閉じる


<<最初から読む

7 / 14ページ

合格発表

「あっ、あったー」山脇は受験番号をみつけ、ガッツポーズをした。

「良かったな、日下は?」

「あっ、ちょっ、ちょっと待って」日下は遠井を手で制しながら、受験番号をさがすことに集中していた。

「あっ、あったよ」受験番号を指差しながら腰が砕けるようにしゃがみこんだ。

「日下、やったな。おめでとう」合格発表に付き合った遠井がしゃがみこんだ日下に野球で鍛え上げられた筋肉質な右手を差し出した。

「あ、ありがとう」日下は細い右手をだし遠井と握手した。遠井は握手したまま、しゃがみこんでいた日下をぐいっと右手一本で起き上がらせた。

 

 遠井は県外の野球の名門高校に入学が決まっていた。寮生活になるので、今後はなかなか会えなくなる。

「これで三人共進路が決まったな」

「遠井は休みの日とか、帰ってこれるのか?」

「いや、練習や試合があるから、なかなか帰ってこれないかもな。帰った時は連絡するよ」

「甲子園に出てくれよ。そしたら応援に行くからな」

「おー、頑張るわ」

「まぁ、もう暫くは中学生活を楽しもうぜ」

「そうだな」

 三人の足取りは軽く浮いているようだった。

 


合格発表2

「よっしゃー」北尾は空に突き抜けるように大きく両手を上げた。

「よし、よし、よーし」大沢は何度もガッツポーズをした。

「おめでとう」野々村が二人に握手をもとめた。

「いやー、本当に間中に合格出来たぞ」

「猛勉強の甲斐があったぁ。これも野々村のおかげだ。家庭教師がよかったからだ。母ちゃんが野々村に授業料払わないといけないって言ってたけど、本当、そうだ」大きな口を開けて笑った。

 北尾と大沢は間中高校を目指すようになってから、野々村の家で勉強を教えてもらっていた。野々村は嫌な顔ひとつ見せずに付き合ってくれた。

「じゃあ、出世払いで頼むよ」野々村が白い歯を見せた。

 


間中高校

 山脇は、間中高校に入学してすぐに仲の良い友達が出来た。一番仲良くなったのは北尾洋輔だ。山脇は北尾をはじめて見た時、乱暴そうに見えたので少し怖かった。ジャイアンと自分で勝手にあだ名をつけた。ジャイアンと仲良くしている男がいた。体が小さかったしジャイアンといっしょにいるのでスネ夫とあだ名をつけた。

 ある日、スネ夫こと大沢が山脇に話しかけてきた。

「山脇は、どこの中学?」

 大沢の顔を見ると微笑んでいた。

「山田谷中学なんだ。田舎だよ」

「へぇー、山田谷からか、すっげぇ田舎だな。ケラケラ、ケラケラ」

 大沢の顔は、微笑みから大袈裟なくらいの笑いに変わった。

 山脇もそれにつられて笑みを浮かべた。最初はバカにしているのかと思ったが、そうではないようだ。

「フフフ、そんなにおかしいかな?」

「小さい頃は、山田谷には人がいないと思ってたよ。俺が悪いことしたら、母ちゃんがよく言ってた。山田谷に捨てに行くってな。だからさ、山田谷は、今でも恐怖の場所。ケラケラ、ケラケラ」

「そこまで田舎でもないよ。駅前はスーパーもあるしパチンコ屋もあるし」

「へぇー、そっか、じゃあ、今度連れていってくれよ」

「あー、いいけど。大沢はどこ出身」

「あー、俺か、ここ間中だよ」そう言って人差し指を地に向け胸を張った。

 山脇は大沢の胸をパンと叩いて、自慢するほどでもないよ。ここだって、そこそこ田舎だよ、そう言って笑った。

「いつもいる北尾とは中学から同じなのか」

「そうだ、あいつ体がでかくて目付き悪いから、怖がられてるけど、本当はいい奴なんだよ。気は優しくて力持ちだ。今度、紹介するから一緒に遊ぼうぜ」

 山脇は北尾について話す大沢の表情を見て、北尾も大沢もいい奴だなと思った。勝手にあだ名をつけていたことを心の中で詫びた。

 

 

 人見知りの日下は、すぐに友達は出来なかったが、山脇に紹介してもらったおかげで北尾や大沢とも仲良くなれた。

 日下は山脇と過ごす時間が楽しかった。しかし、最近は母親や友達が山脇と自分を比べることに嫌気がさすことも多かった。山脇の積極的で明るい性格のおかげで、おとなしい人見知りな自分でもクラスメートと仲良くなれているとわかっているのだが、そんな人気者の山脇に妬みを持つようになっていった。

