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無期限学校

桜の木が校舎にあって、教科書をリュックに入れて登校した初日、まばらに広がった新しい風情を見て、知らない土地に足を踏み込んだように思えた。「携帯に謎のロゴがあります」と捜査官の部下が俺に被害者の携帯を見せた。「部屋のブレーカーが落ちている。身を隠していたのか」と現場を出入りしていた。「無期限学校のロゴだろう。若いヤツが学校というグループに一生涯属する事で、社会への帰属拒否を意味するサークルだよ」

深夜まで聞き込みや会議があり帰宅したら、家族は眠っていた。家庭内では子供に温厚で、その父の顔からは何の悩みも抱えているとは思えないだろう。結婚当初から妻の洋子には俺の時間に合わせた食事や買い物に付き合ってもらっている。これからも互いに支え続ける。正体などというミステリーは好きじゃない。人間、皆顔を使い分けているはずだから。

ボールのキュッというゴムの摩擦が体育館に響いた春先。まだ冷たい室内の学校に放課後、呼び出されたのを思い出した。「フットサルのメンバーに入りたい?」

響は、ボールをリフティングして、俺に渡してきた。

「もう、いじめないでくれる?」「あぁ。練習しよう」というのは俺が転校して来てすぐの事であり、仲間に入れてくれた俺は響というリーダーのもとに従えば生活にゆとりを持てるだろうと思った。その証に、ルールという裏のサークルを知る。響は高校生ながら、ネットの広告収入を得てサイトの運営までしていた。おかしな書き込みを毎日俺達は見ては、世の中と学校の世界を行き来して仮想を楽しんでいた。標的にされた市野という生徒がいた。リサは市野の隣の席でカバンを探っていた。「市野くん、また弁当箱忘れちゃった」市野が細い目つきでリサを睨んだように見えた。「それ、おにぎり?」「梅だから…」リサは市野から頂いたおにぎりを飲み込んだ。「梅、甘い」リサはサークルのブログを眺めていた。市野の視線の先にはゆき達の席。しほ、かなえもいる。苺大福を食べて口の回りを白くしていた。「甘いね」「リサがおねだりするからジレンマに陥るじゃん

騒いでいる皆に軽蔑の眼差しを向けて市野が、席から外れていた。市野君の唯一の友人である桐山は、ヘッドホンを外された。サークルの命令で桐山は廊下でダイブしろとの事だと、ゆきから伝わった。「自裁ごっこ?バカじゃねーかお前」そんなバカなのはゆきは分かっていたが、ゲームのチャレンジは現実に進行していた。ミッションをクリアしなければ自分たちのキャラが死んでしまう。いつの間にか桐山はいなくなっていた。市野が世に出た時に親友の死という経験が必要だと多数決で決まった。勉強が優秀な市野の企画は、リーダーの響が見込んでの事であった。

追い詰める事と独自のサイトを駆使して有名にするというジレンマを起こし、どんな分裂反応でどんな結末を見せるかというチャレンジだった。

だがその市野プロジェクトというのは、自分達の世界の主観に過ぎず、自分も市野同様の広告として刑事という誰かのキャラなのは、現場で死人と化した市野を見た時に、使命感と同時に感じた事である。

彼が社会的に言論で残した功績に敵意を持つ人間と争っていた事が原因とサークル記事に載った。

学校にヒビが入り、その亀裂を修正するように俺には警察力を行使する必要があった。

遺体から薬物が検出された。

入手ルートを探っていた。交流のあった人物は誰なのか。

今となっては、広告会社を経営している響。足跡を残しているだろうか。それとも無関係なのか。

 事件の捜査を進める為に、卒業生の名簿を眺めていた。

市野を死にまで至らせたツケを払ってもらおうじゃないかと実害の人間を探していた。

市野の親友の桐山の写真が現れた。桐山が消えたのはゆきが自殺に追い込んだとネットで拡散している噂が高校を卒業して現れた。それが事実なら関連している。

この俺達のクラスメイトは「無期限学校」という広告の名付けの親であり、世間の学生も模範とし、社会への帰属拒否の証にサークルを運営するのが常識的になっていた。

 仏教の宗派を名乗る新興宗教が台頭していた。そこの事務所は全国に無数に広がった公安からもマークされた怪しげな組織として有名だ。

言論活動家が多く在籍しているから、その宗教の実態を知るために追うことになった。

 和歌山県の高野山、そこは空海が生きた場所で、その土地に生け贄を捧げる習慣がその組織にあるという情報を元に、捜査していくうちに宗教団体の行列に遭遇した。

俺と居合わせたジャーナリストが、カメラでパシャパシャしていた。

「撮影、禁止です」

行列の最後尾から少女の鳴き声が聞こえた。籠が揺れていた。

幹部らしき人物に接近して、俺は「聞き込みしている」と伝えた。

坊主の男は無言のまま通りすぎていく。

帰ろうと思った矢先、見覚えのある顔があった。市野の親友の桐山を死に至らしたと噂があった、ゆきに似た人が行列に並んで歩いていた。気のせいかと思いその帽子の女性と通りすぎてしまった。山を降りようかと思っていた時、「ゆき…」と聞こえて、俺は立ち止まった。

