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二人の間に、重苦しい空気が流れて沈黙があった。それを払いのけるように、「私を信じて欲しい」

エディは、強い口調で言った。

 

「君は、遺伝子学の研究で生まれたことは事実だ。だが、君の両親が誰で、どういう経緯で生まれてきたのかは、私にもわからない。それに、今わかったことだが、君は二番目だということだ・・・・・・・」

エディは考え深く言った。

 

ジェニーは、自分の出生が想像以上の話で愕然と聞いていた。

 

「ジェニー・・・・・・真実を知れば、傷ついてしまうかもしれない。だが、それを知ることで、新たに始まる未来のきっかけになることもあるはずだ。約束しよう。私の所に来れば、君の両親が誰で、出生の秘密を教えることが出来るはずだ」

 

エディは熱い思いで言って、「君にも協力してもらいたいことがあるんだ」と、言葉を付け加えた。

 

「協力・・・・・・」

ジェニーは困惑顔で小さな声で尋ねた。

 

「それは、私の所に来てから話そう。君を悪いようにはしない」

「・・・・・・」

「明日まで考えてくれないか? 」

エディが優しく尋ねた。

ジェニーは、小さく頷いた。

 

エディは教会を出て、車に乗り込んだ。

ドスンと後部座席に座りこんで、ため息をついた。

 

「プロジェクトの話を持ち出して、大丈夫なんですか? 」

運転手が心配そうに尋ねた。

「彼女が、私の所に来るか、一か八かの賭けだ。それに、局長自身も大事なことを、私にも話していなかった。まったく・・・・・・」

エディは腹ただしく言った。

車はゆっくり動き出した。

 


明け方。

ベッドの中、ジェニーは寝つかれなかった。

 

エディの話はショッキングで、しばらく困惑していたが、時間とともに気を取り戻して冷静に考えてみた。

エディは、本当のことを言っているようにも思えた。

 

神父には、両親が誰で、どういう経緯で、私を引き取ったのか。正直真実を知りたい気持ちはあった。だが、育ててもらっている恩みたいなものがあって、聞き出すことに気が引けた。しかし、神父が亡くなった時、そのことを尋ねておくべきだったと、後悔したことも事実だった。

 

カーテンの隙間から日差しが入り込んでいた。

 

ドクターの元へ行けば、平穏な時が過ぎてゆくかもしれない。

でも、きっと、私は、自分の出生を知りたいと思うに違いない。今、真実を知るチャンスなのかもしれない。

 

エディが言った、『新たに始まる、未来のきっかけになること』

その言葉が、ジェニーの心の中に大きく膨らんでゆく。

 

ジェニーがカーテンを開けると、窓から眩しい日差しが入りこんできて目を細めた。その光は、なぜか、希望の光のようにも見えた。

 

朝一番、ジェニーはドクターの元を訪ねた。

 


その日の午後。

「納得いかないですよ!」

ディックが声を荒たげると、礼拝堂の中で大きく響き渡った。

 

ジェニーは、今日から学校に来ることになっていた。だが、登校していなかったため、ディックは気になって、ドクターに連絡を取ると、ジェニーはエディの元へ行くことを聞かされた。

ディックは、そのことを知って愕然とした。昼休み、真相を知るため、ドクターと教会で待ち合わせをした。

 

「一体、ジェニーはどうしたんですか? 昨日、ドクターの所に行くと約束したのに」

ディックは、ドクターに強く問い詰めた。

 

「私にもわからない。今朝、ジェニーが訪ねて来て、エディの所に行くと言って謝りに来たよ」

「どんな理由で? 」

「真実を知りたいから、彼の所に行くと言っていた」

ディックが顔をしかめて、「真実って? 」

「それ以上は何も言わずに、彼の元へ行ったよ」

ドクターは目を伏せて言った。

 

「もう一度、ジェニーを説得してみます」

「待て、ディック」

ドクターが礼拝堂を出ようとする、ディックを引き止める。

「ジェニー自身が、彼の元へ行くことを決めた以上、そうするしかない」

「そんな・・・・・・それで、ドクターは納得したんですか?」

「納得はしていない。だが、法的に決めらたことだ、どうにも出来んよ」

ドクターの言葉には、悔しさが混じっているようだった。

 

「だが、なんだか変だとは思わないか? 」

ドクターは首を傾げた。

「一体、エディは、どこでハリスの死を知ったんだ。それに、私がエディの親変わりになることを決めて、ジェニーを引き取ろうと思うと、急にタイミング良く現れた・・・・・・まるで、私達の動きを知っているような行動に出ている」

