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朝。

エディは、町にあるホテルのレストランで朝食を取っていた。レストランと言っても、5人程座れるカウンター席と、テーブル席が二つだけの小さな店だった。

 

エディは、テーブル席に腰かけて、トーストとコーヒーを口にしていた。そこに、ドクターが現れた。

「おや、おはよう。ここにいることがよくわかったね」

エディは、コーヒーカップを手にしたまま感心したように言った。

「他所の人間が来て泊まるのは、ここだけだからな」

そのホテルは町で唯一のホテルだった。そこにエディがいることは、ドクターにはわかっていた。

 

「ジェニーは、どうしている? 」

「このホテルの部屋で、まだ休んでいるよ」と、エディは答えてコーヒーをすする。

「座ってもいいかな? 」

ドクターは睨みながら言う。

「どうぞ」

ドクターは、テーブルを挟んで差し向いに座る。

エディはコーヒーカップを置いて、「私に何か? 」

 

「昨日、教会の礼拝堂でこんなものを見つけたよ」

ドクターは、着ているコートの外ポケットから、小型カメラと取り出してテーブルに置いた。

「それから診療所には、診察用のベッドの下に、こんなものがあった」

今度は、別の外ポケットから小型の盗聴器を取り出してテーブルに置いた。

「知人の電気屋に見せたら、軍などが使う特別なものだと言っていた。こんなことまでして何が目的なんだ? 」

「これを設置したのが、私だと? 」

エディは否定する。

「とぼけるなよ・・・・・・ジェニーは、まだ普通の15歳の少女だ。盗聴や盗撮までして、何を必死になっているんだ?」

「正直に言おう。私は、ある人物からジェニーを引き取って欲しいことを頼まれた。もちろん、彼女の将来も考えてのことだ」

「ある人物っていうのは、 東洋人でジェニーの親なのか? 」

「・・・・・・それは言えない。それに知らないほうがいい」

エディは、忠告するような言い方をする。

 

「ドクター、あなたもわかるだろう。ジェニーが私のところに来たいと言ったのなら、法的には私が親権を持つことになる」

「法的に・・・・・・ふざけるなよ。一体、ジェニーに何を吹き込んだ? 」

ドクターは怒りを抑えながら言った。

「彼女も自分の人生に向きあうことを決めたんだろう」

エディは、論ずるように言う。

 

「ジェニーに不幸なことが起こった時には、私にも考えるがある」

「不幸なこと・・・・・・そんなことはありませんよ」

ドクターの言葉に、エディは堂々と言い切った。

「予定があるんで、この辺で失礼するよ」

エディは、コーヒーを飲み終えて席を立つ。

 


「ここを何時に立つんだ? ジェニーの見送りぐらいさせてくれよ」

ドクターは、呼び止めるように言った。

 

「昼の1時には、ここを立つ。そうだ、ジェニーが可愛がっている猫も連れてゆく」

「猫・・・・・・!?」

ドクターは初めて猫の存在を知って、一瞬考えた。

「何だ、猫のことは知らないようだな。まあ、とにかく安心してくれ。では失礼する」

エディは、ドクターに背中を向けた。

 

「そういえば、ひとつ思い出したことがある」

再びドクターが、エディを呼び止めるように言った。

エディが振り返る。

 

「子供の頃、ハリスは話していた。将来は、国の秘密機関で働きたいと言っていた。当時スパイもののテレビドラマの主人公に憧れていた。ひょっとしたら、ハリスは、その憧れを叶えたんじゃないだろうかって、この道具をみた時、思い出したよ。あんたも、そんな一人じゃないのか?」

 

ドクターは、チラリと盗聴器と小型カメラに目をやって尋ねた

 

エディは、フッと笑みを見せて、「そのテレビドラマなら、私も好きだった。だが、現実的なものじゃない。憧れは憧れのままだよ」と、サラリと言って去って行った。

 

ドクターは、何かをはぐらかされたようで悔しさがこみ上げて来た。だが、東洋人と言ったことに、何か遠い記憶が甦ってきた。そのことを思い出そうとして、しばらく考え込んだ。


 

 


ホテルの前で、ロールスロイスが停まっている。

ホテルの中から、ジェニーが出てきた。

 

ジェニーは髪を上げて、黒のジャケットにパンツ姿だった。それは、エディから用意されたもので、普段とは違った雰囲気が漂わせて、妙に大人びた女性に見えた。

一瞬、運転手がジェニーに見とれていたが、すぐに我に戻り、「荷物をお持ちします」

 

運転手は、スーツケースを受け取り、トランクの中にしまい込んだ。次に子猫が入った、籠タイプのコンテナを助手席に置いた。

 

「エディさんは? 」

「今、あちらの方でお電話中です」

運転手が顔を向けると、遠くで背中を向けているエディの姿が見えた。

 

