閉じる


<<最初から読む

11 / 14ページ

嫁姑

「ただいまー」洋輔の声が玄関で響いた。

「おかえりなさい」妻の麻耶が玄関まで走ってきて笑顔で迎えた。

 北尾は二十四時間の勤務を終えて疲れているが、麻耶の顔を見ると、疲れはぶっ飛んでしまう。

 北尾はもう一度「ただいま」と言って麻耶の頬にキスをした。結婚して三ヶ月、北尾が帰宅する日は毎日の儀式になっていた。

「お疲れさま、お腹空いてない?」小柄な麻耶が少し首を傾け、北尾を見上げるように言った。

「大丈夫だ、昼飯までいいよ。それまで、少しゆっくりするわ」大きな手を麻耶の頭に優しく置いた。

「わかった」麻耶は大きな瞳を北尾に向けた。

「うん」北尾はリビングへと向かい麻耶は後ろについた。

 北尾はソファに腰を下ろし伸びをし首を左右に折った。

「あっ、そうそう、昨日お母さんが来たわ」少し言いにくそうだった。

「えっ、また来たの。昨日は俺がいないの知ってるだろ」さっきまでの笑顔がスーっと消え眉間に皺をよせた。

 麻耶が黙って俯いたので北尾は続けた。

「なに言ってきた? また、めしが手抜きだとか言ってきたのか?」

「昨日はそんなこと言わなかったけど」

「けどって? じゃあ何を言ってきたの?」

「洋輔くんの仕事は大変なんだから、もっと栄養のバランスを考えてあげなさいとか、部屋が埃っぽいと病気になるとか、だけど……」

「同じことだ。母ちゃんには俺からいちいち干渉するな、俺のいない時に家に来るなって言っておくわ」ソファを拳で叩いた。

「あたしは、お義母さんが来ても大丈夫だよ。お義母さんも一人で寂しいんだと思うし」

「そりゃ、わかるけど、最近嫌みっぽいんだよな。昔は、こんなことなかったのにな」北尾は頭を掻きむしった。

「洋輔くんをあたしにとられたと思ってるのかな」

「しかたねぇじゃないか。子離れしろよな」

「でも、あたしもこの子が大きくなったら、そうなっちゃうかも」麻耶はそう言って自分のお腹をさすった。

「ヘヘヘ、楽しみだな」北尾の顔が笑顔にもどって、麻耶のお腹に手をやった。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。

「おふくろじゃないか? 俺が出る」北尾は玄関へ向かい勢いよくドアを開けた。

「あ、帰ってたの。ご苦労様」ドアを開けた途端、母親の澄子がそう言って入ってきた。

「なに、なんの用?」北尾はつっけんどんに言った。

「何よ、その言い方。いいじゃない息子の顔が見たくなったんだから。それに、あなたにハガキが届いてたから持ってきてあげたのよ」

「じゃあ、ハガキだけ置いてさっさと帰れよ」

 奥から麻耶が慌てて顔を出した。「お義母さん、昨日はありがとうございました。どうぞ、上がっていって下さい」

「洋輔が、ここで帰れって言うのよ、麻耶さん、どう思う? 昔はこんな冷たいこと言わなかったのに」澄子が洋輔を一瞥してから麻耶に視線を向けた。

「い、いえ、どうぞ、お義母さん、せっかくですから上がっていって下さい」

「そう、じゃあ、あがらせてもらいますね」

「フン」北尾は鼻を鳴らし、家に上がってくる澄子を睨んだ。

「お義母さん、今お茶いれますね」

「麻耶さん、気を使わないで、洋輔の言う通りにハガキだけ渡して帰るつもりだから」

「ハガキって何のハガキ?」北尾は不機嫌そうに言った。

「昨日の夜、あなたの高校の同級生だった山脇さんて方から電話があったの。ハガキを送ってから、あなたが結婚して住所が変わったことを大沢くんから聞いたみたいで、そのお詫びの電話をしてきたの。それでね、息子は近くに住んでますから、ハガキが届き次第息子の家に持っていきますので気にしないで下さいって言っておいたのよ。で、今朝ハガキが届いたから持ってきたのよ」

「へぇ、山脇かぁ、懐かしいな。あいつは本当にいい奴だったんだよな。こういう律儀なとこも変わってないな」しみじみと学生時代を思い出すように宙を見て言った。

「電話で少しお話ししたけど、話し方でいい人だとわかったわ。あなたも見習った方がいいわ。あなたは口が悪すぎるから」

「それは言えてるな。山脇は同窓生の中でも、いい人ランキングでトップだったからな。俺とは正反対だ。俺は嫌われものトップだったから。ハハハ」

 