俺は、行列を追ってその帽子の女性に接近した。

「何だお前」と坊主の男が遮断する。

「知り合いに話がある。ゆき」

こちらを伺って、目を反らしたゆきは山を登って行った。

 警察のデータベースにゆきは勿論、卒業生の名前は無い。警察内部では市野も桐山も他殺の証拠が出ない為に自殺と断定されてしまった。「ネットの噂はデマ」

 それから、高校の同窓会が開かれていた。

同時期に、風評被害を流した広告会社社長の響が逮捕されていた事を知る。

俺は友達ということで捜査から外されていた。

どうやらネットに晒されたゆきが名誉毀損で被害届を出した事から警察が動いていた。

だが、響は身に覚えがないと黙秘を続けていた。

俺は、響の面会が許された時に許可を取り話ができた。

俺の推測が正しければ、市野に接近して薬を飲ます事が出来たのは、ゆきだろう。

何故殺す必要があったのか。

晒したのは、宗教団体か。薬物を入手できたのはその組織の信者になる必要があった。

何故、言論人の市野は殺害されたのか。言論人を多く抱える宗教側に都合が悪かったから消されたのか。

ゆきは、広告会社の響に恨みを持つように、利用されたのだろうか。決定的証拠が必要になる。

何れにせよ、高野山の団体の行列にゆきがいた事実は唯一、事件と結び付く接点で、叩けば埃が出る組織なのは間違いないと判断し、俺は宗教家を逮捕するまで追う事にした。

同窓会で、話題になっていたのは響でも市野でも桐山でもなく、俺だったということは知る由もなかった。

「刑事課にいて、高野山まで行くとは」

「ゲーム最終章」

「ゆきの連絡先を教えよう」

ある日、俺はリサから電話をもらった。

「正義感強いんだね。実はゆきが桐山を自殺させたのは事故だった。響が無理矢理、押した」

「そうなのか」

「今、どこに住んでいるの?ゆきの話を全部するから、私行っても良い?」

リサに自分の住所までは言いたくなかったので、近所の駅で待ち合わせる事になった。

リサとも相当会っていない。顔写真を眺めて家を出て、時計を確認した。まだ間に合うから喫茶店で、時間を潰していた。ゆきが本当に桐山と市野を殺したのであれば、響が真相を知っているはずだったが、拘置所で面会した時は、否認していた。

駅前通りで駅ビルの入口の前に行くと人が忙しなく歩いている。タイミング良くリサから電話が入った。

「もしもし」

「もう着いた。どんな格好?」

「グレーのスーツ」

周囲にいた男達が、一斉に俺の方を見てきた。電話は切れてしまった。

リサの姿は無い。人ごみから男達が徐々に接近してきた。取り囲まれるように。逃げようとした瞬間、それはすぐに催眠スプレーだと気づいた時には遅かった。

倒れた俺は担がれて、ワゴン車に入れられていた。

ゆきが被害届を取り下げて響は釈放されたが怒り狂った状態だった。タクシーで知り合いの芸能事務所の社長に会いに急いでいた。

「こいつら、消してください」

右翼の代表でもある社長は響の必死の顔を初めて見た。

「大体そんなリスクを俺は犯せない」

響は事務所を出ると、今度は俺に会うために電話を使ったが、繋がらなかった。刑事である俺に無期限学校サークルの犯罪行為を暴いて欲しかったのだろう。

だが、そのときには俺は山林で、拘束されていた。

元々、社会より強いネットワークの為に仮想から始まったサークルはこのような形で現実社会に被害が及んだ。

広告会社からも解任された響は行く当てもなくさ迷っていた。そもそもこんなゲームは終わりがくるまで続く危険性を知らずに遊んでいた自分達が悪かったと後悔して路頭に迷っていたら、坊主の男に声をかけられた。

「信じる者に道は続きます」

響は、仏教という言葉を信用せず、相手にしなかった。

「友人が死にますよ」

「あっ?」

響は坊主の男に近寄った。

「刑事の友人が我々をつけ回すからこうなった」

 「忙しいんで…」

響が背を向けたら、「無期限学校、裏切るんですか?」と言った。

響は、頭を巡らせてゆきやリサ、俺達を思い出していた。

響は振り向いた。「案内してくれ」

 車に乗り込むと、高速を走り街中を抜けていた。

後部座席で、響は右翼の代表の言葉を思い出していた。

「これ持っていけ」

やがて、夕暮れが車内に照らされて、山道を抜けていた。

車が、山林の小屋に到着して坊主は降りた。響もゆっくりと車から降りて坊主の後をついて行った。

小屋の中で、俺は縛られた状態で、突然罵声が響いて、終わったと思った。

目の前には、響がいて目を疑ったが、坊主の宗教家の集団に拳銃を向けていた。

思わず、「助けてくれ」と俺は叫んでいた。

坊主の男が響に言われるまま、俺の拘束をほどいていた。

「大丈夫か?」と響は手を引っ張ってくれた。

俺は「電話を貸してくれ」

と言って響から電話を借りて、警察署に連絡を入れた。

「座れ」と坊主の集団に言った。

 

警察車両が続々と山林の小屋に集結して、警官が俺達を保護して、坊主の集団を連行した。

警察車両の中で響と少しだけ会話を交わした。

言論人だった市野の死とゆきについてや高校時代の桐山の死についても核心的な会話に行きつけず、捜査に任せるしかないと言って、山道の景色を眺めて、心身の溜め息が安堵のように表れていた。


この本の内容は以上です。


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