 高校に入ってから山脇への感謝の気持ちが薄れていき、妬みがドンドンと膨らんでいった。山脇のせいで自分は損をしているんじゃないか。山脇に利用されて山脇の引き立て役になっているんじゃないか、そう思うようになっていった。本当はそうでないとわかっていたが、そう思わないと、自分の存在は山脇がいないと成り立たないような不安が襲った。日下は徐々に心を閉ざしていった。

 

 山脇、日下、北尾、大沢は、いつも四人で下校していたが、この日は山脇が風邪をひいて休んでいたので三人で下校していた。

 北尾は、この機会に日下とも仲良くなろうと思っていた。これまでは山脇がいるから日下がついて来ているだけで、あまり話をする機会がなかった。今日は、日下とも仲良くなろうと思い、いろいろと話をしかけてみようと思った。

「日下は山脇がいないと寂しいんだろ」北尾が日下の小さな背中をパンと叩いた。

「いや、別に」日下は俯きながら言った。

「そうかな、今日は元気なかったぞ」大沢が日下の顔を覗きこんだ。

「そんなに山脇とは仲良いわけじゃないよ。嫌いかもしれない」そう言って、また俯いた。

 北尾と大沢の眉はハの字になった。

「山脇はいい奴じゃないか。本当は日下も好きなんだろ」北尾が心配そうな顔をした。

「そうかな、別に……」日下の声は小さくて聞き取りにくかった。

 北尾と大沢は顔を合わせ、首を傾げた。

「とりあえず、今日は三人で帰ろうぜ」

 

 校門を出た右側にはテニスコートがあり、三人はいつものようにそのテニスコートを横目で見ながら帰っていた。テニスコートでは部活動の練習が始まっていた。あちらこちらから高い可愛い女の声が三人の耳に飛び込んできた。三人の右端を歩く大沢は鼻の下をのばしながらテニスコートに視線を向けていた。

「お前、また安達見てんだろ」真ん中を歩く北尾は、そう言って小柄な大沢の肩に右手をまわし顔を近づけた。大沢は首をすくめて「えへへ」と笑い、頷いた。

 安達はテニス部のなかでも一、二を争う美人だ。大沢は安達に惚れている。北尾は大沢の好きな女のタイプがすぐにわかった。

「確かに、安達はきれいだな。お前、頑張ってモノにしろよ」北尾は右手を大沢の首に回したまま左手親指を大沢の目の前にたてた。

「そ、そんなんじゃないよ」と大沢は顔を赤くした。

「嘘つけー」北尾は大沢の後頭部をポンと叩き「安達に惚れてんだろ、バレバレだ」と笑って大沢を突き放した。小柄な大沢はよろけてフェンスにぶつかった。「バカ力だな、ちょっとは加減しろよ」大沢はフェンスにぶつかった右手をさすりながら笑った。

 北尾は大沢を突き放してから、今度は日下の肩に左手を置いた。

「ところで、日下はどんな女がタイプなんだ、教えてくれよ」日下の耳元に顔を近づけた。

「いや、別にそういうのは興味ないよ」日下は下を向いた。

「なーに、顔赤くなってんの、面白くないなぁ。日下、お前も男だろ。好きな女くらいいるだろ。それとも、これか」そう言って右手を立てて口にあてた。

「違うよー」日下はひきつった笑みを浮かべた。

「そういう北尾は誰がタイプなんだよ」大沢が横からさっきの仕返しとばかりに拳で北尾の二の腕をパンチしながら訊いた。

「あっ、あー、俺か? 俺は小柄な娘が好きだな、三田とかな」

「三田かぁー、確かに小柄で可愛いけど、色気ないよな。俺はやっぱり安達みたいなバーンとした胸と、ぷっくりしたお尻が好きだな」大沢は自分の胸とお尻を手でボリュームをつける仕草をしながら目尻を下げた。

「また、鼻の下伸びてるぞ。お前はやっぱりスケベだ。中学の時から変わってない」北尾は大沢の鼻をつまんだ。

 

 日下が二人と距離をおいて少し前を歩きだした。すると、北尾は、後ろから追いかけた。

「しかし、あれだよな、日下は山脇がいないと何も出来ないよな」北尾が日下の肩に手をおいて笑いながら言った。全く悪気なく軽い気持ちで言った言葉だったが、日下にとっては軽く受けとめることが出来なかった。