「一体、彼女がセカンドというのは、どういうことですか? 」

エディは、携帯電話に怒りを抑えながら尋ねた。

「ええ、もちろん。今から彼女を連れて帰ります。任務は完了ですが、なぜ、仕事をさせる私まで、大事な事を黙っていたんでしょうか? 」

「・・・・・・」

エディは相手の言い分を聞いて、「わかりました。いずれにしても、ロンドンに着いたら伺います」

 

エディは不服そうに電話を切った。

 


「ジェニー」

後ろから声がして振り返ると、ディックとアンジェラが見送りに来ていた。

「・・・・・・」

二人が、ジェニーの姿を見て、運転手と同じように見とれていた。

「とても素敵よ」

アンジェラが、ジェニーの姿に感動した様子で言った。

「とても似合っているよ」

ディックも素直に褒めた。

 

「役に立つかわからないけど、これを渡そうと思って」

アンジェラが、ジェニーが休んだ分の授業内容を書いたノートを渡した。

「ありがとう」

ジェニーは嬉しそうに受け取る。

「これは僕からだ。いい弁護士になってくれ」

ディックは願うような言い方で、学校のパンフレツの入った用紙を渡す。

「ありがとうございます。エディさんも弁護士になることに協力してくれると言ってくれました」

 

エディが戻ってきて、見送りにきた二人の顔を見るも、黙って後部座席に乗り込んだ。

 

「ドクターは、どうしたんですか?」

ジェニーが気にかけた。

「見送りに誘ったんだが、急に用事があるらしく、ジェニーには、よろしく伝えておいて欲しいと頼まれたよ」

「そうですか・・・・・・ドクターに、よろしくお伝えください」

ジェニーは、ドクターに別れを言えないのが残念そうに見えた。

 

「そろそろ行こう」

エディが言う。

「それじゃ、元気で」

ジェニーは、ノートとパンフレットを抱きしめるように持ったまま言う。

「ジェニーも元気でね」

アンジェラが涙声になる。

 

 

「もしも、向こうでの生活が無理なら、すぐに戻っておいで、ドクターも自分も待っているからね」

ディックが優しく言う。

「それじゃ、行きます」

ジェニーが二人に礼をして、エディの隣の座席に乗り込んだ。

 

車が動き出した。

ジェニーが車窓を開けて、グッと涙をこらえながら手を振る。

アンジェラは、大粒の涙がこぼれて止まらない。

ディックは、アンジェラの肩に手を掛けて、目で車を追っていた。

 


その頃、診療所では、ドクターが電話で話をしていた。

 

「エディの所へ行く、ジェニーのことを気にかけておいてほしい」

「でも、どうして?」

ドクターは、娘に電話をしていた。娘は、ロンドンで探偵事務所を営んでいた。

「今後、ジェニーがどうなるのか知りたいんだ」

「わかった。出来るだけやってみるわ」

「それから、もうひとつ頼まれてくれないか? 」

「まだ、あるの? 」

娘は迷惑そうに言う。

 

「トヤマ・サチコという女性のことを調べて欲しいんだ」

「トヤマ・サチコ・・・・・・!? その人は、パパとどういう関係なの? まさか、浮気相手なんかじゃないでしょうね? 」

「バカなことを言うなよ。もう12年も前のことだが、ジェニーと何か関係あるかもしれない」

「ずいぶん昔のことね。どうして、また? 」

「思い出したんだ。確証はできないが、今何をしているか知りたいんだ。当時は、ロンドン大学の学生研究生だったと思う」

「わかったわ。調べてみるけど、ちゃんと調査費はもらうわよ」

「ああ、頼むよ」

ドクターが電話を切ると、背もたれの椅子に寄りかかり、何か深い思いにふけた。

 

「着いたよ」

エディが、隣のジェニーに声を掛けた。

 

ジェニーは、二人に見送られる時、グッと泣くのをこらえていた。

泣いてしまうと、淋しさがこみ上げてくる気がした。自分がエディの所に行くことを、泣くことで間違いだと思われたくなかった。

そんな強い気持ちを持ったまま、車のシートに身を沈めると、いつの間にか寝入ってしまった。

 

ジェニーが目を覚ますと、外は真っ暗で、すっかり夜になっていた。

車は、堂々たる門構えの前に停まっていた。

「帰ってきました」

運転手が携帯電話で告げると、門が自動に開いた。

車が門の中に入ると、正面に大きな邸宅が見えた。

 

邸宅の玄関の前に車が停まった。

「さあ、行こう」

エディの言葉で、ジェニーは車から降りた。

ジェニーは、これから何が起こるのか、不安と期待を抱いたまま邸宅の中へ入って行った。

 

                           後編につづく

 


この本の内容は以上です。


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