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第7話 葉っぱタヌキ

日当たりの良い山の斜面に 茅葺(かやぶき)屋根の家が

ぽつんぽつんとあります

 

家と家は細い地道(じみち)でつながっておりまして

道の合間は 細い畑で賑わっておりました

 

その道を 行李(こうり)のようなものを背負った

小さな男が歩いております

 

男は とある家の前にくると 丸めた背中をしゃんとさせて

菅笠(すげがさ)の下から

「葉っぱは要りませんか 葉っぱのご用はございませんか」

と呼ばわりました

 

白い蝶々が あたふた あたふたと 舞っております

 

縁側から 手招きされるのをみて

男は撫(な)で肩より 背負子の紐をはずしながら

庭から軒先きへと入ってまいります

 

「今日は 何を持って来たかいのう」

と ばあさんが尋ねました

「いつもどおりの 朴葉、椿、やまぶどう、シダの葉でございます」

 

ばあさんは 傍の光る箱でカチカチと音を鳴らしました

男はちょいと首をすくめます

 

「おまえはこれが苦手だったのう」

「へぇ 手前どもは 電気に触れると化けの皮が剥がれてしまいます」

ばあさんは 毎度のことながら可笑しいのう とにっこりしました

 

男は行李を濡れ縁におろし 中をみせました

どの葉っぱも乾かぬようにと湧き水が打たれており

つやつやとよい色に光っております

 

「今日は 朴葉と椿、やまぶどうに注文が入っておる シダはいらん」

男はちょっと残念そうでした

「が 駅の方にでも並べてみるか 誰かが気にいるかもしれん」

と右足をさすって 今日は調子がよさそうだと思いました

 

男はおばあさんがカチカチいわせている 箱のようなものを

覗き込みました

字は読めませんが 絵はわかります

「青紅葉(あおもみじ)が入り用でしたら 明日はもってまいりましょう」

 

ばあさんは いらないというふうに手を振りました

青紅葉は ことめばあさんの割り当てだからです 

 

男はもう一つの行李をあけて

「破竹(はちく)のよいのが手に入りましたが いかかでしょう」

と言います

「ほう これはええな お揚げと炊いてみるとしよう」

5、6本あれば お裾分けの分も作れそうです

 

「ちょっと待っとれ」と縁側から降りて

井戸端から竹カゴを持って参ると

「これを持ってかえるとええ」

と男に手渡しました

 

男はありがたく頂戴すると

「それではまた 明日まいります」

と山へ帰って行きました

 

 

「父ちゃんおかえり」

「父ちゃんおかえり」

こどもたちが足元でぐるぐるとまとわりつきます

男は ちょいと葉っぱをとると タヌキ姿に戻りました

 

「きゅうりだ トマトだ」

「まくわうりもある」

こどもらは 勝手に行李をあけて はしゃいでいます

 

たぬきはそっと目を閉じると

「ご恩を 決して忘れてはいけない」

と 強く念じるのでした


この本の内容は以上です。


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