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次の日。

神父の葬儀が行われた。

 

ドクターの付き添いで、ジェニーが喪主を務めた。葬儀は町の人々が参列して、神父の死を悼んだ。

 

夜。ジェニーは、ひとり家のリビングにいた。ここ数日間、慌ただしかった。すべてを終えて、ひとりになると、自分はひとりぼっちになったことを感じた。途方に暮れて、自然に涙がこぼれてきた。すると、窓の方から鳴き声が聞こえてきた。

 

ジェニーが、窓を開けて下を見渡すと、以前に見た黒い子猫がいた。ジェニーは、外に出て子猫に近づく。

「どうしたの? 」

ジェニーは子猫を抱きかかる。

「お母さんはいないの? 」

ジェニーは周りを見渡す。

「ニャー」

いないことを答えているように、子猫は鳴いた。

 

ジェニーは、子猫を抱きかかえ家に入って、ミルクを与えた。子猫は、お腹を空かしていたのか、勢いよく皿に入ったミルクを飲み始めた。

 

「ひょっとして、あなたも、ひとりぼっちになったの? 」

「ニヤー」

子猫はひと言鳴いて、皿の中のミルクを飲みほした。

 


次の日。

ジェニーは、神父の墓へとやって来た。

墓地は丘の上にあって、そこから町全体が見下ろせた。まだ、春先だが肌寒い冷たい風が吹いている。

 

ジェニーは、神父の墓石の前で、しゃがみこんで花を供えて祈った。そばで、ドクターとディックも立ったまま祈った。その時、墓に近づいてくる男の姿が見えた。男は、ハット帽を被りコートを着ていた。

 

「ハリス・コークさんのお墓でしょうか? 」

男が尋ねると、ジェニーは、神父を訪ねてきた白髪の男だと気付いた。

 

「はい」

ジエニーが答える。

「お祈りをさせていただけませんか? 」

「どうぞ」

ジェニーの言葉で、男は、墓の前で膝間ついて花を供えて祈った後、三人に礼をした。

 

「以前、教会でお会いしましたね」

ジェニーが言うと、「覚えてくれていたんだね」

男は嬉しそうに言った。

 

「失礼なことをお聞きしますが、神父とは、どういうご関係なんでしょうか? 」

ドクターは、どう見ても町の人間でもなく、神父の知人でもなさそうな、男のことが気になって尋ねた。

 

「彼とは、ロンドンにいた頃の仕事仲間でした」

「ロンドン・・・・・・」

その言葉に、何故かドクターは秘密めいたものがあることを感じて、「どういったお仕事ですか? 」

「商社で働いていました。彼は実に仕事の出来た人間でした」

男は、墓石の方に目をやる。

 

「ここ数日、彼のことが気になっていました。亡くなったことを知って、ここに来たわけです。彼とは約束がありました」

「約束・・・・・・?」

「ジェニーを引き取りに来ました」

「・・・・・・・」

白髪の男の言葉に、ジェニーは目を丸くした。ドクターとディックは、顔を見合わせた。

 


「どう思う? 」

ドクターが診察室の椅子に腰かけながら、書面を机の上に置いて、ディックに尋ねる。

「ここに書いてあるサインは、神父のものと間違いないんでしょうか?」

ディックもわからない様子で尋ね返した。

 

白髪の男が、ジェニーを引き取ることを告げた時、一枚の書面を取り出した。それは、神父が亡くなった後、白髪の男が、ジェニーを引き取るということの約束の書面だった。

 

「ジェニーは、彼が引き取るということでしょうか?」

「そういうことになる。1991年3月10日に神父はサインをしている。ジェニーが3歳の時のことのようだ。神父は、その後に、この町に帰ってきている。まさか、こんな約束をしているなんて・・・・・・・」

 

「彼は一体、どんな人物なんですか? 」

ディックが不安そうな顔をする。

「エディ・アーノルドと言っていた。彼は、ロンドンで貿易会社を営んでいる資産家のようだ。ジェニーが、そこに行けば生活面は心配することはないが・・・・・・」

ドクターは、言葉を切って考え込んだ。

 

「本当に信用できるんでしょうか? 」

ディックの言葉に、ドクターは黙りこんだままだった。

 

ドクターは、エディに対して信用できないようなところがあった。

神父から、ジェニーの面倒を見て欲しいと頼まれていた。その時、エディのことを言っていなかったことが気になった。

 

