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tovo plus〜あおもりの100家族、わたしたちのこれから。[season 8] No.085

今号(86 家族目)のご家族 ▶

高谷 優子さん・幸子さん

撮影場所 ▶ SMILE&SPOONキッチンスタジオ(青森市青柳)

 

【インタビュー】

●2011年3月11日のことは覚えていますか?

▶優子さん「製菓衛生師の資格をとるために4月から仙台の製菓学校の通信制に入学することが決まっていて、それに備えて自宅でお菓子を作る練習をしていました。オーブンの予熱が終わった音がピーピーして、シュークリームを絞った天板を中に入れようと手に持っていたんです。そこに地震がきて、ちょうど母も台所にいて、あらあら、って言ってたらバンッと停電して。」

▶幸子さん「長い地震で、外に出たよね。向かいの人も出てきて。」

▶優子さん「電気が使えずストーブが消えたので、裏の小屋から当時父(2018年に逝去)が焼きいも専用に使っていたポータブルの灯油ストーブを持ってきて。」

▶幸子さん「あれがなかったら大変だったよね。」

▶優子さん「明るいうちはそんなに危機感がなかったけれど、家の前を消防車がすごく行きかって、暗くなってからは鐘をカンカン鳴らしながら、『避難してください』と呼びかけるようになった。ラジオで『津波が来た』と聴いて、家は海から400メートルしか離れていないから、私ひとりで老いた親2人と猫5匹を避難させられるかなと不安になってきて、動けるうちに動いたほうがいいと、避難所の莨町小学校に父と母を車で送っていきました。信号が全部消えていて怖かった。戻って猫を1匹ずつケージに入れて車に乗せたんですが、最後の1匹がなかなか捕まらなくて手こずって。とりあえず海から離れたほうがいいと、(約4キロ山手の)イトーヨーカドー青森店に行きました。ヨーカドーは自家発電があったのか、一晩中電気をつけてくれていて、とても安心できた。駐車場には避難してきたらしい車が30台ぐらいいて、あ、一人じゃない、と思いました。」

▶幸子さん「莨町小学校では、1階の教室2つが避難者用になっていました。結構びっしり人がいてね。皿に油を入れて火を点けた灯明のようなものが、教室からトイレまでずーっと並べてあって、その記憶が強いです。部屋の灯りはなかったと思う。発電機を使ってストーブをつけていたので、音がうるさくて眠れなかった。着のみ着のままで行って、板の間に敷くものもなく…。毛布が配られたかどうか…忘れてしまうものだね。一晩だけだったせいか、水や飲み物も出ませんでした。眠れないので2人で朝早く歩いて帰ってきたら町会長さんに会って『高谷さん、こんなに早くどこ行ってたの?』と聞かれて、避難していたと言ったら『は?』って(笑)。町内で避難したのは自分たちだけだったんだよね(笑)。」

▶優子さん「ここは海から勝田(山手に約2キロ)までまっすぐの大きな道路と、堤川にはさまれている。津波がきたらアウトだから、迷わず逃げたほうがいいと思ってる。でもあのとき、人って逃げないんだな、自分は大丈夫だと思ってるんだな、と感じました。」

 

●それ以降、変化などありましたか?

▶幸子さん「あれから灯油はいつも常に買っておくようになった。」

▶優子さん「ガソリンも半分まできたらすぐ満タンにするように気をつけるようになった。習慣になったよね。製菓学校は毎月課題が自宅に送られてきてレポートを出して、7月と3月に1カ月のスクーリングがある仕組みでした。でも新年度になってもなんの連絡もなく、学校のツイッターも震災の日から更新されなくなり、被害を受けたのかと不安だったけど、GW明けに課題が送られてきました。キリスト教系の学校だったんですが、一時は避難所で、ボランティアベースや救援物資の保管場所にもなって学校が再開できなかったようなんです。7月のスクーリングでは毎日余震がある中で実習をしていました。和菓子・洋菓子・パンの授業があったんですが、節電節電って言われていたころで、仙台は被災地でもあるので余計に節電しなければと思うのに、洋菓子やパンはクリームが溶けないようクーラーをガンガン効かせて、オーブンもガンガン熱くして、すごく良心の呵責があった。節水してくださいと言われていたのに、クリームとかバターとか、洗剤とお湯でガンガン流さないと器具も洗えない。その中で和菓子は、鍋1個とガスコンロ1個があれば、ほぼできる。蒸せるし焼けるし煮れるし練れる。水もあまり使わず、布巾1枚あれば全部きれいになる。先生が『原料も、洋菓子はドライフルーツとかナッツとか、船に揺られて遠くからきて、それだけ燃料を消費する。だけど、和菓子は豆とか身近な材料で、原料の保存や加工も簡単』と話していた。それまで製菓をエネルギーの観点から考えたことがなかった。夏のお菓子も、ゼラチンは15度以下じゃないと固まらないから冷やさなきゃいけないけど、寒天は常温で固まるから“涼しげなもの”は作れる。水まんじゅうとか、物理的ではなく心情に涼しさを訴えてエネルギー最小限で夏を乗り切るという、和菓子はすごい文化だなと。2011年のあの夏、仙台に行ったから余計に強く思ったんだと思う。私はもともとパン屋さんになりたくて入学したんですが、あれからパンを焼かなくなったもんね、全然。」

▶幸子さん「パンパンって言って仙台に行ったのに、帰ってきたら和菓子志向になってて、なんでだろうな、と思ったよ(笑)」

 

●10年後のイメージを教えてください。

▶優子さん「変わらずいたいな、と思う。変わらずにいるって普通のように思えるけど、日々繰り返すことをちゃんとやっていないとそうなれないので。あと、和菓子のレッスンがもっと盛況になってくれればと思う(笑)。東京の方ではブームになっているんだけど、青森がそうなるには10年ぐらいかかるかな。楽しさを伝えたい。」

▶幸子さん「私は10年後はもういないと思うよ。元気であればそれでいいよね。1年1年だね。これからの10年て長いよ。その日その日。」

▶優子さん「お店の料理は母から教わって昔の料理を真似して作っています。うちのメニューの開発者ですから、いないと困るわ。」

 

【取材後記】製菓衛生師であり野菜ソムリエでもある高谷優子さんが、自宅を改装して2014年4月にオープンした「SMILE&SPOONキッチンスタジオ」は、地元の野菜を中心に使い、だしで減塩を心掛けるなどした滋味あふれるランチの提供と、料理教室や和菓子教室を開いています。“食べ物に必要なエネルギー”について、和菓子の話は私にも衝撃的でした。私は暑い盛りの生まれなのですが、今後は誕生日にはケーキではなく和菓子を食べようと決めました(笑)。(今号No.085のインタビューと撮影:前田ふひと)

 

【寄付総額】2011年6月〜2019年2月22日まで「¥7,339,466」を、あしなが育英会「あしなが東日本大震災遺児支援募金」へ寄付することができました。ご支援に深く感謝致します。

 

【定期購読のご協力を!】1年間の定期購読を承ります。1,800円(送料・寄付含)/1年間(12号)です。このフリーペーパーは定期購読の皆様のご支援で発行されております。ご支援の程、宜しくお願い致します。ご希望の方は、ウェブショップ(http://shop.tovo2011.com)よりお申し込みください。


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最終更新日 : 2019-04-08 10:53:43

この本の内容は以上です。


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