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死神のお迎え

 

死神「こんばんわ」

 

男 「ウ、ウワーッ、あ、あんた誰? も、もしかして、し、死神か?」

 

死神「あれぇー、わかりますー? 人間を驚かせないようにと思って、人間らしい服装にしてみたんですがね」

 

男 「た、確かに、服装は人間らしいけど、か、顔が骸骨じゃないか」

 

死神「あー、そうだ、メイクするの忘れてました。急にあなたを連れてくるように言われたもんで、慌ててましたね。ハハハ」

 

男 「わ、笑い事じゃないだろ。俺を連れて行くってことは、お、俺が死ぬってことじゃないのか」

 

死神「ハイ、よーくご存じですね。ハハハ」

 

男 「笑い事じゃないって言ってるだろ。俺はまだまだ死にたくないから、さっさと帰ってくれよ」

 

死神「私もガキの使いじゃありませんのでね、あーそうですか、と言って帰れませんよ」

 

男 「俺だって、あーそうですか、というわけにはいかない。まだまだ、長生きして、旨い物食いたいし、旨い酒も飲みたいんだ」

 

死神「いやー、もう十分、美味しい食べ物も美味しいお酒も味わったでしょう。これ以上は地球の資源の無駄使いです」

 

男 「バカなこと言うな。もっともっと生きたいんだ。旅行にも行きたいし行ったことのない地に行きたいんだ。世界中行きたいんだ」

 

死神「そんなこと言い出すとキリがないですね」

 

男 「キリがないから、まだまだ死ねないんだ」

 

死神「これまで一人で沢山の地を訪問しているじゃないですか。もう十分でしょ」

 

男 「まだまだ十分じゃないよ。それに、もっと若い女性とも知り合いになりたいし」

 

死神「はぁー、いい歳して何言ってるんですか。スケベな爺さんじゃないですか。女性が迷惑ですよ」

 

男 「たのむよ、見逃してくれ」

 

死神「ダメです。早く、これに乗って下さい」

 

男 「嫌だ、絶対乗らない」

 

死神「仕方ないですね。強引に乗せるしかないですね。ハイッーー」

 

男 「えっ、な、なんだ、体の自由がきかない。体が勝手に、ウ、ウワーッ……」

 

死神「はい、ちゃんと乗りましたね。それでは、参りましょうか。まずは三途の川を目指しますね。最後の旅行気分を味わって下さい」

 

男 「バカか、こんな状態で旅行気分になれるわけないだろ。ここから降ろしてくれ」

 

死神「走り出しましたから、降りれませんよ」

 

男 「体が動かない。頼むから、体だけ自由に動かせるようにしてくれ。苦しいよ」

 

死神「暴れませんか?」

 

男 「あっ、あー、暴れない」

 

死神「もし、暴れたら地獄に直行しますよ。わかりましたか?」

 

男 「わ、わかった。自由にしてくれ。苦しくて死にそうだ」

 

死神「ハハハ、死にそうですか、死にそうじゃなくて、これから死ぬんですけどね、ハハハ。まぁ、最後くらい自由にしてあげましょう。ハイッーー」

 

男 「はぁー、楽になったー」

 

死神「そろそろ三途の川が見えてきますよ」

 

男 「そんなの見たくないよ」

 

死神「あれっ、体が自由になったのに元気ないですね」

 

男 「当たり前だろ。あんたらにはわからんだろうな。人間の気持ちなんて」

 

死神「私は死神ですから、あなた達人間の気持ちなんて、全く興味ないです」

 

男 「冷たい奴だな。俺はもっと長生きしたかったよ。嫁さんに苦労かけっぱなしだったからよ。もっと旨い物も食べさせてあげたかったし、息子と孫と一緒に旅行に連れて行ってやりたかった。綺麗な景色を見せてあげたかったよ。嫁さんにも子供にも孫にも、まだまだ、いろいろやってあげたかったのに」

 

 キィーッーー

 

男 「ウワーッ、急に止まるなよ。危ないな」

 

死神「すいません」

 

男 「どうしたの、故障でもした?」

 

死神「いえ、故障じゃありません。それより、あなた、さっきの言葉、先に言って下さいよ。そうしたら、ここまで連れてくることもなかったんですから」

 


この本の内容は以上です。


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