「……、そ、そんなことないよ」日下は体を震わせ下を向いて答えた。

「なに、その暗さ。もっと明るくしろよ」北尾は笑ったまま、大きな手で日下の肩をバーンと叩いた。

 日下は顔をしかめた。

「あれ、大丈夫か? 山脇、呼んできてやろうか」大沢も冗談のつもりだった。

「バ、バカにするなよ、山脇なんかいなくても、俺は他の学校に友達がいる」日下はそう言って、二人を置いて走っていった。

「あれっ、怒ったみたいだ」大沢が日下が走る後ろ姿を見ながら呆れるように言った。

「ちょっと言い過ぎたかな」北尾が眉を八の字にして大沢の顔を見た。

「いや、そんなことないと思うけど」大沢は首を傾げた。

 

 その後の日下は北尾や大沢、そして山脇と口をきかなくなってしまった。心を閉ざし、誰とも遊ばなくなってしまった。


結婚式

「洋輔くん、麻耶さん、ご親族の皆様、本日は本当におめでとうございます。私は新郎洋輔くんと小学校、中学校、高校と共に学び、共に遊んだ大沢彰と申します。洋輔君との思い出は数えきれないのですが……」

 

 結婚式の友人代表の挨拶が終わり、席に戻ってきた大沢は、フーッと息を吐きながら腰かけた。渇いた喉を潤すためにビールを口にし、目の前に並ぶ料理に視線を落とした。この後はゆっくりとこの豪華な料理が味わえると思った。隣に座る野々村が「お疲れ様、挨拶よかった。ちょっと感動したよ」と声をかけてくれた。野々村は中学校時代、北尾と一緒に遊んだ仲間だ。高校からは有名私立高校に入学し大沢達とはバラバラになった。その後大学院を出て、今は大学教授を目指している。

「サンキュー、でも緊張したわ」大沢は胸に手をあて、まだ早く打つ鼓動をおさえた。

 大沢は隣の野々村とお互いの近況を報告しあい、中学校時代の話題に花を咲かせていた。そこに、北尾の母親の澄子がビール瓶を持ってあらわれた。

「野々村くん、今日は出席してくれてありがとう」そう言って野々村にビールを注いだ。

「お母さん、本日はおめでとうございます」野々村は微笑んだ。

「遠いのにありがとうね」澄子は野々村にそう言って、大沢の方に向きをかえた。

「大沢くん、挨拶ありがとうね。洋輔の学生の頃の事を思い出したわ」にこやかな表情で大沢にビール瓶をむけ、友人代表の挨拶の礼を言った。

「お母さん、おめでとうございます」大沢はビールを飲み干した。

「大沢くん、お仕事は?」

「旅行会社に勤めています」

「あら、そう、大変だけどやりがいあるお仕事ね。大沢くんらしいお仕事だわ。頑張ってね」

「この仕事に決めたのは洋輔くんのアドバイスのおかげなんです」

「洋輔の? へぇー、でも、やっぱり大沢くんの頑張りでしょ。これからは、旅行に行く時は大沢くんにお願いするわ」

「あっ、はい、是非、お待ちしてます。洋輔くんは、消防士の仕事を頑張ってるみたいですね。昔から体力もあったし、人の命を助ける仕事がしたいって言ってましたから、洋輔くんらしい職業だと思います」

「洋輔が『人の命を助けたい』、そんなこと言ってたなんて知らなかったわ。まぁ、洋輔もなんとか仕事頑張ってるみたいだけど、危険な仕事だから心配でね」眉を八の字にした。

「洋輔くんなら大丈夫ですよ」

「大沢くんも旅行会社は大変でしょ。お仕事忙しいのに、今日はありがとう。洋輔ともゆっくり話してやって。あの子、喜ぶと思うわ。じゃあね」そう言って隣のテーブルへ移動していった。

 大沢と野々村は北尾の母親に顔を合わすのは中学生の時以来だった。中学生の頃は二人で北尾の家によく遊びに行った。遊びに行くと、北尾の母親は必ずジュースやお菓子を出してくれた。大沢達はそれが楽しみだった。いつも笑っていて優しい目を向けてくれた。当時は体が大きくて、ふくよかな印象だったが、今見た澄子は昔の印象とは違い小さくて痩せて見えた。自分達が大きくなったせいもあるだろうが、それだけではないだろうと思った。目のまわりの皺も目立っていた。しかし、優しく幸せそうな目は、中学生の時の大沢達に向けてくれたものと変わらなかった。大沢はとりあえず元気そうで良かったなと澄子の顔を見て、入院した日、そして北尾から手術が成功したと聞いた日のことを思い出した。

