閉じる


<<最初から読む

12 / 14ページ

同窓会

 間中高校十五期生同窓会の会場ホテルマナカには、たくさんの同窓生が集まり大盛況のようだ。成績優秀で人気者の山脇が幹事とあって出席者の数は予想以上だった。

 会場のあちらこちらで十年ぶりの再会に声を上げ、各々の近況の報告や昔話に花を咲かせていた。

 山脇の周りには、常に数人の同窓生が集まり、皆が山脇に対し同窓会の幹事を務めてくれたことへの感謝の言葉を口にし、そして労いの言葉をかけた。

「山脇、ありがとうな」北尾もビールを片手に山脇に声をかけた。

「あっ、北尾か、久しぶり。相変わらず体でかいな」山脇はそう言って北尾の大きな背中をトントンと叩いた。

「お前がこの同窓会を企画してくれたおかげで、今日は楽しめてるよ。ほんとありがとうな」

「そう言ってもらえると、やった甲斐があったよ。こちらこそ出席してくれて有難う。結婚したんだってな、おめでとう。それからお母さんにも宜しく伝えておいてくれな」

「おう、ありがとう」

 二人はグラスをコツンと合わせた。

「大沢は、仕事が忙しいみたいだな」会場を見渡しながら言った。

「あー、あいつは仕事で九州に行ってるみたいだ。山脇によろしくって言ってた」

「会いたかったな。あいつの笑った顔は周りを明るくしてくれた。今でも会ってるのか」

「たまーにな。でもお互い仕事が忙しいから、なかなか会えないわ。俺の結婚式で会って以来かな」

「そうか、みんな忙しいんだな。北尾は消防士だろ。忙しいのに参加してくれてありがとう」山脇は目を細めた。

 

 その様子を日下は離れた所から見ていた。自分もあの中に入ろうか悩んでいたが、入る勇気はなかった。同窓会に出席したものの、受付で名札をもらう時に「あっ、日下くんね」と名前を呼ばれた以外は、誰からも声をかけられることがなかった。そして自分から声をかけることも出来なかった。やっぱり来なければよかったかな、と後悔しはじめていた。

 日下は同窓会に来ているにも関わらず、話し相手もいないまま、ずっと一人でいた。

 誰も話しかけてこないし、やっぱり無職だと、どうも自分から話しかけにくいなと思った。このままさっさと引き上げることに決めて、ビールやワインを飲み、できるだけ高そうな料理をたくさん食べることにした。とりあえず、会費分だけは飲み食いして帰らないとな。ひたすら自分の皿に料理を盛った。

「なんで、こんな情けない人生になったんだろう」料理をとりながら呟いた。

 

「日下、ひさしぶり」料理をに夢中になっていた日下は、背後から自分の名を呼ぶ声に驚いた。

「えっ」と、日下が振り向くと見知らぬ男が立っていた。男は柔らかい表情を浮かべ右手にビール瓶、左手にグラス持っていた。

「日下とは高校も同じだったんだよな。忘れてたよ」男は柔らかい表情のまま、そう言った。

 日下にはこの男の記憶が全く無かった。

「高校も」ということは、間中高校以外でも、この男といっしょだったということだろうか。日下は頭をグルグル回したが、この男の記憶は全く出てこなかった。

 日下はこの男が誰なのかわからず気味が悪くなった。名前がわかれば思い出すかもしれないと名札を見ようとしたが、グラスを持つ左手が邪魔で見えなかった。

「乾杯しようか」日下はそう言ってテーブルにあったビール瓶を手に取り、その男に向けた。

「あっ、ありがとう」男は日下の方にグラスを向け右の口角だけをあげた。

 日下はビールを注ぎながら名札を確認しようとしたが、ビールを注ぎながら名札を見るのは難しかった。

「じゃあ、乾杯」男が日下に向けてグラスを出した。

 その時に「おぅ、乾杯」と言いながら名札を確認し、やっと見えた。

 名札に『影山』という文字が見えた。名前はわかった。しかし、日下には影山という名前に全く記憶が無かった。名前がわかってもこの男の正体がわからず一段とモヤモヤした気分になってしまった。

「日下は小学校と中学校のイメージが強すぎたよ。勉強が出来て真面目だったイメージしかないよ」男の表情は柔らかいままだ。

「あっ、そ、そうか」日下は気まずそうに後頭部を右手で擦った。

「日下との高校生活の記憶がない」男はそう言った後、はじめて表情を変えた。さっきまでの柔らかい表情がスーっと消えていき、少しきつく冷たい視線を日下に向けた。そして続けた。