ドクターが考えこんで、何気なく教会を出入する扉の方に目をやると、ピカリと光るものが見えた。扉は木製で出来ていて、2メートル以上の高さがあった。扉の上で何かが反射するように見えた。

 

ドクターが扉の方へ近づく。

「ドクター、他に手立てはありませんか? 」

ディックが、ドクターに切羽詰まったように尋ねた。

「なあ、ディック。脚立を持って来てくれないか? 」

ドクターは、じっと扉の上に目をやっていた。

 


朝。

エディは、町にあるホテルのレストランで朝食を取っていた。レストランと言っても、5人程座れるカウンター席と、テーブル席が二つだけの小さな店だった。

 

エディは、テーブル席に腰かけて、トーストとコーヒーを口にしていた。そこに、ドクターが現れた。

「おや、おはよう。ここにいることがよくわかったね」

エディは、コーヒーカップを手にしたまま感心したように言った。

「他所の人間が来て泊まるのは、ここだけだからな」

そのホテルは町で唯一のホテルだった。そこにエディがいることは、ドクターにはわかっていた。

 

「ジェニーは、どうしている? 」

「このホテルの部屋で、まだ休んでいるよ」と、エディは答えてコーヒーをすする。

「座ってもいいかな? 」

ドクターは睨みながら言う。

「どうぞ」

ドクターは、テーブルを挟んで差し向いに座る。

エディはコーヒーカップを置いて、「私に何か? 」

 

「昨日、教会の礼拝堂でこんなものを見つけたよ」

ドクターは、着ているコートの外ポケットから、小型カメラと取り出してテーブルに置いた。

「それから診療所には、診察用のベッドの下に、こんなものがあった」

今度は、別の外ポケットから小型の盗聴器を取り出してテーブルに置いた。

「知人の電気屋に見せたら、軍などが使う特別なものだと言っていた。こんなことまでして何が目的なんだ? 」

「これを設置したのが、私だと? 」

エディは否定する。

「とぼけるなよ・・・・・・ジェニーは、まだ普通の15歳の少女だ。盗聴や盗撮までして、何を必死になっているんだ?」

「正直に言おう。私は、ある人物からジェニーを引き取って欲しいことを頼まれた。もちろん、彼女の将来も考えてのことだ」

「ある人物っていうのは、 東洋人でジェニーの親なのか? 」

「・・・・・・それは言えない。それに知らないほうがいい」

エディは、忠告するような言い方をする。

 

「ドクター、あなたもわかるだろう。ジェニーが私のところに来たいと言ったのなら、法的には私が親権を持つことになる」

「法的に・・・・・・ふざけるなよ。一体、ジェニーに何を吹き込んだ? 」

ドクターは怒りを抑えながら言った。

「彼女も自分の人生に向きあうことを決めたんだろう」

エディは、論ずるように言う。

 

「ジェニーに不幸なことが起こった時には、私にも考えるがある」

「不幸なこと・・・・・・そんなことはありませんよ」

ドクターの言葉に、エディは堂々と言い切った。

「予定があるんで、この辺で失礼するよ」

エディは、コーヒーを飲み終えて席を立つ。

 


「ここを何時に立つんだ? ジェニーの見送りぐらいさせてくれよ」

ドクターは、呼び止めるように言った。

 

「昼の1時には、ここを立つ。そうだ、ジェニーが可愛がっている猫も連れてゆく」

「猫・・・・・・!?」

ドクターは初めて猫の存在を知って、一瞬考えた。

「何だ、猫のことは知らないようだな。まあ、とにかく安心してくれ。では失礼する」

エディは、ドクターに背中を向けた。

 

「そういえば、ひとつ思い出したことがある」

再びドクターが、エディを呼び止めるように言った。

エディが振り返る。

 

「子供の頃、ハリスは話していた。将来は、国の秘密機関で働きたいと言っていた。当時スパイもののテレビドラマの主人公に憧れていた。ひょっとしたら、ハリスは、その憧れを叶えたんじゃないだろうかって、この道具をみた時、思い出したよ。あんたも、そんな一人じゃないのか?」

 

ドクターは、チラリと盗聴器と小型カメラに目をやって尋ねた

 

エディは、フッと笑みを見せて、「そのテレビドラマなら、私も好きだった。だが、現実的なものじゃない。憧れは憧れのままだよ」と、サラリと言って去って行った。

 

ドクターは、何かをはぐらかされたようで悔しさがこみ上げて来た。だが、東洋人と言ったことに、何か遠い記憶が甦ってきた。そのことを思い出そうとして、しばらく考え込んだ。


 

 



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