 澄子は北尾の笑っている顔を見ながら子供の頃のことを思い出していた。乱暴で同級生を怪我させて、友達が出来なかった。同級生から嫌われているんじゃないかと心配でしかたなかった。本当は心の優しい子なのにと悩んでいた。そんな息子が友達を連れてきた時は本当に嬉しかった。息子と遊んでくれる友達にお菓子やジュースを出して感謝の気持ちをこめた。息子と仲良くしてくれてありがとう。これからも息子と仲良くしてね、そんな思いでおやつを出していた。その友達が結婚式に出席してくれた大沢と野々村だった。

 しかし今、息子を選んで結婚してくれた麻耶に対しては、なぜか大沢や野々村に持った感謝の気持ちを持つことが出来ず嫉妬ばかりしてしまっていた。澄子は、昨日山脇と話してい時にそれに気づいた。

「でね、山脇さんもあなたの結婚を喜んでくれてたわ。それでね……」

「えっ、何、かあちゃん、山脇とそんな話までしてたのか」北尾が澄子の話の途中で口をはさんだ。

「えっ、えー、そうなのよ、山脇さんと話してると止まらなくなってね。フフフ」思い出すように笑った

「はぁー」北尾は呆れた様子だった。

「山脇さん、最初あなたを見た時は怖かったらしいわ。でもね大沢くんが北尾はいい奴だから仲良くしようって言ってくれたんだって。やっぱり大沢くんには感謝しかないわ。あなたも大沢くんに感謝しなさいよ」

「わかってるよ、あいつにはすごく感謝してる」

「山脇さんも大沢くんのおかげで北尾くんと仲良く出来て楽しかったです、だって、フフフ、良かったわ」澄子は宙を見ながら微笑んだ。

「山脇は頭はいいし、クラスのまとめ役だったな」北尾も宙に視線をやった。

 麻耶は二人の愉しそうな表情をキョロキョロと何度も見ていた。

「それでね、北尾くんの良さがわかる結婚相手の女性も見る目はあるし、素晴らしい女性でしょうね、だって。フフフ」麻耶の肩に手を置いて麻耶の顔を覗きこんだ。

「ありがとうございます」麻耶は照れながら俯いた。

「麻耶さん、洋輔を選んでくれてありがとう」麻耶に向かって頭を下げた。素直になれた澄子の瞳が大沢と野々村に向けていた時のように優しくなっていた。

「いえ、そ、そんな」麻耶は言葉につまった。

「か、かあちゃん……」北尾も言葉が出なかった。

「はい、これがハガキ」洋輔の前へハガキをすべらせた。

「あっ、ありがとう」

「じゃあ、帰りますね、お邪魔したわね」澄子は立ち上がり玄関へと向かった。

「か、かあちゃん」

「なーに」ドアの前で振り返った。

「いや、さっき、きついこと言って傷つけたな、ごめんな。それからありがとうな」

「あなたに何言われても傷つかないし気にしてないわよ。あなたの優しさは、まだまだ、私の方が麻耶さんよりわかってるからね。じゃあ仲良くね。見送りはここでいいわよ」

「かあちゃん、ありがとう」

「お義母さん、ありがとうございました」北尾と麻耶が二人並んで、澄子を見送った。

 ドアを閉める前にもう一度、優しい目を二人に向けた。

 

「かあちゃん、今日は優しかったな、どうしたんだろ」北尾は首を傾げた。

「今日が本当のお義母さんだと思う」麻耶はお腹をさすりながら言った。

「そうだよな」北尾はそう言ってハガキに視線を落とした。

 

《同窓会のご案内》

間中高校15期生の同窓会を催します。

日時 2005年8月21日 17時から

場所 ホテル マナカ

幹事 山脇俊太

 