「高校からの日下は本当の日下じゃないと思う」影山の目が一段ときつくなった。

「な、なに、そんなことない。俺はずっと日下だよ」

「日下、今話している僕のことが誰だかわからないんだろ?」冷めた口調で言った。

「ご、ごめん、覚えてない」日下の顔色はなくなっていた。

「当然だよ。君は僕のことを捨てたわけだからね」

「捨てた?」日下の眉間に皺が入った。

「そう、君は高校の時、僕を捨てたんだ」

「……?」日下は首を傾げた。

「意味がわからないだろうね」影山は右の口角だけを上げて笑みを浮かべた。

 日下は少し気味が悪くなってきた。この場から立ち去ろうと思った。

「意味わかんねえ、それじゃあ、また……」右手をあげ踵をかえし立ち去ろうとした。

「ダメだ」影山は日下の前にまわりこみ睨みつけた。「今日は君と話をするために来たんだ。絶対に帰すわけにいかない」影山は日下の肩を両手で抑えた。

 春日は影山を睨みかえし肩にのせられた手を払い「俺に何の用があるんだ」と凄んだ。

「ごめん、怒らせたね。ちゃんと説明するから、少しだけ付き合ってくれよ」影山はそう言って、もう一度日下の肩に両手を置いた。今度は優しく、そして笑みを浮かべていた。

「わ、わかった。付き合うよ」日下もひきつりながらだが笑みを浮かべた。

「じゃあ、邪魔が入らないよう、場所を変えよう」

 二人は会場を出て一階のロビーへと向かった。その様子を山脇は祈るような表情で見ていた。

 二人はロビーの横にある喫茶スペースで話すことにした。

 ソファに腰かけてから、少し沈黙の時間があった。日下から切り出す気はなかったので、このまま沈黙でもいいと思って煙草に火をつけて紫煙を勢いよく吐き出した。

「少しは落ち着いた?」影山が沈黙を破った。

「いや、べつに」日下は煙草を灰皿に押しつけて影山の笑顔に視線をやった。

「僕が誰なのか気になってるでしょ?」

「まぁな」日下は影山を見ず、そう言って二本目の煙草に火をつけた。

「僕は、あなたの生霊なんです」影山は背筋を伸ばし、日下の顔をじっと見た。

「生霊? 何それ?」日下はソファにもたれかかり腕を組んだ。

「僕はあなたが高校の時に捨てた生霊です。そう、あなたが山脇や他の友達に対して持っていた感謝の気持ち、お互いライバルと思って頑張っていた向上心の生霊なんです。あなたは、ある時から、僕の存在が面倒になって捨てたんです。覚えていませんか」

「……」日下はソファにもたれ腕を組んだまま目を閉じた。

 日下には思い当たることがあった。山脇とは仲がよく、彼の存在が自分にとってプラスになっていると感じていた。山脇がいるから、負けたくないと頑張れたし、山脇がいてくれるおかげで楽しいと思っていた。しかし、いつからか山脇の存在が鬱陶しく感じはじめた。山脇に対する嫉妬のようなものが生まれ、逃げ出したくなった。そして、その時に全てを捨てたくなった。

「なんとなく記憶はある」日下は目を開けて影山の目を見た。

「そうでしょ。あの時からあなたは誰とも関わらないようになって、人に感謝しないで、向上心も失っていったんです。その失ったものが、僕でなんです。だから、今日、僕はあなたの元に戻ろうとやって来たんです」

「戻ってくる?」

「そう、今しかないんです。あなたは、今、何もかもうまくいかなくなって、後悔しはじめていますよね。この同窓会でみんなの顔を見て、それを一段と強く感じています。今からやり直せば、あなたはきっとうまくいきます。これからやり直せます。今、僕を受け入れて下さい」

「この同窓会は、山脇が幹事だけど、これと関係あるのか?」

「僕が山脇にお願いしました。事情を説明したら山脇もわかってくれました。山脇もあなたが自分を避けるようになっていたことに傷ついています。この同窓会を開催することで、あなたが昔の日下に戻れってくれるなら協力すると、幹事を引き受けてくれました」

「うーん、……」しばらく言葉がでなかった。

 日下は目を閉じて昔のことを思い出していた。山脇や遠井と遊んだ頃、運動が苦手で山脇と慰めあった頃、山脇と成績を競いあった頃、北尾や大沢を紹介してもらった頃、そんな思い出が走馬灯のように駆け巡った。

