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「私、先生の所へ行っても、本当に大丈夫なんでしょうか? 」

ジェニーが不安そうに尋ねた。

 

「ああ、今は子供も家を出て、妻と二人だけの生活だ。妻も昔から、ジェニーのことは知っている。家に来ることは了解してもらえると思うよ」

 

「わかりました。いろいろご迷惑をかけるとは思いますが、よろしくお願いします」

 

ジェニーは、神父亡き後、どこに行くべきなのか、自分では決められないことだと思った。だが、見知らむエディの所より、気心が知れたドクターの所で世話になるほうが、落ち着いて生活できると、ジェニーも考えていた。

 

「それじゃ、今日の夜からでも家に来るといい」

「いえ、明日からにさせてもらえませんか? 」

 「どうしてだ? 」

ドクターが気にかけた。

「いろいろと荷造りしたいんです」

「それじゃ、明日の朝、迎いに行くからね」

ジェニーは、ドクターと約束をした。

 

「ありがとうございます」

ジェニーは、二人に深く礼をして、診察室を出た。

 

ドクターとディックは、ホッとした様子で笑みを見せた。

 

その頃、診療所近くで黒のロールスロイスが停まっていた。

後部座席でエディが、盗聴した診察室での会話を一部始終聞いていた。「・・・・・・」

エディは、自分の思惑とは違ったことになろうとしていることに焦りがあった。しばらく考えて、「彼女の所へ行ってくれ」

何か考えがあるように、運転手に言う。

 

「はい」

運転手は返事をして、車を走らせた。

 


ジェニーが家に帰ってくると、扉の前で子猫がいた。まるで、ジェニーの帰りを待っているようだった。

「いたのね・・・・・・」

ジェニーが子猫を抱きかかえた。

「ごめんね・・・・・・明日から私は、この家にはいないの。あなたを連れてゆくことはできないの」

ジェニーは、子猫の頭をさすりながら寂しそうに言った。

 

「君の友達かい? 」

声がして振り返ると、エディが立っていた。

ジェニーは、ハッとした。断る相手に会うことは、正直、バツが悪い気持ちがあった。

 

「まだ生まれて間もないようだね」

エディが笑みをみせて、子猫をみた。

「エディさん、私のことなんですが・・・・・・・」

「待ってくれ! 君が私の元へ来るか、来ないかの話なら、それは明日聞こう。今日は、君に頼みたいことがあるんだ」

エディは慌てるように言った。

 

「頼みたいこと・・・・・・!?」

ジェニーが首を傾げた。

「すまない。急なことを言って・・・・・・・写真を見せて欲しいんだ」

「写真って? 」

「ハリスがロンドンで働いていた頃の写真で、白衣姿の日本人男性が写っているものだ。それには重要なものが書き記してある」

「重要なもの?」

エディの協調するような言い方に、ジェニーが反応するように興味を持った。

 

「ジェニー」

会話の途中に、誰かの声がした。

二人が振り返ると、アンジェラがいた。

「どうしたの?」

ジェニーが、アンジェラに近寄る。

「これを」

アンジェラが、授業内容を書いたノートを持っていた。

「ありがとう」

ジェニーがノートを受け取る。

 

「ねえ、あの人、なぜここにいるの? 」

アンジェラは、エディをチラリと見た。

「ジェニー、邪魔してね。それじゃ、明日」

エディは、アンジェラから警戒されている雰囲気を感じ取って、その場を去ることにした。

 

「もうちょっとだったな・・・・・・」

エディが、車の後部座席に乗り込むと悔しそうに言う。

「いいんですか? 写真のことまで話して」

運転手が心配する。

「彼女を引き取るためだ。多少のルール違反はかまわんよ。出してくれ」

エディは苛立った様子だった。

車は静かに動き出した。

 


夜。

ジェニーは、家で荷造りをしていた。明日には、新しい神父が来ることになっていた。そうなると、家を出なければいけない。ダンボールの中には、ドクターの家に持ってゆくものを入れ込んだ。

 

リビングのテーブルの上に、十字架を目にした。ジェニーが十字架を左の手のひらに置いた。神父が亡くなる時に、十字架を渡されて、『すべての始まりが、ここにある』と、謎めいた言葉を残した。

神父は、何かを伝えようとしていたが、ジェニーには何のことかわからなかった。

 

改めて十字架を見ると、先のほうが複雑な形をしていた。よく見ると、鍵のようなものにも見えた。ジェニーは、何かがひらめいて教会へ向かった。

 

ジェニーが礼拝堂に入ると、正面の壁にはキリスト像の十字架がある。その下には祭壇が置かれていて、そこへゆっくり歩いて行く。葬儀の時は、花を飾り華やかに見える祭壇も、普段は何も置かれていない木で用いれたた箱のものだった。

 

ジェニーが、祭壇の側面に回り扉の前でしゃがみ込んだ。

以前、神父が十字架を使って、祭壇の鍵穴を開けているのを見たことがあった。この中に、神父が伝えたいものの何かがあるように思えた。ジェニーが、十字架を鍵穴へ入れて左右動かすと、ガチャンと開いたような音がした。