「高校の同窓会か」

「参加するの?」麻耶が首を傾けて訊いた。

「行ってもいいか?」洋輔が訊くと

「もちろん」と笑顔が返ってきた。

「仕事の都合がついたら行ってくるわ」

「うん、わかった。結婚式の時、挨拶してくれた大沢さん、あの人も同じ高校だったんでしょ」

「あー、そうだ。大沢は行くのかな。一度連絡してみるわ」


同窓会

 間中高校十五期生同窓会の会場ホテルマナカには、たくさんの同窓生が集まり大盛況のようだ。成績優秀で人気者の山脇が幹事とあって出席者の数は予想以上だった。

 会場のあちらこちらで十年ぶりの再会に声を上げ、各々の近況の報告や昔話に花を咲かせていた。

 山脇の周りには、常に数人の同窓生が集まり、皆が山脇に対し同窓会の幹事を務めてくれたことへの感謝の言葉を口にし、そして労いの言葉をかけた。

「山脇、ありがとうな」北尾もビールを片手に山脇に声をかけた。

「あっ、北尾か、久しぶり。相変わらず体でかいな」山脇はそう言って北尾の大きな背中をトントンと叩いた。

「お前がこの同窓会を企画してくれたおかげで、今日は楽しめてるよ。ほんとありがとうな」

「そう言ってもらえると、やった甲斐があったよ。こちらこそ出席してくれて有難う。結婚したんだってな、おめでとう。それからお母さんにも宜しく伝えておいてくれな」

「おう、ありがとう」

 二人はグラスをコツンと合わせた。

「大沢は、仕事が忙しいみたいだな」会場を見渡しながら言った。

「あー、あいつは仕事で九州に行ってるみたいだ。山脇によろしくって言ってた」

「会いたかったな。あいつの笑った顔は周りを明るくしてくれた。今でも会ってるのか」

「たまーにな。でもお互い仕事が忙しいから、なかなか会えないわ。俺の結婚式で会って以来かな」

「そうか、みんな忙しいんだな。北尾は消防士だろ。忙しいのに参加してくれてありがとう」山脇は目を細めた。

 

 その様子を日下は離れた所から見ていた。自分もあの中に入ろうか悩んでいたが、入る勇気はなかった。同窓会に出席したものの、受付で名札をもらう時に「あっ、日下くんね」と名前を呼ばれた以外は、誰からも声をかけられることがなかった。そして自分から声をかけることも出来なかった。やっぱり来なければよかったかな、と後悔しはじめていた。

 日下は同窓会に来ているにも関わらず、話し相手もいないまま、ずっと一人でいた。

 誰も話しかけてこないし、やっぱり無職だと、どうも自分から話しかけにくいなと思った。このままさっさと引き上げることに決めて、ビールやワインを飲み、できるだけ高そうな料理をたくさん食べることにした。とりあえず、会費分だけは飲み食いして帰らないとな。ひたすら自分の皿に料理を盛った。

「なんで、こんな情けない人生になったんだろう」料理をとりながら呟いた。

 

「日下、ひさしぶり」料理をに夢中になっていた日下は、背後から自分の名を呼ぶ声に驚いた。

「えっ」と、日下が振り向くと見知らぬ男が立っていた。男は柔らかい表情を浮かべ右手にビール瓶、左手にグラス持っていた。

「日下とは高校も同じだったんだよな。忘れてたよ」男は柔らかい表情のまま、そう言った。

 日下にはこの男の記憶が全く無かった。

「高校も」ということは、間中高校以外でも、この男といっしょだったということだろうか。日下は頭をグルグル回したが、この男の記憶は全く出てこなかった。

 日下はこの男が誰なのかわからず気味が悪くなった。名前がわかれば思い出すかもしれないと名札を見ようとしたが、グラスを持つ左手が邪魔で見えなかった。

「乾杯しようか」日下はそう言ってテーブルにあったビール瓶を手に取り、その男に向けた。

「あっ、ありがとう」男は日下の方にグラスを向け右の口角だけをあげた。

 日下はビールを注ぎながら名札を確認しようとしたが、ビールを注ぎながら名札を見るのは難しかった。

「じゃあ、乾杯」男が日下に向けてグラスを出した。

 その時に「おぅ、乾杯」と言いながら名札を確認し、やっと見えた。

 名札に『影山』という文字が見えた。名前はわかった。しかし、日下には影山という名前に全く記憶が無かった。名前がわかってもこの男の正体がわからず一段とモヤモヤした気分になってしまった。

「日下は小学校と中学校のイメージが強すぎたよ。勉強が出来て真面目だったイメージしかないよ」男の表情は柔らかいままだ。

「あっ、そ、そうか」日下は気まずそうに後頭部を右手で擦った。

「日下との高校生活の記憶がない」男はそう言った後、はじめて表情を変えた。さっきまでの柔らかい表情がスーっと消えていき、少しきつく冷たい視線を日下に向けた。そして続けた。

