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病の値段

薬がドーパミンに作用すると普通は脳波を微弱にする。酒のせいで眠りに強いストレスを感じて、我慢の臨界点に達した時、眼球を開き頭を上げて睨み付ける。

「宝くじ……床屋…」

運河を潜り抜けてホームレスの風貌をした宝くじ当選者が隠れている場所を見つけたと思っていたが、凄く悔しい。現実の俺はベッドで霊視して、それが六畳間の古くさい部屋での出来事ということに憤りを感じていた。

酒とリスペリドンという薬を混ぜて飲んだ事によってリアルとバーチャルが混合された空間にアクセスし、テレパシーを悟った瞬間でもあったのだ。何故なら、土曜日の三時に親父が床屋にいるのは事実であるからで、宝持ちホームレスのいる運河の近くの床屋に親父の車が停まっていた。そんな大事な時に俺はトイレに駆け込み、スッキリさっぱり夢の事は忘れてしまった。とりあえず、食べ物でも。コンビニに飲食物を買いに行こう。

鍵と携帯と財布を持って、玄関に立つ。

必ず気を付けるのは。ストーカーが俺のパジャマを破りに住居侵入しないようにせめて、ブレーカーを落として行こうという事。

外に出ると、ゲームキャラのように自分を天空から操作し、歩かせる。体力はまだある。

カラスがバタバタしているのが見えたら道を反らす。この辺は空き巣も酷いから、さっさと買い物を済ませよう。

ツイッターの嫁を募集するというアンケートを使ったが、俺には百五十センチ以下の女が合っているみたいで、閲覧回数も凄かったから、まぁそんなものか程度に見ていた。だが突然の出来事で俺は凍りついた。夜道に百五十センチ以下の人間がトコトコ歩いていた。目を合わせたら、幽霊です的な目付きだったから俺はすいません的な素振りをした。

幽霊というのは人体に入り込む事もあるように俺たちの体にも守護霊だったり人間の生き霊などが混在している。それは、酒で洗い流している。

酒がなかった頃はどうしていたのだろう。

数年前までの俺は、住む場所にも困って、ボランティア会社に助けてもらっていた。

あの頃は、二十四条という不気味な商店街でホテルで寝泊まりして幻覚に襲われ警察を呼ぶ事態になった。

二十四条のビルにあるカラオケのレモンスカッシュには安定剤が入っているような気がするとボランティア会社の人間に話していた。

「あの頃は、ありがとうございます」

「小林君、心霊体験を小説にしたら?」

確かに、深夜の住宅から不気味な歌が聞こえたり、バーの前を通るとバン!と看板が鳴ったり色々あったが、特別な体験とは思えないのは、何もドラマチックではないからで、ただ事象が起こるだけ。人が風変わりなシチュエーションにいるのを見たことがあるし、例えば、親が運転する車が不自然にあらゆる車に妨害されたり。友達が居酒屋に行こうとしたらタイミング良く大勢の人間に妨害されたように見えるというやつ。それを当たり前の現象のように人は見ている。

よく親が、不可解な出来事の後に「風でも吹いたのだろう」と説明する。

自然に身を委ね、時には「神さま助けてください」という祈りをしたことある人間なら分かるはず。

引っ越しするために仲介業者に連れられていた。

「山近いですね。なんか怖いんですよ」

「まぁ、ドラッグストアもあるしコンビニも一分くらいですよ」

「山が、あること自体が嫌ですね」

車の排気ガスで胸が苦しくなった。

古い俺の部屋に戻ると、御札が飾られてある。カーテンを開けると、外界から閉ざされていた事に気づく。それでも夜になると社会の片隅でケーブル放送を見ては外界と繋がりつつもイヤホンの音楽で自分に蓋をする。

この生活費の出どころはさておき、通販サイトを見ても有名人のツイッターを見ても、期待通りに発信されていて、たまに俺は死んだのではないかとシスティマチックな世の中を懐疑する。

誰から教わったわけじゃないが、命に価値がある理由はと聞かれたら。

「資源と一緒で、有限だから」と答える。

冒頭に話を戻すと、脳波は薬や酒でコントロール出来る。霊感の強い奴等は電脳を持っているのだろうか。母親は電話口でしか存在を現さない。「○○はずっと病気だったでしょ」親父の車に乗ったら喧嘩になり「病気はお前だろう」と言ってやると、精神医学について激論が起こる。「じゃあ、お前は医学部出たのか!?低脳が」「ほら。お前は脳が分裂している」などと罵り合ってマンションまで家具やコンビニのおにぎりを大量に持って「今日はありがとう」と言ってきたが、親父自体が病に犯され始めたので、車に乗るのはやめることにした。ミラー越しに、札束を受けとる週に三秒しか会わないというか、運転席にいるから顔も見えないように斜めに手を伸ばしている。そんな一人の生活では常に自分に食用ガソリンを満タンにしてギーコギーコ言いながら運転するが、スーパーまで五百メートル歩行すれば、汗を垂れ流し部屋に直帰して、エアコンをガンガンつける。

記憶と感覚の回路はどのように分かれているのか。ベッドに横たわると気持ち良いというのが感覚であろう。ここではない、どこかに行ってしまうとベッドにいることも過去になるのだろうか。これが、学校の教室なら寝起きに生徒である友達の顔を見て驚くような事。

そうこう考えているうちに事態は凄いことになっている事は、冒頭に述べた通りだ。何もないこの俺に、ビッグチャンスが舞い降りた。

薬と酒を混ぜて飲んだことで、リアルとバーチャルが混合されテレパシーで宝くじ当選者を知ってしまった。親父が土曜の三時に行く床屋の近くの運河にホームレスに扮した宝持ちが潜んでいる。「俺の取り分はいくら?」「秘密の共有」をしよう。

鍵と携帯と財布を持って、玄関に立つ。

これから金持ちになるが、パジャマ破りの住居侵入は許さないから、ブレーカーを落として行く。

ようやく、親孝行できると思うと、何だか笑みがこぼれた朝だった。


この本の内容は以上です。


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