 北尾のやつ、医者にはなれなかったけど、命を救う仕事には就いてるなと、あまり似合ってるとは思わないタキシード姿の新郎に目を細めた。

「あいつはやっぱり和服だな」と野々村に向かって言った。野々村は笑いながら頷いた。


嫁姑

「ただいまー」洋輔の声が玄関で響いた。

「おかえりなさい」妻の麻耶が玄関まで走ってきて笑顔で迎えた。

 北尾は二十四時間の勤務を終えて疲れているが、麻耶の顔を見ると、疲れはぶっ飛んでしまう。

 北尾はもう一度「ただいま」と言って麻耶の頬にキスをした。結婚して三ヶ月、北尾が帰宅する日は毎日の儀式になっていた。

「お疲れさま、お腹空いてない?」小柄な麻耶が少し首を傾け、北尾を見上げるように言った。

「大丈夫だ、昼飯までいいよ。それまで、少しゆっくりするわ」大きな手を麻耶の頭に優しく置いた。

「わかった」麻耶は大きな瞳を北尾に向けた。

「うん」北尾はリビングへと向かい麻耶は後ろについた。

 北尾はソファに腰を下ろし伸びをし首を左右に折った。

「あっ、そうそう、昨日お母さんが来たわ」少し言いにくそうだった。

「えっ、また来たの。昨日は俺がいないの知ってるだろ」さっきまでの笑顔がスーっと消え眉間に皺をよせた。

 麻耶が黙って俯いたので北尾は続けた。

「なに言ってきた? また、めしが手抜きだとか言ってきたのか?」

「昨日はそんなこと言わなかったけど」

「けどって? じゃあ何を言ってきたの?」

「洋輔くんの仕事は大変なんだから、もっと栄養のバランスを考えてあげなさいとか、部屋が埃っぽいと病気になるとか、だけど……」

「同じことだ。母ちゃんには俺からいちいち干渉するな、俺のいない時に家に来るなって言っておくわ」ソファを拳で叩いた。

「あたしは、お義母さんが来ても大丈夫だよ。お義母さんも一人で寂しいんだと思うし」

「そりゃ、わかるけど、最近嫌みっぽいんだよな。昔は、こんなことなかったのにな」北尾は頭を掻きむしった。

「洋輔くんをあたしにとられたと思ってるのかな」

「しかたねぇじゃないか。子離れしろよな」

「でも、あたしもこの子が大きくなったら、そうなっちゃうかも」麻耶はそう言って自分のお腹をさすった。

「ヘヘヘ、楽しみだな」北尾の顔が笑顔にもどって、麻耶のお腹に手をやった。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。

「おふくろじゃないか? 俺が出る」北尾は玄関へ向かい勢いよくドアを開けた。

「あ、帰ってたの。ご苦労様」ドアを開けた途端、母親の澄子がそう言って入ってきた。

「なに、なんの用?」北尾はつっけんどんに言った。

「何よ、その言い方。いいじゃない息子の顔が見たくなったんだから。それに、あなたにハガキが届いてたから持ってきてあげたのよ」

「じゃあ、ハガキだけ置いてさっさと帰れよ」

 奥から麻耶が慌てて顔を出した。「お義母さん、昨日はありがとうございました。どうぞ、上がっていって下さい」

「洋輔が、ここで帰れって言うのよ、麻耶さん、どう思う? 昔はこんな冷たいこと言わなかったのに」澄子が洋輔を一瞥してから麻耶に視線を向けた。

「い、いえ、どうぞ、お義母さん、せっかくですから上がっていって下さい」

「そう、じゃあ、あがらせてもらいますね」

「フン」北尾は鼻を鳴らし、家に上がってくる澄子を睨んだ。

「お義母さん、今お茶いれますね」

「麻耶さん、気を使わないで、洋輔の言う通りにハガキだけ渡して帰るつもりだから」

「ハガキって何のハガキ?」北尾は不機嫌そうに言った。

「昨日の夜、あなたの高校の同級生だった山脇さんて方から電話があったの。ハガキを送ってから、あなたが結婚して住所が変わったことを大沢くんから聞いたみたいで、そのお詫びの電話をしてきたの。それでね、息子は近くに住んでますから、ハガキが届き次第息子の家に持っていきますので気にしないで下さいって言っておいたのよ。で、今朝ハガキが届いたから持ってきたのよ」