「高校からの日下は本当の日下じゃないと思う」影山の目が一段ときつくなった。

「な、なに、そんなことない。俺はずっと日下だよ」

「日下、今話している僕のことが誰だかわからないんだろ?」冷めた口調で言った。

「ご、ごめん、覚えてない」日下の顔色はなくなっていた。

「当然だよ。君は僕のことを捨てたわけだからね」

「捨てた?」日下の眉間に皺が入った。

「そう、君は高校の時、僕を捨てたんだ」

「……?」日下は首を傾げた。

「意味がわからないだろうね」影山は右の口角だけを上げて笑みを浮かべた。

 日下は少し気味が悪くなってきた。この場から立ち去ろうと思った。

「意味わかんねえ、それじゃあ、また……」右手をあげ踵をかえし立ち去ろうとした。

「ダメだ」影山は日下の前にまわりこみ睨みつけた。「今日は君と話をするために来たんだ。絶対に帰すわけにいかない」影山は日下の肩を両手で抑えた。

 春日は影山を睨みかえし肩にのせられた手を払い「俺に何の用があるんだ」と凄んだ。

「ごめん、怒らせたね。ちゃんと説明するから、少しだけ付き合ってくれよ」影山はそう言って、もう一度日下の肩に両手を置いた。今度は優しく、そして笑みを浮かべていた。

「わ、わかった。付き合うよ」日下もひきつりながらだが笑みを浮かべた。

「じゃあ、邪魔が入らないよう、場所を変えよう」

 二人は会場を出て一階のロビーへと向かった。その様子を山脇は祈るような表情で見ていた。

 二人はロビーの横にある喫茶スペースで話すことにした。

 ソファに腰かけてから、少し沈黙の時間があった。日下から切り出す気はなかったので、このまま沈黙でもいいと思って煙草に火をつけて紫煙を勢いよく吐き出した。

「少しは落ち着いた?」影山が沈黙を破った。

「いや、べつに」日下は煙草を灰皿に押しつけて影山の笑顔に視線をやった。

「僕が誰なのか気になってるでしょ?」

「まぁな」日下は影山を見ず、そう言って二本目の煙草に火をつけた。

「僕は、あなたの生霊なんです」影山は背筋を伸ばし、日下の顔をじっと見た。

「生霊? 何それ?」日下はソファにもたれかかり腕を組んだ。

「僕はあなたが高校の時に捨てた生霊です。そう、あなたが山脇や他の友達に対して持っていた感謝の気持ち、お互いライバルと思って頑張っていた向上心の生霊なんです。あなたは、ある時から、僕の存在が面倒になって捨てたんです。覚えていませんか」

「……」日下はソファにもたれ腕を組んだまま目を閉じた。

 日下には思い当たることがあった。山脇とは仲がよく、彼の存在が自分にとってプラスになっていると感じていた。山脇がいるから、負けたくないと頑張れたし、山脇がいてくれるおかげで楽しいと思っていた。しかし、いつからか山脇の存在が鬱陶しく感じはじめた。山脇に対する嫉妬のようなものが生まれ、逃げ出したくなった。そして、その時に全てを捨てたくなった。

「なんとなく記憶はある」日下は目を開けて影山の目を見た。

「そうでしょ。あの時からあなたは誰とも関わらないようになって、人に感謝しないで、向上心も失っていったんです。その失ったものが、僕でなんです。だから、今日、僕はあなたの元に戻ろうとやって来たんです」

「戻ってくる?」

「そう、今しかないんです。あなたは、今、何もかもうまくいかなくなって、後悔しはじめていますよね。この同窓会でみんなの顔を見て、それを一段と強く感じています。今からやり直せば、あなたはきっとうまくいきます。これからやり直せます。今、僕を受け入れて下さい」

「この同窓会は、山脇が幹事だけど、これと関係あるのか?」

「僕が山脇にお願いしました。事情を説明したら山脇もわかってくれました。山脇もあなたが自分を避けるようになっていたことに傷ついています。この同窓会を開催することで、あなたが昔の日下に戻れってくれるなら協力すると、幹事を引き受けてくれました」

「うーん、……」しばらく言葉がでなかった。

 日下は目を閉じて昔のことを思い出していた。山脇や遠井と遊んだ頃、運動が苦手で山脇と慰めあった頃、山脇と成績を競いあった頃、北尾や大沢を紹介してもらった頃、そんな思い出が走馬灯のように駆け巡った。