「もし可能であれば、ドクターがジェニーの親代わりになっていただけませんか? 」

ディックが願うような言い方をする。

 

「ジェニーには身内がいません。少なくとも、成人するまでは気の知れた人間が、そばにいてあげていたほうがいいと思います」

「・・・・・・そうだな。ハリスからも頼まれていた。ジェニーの親代わりになろう」

ドクターも心を決めた。

 

「後は、どうやって、ジェニーを引き止めるかですね」

ディックは、書面に書いてあることを気にかけた。

 

「心配することはない。最終的に決めるのは、ジェニー自身だ」

「そうですね。ジェニーが、エディのところに行かないと言えば、この書面の意味もないということですね」

「そういうことだ」

ドクターは、自信を持ったように笑みを見せた。

 

 

 


診察室の扉が開いた。

「ジェニーが来ました」

看護師が顔を出して言った。

 

「こっちへ来るように言ってくれないか? 」

ドクターの言葉に、ジェニーが診察室に入ってきた。

「ジェニー、話がある」

ドクターが、診察用の椅子に座るように言った。

「僕は失礼します」

ディックは、二人きりにさせるため診察室を出ようとした。

「ディック」

ドクターが引き止めた。

「君にもいて欲しい」

ドクターが頼むような言い方をする。

「わかりました」

ディックも拒む理由はないと思い、ジェニーの横に立った。

 

「なあ・・・・・・ジェニー。今後の君のことだが、二つの選択がある。ひとつは、昨日現れた、エディという人物の所に行くことができる。この書面に書いてあるのは、間違いなくハリスが書いたもので、法的にも認められているものだ。たぶん、ハリスが君を引き取る時に、彼と交わした約束だと思う」

ドクターが、ジェニーに書面を渡す。

 

「エディとは、まったく面識がないのかい? 」

「一度だけ、教会で神父様と会っていた時にお会いしただけです」

ドクターの尋ねたことに、ジェニーは書面を見ながら答えた。

 

「エディさんは、どんな人なんですか? 」

 

「彼は、ハリスがロンドンにいた頃、同じ職場の仲間らしい。なぜ彼が、君を引き取る人間なったかは、はっきりわからない。正直、エディという人物に君に預けるのは、不安があるんだ」

 

「ドクターも僕も、彼の所には行ってほしくないと思っている」

話の途中、ディックが本音を言った。

 

「良ければ、私のところに来ないか? 」

ドクターが真顔で尋ねた。

「成人するまでは、私が君の親代わりになってもいいと思っている」

ドクターの言葉に、ジェニーは黙り込んだ。

「ロンドンの学校には行けないが、僕も君が弁護士になれるように協力するよ」

ディックも真顔で言う。

 

ジェニーは、すぐには返事をしなかった。下を向いたまま考えているようだった。

「どうだろう? 」

ドクターが、ジェニーの気持ちを探るように尋ねた。

 


「私、先生の所へ行っても、本当に大丈夫なんでしょうか? 」

ジェニーが不安そうに尋ねた。

 

「ああ、今は子供も家を出て、妻と二人だけの生活だ。妻も昔から、ジェニーのことは知っている。家に来ることは了解してもらえると思うよ」

 

「わかりました。いろいろご迷惑をかけるとは思いますが、よろしくお願いします」

 

ジェニーは、神父亡き後、どこに行くべきなのか、自分では決められないことだと思った。だが、見知らむエディの所より、気心が知れたドクターの所で世話になるほうが、落ち着いて生活できると、ジェニーも考えていた。

 

「それじゃ、今日の夜からでも家に来るといい」

「いえ、明日からにさせてもらえませんか? 」

 「どうしてだ? 」

ドクターが気にかけた。

「いろいろと荷造りしたいんです」

「それじゃ、明日の朝、迎いに行くからね」

ジェニーは、ドクターと約束をした。

 

「ありがとうございます」

ジェニーは、二人に深く礼をして、診察室を出た。

 

ドクターとディックは、ホッとした様子で笑みを見せた。

 

その頃、診療所近くで黒のロールスロイスが停まっていた。

後部座席でエディが、盗聴した診察室での会話を一部始終聞いていた。「・・・・・・」

エディは、自分の思惑とは違ったことになろうとしていることに焦りがあった。しばらく考えて、「彼女の所へ行ってくれ」

何か考えがあるように、運転手に言う。

 

「はい」

運転手は返事をして、車を走らせた。

 



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