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台本です

 

夕方から、あたりがうっすら暗くなるまでの時間、
場所は古民家みたいな、小さな神社の裏あたり、みたいな。
周囲に竹林があって、小川が流れてる、ような。
 
そんなロケ地があります。
杉並区善福寺周辺です。
 
役人とおちぶれ浪人の二人芝居、がんばって!
 
季節は夏。16時あたりから撮影スタート。
虫の鳴、川のせせらぎ、風がBGMです。
 
虫よけスプレー必須。
クルマの音、子どもの声なんか入ったら、
そこから撮りなおしになっちゃうけど、まあ、仕方ないね。
 
周辺のイメージ映像いろいろ混ぜるから、台詞は全部暗記しなくてOK。
 
貸衣装ふたつ必要。
役人は刀、大小の二本。茶系の着物が良いね。
浪人は木刀のみ一本。この木刀は大沼所有。ねずみ色のボロ着物が良いが、
あるかな?
 
役人は暈、または頭巾で頭を隠そう。
浪人は、ぼさぼさ頭で、ちょっと頭ゆわけば良いんじゃないかな?
このあたりの衣装と小道具だけが面倒だね。
銀紙でレフ板つくってゆこう。
顔に、自然にゆれる不安定な射光を入れたい。
が、しかし、トライアル価値ある作品だな。
尺は20分くらいを予定。
 
 
■台詞
 
役人は坂の上に立っている。
坂の下から浪人は歩いてくる。
 
役人「おぬしが足軽の四吉か?」
 
浪人、その場に正座し、深々と頭をさげる。
 
浪人「これは、まさかお役人様とは、大変申し訳ござらん。三軒長の酒場の主人から、きびしい仕事をたのめる男を捜しているお方がいると聞きおよびまして。
拙者、どうしても金が必要になり。夜通しのきつい仕事でも、やらせて頂けるのであれば、どうか、お願い申し上げたい」
 
役人「・・・その腰のもの、ぼっけんではないか・・・武士の誇を棄てた男・・・か」
 
浪人「面目ない。このような無様な風体で」
 
役人、ゆっくり、ぐるりと正座し、頭を下げている浪人の風体を眺める。
坂の下に立つ役人。
浪人、ぐるりと役人のほうへ、座ったまま移動。
頭を下げたまま。
 
役人「ふん・・・。おぬしに用はない。帰れ」
 
浪人「いやいや、そのようなことを。拙者、ごみ拾いもやります。
先だっての河川敷土木工事も努めさせて頂きました。
子どもたちに読み書きを教えることもできます。
力仕事でも、汚れ仕事でも、なんでもやります。
よろしければ、本日、かきゅうの人足のご用向きとは、いちおう、それだけでも、お聞きかせ願いたい」
 
役人「人足を求めているのではない」
浪人「では、いかなる?」
役人「ひつこいやつだな。こちらは急いでおるのだ」
浪人「いや、ぜひ!拙者ならば必ず!」
役人「命がけの大任なのだ!貴様には、とうてい、およばない!」
 
浪人「命がけとは?」
役人「ひと、一人、斬ってもらう。それがかなう腕のたつ者をさがしておる。そのほうには、とうてい無理な仕事だ。さあ、帰れ」
 
浪人「ん?」
 
役人、正座し、頭をさげている浪人の横を通り過ぎ、坂を上がって立ち去る。
浪人は正座したまま、坂のしたのほうを見つめたまま。 
 
浪人「あいや。待たれい」
役人「なんだ?」
浪人「それは暗殺・・・ということか」
 
役人「ん?貴様、いま何と言った・・・」
 
ここで、ためをつくる。
風がざわめく。
竹林の葉がゆれる、みたいな。
 
役人「足軽ふぜいが、いま何と言った」
浪人「こちこそ。聞き捨てならん」
 
役人「貴様、その言葉。口外するなら、いま、ここで手討ちにしてくれる」
 
すらっ、と刀を抜いて背を向けて正座している浪人に歩み寄る。
 
刀が浪人の頭上を襲う瞬間、浪人は正座したまま素早く180度回転。
そのあとの動きは、ゆっくりで良いです。
浪人の左側の腰に木刀があるわけで、
なので浪人は右ひざを立てながら、右手で木刀を取ります。
 
そして両手で木刀を持ちます。
そのまま上体をあげながら、木刀を役人の刀へと向けます。
 
で、刀と木刀が、ぶつかりそうになった瞬間、
木刀を持っている両手首をひねって、役人の首元へ。
 
役人の刀は浪人の左側で空を切るかたちになります。
 
怪我しないようにね、ゆっくりやりましょう。
ここは、私が指導しますので、ご安心ください。
 
ちなみに役人の刀は、斬れる方ではない、いわゆる当身というやつで。
つまり、この程度の口論で、むやみに人を殺す人間ではない、ということ。
脅しのつもりでやったんだよ、というアピール。
 
そのまま、ぴたりと止まっている二人。
風のざわめく音。
うーん、いいねえ。
 
浪人「貴様、武士の誇と言ったな。たしかに、おれは腰の大小をも売り払い、足軽に身を落とした、おちぶれだ。が、しかし、暗殺を企てるやからに、辱めを受ける筋合いは、ない」
 
