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彷徨の秋     高村 昌憲

 
子供だった頃は誰も夢想の中にいた
色々な選択が可能な中で幻想を生き
結局は何も選択しないで夢見ていた
夢想しながら日が暮れた彷徨する秋

  
想像力が幻想となり現実でなくなる
想像力に身を任すのは現実の喪失だ
外国の地へ行く者に幻想はなくなる
様々な方法を一つに選択することだ

  
小屋を想像したい人の自然な営みは
実際に小屋を造ってみることである
歌を創りたいと想像する人の活動は
思い浮かぶ歌を先ず歌うことである

  
建築に必要なのは華美な服ではなく
これから建てたい敷地と材木である
詩や小説に必要なのも虚栄ではなく
美しい言葉とか書きたい命題である

  
想像力が現実から乖離するばかりで
幻想を消せない者は作品を創れない
結実する季節を曖昧にするばかりで
選択できない自己も作品を創れない


楽屋口      原 詩夏至


女達偶像(アイドル)名前に
気楽に「様」などつけ
(たむろ)
小雨の楽屋口に――

  
あたかも昔 
校舎裏の小流れの畔に
かがみ込み凝然と見つめた

蝌蚪(おたまじゃくし)
無数の尾の戦ぎの
菫色の
優雅な不気味さで。

  
そこにあるのは〈連帯〉ではない
――勿論、〈孤立〉でも。
蓋し 
生きるとは 
死ぬとは 
こうして戦ぐことだ
小雨の降るこの〈宇宙〉の楽屋口で
「様」など勝手につけた何かを
あてどなく
優雅に待ちながら。

  
そこにあるのは〈信仰〉ではない
――勿論、〈自由〉でも。
あたかも今
彼女らが
尾を振り
戦ぎながら
茫然と待ち続ける何かが
「様」などあってもなくても
畢竟
〈神〉でも〈恋人〉でもないように。


海      出雲 筑三 


雨が降っている
毎日まいにちの豪雨
とうとうと三千万年ふり続く

 
その少し前までは
一面のマグマオーシャン
山や海には火龍が吼えていた

  
惑星や隕石も先を競って
雷鳴と閃光をともない
寄せ集めの地球星になった

  
雨はなおも降りつづき
星たちの持参した水やミネラルのお陰で
いこいの海からささやかな命を得る

  
水分子には垣根がない
何でも溶かし融合をくり返す
全てを呑みこみ できた海

  
いまどき雨が降っている
そしていきなり豪雨になる
マグマは地中に潜り回遊を辞めない

  
風が不機嫌に波を呼ぶ
恩恵の黒潮は海の動脈
逆流する時は迫っている


卒業式         高 裕香


2019年3月15日 
今日は、ぼくの初等部の卒業式
綺麗にアイロンされた制服に手を通す

  
桜が花を咲かせたがっている
そんな桜の心をポケットに入れ
暖かな朝日を浴びた校門を父母とくぐった。

  
校長が変わると、なぜか卒業式も変わる
伝統の形式がないのだろうか?
あったのかもしれないがシンプル化。

  
『卒業証書授与』
担任から名前を呼ばれるが
皆、「ハイ!」と返事ができない。

  
代表だけが壇上に上り授与。
ぼくも、校長先生からもらいたかった。
父には、シャッターチャンスさえもない。

  
最後の校歌を歌い
涙することなく
桜の心だけ持ち帰った。


三浦逸雄の世界(四十)

三浦 逸雄 「ダンボウのえんとつ」 8号 (アクリル・紙)2019



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