扉を開けると、葬儀時に使う装飾品が入っていた。その中に、持ち運び用のアルミケースがあった。

 

その頃、教会の横にロールスロイスが停まっている。

エディは後部座席から、車内に持ち込まれたテレビカメラを見ていた。

カメラには、ジェニーが祭壇の中を開ける姿が映し出されていた。

 

「カメラをズームしてくれ?」

エディが運転手に指示すると、テレビ画面にジェニーの手が大きく映された。

アルミケースを開けて、一枚の写真を取り出すのが見えると、エディは目を見開いてカメラを覗き込む。

すると、「ちょっと出てくる」

エディは、慌てて車から降りた。

 


ジェニーは、アルミケースを開けようとすると鍵が掛かっていた。鍵穴に十字架を入れてみるとガチャと開いた。

ゆっくりと箱を開けると、『親愛なるジェニーへ』と、書いてある封筒があった。そして1枚の写真が入っていた。

写真は、白衣を着た東洋人の男性が赤ちゃんを抱いていた。

 

ジェニーは、初めてみる写真で、どうして神父は、こんなものを大事にしまい込んでいるのかと不思議に思った。

ジェニーは、封筒の中を取り出して手紙を読んだ。

 

『ジェニー、君がこの手紙を読んでいる頃は、私が亡くなった後だろう。そして、君がまだ成人していないことが想像できるだろう。本当のことを言えば、君が大人になった時、すべてを話すべきか、今も悩んでいる反面、神に仕える人間として、真実を伝えることも必要だと感じている。だから、知っていることのすべてを話そう。

 

君は、ある人物の研究によって生まれてきた。だが、それは君が生まれてきたいという思いで誕生した。それは事実だ。私がいなくなった後、君を引き取りたいと人物が現れるだろう。その人物が、君にとっては、幸せをもたらすのか、不幸を作るのか。残念だが、私にもわからない。だが、君には信念というものがある。自分で考えて行動できる、強い心を持っている。自分の人生は、自分で決めて欲しいのが、私の気持ちだ。

 

人の歩みは主によって確かにされる。主はその人の道を喜ばれる    

                                ハリス・コーク』

                

                                                                                         

 

「何を見つけたんだい?」

ジェニーが手紙を読み終えると、声がした。

振り返ると、「エディさん! どうしてここに? 」

ジェニーは、ハッとして立ち上がった。

 


「驚かせて、すまない。今ちょうど、教会の前を通りかかったら、扉が開いていて光が漏れていたから、気になって覗いてみたんだよ」

エディは、ジェニーの顔色を見て、すぐに落ち着かせるように優しく言った。

 

「それは・・・・・・!?」

エディは、アルミケースの上に置いてある写真に目をやる。

「見せてもらってもいいかな? 」

ジェニーは、エディが探していた写真だと直感して、「どうぞ」

ジェニーが差し出すと、エディが受け取る。

 

「これは・・・・・・」

エディは写真を見るなり、意外そうな顔をする。そして、「セカンド・・・・・・」

写真の裏に書いてある『second』の黒文字を意味ありげに言った。

「どうしたんですか? 」

明らかに様子が変わったエディを、ジェニーは気になった。

「ちょっと座らせてもらうよ」

エディは、長椅子に腰掛けて何やら考えこんだ。

 

「この写真の男性は、私の父親なんですか? 」

ジェニーが、真っ先に気になったことを尋ねた。

「はっきりとは言えないが・・・・・・この写真は君の父親ではないだろう」

エディは、思い当たるような言い方をする。

「なぁ、ジェニー・・・・・・私の話を誰にも言わないと約束できるかい? 」

エディは、急に思い切った様子で真顔になった。

 

「えっ!? 」

ジェニーは、突然のことで当惑顔になった。だが、エディが何か重大なことを言おうとしていること感じた。

「ええ、私にとって大事なことなら聞かせて下さい」

ジェニー自身、自分の出生のことを知りたい気持ちは本心だった。

 

「以前、国家ぐるみのプロジェクトで、遺伝子学の研究が行われていた。今再び、そのプロジェクトが再開される。それで私は、君をプロジェクトに参加させるための説得にきたわけだ。だが、私にも知らない事実があるようだ」

エディは、何か心にひっかかったものがあるようだった。

 

「プロジェクトとか、遺伝子学とか、私にどういう関係があるんですか? 」

ジェニーが首を傾げた。

 

「今まで、ハリスが君の出生のことを言わなかったは、説明するのが複雑すぎて、君自身に理解してもらえるか迷っていたからだろう。だが、君自身が真実を知りたいなら、私が協力しょう」

エディは強い口調で言った。

 

「教えて下さい。一体、神父様は私に何を隠していたんですか? 」

ジェニーは、エディに近寄る。

「レプリカ計画だ」

「レプリカ・・・・・・?」

ジェニーは、神父が亡くなる前に言った言葉のことを思い出した。

 

「君は、国家機密のプロジェクトで生まれた」

「・・・・・・!?」

ジェニーは、一瞬言葉を失った。

 



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