 目を開けてフーと長い息を吐いた。

「わかった。俺も後悔してた。今からでもやり直したい」

「そうですか、有難うございます。それでは今から、僕はあなたの元に戻ります。いいですね」

「あぁ」

 


墓参り

「幸輝、婆ちゃんに線香あげようか」

「わかった」小学生にしては体の大きい幸輝はお墓に線香をあげ手を合わせた。

「かあちゃん。幸輝も来年には中学生です。俺とは違って、真面目な中学生になりそうです。そう思うと、俺は母ちゃんに心配ばかりかけてたんだろうなと反省します。母ちゃんありがとう」北尾も墓に手を合わせていた。

「お義母さん、新婚当時に、食をおろそかにしてはいけない、食が体を作ると教えてもらったおかげで、あたしも食事には気をつかうようになり洋輔さんも幸輝も大きな病気もせずに元気に過ごせています。ありがとうございました。これからもお義母さん、天国で見守っていて下さい」麻耶も手を合わせた。

 

「よーし、帰ろうか。墓も綺麗になったし、幸輝が来たから、かあちゃん天国で喜んでるだろう」北尾が墓を見てから空を見上げた。青い空に浮かぶ雲を見て、ふくよかだった頃の母親を思い出した。

 

 自宅マンションに着いて、エレベーターを待っている間に「ちょっとポスト見てくる」と麻耶がポストに向かった。

「おー」北尾と幸輝はエレベーターの前で待った。

「あなた、これ」ポストから戻ってきた麻耶がそう言ってハガキを差し出した。

「なんのハガキだ」北尾はハガキを受け取った。

《同窓会のご案内》と書いてあった。

「おっ、同窓会の案内だ」と言ってエレベーターに乗り込んだ。


四十にして惑わず

 山脇の休日は息子の優翔の少年野球に付き合って、朝早くから出かけることが多い。この日も試合があるので応援に出かけた。しかし、優翔の出番はなく、ベンチから声をあげるだけで、試合も負けてしまった。まだ小学校三年生だから、これから野球がうまくなってくれるだろうと、これからに期待した。いつも優翔に野球を教えてくれている義弟に似てくれれば楽しみだと思うが、自分が運動音痴なので、息子にあまり期待してやるのも可哀想だ、野球を楽しんでくれればそれでいい。義弟もそう言っていた。

「優翔、お疲れ。試合残念だったな」

「お父さん、応援有難う。僕、もっと野球がうまくなって、試合に出られるようになるから。叔父さんみたいにうまくなるから」

「優翔の活躍する姿を楽しみにしてるけど、優翔が楽しんでいれば、父さんはそれで充分だ」

「うん、今は野球が楽しくてしかたない」

「そうか、それならいい。叔父さんもお母さんもきっと喜ぶよ。帰ってお母さんに報告しようか」

「うん」優翔はグローブに手を入れてパンパンと叩いた。

 中学の頃の義弟を思い出した。

 

「ただいま」

「おかえりなさい。試合はどうだった?」

「残念ながら、負けちゃったわ。優翔の出番も無かったしな」

「そう、優翔はまだ小さいから、これからよ」

「今日、店は?」

「夕方までは美和さんに、お願いしてる」

「そうか、じゃあ安心だな」

「はい、珈琲とあなたの好きな焼き菓子」

「ありがとう」

「あっ、そうそう、あなたにハガキが来てたわよ。同窓会の案内みたい」

「同窓会の?」山脇はハガキに視線を落とした。

 

 

 

 《間中高校十五期生の皆さんへ》

 

 間中高校十五期生の皆さん、お元気ですか? 私たち十五期生も四十才になります。

「四十にして惑わず」といいますが、惑わずに生きていますか? 

 まだまだ人生に迷っている人も多いかもしれません。私もまだまだ迷ってます。

 迷ってる時、昔の仲間に会うと、勇気や希望をもらえるものです。

 私は、そう信じて、この度同窓会を開催しようと決めました。

 私も人生に迷っている時期に開催してくれた同窓会のおかげで前を向いて生きていけるようになった気がしています。

 四十才から、さらに前に進む活力を皆さんと分かち合いたいと思っています。たくさんの人の参加お待ちしております。

 

 山脇は幹事の名前を見て絶対に出席しようと思った。

 

《同窓会のご案内》

間中高校15期生の同窓会を催します。

日時 2017年8月20日 17時から

場所 ホテル マナカ

幹事 日下光治


この本の内容は以上です。


読者登録

スー爺さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について