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自選歌集 2019年1~3月


棒立ちで電信柱が年を取る春を始めるために降る雨

ガタガタと窓を鳴らして春風は(忘れていたよ)優しくはない

さびしいと泣ける子供をうらやんでポツリポツリとあかいめぐすり

壊されてしまえばばれるハリボテの世界を守る正義の味方

控え目な甘さを選ぶ本当はすごく甘いのをちょっとだけ欲しい

再開発がうまくいかない駅ビルにつぶれてもつぶれてもラーメン屋

それぞれにわけはあるから大人まで変な声を出す保育園

地下街の広場に水のない滝とひとりでに鳴り続けるピアノ

置き忘れられた子供の心臓と思っていたら懐中時計

ゲスト用IDカードを渡されて開かぬドアが廊下に並ぶ

生真面目にアップデートをする君が突然僕を駆除してしまう

ジャジャジャンとすっぽんぽんで飛び出せばすでにそういう空気ではない

まず底に小判を置いてまんじゅうをきれいに載せる係りの子孫

がんばってちゃんと息つぎできるまで月へ行くのはおあずけですよ

まずくない?あの王様は裸だしこのカニカマはカニよりうまい

へこんでる君をダンスに誘うため大仏が立つ大仏が来る

八百万の神がデモする黄昏に僕らが揺らすペンシルライト

屋上に見知らぬ人も集まって遠い花火を静かに見ている

青白い月へ金魚は泳ぎだし二匹の猫は屋根で見送る

箱の中忘れ去られてしまってもずっと笑っているお人形

郵便局を夜中に探す人がいて言葉が通じないまま別れる

リモコンに使わぬボタンがあるようにひとりぼっちになることもある

名乗らずに無言電話をする人と名乗らず耳をすましている人

落花生だった二人はバラバラになって袋の中のピーナツ

パンを焼く匂いの中を(キスしたい?)くすくす進む工場見学

春休みの誰もいない教室をいないわたしが見てた気がする

右左小さなパンチ振り回し子猫にはある戦う理由

ざます系女主人の目を盗みメイドが送る新聞歌壇

欲しいとは言わない君に渡したいきれいな石や不思議な貝を

食パンにはみだすようにはさむハム春一番が急に吹いた日


 ※最後の「食パンに~」のみ「短詩の風」、他は「うたの日」に投稿したものです。

この本の内容は以上です。


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