「へぇ、山脇かぁ、懐かしいな。あいつは本当にいい奴だったんだよな。こういう律儀なとこも変わってないな」しみじみと学生時代を思い出すように宙を見て言った。

「電話で少しお話ししたけど、話し方でいい人だとわかったわ。あなたも見習った方がいいわ。あなたは口が悪すぎるから」

「それは言えてるな。山脇は同窓生の中でも、いい人ランキングでトップだったからな。俺とは正反対だ。俺は嫌われものトップだったから。ハハハ」

 

 澄子は北尾の笑っている顔を見ながら子供の頃のことを思い出していた。乱暴で同級生を怪我させて、友達が出来なかった。同級生から嫌われているんじゃないかと心配でしかたなかった。本当は心の優しい子なのにと悩んでいた。そんな息子が友達を連れてきた時は本当に嬉しかった。息子と遊んでくれる友達にお菓子やジュースを出して感謝の気持ちをこめた。息子と仲良くしてくれてありがとう。これからも息子と仲良くしてね、そんな思いでおやつを出していた。その友達が結婚式に出席してくれた大沢と野々村だった。

 しかし今、息子を選んで結婚してくれた麻耶に対しては、なぜか大沢や野々村に持った感謝の気持ちを持つことが出来ず嫉妬ばかりしてしまっていた。澄子は、昨日山脇と話してい時にそれに気づいた。

「でね、山脇さんもあなたの結婚を喜んでくれてたわ。それでね……」

「えっ、何、かあちゃん、山脇とそんな話までしてたのか」北尾が澄子の話の途中で口をはさんだ。

「えっ、えー、そうなのよ、山脇さんと話してると止まらなくなってね。フフフ」思い出すように笑った

「はぁー」北尾は呆れた様子だった。

「山脇さん、最初あなたを見た時は怖かったらしいわ。でもね大沢くんが北尾はいい奴だから仲良くしようって言ってくれたんだって。やっぱり大沢くんには感謝しかないわ。あなたも大沢くんに感謝しなさいよ」

「わかってるよ、あいつにはすごく感謝してる」

「山脇さんも大沢くんのおかげで北尾くんと仲良く出来て楽しかったです、だって、フフフ、良かったわ」澄子は宙を見ながら微笑んだ。

「山脇は頭はいいし、クラスのまとめ役だったな」北尾も宙に視線をやった。

 麻耶は二人の愉しそうな表情をキョロキョロと何度も見ていた。

「それでね、北尾くんの良さがわかる結婚相手の女性も見る目はあるし、素晴らしい女性でしょうね、だって。フフフ」麻耶の肩に手を置いて麻耶の顔を覗きこんだ。

「ありがとうございます」麻耶は照れながら俯いた。

「麻耶さん、洋輔を選んでくれてありがとう」麻耶に向かって頭を下げた。素直になれた澄子の瞳が大沢と野々村に向けていた時のように優しくなっていた。

「いえ、そ、そんな」麻耶は言葉につまった。

「か、かあちゃん……」北尾も言葉が出なかった。

「はい、これがハガキ」洋輔の前へハガキをすべらせた。

「あっ、ありがとう」

「じゃあ、帰りますね、お邪魔したわね」澄子は立ち上がり玄関へと向かった。

「か、かあちゃん」

「なーに」ドアの前で振り返った。

「いや、さっき、きついこと言って傷つけたな、ごめんな。それからありがとうな」

「あなたに何言われても傷つかないし気にしてないわよ。あなたの優しさは、まだまだ、私の方が麻耶さんよりわかってるからね。じゃあ仲良くね。見送りはここでいいわよ」

「かあちゃん、ありがとう」

「お義母さん、ありがとうございました」北尾と麻耶が二人並んで、澄子を見送った。

 ドアを閉める前にもう一度、優しい目を二人に向けた。

 

「かあちゃん、今日は優しかったな、どうしたんだろ」北尾は首を傾げた。

「今日が本当のお義母さんだと思う」麻耶はお腹をさすりながら言った。

「そうだよな」北尾はそう言ってハガキに視線を落とした。

 

《同窓会のご案内》

間中高校15期生の同窓会を催します。

日時 2005年8月21日 17時から

場所 ホテル マナカ

幹事 山脇俊太

 

「高校の同窓会か」

「参加するの?」麻耶が首を傾けて訊いた。

「行ってもいいか?」洋輔が訊くと

「もちろん」と笑顔が返ってきた。

「仕事の都合がついたら行ってくるわ」

「うん、わかった。結婚式の時、挨拶してくれた大沢さん、あの人も同じ高校だったんでしょ」

「あー、そうだ。大沢は行くのかな。一度連絡してみるわ」



読者登録

スー爺さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について