 目を開けてフーと長い息を吐いた。

「わかった。俺も後悔してた。今からでもやり直したい」

「そうですか、有難うございます。それでは今から、僕はあなたの元に戻ります。いいですね」

「あぁ」

 


墓参り

「幸輝、婆ちゃんに線香あげようか」

「わかった」小学生にしては体の大きい幸輝はお墓に線香をあげ手を合わせた。

「かあちゃん。幸輝も来年には中学生です。俺とは違って、真面目な中学生になりそうです。そう思うと、俺は母ちゃんに心配ばかりかけてたんだろうなと反省します。母ちゃんありがとう」北尾も墓に手を合わせていた。

「お義母さん、新婚当時に、食をおろそかにしてはいけない、食が体を作ると教えてもらったおかげで、あたしも食事には気をつかうようになり洋輔さんも幸輝も大きな病気もせずに元気に過ごせています。ありがとうございました。これからもお義母さん、天国で見守っていて下さい」麻耶も手を合わせた。

 

「よーし、帰ろうか。墓も綺麗になったし、幸輝が来たから、かあちゃん天国で喜んでるだろう」北尾が墓を見てから空を見上げた。青い空に浮かぶ雲を見て、ふくよかだった頃の母親を思い出した。

 

 自宅マンションに着いて、エレベーターを待っている間に「ちょっとポスト見てくる」と麻耶がポストに向かった。

「おー」北尾と幸輝はエレベーターの前で待った。

「あなた、これ」ポストから戻ってきた麻耶がそう言ってハガキを差し出した。

「なんのハガキだ」北尾はハガキを受け取った。

《同窓会のご案内》と書いてあった。

「おっ、同窓会の案内だ」と言ってエレベーターに乗り込んだ。


四十にして惑わず

 山脇の休日は息子の優翔の少年野球に付き合って、朝早くから出かけることが多い。この日も試合があるので応援に出かけた。しかし、優翔の出番はなく、ベンチから声をあげるだけで、試合も負けてしまった。まだ小学校三年生だから、これから野球がうまくなってくれるだろうと、これからに期待した。いつも優翔に野球を教えてくれている義弟に似てくれれば楽しみだと思うが、自分が運動音痴なので、息子にあまり期待してやるのも可哀想だ、野球を楽しんでくれればそれでいい。義弟もそう言っていた。

「優翔、お疲れ。試合残念だったな」

「お父さん、応援有難う。僕、もっと野球がうまくなって、試合に出られるようになるから。叔父さんみたいにうまくなるから」

「優翔の活躍する姿を楽しみにしてるけど、優翔が楽しんでいれば、父さんはそれで充分だ」

「うん、今は野球が楽しくてしかたない」

「そうか、それならいい。叔父さんもお母さんもきっと喜ぶよ。帰ってお母さんに報告しようか」

「うん」優翔はグローブに手を入れてパンパンと叩いた。

 中学の頃の義弟を思い出した。

 

「ただいま」

「おかえりなさい。試合はどうだった?」

「残念ながら、負けちゃったわ。優翔の出番も無かったしな」

「そう、優翔はまだ小さいから、これからよ」

「今日、店は?」

「夕方までは美和さんに、お願いしてる」

「そうか、じゃあ安心だな」

「はい、珈琲とあなたの好きな焼き菓子」

「ありがとう」

「あっ、そうそう、あなたにハガキが来てたわよ。同窓会の案内みたい」

「同窓会の?」山脇はハガキに視線を落とした。

 

 

 

 《間中高校十五期生の皆さんへ》

 

 間中高校十五期生の皆さん、お元気ですか? 私たち十五期生も四十才になります。

「四十にして惑わず」といいますが、惑わずに生きていますか? 

 まだまだ人生に迷っている人も多いかもしれません。私もまだまだ迷ってます。

 迷ってる時、昔の仲間に会うと、勇気や希望をもらえるものです。

 私は、そう信じて、この度同窓会を開催しようと決めました。

 私も人生に迷っている時期に開催してくれた同窓会のおかげで前を向いて生きていけるようになった気がしています。

 四十才から、さらに前に進む活力を皆さんと分かち合いたいと思っています。たくさんの人の参加お待ちしております。

 

 山脇は幹事の名前を見て絶対に出席しようと思った。

 

《同窓会のご案内》

間中高校15期生の同窓会を催します。

日時 2017年8月20日 17時から

場所 ホテル マナカ

幹事 日下光治


この本の内容は以上です。


読者登録

スー爺さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について