くことにした。古びた小さな家の”近衛(このえ)”と書かれた表札が目に留まった。真人は、玄関の扉の前に立ち、丁寧に声をかけた。「ごめんください。ごめんください」二度声をかけると、中から「ハイ」と男子の元気な声が返ってきた。しばらくすると扉が開き見覚えのある浅黒いタケルの顔が現れた。タケルの顔は、一瞬固まったが、真人の顔を思い出したのか、ニコッと笑顔を作った。「あ、あの時の」真人も笑顔であいさつした。「こんにちは。また、姫島に遊びに来たんだ。今、暇だったら、神社で遊ばないか?」一人でテレビを見ていたタケルは、遊び相手ができたことにうれしくなったのか、大きくうなずいた。タケルは「行く」と返事するとくびすを返し奥に引っ込んだ。真人がちょっとだけ奥の方を覗き込んだ時、サッカーボールを右脇に抱えたタケルが、駆け足で戻ってきた。「行こうぜ」と一言いうと扉の鍵も閉めず、タケルは即座に歩き出した。真人も即座にタケルの後を追った。

 

 タケルは鳥居の前に立つと一礼した。そして、トレーニングをするかのように、拝殿まで一気に階段を駆け上って行った。運動の苦手な真人も子供に負けては恥と必死に駆け足でタケルの後を追った。拝殿に到着した真人は、息を整え二礼二拍手をして、”タケルが皇子でありますように”と願い、一礼してタケルに振り向いた。タケルは、真人が振り向くと即座に大声を出した。「ねえ、学校のグランドで、サッカーやろう」タケルは笑顔を作り、真人を誘った。真人も笑顔を作り返事した。「よし、やってやろうじゃないか。ドリブルだったら、負けないからな。その前に、ちょっと、聞きたいことがあるんだ」タケルは、うなずいて返事した。「聞きたいことって?」真人は尋ねた。「タケル君は、生まれも、育ちも、姫島かい?」タケルは、元気よく返事した。「そうだ。お父さんも、お母さんも」

 

 さらに、真人は尋ねた。「そうか。それじゃ、タケウチ、って名前、聞いたことないかな~~」タケルは、ちょっと間をおいて返事した。「タケウチね~。ちょっとある。お母さんから聞いた」しめたと思った真人は質問を続けた。「タケウチって、タケル君の親戚?」タケルは、首をかしげて思い出すような顔で返事した。「一度、ずっと、ずっと、ず~~と前に、お母さんから聞いたんだけど、お父さんは、タケウチっていうんだって。でも、お母さんって、今のお母さんじゃないよ。亡くなったお母さん。小学5年の時に死んじゃった」真人は、タケルの父親の姓がタケウチだったことを知り、ますます興味がわいてきた。「そうか。タケウチの漢字、わかる?」タケルは、顔を左右に振った。「わかんない。ちょっと、聞いただけだったし、僕が生まれてすぐ、ポイっと、お父さん、家出したんだって」

 


 漢字は大した問題ではない。発音はムッタン先生の姓と同じ。やはり、ムッタン先生の隠し子ではないか?もし、本当に隠し子であれば、21世紀最大のトクダネ。真人の心はワクワクしてきた。さらに、真人は質問した。「そのほかに何か、聞いてない?」タケルは、頭をかきながら話し始めた。「さっきは、姫島生まれの姫島育ち、って言ったけど、本当は、東京生まれかも?お母さんは、東京から引っ越してきた、って言ってたから」東京生まれと聞いて、ムッタン先生の子供の可能性が高くなったと真人は目を輝かせた。真人は心でつぶやいた。不倫相手の妊娠を知ったムッタン先生は、保身のために、慰謝料を支払い、堕胎をお願いした。一度は承諾した不倫相手だったが、堕胎することができず、出産を決意した。そして、東京から姿を消した彼女は、福岡の病院でタケルを出産し、身を隠すように、孤島の姫島にやってきた。意外と当たってるかも。

 

 ムッタン先生とタケルが同姓であったことは、親子の可能性を高めたが、それだけでは、親子と断定はできない。DNA鑑定ができれば、はっきりすると思えたが、どこの機関で判定してもらえばいいのか、今すぐには思いつかなかった。とりあえず、タケルの血液型を確認することにした。「あのね~、お兄ちゃんの血液型は、B型なんだけど、タケル君は?」タケルは、即座に返事した。「僕は、A型。でも、そんなこと聞いてどうするの?何かの研究?」気まずくなった真人は、血液型の話をすることにした。「いや、血液型と性格って関係があるんだ。だから、出会った人には、血液型を聞くことにしてるんだ。小さくうなずいたタケルだったが、すぐにでもサッカーをやりたい表情を見せた。「早く、サッカーやろうよ」真人は笑顔で返事した。「よし、やろう」

 

 姫島分校のグランドまで駆けてくるとタケルは、六角形の校舎の中に入っていった。しばらくして、タケルはサッカーボールをけりながらグランドにやってきた。「先生の許可をもらった。サー、やろう~」タケルはドリブルを始めた。真人は、ゴールキーパーをやることにした。「タケル君、僕は、ゴールキーパーだ。どこからでもいいぞ」ゴールに立っている真人を確認したタケルは、ドリブルをしながら、ゴールに向かった。ゴールから20メーターほどの距離に来るとタケルはボールをキックした。カーブしながらコーナーに向かったボールは見事ゴールした。真人は、全く手も足も出なかった。タケルのキック力からして、おそらく、毎日サッカーをやっているのではないかと思えた。大きな声でタケルをほめた。「イヤ~、まいった。カーブしてるじゃないか。すごいな~~」

 

 



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