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キャメル編5

 白いマントの男がオレに、オレの『父』が処刑されると教えてくれたのだ。

 オレはその『父』というのを、育ての親『世話係のオヤジ』ではないかと予想し、ガイとジーンと一緒に、馬で西ザータ村の監視塔に向かった。監視塔の前あたりに着くと、ちょうどオレたちは、『父』を処刑する事を決めた西ザータの村長と遭遇した。

 オレたちは、その『父』に会う事を許された。

 

 

 

 オレとジーンはレンガの階段を踏みしめるように上ってきて、西ザータの村長に、ある部屋に通された。

 

 広がった風景は、なぜか内側が淡い緑色で粗く塗られている部屋だ。どうも、オレが幽閉されていた部屋とはまるで違う。その部屋とは反対側に小さな窓がある。オレの幽閉されていた部屋は、もっと上だったのだろうか? 何段階段を下りたかなど、覚えていない。ただ、自由をつかまえるのに精一杯だった。あのときは。

 

「ほれ、ここにその男を降ろせ」
 確かに、『降ろす』という感じだった。『父』は、警備隊二人にかつがれるように連れて来られ、オレたちからやや距離のある場所にあっけなく降ろされた。

 

 オレはオヤジの顔などじっくり見た事はないのだが、――彼は、オレの想像通り、幼い頃から見ていたたったひとりの人、世話係のオヤジだった。いくぶんやつれているように感じた。

 オヤジの手は後ろで鎖を巻かれ、身動きのできる状況ではない。

 

 オレとジーンの五、六歩先、警備隊二人に左右を完全にはさまれた状況で、世話係のオヤジは汚い格好でうなだれている。なぜだ。あのヒゲで犯罪者の実の父は、オレが消したのに。オヤジは塔に閉じこめられたままだ。

 

 オヤジは、塔に閉じこめられていたから、どこからか水や食糧を貰い、いつもオレの世話をしていたのだ。なのに、どうして、オレの部屋のカギをもっていた? オレの疑問は、ますますふくらむばかりだ。

 

 

 

 オレが辺りを見渡すと、ガイはいなかった。たぶん馬でも隠しに行っているのだろう。馬が無ければ、困る。――オレは、どうせこのまま黙ってはいないつもりだ。

 

 オレは、世話係のオヤジに問いかけた。頬から汗が流れた。
「オヤジ、元気か?……なぜ?」

 

「ほう、俺を見て、どんな状態かわからんのか。そして、なぜとは何だ」

 答えるオヤジの顔が、どす黒い。
「放火殺人犯は、オレが消したのに、なぜ、あなたがいつまでも――」

 

 わりと、昔からこうだった気がする。オヤジはあまり、多くを語らない方だ。オレも、自分はガイのようにお喋りではないと思っている。両手におさまるくらいの、とても小さな窓からわずかに、曇りの日の草原が見えた。そこから突然の嵐のように、風が入ってきて宙を舞う。

 

 西ザータの村長が口を開いた。
「この男は今日の正午、処刑の予定である。キャメル、言いたい事があるなら、今のうちに言いなさい」

 

 オレは、顔を上げた。

「ああ。オヤジに言いたい事がある。そのために馬を走らせ、ここに来た。あと、ききたい事もあるな」

 

「何か用か」
 オヤジが口を歪ませて返答した。オレはまっすぐに、崩れ落ちたような姿勢のオヤジを見た。オヤジは、他の誰が見ても醜いだろうが、オレにはそう思えなかった。

 

「まずは、オレを育ててくれて、ありがとう」
「言いたい事は、それだけか?」
 オヤジが偉そうにそう答え、身をのり出そうとしたので、警備の二人が槍で制止した。

 

「言いたいのは、それだけじゃねえよ。ありすぎる」
 オレは腕を組んだ。

 

 気がつけば、ジーンの姿が視界のどこにも無かったので、一瞬振り向いた。南側の窓からは、ただ草原がちらっと見えただけだった。――塔の下の方から、村人の声がざわざわと聞こえる。
 変だな。塔の中で、公開処刑だと? これは矛盾している。

 

 オレはまた、オヤジの方を向いて言った。 

「聞きたいのは、こうだ。オヤジ、あなたは、本当は何もやってないだろ? ウソなんかつくな。オレは真面目に聞いてる」

 オレは腕を組んで、見栄を張った。村長や警備隊などに、負けてはいられない。

 

 オヤジが赤紫色の唇を、また歪ませた。
「そうだ。俺は、何もやっていない!」

 

 オヤジの短い叫びが、塔の中でこだまする。オレには、数秒の間返事ができなかった。――何だか、うまく言えないけれど、良かった。やはり、濡れ衣だろう。

 

「ウソをつけ、この野郎!」
 警備の若者が声をはり上げて、オヤジの右側の腰を蹴った。

 

「そこの警備野郎、黙れ」
 オレは宝剣の、金色のつかに手をかけて言った。警備の若者は意気地なしなのか、オレの目を見て少しひるんだ顔をした。もう片方の男は表情を表に出さない。

 

 村長は、木の折り畳み椅子に腰かけたまま、塔の緑の壁の近くで足を組み、オレとオヤジたちを見ていた。

 

「気をつけなさい、若者よ」
 村長は腕も組んだ。
「犯罪者というものは、実際何をやらかしたにしろ、『私はやっていない』と言うものじゃ。そんなものにだまされてはいかん」

 

 オヤジの黄色く濁った目が、くわっと開いて動く。
 村長は演説でもするかのように、立ち上がって手を広げた。

 

「キャメル、お前について私は差別する気はない。それはわかっておるだろう。お前がもし生き延びて、村へ帰って来るようであったら、私は歓迎する準備をしていた。成人したお前は、もうこの犯罪者と縁は切れておる。この男の事など、忘れたがいいぞ! お前は英雄じゃ。だから私はお前にその剣をやった。何か、不満でもあるのかの?」


この本の内容は以上です。


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