役人、硬直。
表情の演技、よろしく。
 
浪人「こんな糞のような話。むなくそわりい。安心しな。よっぱらっても、しやしねえよ」
 
木刀を腰に戻し、くるりと坂を降りる浪人。
 
役人「またれい!」
 
浪人「なんだ。まだやる気か?」
 
役人「たしかに。おぬしの言う通りだ。刀を棄てたというのに、剣術は研ぎ澄ましていたのか。これは、大変、すまぬことを申した。許されよ。しかし、これは藩の大事なのだ」
 
浪人「藩の大事で、闇討ちしよう、ってかい。あきれたやつだな」
 
役人「おぬしも知っているだろう。この藩の役人たちが、旧体制と新体制に割れていることを。いま旧体制を討たなければ、民、百姓たちの暮らしは、ますます悪くなる一方なのだ。拙者は、ようやく、河川敷工事について汚職のからくりをつきとめた。これは正義の裁きなのだ」
 
浪人「正義の裁きが暗殺とは、おそれいる。証拠があるなら御高誼に訴え出ればいい」
役人「それができれば、こんな苦労はしない」
浪人「では、他人にたのまず、自分でやるんだな。おまえが本当に武士の誇りがあるのなら、な」
 
役人「討ってもらいたい大老とは、拙者の父上だ」
 
浪人「なんだと?」
 
役人「せがれがザンカンジョウを手に、実の父を斬るわけにはまいらん。かと言って、罪人にもしたくない。母が長わずらいで床についている。次女の縁談もこわしたくない。たしかに、情けない話なのだ。武士の誇りか。貴殿にすまぬことを申した。許されよ」
 
浪人「そういうこと、か・・・。おれのほうこそ、すまなかった。自らの父君を・・・。よほどの心情。こちらのほうこそ、ご無礼を」
 
役人「拙者、これでも剣術で、この藩では、少しはならしたくち。それを、なんと一撃で打ち負かすとは。改めて申し上げる。この大任、お任せできぬか。どうか、苦しまぬよう、ひとたちで。貴殿ならば、それができる」
 
浪人「いや、事情はわかりましたが、お断り申し上げる。気持ちはわかるが、人ひとり斬ったところで、世の中は変わるまい。次から次へと、また新たな悪党どもが生まれてくるだけのこと。それに、おれはもう、人を斬るのはやめたのだ。正義の名のもとに、これまで何人の首を落としてきたのか。そいつらにも家族がいたのだ。いまのおれにできることは、やつらの女房、子どもたちに、こっそり銭を置いてくることぐらいしか・・・」
 
役人「貴殿、それで金が必要なのか?」
 
浪人「まあ・・・。いや、そんな、きれいごとだけじゃなくてな。おぬしの母君と同じでな。女房は長患いの末に。貧乏暮らし、つらい思いをさせてしまった。まだ幼子の一人娘がいて、同じ思いをさせたくない」
 
役人「おぬし、それで刀を棄てたのか」
 
浪人「女房が亡くなった三年前に、武士を棄てた。足軽にまで身をおとして。頭をさげて、仕事をもらって、泥まみれになって、やみくもに働いているのだが。娘も流行病にかかってしまった。医者にかかるには、金がいるからな・・・。
いや。もう、いい。つい、情けない愚痴をもらしてしまった。今宵のこと、忘れてくれ」
 
役人「四吉殿、明日、早朝、城にまいられよ。わが藩の剣術の指南役の一人として、貴殿をお迎えしたい。受けて欲しい」
 
浪人「えっ!」
 
ざわざわ、と風の音、入れる。
 
役人「近頃の若い連中は、衣服ばかりは立派だが、中身が足りない。道場の剣は、戦場の剣とは、まったく異なる。
たしかに今は太平の世。ますます剣術は不要な時代がやってくるのかも知れない。
だが、武士たる者、さやのなかにある刀は、常に研ぎ澄ませておかなければならない。
万が一の際に、藩のため、国のため、民のために、役立つことのできる。
それでこそ武士の誇りであると、わたしは思っている。
四吉殿、その本物の剣、若手武士育成のために、役立てて欲しい」
 
浪人「ようするに、おれの代わりになる暗殺剣を育てようってことか?」
 
役人「・・・ありうるな」
 
浪人「おれは、もう人殺しはやりたくない。人を殺す手伝いも、まっぴらごめんだ。
人を斬って、なんになる?」
 
役人「いや、斬らなきゃならないやつらは、いる。いつの世にも、いるのだ」
 
浪人「斬らないで済む方法は、どこかに、必ずあるはずだ」
 
役人「どんな方法だ?」
 
浪人「それを考えるのが、おまえたち役人の仕事じゃないのか?」
 
役人「役人たちが、皆、金に困らずに、裕福に、のんびりと暮らしているとお思いか?
日々、悩み、迷い。何日も眠れぬ夜を過ごしている。
剣術の指南役、それは人の生き死にを指南する役割。
相手を殺さずに解決する方法を、共に考えることができるのではないのか?
このようなところで、このようなことを話し合えるとは、お互い、これは、なにかの縁。
四吉殿、そうは思わんか?」
 
浪人「うん・・・。まあ、四吉、そうは呼ばれちゃいるんだが。出雲半四郎と申し上げる。
半四郎と、呼んでくれ」
 
役人「拙者は神埼龍之介と申す」
 
浪人「かんざき?神埼ってのは・・・あの神埼家の?」
 
役人「武士は棄てても、武士の誇りは棄てていない。そうではないか、半四郎殿」
 
考え込む半四郎が、にやりと笑ってエンディング?
どう、かなあ?
 
 
うーん・・・どうかね?

この本の内容は以上です。


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